第二十七話 香りたかいお茶
キルドの扉を前にロイはため息を吐いた。
先程まで領主の所におもむき、魔獣の……… グレーターベアの件を報告したのだが、やはりと言うべきか、いい返事を貰うことは出来なかった。
報酬のことである。
街の近郊に出没した魔獣は、基本その街を所有する領主の依頼でギルドに討伐依頼が出される。
そしてその額は対象となる魔獣の種類によって異なるのだが。
だがグレーターベアは特に決められていないのだ。
何故なら出現頻度が少なく、小さな村ならその村の存続をも危うくする存在であり、村人が総出で対処するような魔獣の出現の相場は己の生命だった。
つまり生き残ればそれが報酬だったのである。
もちろんその土地の領主から、後日かなりの額を貰えはするが、その額はその場で決まる。
結局のところ領主の気分次第なのだ。
今回のこのトロンの街に現れたグレーターベアは、間違いなく小さな村ならば破壊し尽くしたであろう。
従来なら相当量の報酬額のはずだ。
だが、ここの領主であるアビリアムはロイに、いやギルドへの報酬を渋った。
理由は現れたグレーターベアがすでに死体だった事と、この件の話がダレフと言うドワーフから始まった事がややこしくしたのだ。
「正当な報酬額をというならば、倒した者を連れてくればいい」
「冒険者とはギルドとは何かね? 山に獣の死体を探しに散歩にでも行く集団のことかね?」
「1人のドワーフの働きで私の長年の計画を台無しにしたドワーフ達へのツケが消えたとは、まさか思ってはいまいね?」
アビリアムから出た言葉に反論出来る材料は少なすぎた。
討伐隊で倒したと誤魔化そうとしたところで、討伐隊にアビリアムの息のかかった者がいるはずだ。
リスクが大きすぎる。
(とりあえずあの少女を探すか………)
あの城門前で見かけたずぶ濡れの少女、通常ならばまさかと思うだろう。
だが、勘としか言えないが、少なくともグレーターベアに関わっているとロイは見ていた。
ダレフがその少女を探すと言った時点でほぼ確実だろう。
ロイは顔を横に向けた。
そこには大きなテントが設置されている。
グレーターベアが運び込まれ、解体され始めているはずだ。
ギルドの倉庫への入口に入りきらず、簡易テントを張ってその中での解体である。
その姿はここからでは見えないが、ノコギリやらナタを持ち歩く解体職人が行き来していることから想像する事が出来る。
(あの大きさだ明日かけても終わるまい。終わるまでに探し出せればいいのだが………)
そう思いながら扉を開ける。
その時優しく頬を撫でるような柔らかな香りがロイを包む。
ロイはうつむかせた顔をあげて香りを探ると、そこにはいつもと変わらぬ笑顔のサーシャの姿があった。
「おかえりなさいませ。マスター」
手にはティーポットがあり、すぐ横のテーブルの上には湯気のたつティーカップが置かれていた。
サーシャはポットとカップを持ち替えると、ロイに差し出した。
「どうぞ」
ロイの顔にほころびが浮かぶ。
(いい娘だ………)
サーシャはこの街の商人の娘だが、ドワーフがいなくなった時に事業が大きく傾き、彼女の家族は他の街へ移住した。
その時、彼女とその家族は彼女をこの街に残すことにした。
ロイも詳しい話は知らない。
しかし珍しい話でもなかった。
その時からこのギルドで働いている。
「すまないな」
そう言いながらティーカップに手を伸ばし受け取るロイ。
「さ、先程見かけたものですから」
頬を赤らめ返事を返すサーシャにロイは落ち着きを取り戻していた。
(負けてはいられないな……… この娘のためにも)
ロイは香りと共に新たな覚悟を流し込む。
「あの………」
その時サーシャがロイに話しかける。
「ん?」
ロイはティーカップを軽く口に付け、ウィンクする感じで返事をした。
何かのお願い事だろうか?
「マスター! お願いします! 前借りさせて下さい!」
その瞬間に盛大に吹き出すロイ。
「シェランさんにたかられて、お金ないんですぅ〜」
涙目で訴えるサーシャ。
受けるロイは顔面蒼白で口からお茶を流しながら決心した。
ずぶ濡れの少女を必ず探そうと………
自分で書いててなんだけど。
1000文字程度の投稿って、展開が遅いね………




