第二十五話 リュト
私はリュトから、過去にこの街であったことを聞いた。
確かにリュトがドワーフを憎むのは分からなくも無い、分からなくも無いのだけど………
「ドワーフが去った理由自体は聞いて無いの?」
「知らねーよ。だけど領主様から街に伝達があって、その時に『我々は裏切られた』って言葉があったって話だ。間違いねーよ」
ドワーフは多種族に対して『裏切る』行為をするなど聞いた事がない、オババからは思慮深く頑固でありながらお酒が入ると陽気な種族と聞いていた。
私はどこか納得がいかないところを隠しつつ、もう一つの疑問をリュトに聞く。
「領主様はどんな人なの?」
「領主様は立派な人だ」
私の質問にリュトは即答した。
「領主様は住民に対して重い税を課したりしていない。仕事がきつくてもそれに見合った報酬を出している」
私が言わんとした事をリュトは汲みとった。
住民に重税を課し、住民から出てくる不満をドワーフに押し付ける。
そんな事も考えたのだが、リュトの話だとそれも無いようだ。
ならなぜドワーフはこの街から出て行ったのだろう………
墓地の草木から鈴虫が鳴き、葉先から小さなトンボがゆっくりと離れる。
うん、やっぱり面倒臭い!
私の目的は立派な魔女になる事だ。
そのためには旅を終わらせねばならない。
こんな所で道草を食っている場合ではないのだ。
だからこの街の事は関わらないでおこう。
私が心で誓うなか、衣服が完全に乾いたのを感じると同時に、もう一つ感覚が訴えかけるものがあった。
クーとお腹の虫が鳴いたのだ。
何でもないかのように、姿勢を正し顔を真っ直ぐ前に向けるが、横のリュトがこちらを覗きこんでいるのがわかる。
そこでまたお腹の虫が鳴いた。
私は恥ずかしさで顔どころか、首も耳も真っ赤になっているだろう。
「プッ! クックック!」
リュトが声を殺しながら笑い出した。
しっかり聞かれていたらしい………
だけどリュトはスッと立つと、ある方向へ指を差した。
「このすぐ先に宿屋がある。墓地が広がったせいで客足が遠くなりギルドで支援してやってんだ。俺の名前を出せば安くしてくれる。そこはメシもけっこう美味いんだぜ」
来るときは、びしょ濡れで人目を避けていたので、『宿屋が何処にあるのか』など把握しているはずがない。
「あり……… がと………」
私は目を合わせることなく感謝の言葉を口にする。
「ああ、こっちも面白くない話に付き合ってくれて悪かったな」
リュトは立ち上がりながら、そう言った。
「宿屋にはオレの紹介だといえば話が早いはずだ。じゃあな、腹ペコ魔法使い」
「!?」
立ち去る間際のリュトの最後の一言でまた顔が熱くなった。
何か文句を言おうにも『言われても仕方がない』と、どこか認めている自分がいるので文句の言葉がなかなか浮かんでこない。
やっとのことで絞り出した言葉は、ありきたりのものだった。
「バカ!!」
リュトはその言葉に片手を上げて反応したものの、振り向きもせずその場を去って行った。
次、誰の話にすっかな〜




