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第二十二話 出会い

「うわー! ちょっと待て待て!」


 そんな声が聞こえてくるけど関係ない。

 私は項垂れていたが、その時に腰のポシェットの口が開いているのに気が付いた。

 そしてクッキーを包んでいた袋もぐっしょりと濡れているのがうかがえる。

 もう中身は食べれないだろう、私は………… ますます……… 悲しい気持ちになった。


「悪かったから、泣くなって」


 この人は何を言っているのだろうか?

 いきなりナイフを突きつけるような人が…………

 人を怯えさせるような人が、何を言っているのだろうか?

 悪かった? 泣くな?

 私とあまり変わらない歳のくせに何様のつもりよ!

 怖さと悲しさを通り越して、段々イライラとしてきた。


「何よ! アナタ誰よ!」

 

 私に伸ばしてきた手を叩いてやろうとコブシを振り回したが、ヒョイと避けられてしまう、ますます腹ただしい。


「なんだ? 元気じゃねーか」


 キョトンとした顔が、余裕を感じさせる。

 私はキッとした顔で睨み返す。


「悪かったよ。ちょっと今日は虫の居所が悪かったんだ」


 そう言ってニッと笑う。

 それを見て何故かドキッとしてしまう、違うそうじゃない。

 コイツは危ないヤツに違いない。


「誰よ……… 」


 すると彼はベンチの私のすぐ横に座って喋り出した。

  

「ああ、オレはリュト。この街の冒険者をやっている」


 冒険者と聞いた時、どこか納得した感じがした。

 冒険者は荒くれ者が多いと聞く、私はさらに警戒心を引き締める。


「悪かったって、そんなに警戒すんなよ」


 そうはいかない、私は魔女なのだ早々に正体を明かすわけにはいかない、見習いだけど。

 すると彼は胸元から何かを取り出し、ポンと私の膝上に投げて乗せた。


「詫びだ。食べていいぞ」


 それはよく熟れたザクロだった。

 中からルビーのような赤く輝く果実がビッシリと覗かせている。

 久しぶりに見る私の大好物だ。

 ザクロは人によっては好まれないらしいが、それが私には信じられない。

 小さな実からほとばしる爽やかな酸味と甘味。

 これを潰してジュースにしてもいいが、私は小さな(ふさ)をそのまま口に入れて押しつぶす食べ方が好きだ。

 それにはまず外の皮を薄皮とともに丁寧に取り除き、一口分の房を……… ハッ!

 

 横を見ると呆けた表情のリュトがいた。


「……… プッ! クククッ」


 食べ物に釣られてしまった。

 私は耳まで真っ赤になっているのを自覚しながら、恥ずかしさで何も言えなくなってしまう。


「お前、悪いヤツじゃあなさそうだな。ハハッ」


 そう言いながらリュトは笑う。


「名前は? お前どこから来たんだよ?」


 屈託なく笑うリュト。

 これで何も答えなければ、私は本当に恥知らずになってしまうだろう。

 口を尖らせながらもシブシブ答える。


「メテル………東から」


 リュトは目を丸くした。


「山を通ってきたのか? 無事とはすげえ運が良いな」


 私は「えっ?」と思ったが、思いあたる節があった。


「近くにグレーターベアが現れたらしい」


「……… ええ」


 真剣に語るリュトに視線を合わせられない、ゴメンナサイ知っています。


「何だ? 反応悪いな」

 

「そ……… そう?」


 倒したとは言わないし言えない。

 倒したのは精霊さんで私じゃあ無い、なによりも話をややこしくしたくない。


「まあギルドで討伐隊を組んだから、もう大丈夫だと思うけど」


 それで武装した人達がいたのか………

 リュトの話を聞きながら、これまでの経緯が見えてきた。 


「無事に街に来れたのは良かったな。だが気をつけてくれ。この街はよそ者には優しくない」


 この街、トロンにはもちろん初めて訪れた。

 だけど治安が悪いなどは聞いたことはない。

 近くに鉱山のある、豊かな発展した街と聞いたことがあるのだが………


 リュトはゆっくりと指を刺した。

 その先、遠くに3つの大きな煙突が見える。

 おそらく、その横の山が鉱山なのだろう。

 林は見えず、岩肌がむき出しになっていた。

 3本の煙突の内、真っ黒な煙が出ているのは1本だけだ。


「前まであの鉱山から出る銅や(すず)でこの街はやってきたんだ。だけどある理由で5年前からこの街はメチャクチャになってな、その理由が………」


 リュトがそこまで言った時、私はガサッとした音と共に何者かがすぐ近くにいる気配を察知した。


 そしてその人物が現れた時とリュトの声が重なった。


「ドワーフだ」

 

やべぇ、物語が独り歩き始めた感じがする。

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