第二十話 検分
「間違いない。溺死させられている」
巨大な魔獣を前にアベルトはロイに向かって言った。
ロイは手をアゴにかけて「ふむ」と言った感じで、考えていたが、討伐隊のメンバーの1人に顔を向ける。
その相手は女性でローブを羽織っていたが、ロイの仕草に気付くと同時に首を横に振った。
「無理よ、ギルマス。分かってんでしょ」
その女性は続けて言葉を発する。
「水の魔法は使える者は多いわ。でもそれで魔獣を倒したなんて話は聞いた事がない」
ロイはうなずきながらも言葉を返す。
「まあ確認のためだ。シェラン、なぜ無理だと?」
シェランと呼ばれた女性は、アンタの方が詳しいでしょうと言いたげな、やや不満げな態度で説明を始めた。
「まずは量ね。普通、水の魔法は生活魔法として使われるわ。飲料水とか、多くても身体を洗うときの手桶に入れる分ぐらい。これだけの水を魔法で作り出すには20人以上必要だわ。それに………」
そこまで言うとシェランの近くに人頭大の水球が現れた。
「生きているモノにずっと水を当て続けるだけでも困難よ。ましてや相手は魔獣でしょ、魔素のコントロールは数歩の距離が限界よ。八つ裂きにされちゃうわ」
彼女の作った水球は空中をフヨフヨと漂い、3メートルほど離れた距離で弾け、勢いよく土を濡らした。
「溺死させるなんて無理よ。ところで………」
彼女はロイに近付く、そして口を尖らせながら言った。
「何がグレーターベアはちょっと大きいクマよ! 化け物じゃない! 魔法なんか効くわけないわよ!」
そんな彼女にロイは「いやぁ〜」と両手をかざしてなだめる素振りをしていたのだが、そこにダレフが言葉をかけてきた。
「囮の嬢ちゃんすまんな。ロイ、ワシはちょいと………」
何でもない口調でドワーフはとんでもないことを口にした。
「は? 囮? 何よそれ!」
シェランはまくし立てるようにダレフに言う。
そんな彼女にダレフは冷ややかな目を向けた。
「なんじゃ? 聞いとらんのか? 魔獣は魔力を含んだ肉を好むんじゃ、お主を中心に護りを固めて、ロイも近くにいたじゃろう」
ダレフの言葉を聞いて、あんぐりとした表情をしたシェランだったがそのままロイの方を睨む。
ロイの方は思いっきり目を逸らせていた。
「ギルマス……… いや、ロイ覚えてらっしゃい………」
彼女は額に青筋を立ててそう言うと、肩を怒らせて街の方へ向かって行った。
「ロイ、話しておらなんだか? 死ぬつもりか?」
ダレフは淡々とした口調でロイに言う。
「いや〜、ダレフもいることだし、なんとかなるだろうと………」
そんなロイの言葉をダレフはため息で受け止めた。
「それよりダレフ、何か言いかけたみたいだが?」
別の話題に切り替えようとロイは話を切り出す。
「コイツの処分はお主にまかす。ワシは人に会う用事ができた」
ダレフはそう言うと街の方向へ身体を向けた。
「処分って、コイツ前から追いかけてたんだろ? 取り分減るぜ? 特にこの街ではな。」
ダレフの背中に向かってロイは声をかける。
それに反応してかダレフの足が止まる。
「ワシの鏃が3本埋まっとる。それだけ取っておいてくれ」
ダレフは顔はそのままに目だけを向けてそう言った。
「わかった。それで誰と会うんだ?」
ロイのその質問にはダレフはめんどくさそうに答える。
「人間の女子じゃあ。名前は知らん」
驚いた表情のロイを尻目にダレフは街へと向かっていった。
そんなダレフの背中を見ながらロイは独り言のように呟く。
「やれやれ、やっぱり気付いていたか。面倒くさい事になりそうだなぁ………」
なんか勝手に登場人物が増えていってる………
大丈夫か?作者(俺)………




