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第二話 精霊の儀

 

 精霊よ

 闇をはらいし精霊よ

 精霊よ 精霊よ

 今宵の月は高きにあり

 その滴 ここに集まらん



 精霊の儀は村で一番古くて大きな木の中で行われる。

 その木は高く真っ直ぐ伸びており、その中は空洞になっている、古い古い木だ。

 その穴も真っ直ぐ上に向かっていて、木のテッペンにポッカリと穴を開けている。

 その木の穴から月の光が差し込む時、精霊は現れると言う。


 私はその木の()()に入る。

 ホコリっぽい、中はクモの糸だらけでキノコも生えている。

 中は大人が三人ほど入れるくらいの大きさだ。

 そして中央には小さな台座が設けられていた。

 

「準備はええかえ」


 すでに中に入っていた村のオババが、ロウソクを片手に私に言う。


「はい」


 私は静かに返事をした。

 心臓の鼓動が早い、ドキドキする。

 期待と不安の中で私は台座に私の人形を置いた。


「けったいな人形だのう」


 オババの口からそんな言葉が飛び出す。

 

(フンだ。見た目じゃ無いのよ)


 私は口を尖らせたい気持ちを抑え、澄ました顔でオババに向かって頭を下げた。


「では、始めようかの」


 オババはそう言うと、祭壇となる台座の方に身体を向けた。

 私はオババの後ろに回り込む。

 

「精霊よ〜」


 オババは低く、唸るような声を響かせる。


 精霊下ろしの儀が始まった……


 静かな、小さな空間。

 台座には月の光が降り注ぐ。

 小さなホコリがその光を帯び、キラキラと小さく瞬き、それが私の人形の上で舞っている。


 私は厳粛なる気持ちを胸に、オババの後ろで静かに目を閉じる。


 再び、オババの声が響く。


「闇をはらいし精霊よ〜、ブッ!」


 オババの声の後に聞こえた濁音……

 それも低い位置から聞こえた。


(い、いまの音なに? も、もしかしてオナラ?)


 まさか私達にとって神聖なる精霊の儀においてそんな事するわけがない!

 眉をひそめながらも、私はそのまま目を閉じる。


「セイレイヨ〜! プッ! スゥ〜〜」


 また何か聞こえた!

 そんな事はありえない!

 私はギュッと目を閉じ、心を落ち着かせようとする。

 しかし、漂ってくる異様な臭い!


「セイッレイッヨ〜! バフッ!」


「ちょっと! オババ! 昨日、なに食べたのよ!!」


 三度目の音に、私の厳粛なる気持ちは音と共に吹っ飛んだ!

 声を張り上げてオババに詰め寄り、睨みつける。


「こ、これ! 厳粛な精霊の儀じゃぞ!」


 慌てた表情で私を見るが、私は構わず言い寄る。


「だったら! オナラなんかしないでよ!」


「い、いや〜、昨日飲み過ぎてのぅ〜」


「信じられっない!」


 普段、精霊の儀の重要性を散々言ってきた本人が事もあろうにとんでもない事をしているのだ。

 怒らない方がおかしいでしょう!

 私はオババにさらに詰め寄って行く。


 その時、私は気付かなかった。

 詰め寄ったひょうしに、クモの糸を引っ張って、糸の先のキノコがコロンと台座の上に乗っかってしまっていた事を……


「だいたいオババは飲みすぎよ! みんなに配る分もこの前飲んじゃったじゃない!」


「い、いや。あれは精霊様に捧げる分で、ワシが持つべもの…… 」


「じゃあ! 今日の精霊様に捧げるのはどこにあるのよ!」


 オババは顔を引きつらせながら、私から後退する。

 私はオババが後退した分、詰め寄る。


 その時、人形の上でクルクルと回っていた、小さな光の渦がキノコの方に移っていたみたいだ。


「あっ!」


 オババが声を出す。

 私の視線を外す格好で、いつもの事だ……


「そんな事で騙されないからね!」


 オババから視線を外す事なく私は言った。


「いやいや、ほんとじゃ! あれを見てみぃ!」


 オババはプルプル震えた腕を差し出す。

 これで完全に目を離すと、オババは幻惑の魔法で目を眩ませその隙に逃げる。

 私はそうはいかぬと、ジッとオババの方を見るが……


「ほっ、本当じゃ! ほれ!」


 慌てるオババを目の前に、私は一瞬だけ見ようとする。

 魔法の言葉が終わる前に、目を離さなければ、幻惑にかかる事はない。

 一瞬だけでいい。


 私はオババから一瞬だけ目を離し、台座の方に向けたあと、素早く視線をオババに向ける。


「何もないじゃない.台座の上には立ったキノコがあるだけ…… 」


(立った…… ? キノコ? 私はいま、何を見た?)


 私は台座に目をもう一度向ける。


 そこには、赤い笠を被り、小さな手と足を生やしたキノコが、寝そべる藁人形の前に立っていた。


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