第十八話 グレーターベア
完全武装した集団が街を囲う城壁に集う中で、ロイは地図を手に捜索範囲をアベルトと確認していた。
その時、彼は奇妙といえる光景を目にする。
魔獣を討伐せんと、その魔獣を探索すべき山に通ずる道より1人の少女が現れたのだ。
それもずぶ濡れの姿でだ。
少女は疲れた様子で山から戻ってきたが、我々の存在に気付くと慌てて城壁に身を隠してしまった。
見たことのない娘だったが、無事で良かった。
問題の魔獣であるグレーターベアに会わずに済んだようだ。
しかし、何故あんなにずぶ濡れなのだろう、山で雨が降ったようには思えないんだが………
そこに城兵から声がかかる。
「魔獣が出たとのことですが………」
不安げな表情の城兵。
無理もない、魔獣の犠牲者となるものは、城壁の外にいる者が多いのだ。
己を含めて。
ロイはそんな城兵にウインクで応える。
「これから出るんだよ。死体でね」
少し城兵の表情がやわらいだのと同時に、ダレフの声が飛ぶ。
「ロイ! 行くぞ!」
ダレフは単独で山に入って行こうとしていた。
慌ててロイはついて行こうとする。
「討伐隊!出るぞ!」
号令を合図に数十名の冒険者は、山へと続く道へ足を踏み入れた。
〜〜〜
冒険者一同が山に入ってまだ間のないころ、のどかな山道にのどかな声が重なる。
「はぁー今日はいい天気だねぇ」
ロイは背伸びをしながらピクニックにでも出かけているような雰囲気でいた。
確かに天気は良く気候も穏やかなので、そうなる気持ちは分からなくも無い。
「普通は気を引き締めろとか言うがな、ギルマスなら」
そう言ったのはアベルトで、表情はあきれたとも怪訝なともつかぬ、なかなか言い表すに難しいものを浮かべていた。
この能天気な男が我々のギルマスであり、英雄と呼ばれる存在であるのだ。
そんな事を思いながら、同時にアベルトは先頭を行くドワーフに視線を送る。
あのドワーフのことを友と言い、軽視することは許さぬと殺気を放った時は動くことさえ出来なかった。
冒険者家業は長いが、あれほどの畏怖を感じたのは数えるほどだった。
この男1人でも今回の討伐が可能と思えるほどに………
「ギルマスはあのドワーフに絶対の信頼を置いておいてで?」
鼻歌まじりにロイは答える。
「もちろんさ。ダレフに命を救われた事も一度や二度とじゃない」
そして少し間をおいて言葉を続けた。
「そして今回もそうさ、私でもグレーターベアは手に余る」
アベルトは心を読まれたかに思い、驚きの表情をロイに向けた。
その時ダレフが腰を落とし右手を上げた。
次の瞬間、冒険者達はロイを中心に円陣を組む。
音もなく、足元に小さな埃が舞ったかと思えば、全員が各々の武器を手にしていた。
それはアベルトも同じで、彼は水平にブロードソードを構えて気配を探っている。
その横をロイは通り過ぎる。
アベルトも他の冒険者も変わらず気配を探る中、ロイはダレフのいる方に音もなく向かった。
そして………
「なんだ………これは………」
ダレフの視線の先………
先程の位置からは岩陰で見えなかったが。
そこには、砕かれた岩肌と折られ打ちひしがれた大木の幹が転がっており。
小屋ほどもある大きさのグレーターベアの溺死体が降り注ぐ太陽の光の元にあった。
肩が痛い………