第十七話 ギルドマスター
「以上がこのクエストの詳細だ。何か質問は?」
ロイがそのように言葉を締めくくったとき、彼の目の前には十数名の冒険者と言われる人物らがいた。
酒場に置いてあるような無骨な作りの椅子に全員が座っている
そのうちの1人が手を上げる。
歳は30代後半、装飾の無い武器と革をまとった粗野な印象を受けるいでたちだが、落ち着いたベテランを思わせる口ぶりで意見を述べる。
「だとしたら、目が足りない。向こうが先にこちらを補則したら、全滅もあり得る」
彼の周りに座る数人は、彼の意見に同意を示すように小さく頷いた。
それに対してロイは答えようとする。
「ああアベルトそれについてだが………」
そこに大きな扉が開く音が響いた。
そして扉の前にはダレフの姿が現れた。
「半刻たった」
眼光鋭くダレフはロイにだけに向かってそう言った。
その彼に一斉に奇異の視線が集まる。
誰かの呟きが聞こえる。
「ドワーフだ」
それはあきらかに侮蔑を含んでいた。
だが当の本人は特に変わった様子も無く、あいかわらず不機嫌な表情をしているだけだった。
「ダレフは私が冒険者時代の時の仲間だ。私が今の地位についたのも、彼の功績が大きい」
ロイは笑顔を浮かべながら、やや声を張りあげるように冒険者に向かって言った。
「彼が目となる。それにこのグレーターベアの件を教えてくれた………」
だが、冒険者達の反応は薄い。
「ダレフは鉱山とは関係が無い」
ロイの言葉が終わると同時に席を立つ者がいる。
「いくらギルマスでも、この話は降ろさせてもらう」
そう言ったのは若い冒険者の1人。
まだ10代であろう、その冒険者はまだ青年と言うには若すぎた。
「あの、リュトくん、これはギルドから冒険者への正式な依頼で………」
サーシャが声をかけるが、その若い冒険者は態度を改めることはない。
「なら、降格でも何でもするがいい、とにかく俺は受けない!」
そう言うと、そのまだ少年と言ってもいい冒険者は部屋から出て行こうと扉に向かう。
そんな彼に背中越しにロイの声がかかる。
「そんな事で降格は無いよ。けど、しばらく指名や討伐依頼は他に回されるだろうね」
リュトと呼ばれた若い冒険者は舌打ちすると、その場から消えて行った。
苦笑じみた顔で見送るロイにアベルトが横に並んで声をかける。
「依頼となれば受けよう。だが我々の気持ちとしても彼と同じだ」
ロイはチラリとアベルトとその後ろの冒険者達に視線を送る。
「私もこの街の人間だ。彼の気持ちも分かる。だが今回は魔獣のそれも最悪のものだ」
静かに淡々と話をするロイ。
「グレーターベアの発覚は誰かの犠牲の上で成り立つ場合が多い。だか今回はダレフのお陰で犠牲者が出ることなく、グレーターベアの対応を取ることが出来る。だから………」
急に空気が重くなる。
ロイを取り巻く気配………「氣」が変質して重くのし掛かる。
「我が友をくだらぬ言葉で穢す輩は、この私が相手になろう」
それはまさに殺気であった。
それに当てられアベルトは息を呑み、サーシャは震え上がる。
先程まで「あのドワーフがグレーターベアを連れてきたんじゃないか?」など悪態をついたものどもは、冷や汗と共になりを潜める。
床に針を落とした音で斬りかかりそうな緊張感の中、何でもないような口調でロイに声をかける者がいた。
「ロイ、何かあったのか?」
離れた位置にいたドワーフのダレフだ。
その不機嫌な表情のドワーフに向かって、ロイは笑顔で答える。
「ああ、久しぶりの魔獣討伐で気がたかぶったようだ」
それを聞いたダレフは「ふむ」と手を豊かな顎髭にかけると、そのままロイに言う。
「ふむ、相変わらずじゃの。それでは街を出た途端に相手に気づかれてしまう。ワシが目になる、先頭じゃ。お主達は後からついて来い」
ダレフの言葉はギルドマスターに向けたものとしては、横暴なものであったであろう。
だがこの時、彼に苦言を言える者は、1人もいなかった。
リハビリめんどくさい………