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2章 第二十七話 変貌

「精神に干渉する?」


「あぁ、我々の精神や思考を覆い尽くして考えや気持ちを変化させる、元あった気持ちを食べ尽くすと言った方が正しいかもしれない。まさに魂食い(マンイーター)だ……」


「あの…… 獣を見たら楽しいとか嬉しいみたいな感情が流れ込んできて…… それが気持ち悪くて……」


 リュトに向かって語るシェランさんに私は言葉を重ねる。

 

 うなずくシェランさんが続ける……


「連中の一部を一網打尽にしてダレフさんがそのうちの一匹を押さえつけた時に全身に衝撃が走った。捕まった時の衝撃が仲間に伝染して一気に膨れ上がったのだろう」


「さっきの地震に感じたのはそれか……」


「一匹だけならそう感じることもなかったかもしれないが、これだけいてはな」


 そう言ってシェランさんは窓の方へ顔を向ける。

 その窓は獣の群れでひしめき合い、外の景色が見えないほどの獣でビッシリ埋め尽くされていた。


 その異様な光景に一歩後退りをする。


「笑ってやがるな……」


 緊張した面立ちのまま目を逸らさずリュトが話しかけてきた。


「けど、楽しいとかの感情ならはマシなのかもな?」


 それに答えたのはシェランさんだった。


「虫とかの小動物の手足を生きたままもぐ事が楽しいと思えるならな」


「…… 」


「たまにいるんじゃないか?、楽しいからと言いながら人が嫌がる事を勧める奴、リュトはそれと同類なのかな?」


「冗談じゃねぇ」


 私はそれを聞いて、村の幼な子ども達を思い浮かべたがすぐに目を瞑り、頭を軽く振ってその考えを追い出した。

 確かに善悪の区別が付かない小さな子供達…… 無邪気な存在は時に残虐な行為を平気でしたりする。

 だからと言って同類とは考えたくなかった。


「奥さま! お戻りください!」


 そこにセシルさんの悲痛な声が響く。


 必死になってしがみつくセシルさんを全く意に介さず、セシルさんを引きずりながら恍惚じみた表情を浮かべてフラルさんが現れていた。

 そして、カタンと窓の留め金を外す。


 そこからゾロゾロと獣が流れ込みフラルさんを覆い尽くそうとする。

 その勢いにセシルさんは弾き飛ばされてしまう。


「セシル!」


 カーラさんの叫ぶ声とシャムドさんが剣を抜き立ち上がるのはほぼ同時だった。


 そしてシャムドさんが獣に切り掛かると、獣はそれを簡単にかわすと強力な敵意をむき出しにした。


「ギィ!」


 数十か数百の黒い獣が一斉に吠えるとそれは衝撃となってシャムドさんに襲いかかる。


 たまらずシャムドさんの体はよろけ床に倒れ込んでしまった。


「シャムドさん!」


 倒れ込んだシャムドさんは最初はピクリともしなかったがやがて上体を起こすと剣を床に突き刺し立ち上がろうとする。


 良かった無事のようだ。


「ギッギッギッギッ」


 異様な声と共に獣たちの意識が流れ込んでくる。

 シャムドさんの姿を見て喜び笑っている。


 シャムドさんの元へ助けに行きたいけど、獣の群れでの異様な雰囲気に足が歩み(あゆ)を止めてしまう。


 そのとき、カーラさんの叫びと小さな影が脚元を掠めるのが同時に起こった。


「キャロル!」


「えっ!?」


 急に飛び出したキャロルちゃんを止めようと声を張り上げた。


「ダレフさんキャロルちゃんを止めてください!」


 それに反応してかダレフさんは素早くキャロルちゃんの片腕を掴みフラルさんに近づこうとするのを遮る。


「これ、暴れるでない」


 だけど片手に暴れるキャロルちゃん、もう片方に獣の掴んで逃すまいとしているダレフさんは身動きが取れずにいた。

 シェランさんの声が私にかかる。


「メテル、香瓶はまだあるか?」


「残りが少し」


「それをダレフ氏に渡してくれ。ダレフ殿!メテルから香瓶を受け取ってくれ!それで少女を落ち着かせて欲しい!」


 それで私は残りの香瓶を取り出してダレフさんに向かって投げ渡そうとしたけど、コントロールが悪く床に当たってしまい衝撃で蓋が外れてしまった。


「あっ!」


 香瓶の中身が全て溢れてしまいダルフさんとキャロルちゃん、そして獣にかかってしまう。


 たちまち獣とキャロルちゃんは崩れ落ち、ダレフさんはなんとか意識を保ちながら口を袖で覆いながらキャロルちゃんをカーラさんの近くに運び、少し咳き込むとその場で意識を失ってしまった。


「ダレフさん!」


「大丈夫だ! 影響は人間より少ない! 寝ているだけだ」


ギャッギャッ、キャッキャ


 そんな私たちを見てかフラルさんに取り憑く獣たちは興味深げな歓喜の声をあげている。

 フラルさんは顔の半分までを飲み込まれようとしていた。

 このままじゃあ完全に取り込まれてしまう。


「メテル!水魔法だ!顔以外だ!全身を水で覆ってしまえ!」


「はい!」


 顔以外を水で覆ってしまえば、獣の多くを溺死、あるいはフラルさんから振り払うことが出来るかも知れない。

 獣に向かい念を集中させる。

 だが……


「ダメです!獣の思念が強すぎて魔力がうまく練れません!」


 拳大の小さな水球は作れる。

 だけどそれで一匹二匹引き剥がしたところで意味がない。


「諦めるな! 奴を見据えろ!」


 シェランさんは奮い立たせるようそう叫ぶがフラルさんがドンドン獣に飲み込まれていく。


 涙目になりながらも意識を集中させ気力を奮い敵である獣を睨みつけていたその時、ミルクのような濃い霧が床から発生したと思ったら、キャロルちゃんがいた場所を中心に集まり出した。

 

 それが膨らみ……


「…… バンシー」


 立ちこめる霧のせいか大きく見える、いや、実際大きい、大人の女性以上の大きさはあるだろう。


そのバンシーは獣に覆われたフランさんの前にふわりと立つと口を広げた。

 咄嗟に耳を手で塞ぐとその刹那、悲しむような切り刻むような正に悲鳴と言ってよい言葉が響き渡る。


「きゃあ!」「ガァ!」


 耳を塞いでも頭に響くその声に苦悶する。


(返せ! 戻せ!)


 バンシーの声はそんな気持ちで溢れ、それが流れ込んでくる。

 間違いない、このバンシーはキャロルちゃんの……


「これがあの()生き霊(エクトプラズム)というのか……」


 苦悶の表情のシェランさんが絶句とでもいうような呟きを発した。

 これまで見たり聞いたりしたバンシーとは別かも知れない。

 だけど間違いなく目の前にいるこれはキャロルちゃんの思念そのもの、シェランさんの言う通り生き霊(エクトプラズム)と言っても差し支えないだろう。


 フラルさんに取り憑いた獣も苦痛を感じるようで、声を直接浴びた何匹かがポロポロと剥がれ落ちている。


「ギッギッ! ガァガァ!」


 けど残った獣達も声を張り上げて対抗しているようだ。

 フラルさんの顔が露わになり上半身がむき出しになったところで、バンシーのいやキャロルちゃんの声がやや弱くなる。

 

 体が動く!


 そう思った瞬間、私は走り出していた。

(いまならフラルさんを引き剥がせるかも知れない)


「メテル! よせ!」


 シェランさんの声が聞こえる、でももう少しでフラルさんを助けられる。


 そう思った瞬間!

 

 一際大きい獣が鉤爪を振り上げた。

 それが私に向かって振り下ろされる。


 思わず目を瞑り身を屈める。


「グゥッ!」


 苦悶の声が聞こえる、


 ぬくもりを感じ、ゆっくりと目を見開くと…… 私の目に映っにものは苦痛に顔を歪めるシェランさんがいた。


 そして、私を抱く腕とは異なる腕からは…… 紅い雫が滴り落ちている……


「シェランさん!」


「いい、大丈夫だ。だからお前は下がれ」


 大丈夫なわけがない、こんなに血が流れて……


「いいから、リュトの所まで下が…… リュト?」


 そこでシェランさんの言葉が止まる。


 私だけ下がるわけにはいかない、シェランさんも一緒に…… ダレフさんやリュトに手伝ってもらって……


「ダレフさん!運ぶのを手伝ってください! リュトもお願…… えっ?」


 リュトのいた方向へ顔を向け、叫ぶその時。

 私は声を止めた。


 リュトの様子が明らかにおかしい、前傾というより手を床につけ四駆になり、目はギラギラと一点を見つめ、口からは涎も出ておるがお構いなしに歯を剥き出しにしている。

 ザワザワと髪の毛が逆立ち少しずつ白く染まってっていき、体からはモヤのようなものが立ち上り、人ではない唸り声をあげていた。


「リュ……リュト!?」


「グルルルッ ガァ!」


 リュトは叫び声を上げるといきなり飛びかかってきた。

先の文章までストックしてました。

ここから文章の書き方とかの雰囲気が変わるかもです。

しかし…… 文章って難しいよなぁ……

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