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2章 第二十四話 二日目の夕暮れ

色々あって、まぁ復活……

 背をかがめ館の中へ入るフラルさんと、それを支えるセシルさんに続いて私たちも玄関の扉をくぐる。

 そして、フラルさんとセシルさんは二階の寝室へ行くようで階段へと歩みを進めていく。

 私が付いて行った方が良いのだろうかと思った矢先にシェランさんは彼女らとは別方向へと身体を向ける。

 シェランさんは居間へ向かうようだった。

 私は一度だけ、フラルさんとセシルさんの並んで階段を登る姿を確認すると、シェランさんの後ろに付いて行く。


「ひと騒動あったようだな」


 居間に入るとすぐにシャムドさんの声が聞こえてきた。

 シャムドさんは今夜に備え、わずかな仮眠をとっていたようだ。

 ソファーの傍に毛布が置かれている。

 おそらくダレフさんの戦斧の衝撃で目が覚めたのだろう。

 その手にはすでに剣が握られている。


「耳を汚し、申し訳ありません」


 シェランさんの言葉にすぐにシャムドさんは答える。


「よい…… それで?」


 そのシャムドさんの口調は今朝までと違うように思える。

 低く重い…… 疲れが見てとれる。


「はい、インプはカラスの姿で現れましたが、やはり奴の目的はセシルさまであることが明白です。幻術でセシルさまを連れ出そうとしていましたが、それを邪魔されたことで我々にちょっかいをかけて来ました」


「討ち取っだろうな?」


 声と共に放たれる眼光は鋭く不信感を募らせていた。


「…… いえ」


 そのシェランさんの短い返答に、怒号と真鍮のグラスがシェランさんめがけて飛んできた。

 

「何をしておるのか!」


 いきなりの事で一瞬頭が追いつかないでいたが、慌てて私は声を上げる。


「シャムドさん! 私たちは……」


 だが、その声はシェランさんの腕で遮られる。

 その腕を前に、私はシェランさんを見上げる。

 シェランさんの白い肌にひと筋の赤い線が走っている。


「よいか! わしの家内に何かあってみろ! その首を討ち取ってくれるわ!」


 これがあのシャムドさんなのかと思うぐらいの豹変ぶりに戸惑い、怒り狂うシャムドさんに小さくなるだけだった。


「申し訳ございません」


 静かに述べるシェランさんの言葉に別の人物の言葉が重なる。


「気を落ち着けなさいませ」


 声もした方を見れば、そこにはカーラさんの姿があった。

 カーラさんは静かに、それでいて速やかにシャムドさんの元に駆け寄ると緩やかな口調でシャムドさんに語りかける。


「落ち着きなさいませ。昔のクセが出てございますよ。その気質は捨てたと仰っていたではありませんか。落ち着きなさいませ……」


 シャムドさんの肩に手をかけ、優しく諭すようにカーラさんは語りかける。

 その声に応じてか、シャムドさんはソファーに腰を下ろす。


「ごめんなさいね。この人は昔から短気なところがあるの」


 申し訳なさげに話すカーラさんに対し、目を背けシャムドさんは何も語らない。


「いえ、こちらも配慮がいたりませんでした」


「それで、これからは?」


「今夜は出来れば全員がこの部屋にいて下さい。それと……」


 シェランさんの話の途中でシャムドさんが口を挟む。


「わしらに亀のように縮こまって震えていろというのか!」


 さっきよりは落ち着いてはいるけど強い口調で吐き捨てる。

 なぜこんなに変わったんだろう。

 今朝までのシャムドさんとは全然違う。

 下手なことをいえば、本当にあの剣で斬られるとさえ思ってしまう。


 「ええ……」


 シェランさんの口から出た言葉にギョッとする。


(な、何を…… )


 一瞬シェランさんの顔を見て、即座にシャムドさんの方を伺う。


 シェランさんは澄ました様子だったが、シャムドさんの顔は赤く憤怒の表情に変わっていく。

 隣のカーラさんも「何てことを……」と言いたげな表情でこちらに目を向けている。

 シャムドさんの持つ剣が音を立てて、その柄に手が差し伸べるかと思った時に再びシェランさんの声が上がる。


「最初はそうして下さい。その後、ーー我々はあのふざけたインプに打って出ます!」


 静かな口調で始まったその声は、最後で力を帯び部屋の中に響いた。

 目は真っ直ぐにシャムドさんの方を向き、シャムドさんの鋭い眼光に引けを取らないその眼差しに、私は何も出来ないでいる。


「よかろう……」


 再び、シャムドさんの口が開く。


「その言葉、反故にしようものなら、この剣の行き先はお主の喉元と知れ」


「ご随意に」


 気にも留めない、何の感傷も感じさせない口調でシェランさんはそう言葉を返すと同時に頭を下げる。


「まだ日が完全に沈むまで間があります。それまで、まだ休んで下さい。我々は罠を張る準備をします」


 そう言うとシェランさんは、私の方に向きかがみ込んだ。


「鍵となるのはあなただ。協力して欲しい」


 真面目な眼差しで、急にそんな事を言うもんだからビックリしたがシェランさんは私の目を見ていないことに気付く。

 私のちょうど頭の付近…… 髪飾りの精霊さんに向けて話しているんだ。


 すると、私の意識の中から言葉が浮かび上がる。


 (もちろんだ)


 これは精霊さんの意思だ。

 この時の私の気持ちをどう言えば良いのだろう。

 とても暖かな安堵という綿毛が包んでくれる。

 そんな風に感じてしまう。


 直前まで、シェランさんが私に顔を向け声を発するその直前まで、彼女の顔に浮かび上がっていたものは私が胸に抱いていたものと同じもののように感じた。

 それを精霊さんは瞬時に拭い去ってくれたんだ。

 私はシェランさんに伝える。


「はい!」


 そんな私たちの様子を見ていたカーラさんが、心配した様子で声をかけてきた。


「そのお嬢ちゃんはよくやってくれているわ。けど……」


 私に向けた言葉が途切れるその理由は理解しているつもりだ。

 だけど心の内の言葉をそのままカーラさんに向けて発する。


「大丈夫です!」


 私には精霊さんがいる。

 その精霊さんが応えてくれる。

 

 だから大丈夫だ!


 その私の言葉と同時に、シェランさんとリュトが動きを見せる。

 リュトは腰に下げていた袋を取り出すと、中から乾燥した植物の枝葉を取り出しそれをシェランさんに見せる。

 シェランさんは指先でその枝葉を指差し、リュトに何か伝えると顔をシャムドさんたちの方に向けた。

 

「香を焚きます。蝋燭の火を使わせてもらいます。よろしいでしょうか?」


「ええ……」


 シェランさんの声に応えたのはカーラさんだった。

 その声を聞いて即座にリュトは近くの燭台のあるテーブルに向かう。


 そして手に持っていた袋と枝葉の幾つかをテーブルの上に置くと、続けて袋の中から大きめの金属製スプーンを取り出す。


「睡魔の香ではないだろうな」


 低いシャムドさんの声が響く。


「ご安心を、リラックスさせる効果はありますが、睡魔の香のようなものではございません」


 ゆったりとした口調で、微笑みを浮かべて答えるシェランさん。

 リュトは枝葉を小さく千切りスプーンの上にのせる。

 これはたぶん……

 リュトに近づき横に並ぶ。


「私が火を灯すね」


「頼む」


 リュトに告げると即座に答えが返ってきた。

 燭台に置いてある残っている乾燥した葉っぱをチラリと見て確信した。

 ホワイトセージだ。

 私の村でも比較的よく使っていた。

 魔除けの効果は確かにあるけど、魔除けの香ほど効果はないはずだけど……


 ポシェットから護符を一枚取り出すと、それをロウソクの前に二本の指でかざす。


「唵!」


 念をこめ、発音と共に護符はシュルリと小さくまとまって小さな炎になると、それはロウソクに移り火を灯した。


 その瞬間、後頭部にコツンとした衝撃が起こる。


(オイ! 符術はあまり使うな!)


 シェランさんだった。

 小声で叫んでいる。


「?」


 シェランさんは横目でチラリとシャムドさんの方を見てから私の方に顔を近づける。


(見られてはいないようだが、気をつけろ…… )


「なん……」


 何で?と言う前に口を塞がれた。


(いいから!)


 口を塞がれたまま私は頭を縦にコクコクと振る。

 どうも符術を使うのは不味いらしい…… 理由はわからないけど……

 その時、シェランさんの鼻がピクリと動いた。

 私の口を塞いでいた手がゆっくりと離れる。

 ぷはぁーと息を吐き、次に吸い込む時になってようやく気付いた。

 ホワイトセージの独特な香りが鼻腔を通る。

 この匂いはちょっとだけ抵抗がある。

 いや、いい香りとも思っているんだけど、昔は村でこの香りがした時は何かと家から出るなと教えられていた。

 小さな時は分からなかったんだけれども、村に不幸があった時に炊いていた事を知ったのは私がだいぶ大きくなってからだ。

 最後に嗅いだのはおそらくお爺さんの時だろう。


 ふと、囲炉裏で微笑むお爺さんの顔を思い浮かべる……


 いけない! 集中しないと!


 頑なに目を閉じて精神を集中させる。

 その時、何か不思議な気配を感じとった。

 これは…… 何なのだろう……

 決して人のものとは思えない、だけど不快には思えないその気配は上の方からわずかに感じ取れる。


 その時、部屋の入り口で小さな影が揺らいだ感じがした。

 見ればキャロルちゃんが一人で扉の所で隠れるように佇んでいてジッと私の顔を見つめている。

 その瞳は真っ直ぐにこちらを向いており、その表情からは何も読み取れない。


「あの…… 」「まぁ、キャロル」


 私の呼びかけはカーラさんの声でかき消される。

 続けてシャムドさんが声を掛ける。

 

「キャロルよ二人はどうした?」


 シャムドさんの声に対しキャロルちゃんは何も喋らず、ただ視線を天井へ向けた。

 まだ二階にいる事を、その仕草が示している。

 

「二人を呼んできましょう。もう、日が暮れる」


 シェランさんの声にカーラさんが小さく頷くとシェランさんはリュトに向かって声を掛ける。


「これからは二人以上で行動する。リュトついて来てくれ」


 リュトは軽く頷くとシェランさんの後に付いていく。


「ダレフ氏とメテルはこの部屋で待機だ。油断するな、もうヤツに見られていると思え!」


 いつに無く、硬い口調でシェランさんはそう言うと足早に部屋から出て行った。

久しぶりすぎて、登場人物の名前を間違えてるかも……

まぁ、脳みその血管プッツンしちゃった奴のリハビリ作品だから許して……

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