第十二話 西へ
一章分を書き終えたら投稿するつもりでしたが、入院もあり全く終わりが見えない状態です。
ですが、自分を奮起させるためにも投稿させていただきます。
見慣れぬ景色の中で私は目覚めた。
ボンヤリとした意識の中、私は天井を見上げる。
えっ⁉︎
思わず声を上げそうになった。
(そうだ…… 私は旅に出たんだ…… )
ゆっくりとベッドから身を起こす。
カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。
目を横に向けると、いつの間にか精霊様が枕元で寝ていた。
昨日の晩、身体を拭き終わり、ベッドに入る時毛布の中には小さくなったキノコが入っていた。
髪飾りの時の、ただのキノコみたいだった。
今はいつものコブシくらいの大きさに戻っている。
(なぜ? あんなふうになったのだろう?)
私は座ったまま寝ているような精霊様を起こさないように、静かにベッドから出ると着替えはじめた。
「おはようございます」
部屋から出て、階段を降りる途中で女将さんに挨拶を交わす。
「ああ、おはよう。ゆっくり休めたかい?」
「はい、ありがとうございます」
私は女将さんに頭を下げる。
そして頭を上げた時に女将さんは少し驚いた表情を浮かべていた。
「?」
「ああいや、ウチのダンナが昨日の晩、しきりにアンタの事を気にかけていたからね」
女将さんは両手を広げるように私に向かって言う。
「アンタみたいないい子が、旅に出なくちゃならないなんてねぇ〜、アンタの村のしきたりかも知れないけど、キビシイもんだねぇ〜」
女将さんは何度か私のような娘を、送り出したのだろう。
少しだけ哀れむ表情を浮かべている。
「いえ大丈夫です。私も村の外に行きたかったですから」
慌てて女将さんにそう言うと、女将さんは苦笑じみた表情を浮かべた。
「オマエさんの前に出た子は帰ってきたのかね?」
九年前の魔女として旅立った人は村には帰って来なかった。
だけど、数年前に遠くから便りが届いていた。
「いい人ができた」とだけ書かれていたらしい。
その時は何のことか分からなかったが、今なら理解している。
オババが肩を震わせていた理由も含めて……
「いえ、だけど旅先で落ち着いたみたいです」
私は女将さんに笑顔で答える。
「へぇ、そんなもんなのかねぇ」
女将さんは、少しばかり考え込む素振りの後で、私に向かって言った。
「なら、あなたも旦那探しの旅なのかい?」
「ちっ! 違います!」
慌てて、女将さんの言葉を否定する。
思わず大きな声を上げてしまった。
女将さんはキョトンとした顔で私を見ている。
「あ………」
女将さんはそんな私を見て笑顔を浮かべる。
「悪かったね。けど、元気そうじゃないかい」
「すい………ません」
「旦那が朝食を用意してるから、食べておくれ」
「………はい」
熱く感じる顔を伏せながら、私はテーブルのある方へ進んで行く。
夜には酒場へと変貌する食堂は他の客はおらず、昨夜の喧騒を感じさせるものは何もない。
ただ光が差し込む窓辺で、太った猫が大きなあくびをするだけだ。
「おはよう。よく眠れたかい?」
カウンターから旦那さんの声がかかる。
「はい」
見るとカウンターテーブルの上に食事が置かれている。
無骨な椅子に腰掛けて、私は手を組んだ。
………今日の糧に感謝を。
しばしの黙祷の後、私はパンを手に取り口に運ぼうとした。
口を開いた時に視線を感じる。
視線の方を見ると旦那さんがじっとこっちを見ていた。
私は口を閉じ、旦那さんの方へ顔を向けた。
「?」
「ああ、ゴメンよ。偉いね。キチンと祈りを捧げるのを見たのは家族以外は久しぶりだ。ゆっくりおあがり」
柔らかな笑みを浮かべて旦那さんはそう言った。
「(そうなんだ)………はい」
旦那さんは気を利かせてか視線を外すと、そのまま席を離れてカウンターの奥へ行った。
朝食を取った後の事を考える。
西へと向かうルートはふたつある。
ひとつは街道をそのまま進むルート、もうひとつは山を越えるルートだ。
私は山を進むルートを考えている。
理由は山越えの方が距離を短縮出来る事と、夏が過ぎたばかりで気候も穏やかだ。
その山もさほど高くないらしい。
上手くすれば木の実も取れるかもしれない。
私は心を西へと向けた。