第十一話 はじめての夜
美味しかった。
慣れぬ旅先での食事は、とても美味しかった。
私達の村の食事と変わらない、そんなに特別なものではなかったが、それがありがたかった。
私は一息つくと、ベッドの上にちょこんと座っているキノコ精霊に目を向ける。
精霊様は私の方をジッと見ていた。
「精霊様もお疲れになったでしょう?」
私は精霊様にそう言うと、精霊様はその場でクルクルと回ってピョンと跳ね上がる。
自分はまだ元気だぞ! と言っているらしい。
その様子に笑みが溢れる。
「はい、頼もしいです。明日もよろしくお願いします」
私の言葉に精霊様は再び、ピョンと飛び跳ねた。
お腹が膨れたことで、少し眠気がする。
私は欠伸をすると、女将さんが置いていった、お湯の入ったバケツを引き寄せて上着を脱ぎはじめる。
(身体を拭いて、はやく休もう…… )
上半身裸となり、お湯を浸したタオルを少しだけ絞った時に違和感に気付く。
キノコ精霊様が後ろを向いている。
「精霊様? どうかされましたか?」
私の呼びかけに精霊様は、ビクッとした感じと同時にこっちに振り向く。
そして私の姿を見ると、いきなり慌てふためき飛び上がって、素早く毛布の中に潜り込んでしまった。
毛布の一部がモッコリと膨らんでいる。
心なしかいつもより大きくなっているように感じられた。
(精霊様もお疲れになったのだろう……)
私はベッドに腰掛け、精霊様の横に座る。
「精霊様もお疲れなのですね」
私はそう言うと、毛布の膨らみにそっと手を置く。
「これからも、よろしくお願いします」
私そう言いながら、そっと撫でる。
するとその膨らみが段々と大きくなっていく。
野営のテントのようになってきた。
(きっと精霊様も緊張なさっていたのだろう)
私はそう思いながら、優しく撫でる。
すると精霊様はビクビクっと身体を震わせたと思うと、段々と毛布の膨らみが縮んでいった。
そして精霊様は動く様子がなかった。
ピクリともしない。
(そうとうお疲れだったのだろう)
「おやすみなさい」
私は精霊様に感謝を込めて、はじめての夜の挨拶を交わした。