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第二章

「大丈夫だったんだな……」

「大丈夫なわけないじゃないですか‼ どうして見捨てたりしたんですか。初対面でしたけど、あなたたちのこと信じてたんですよ。それなのに、すぐに逃げちゃって。あの人は少し頑張って抵抗してくれましたけど…………」

「ああ、俺たちはあんたのことを見捨てて逃げた。逃げたさ。でもな、もし俺があんたと立場

が逆だったら、助けてくれたのか? それと同じことだ、いってることはわかるな」

 それは、といいかけてリーマンは俯く。まさか俺の口車に乗るほどに簡単な奴だとは驚きだ。この男はきっとこれまでも、きっと周りから騙されてきたのだろう。

「話を戻そう。あの後、どうやってここまで逃げ出してきたんだ? まさか怪物が見逃してくれた、なんて言わないよな」

 これでもニートの俺には最大の冗談を言ったつもりだったが、だれもクスリともしなかった。恐怖とは別の冷たい時間が流れる――沈黙――。

「黙っていないで話しなさいよ。あんたどうやって脱出できたの?」

 綺麗な顔をしているがこの女は場を切り裂くのが得意なようだ。まあ、そのおかげで話が早く進むから俺は助かる。

 そのことなんですけど、と更にリーマンの歯切れが悪くなる。

「それがよくわからないんです。あなたたちが出てったあと、化け物は僕を見たまま止まったんです。普通なら隙をみて逃げようと思うじゃないですか? でも、あの真っ暗な中で光る不気味な赤い眼にじっと睨まれていると動けないんですよ。視線も身体も。それに化け物との距離が近いんですよ。気持ち悪いベトベトした液体が、腕や足首からねっとりと垂れてきて、まるでエイリアン。あれは映画でしたけど、本当にこの世界にもそんな化け物がいるんだなって、死にそうな状況なのにですよ。何かの力があるのか、赤い眼を見ていると何故か切なくなって堪らないんです。死にそうだからとかじゃないんです。なんていうか、いままでの悲しい記憶を無理やり思い出した。そういう感覚でした。悲しみの中で赤い眼を焼き付けるようにまぶたを閉じて、次に目を覚ましたら化け物は消えていたんです」

 話の始めから、作り話を聞かされているようなバカげた話だ。要は化け物に襲われたときに気を失った。しかし、目の前にいる男はそれを真剣そのもので語っている。いくらこの団地が現実離れしている世界だとしても、話を信じろ、というのが無理な話だ。他の二人も固まったまま動かない。それにヤクザ男の前でヘタレリーマンが嘘をつき通そうと考えるのなら、気が狂っているとしか思いようがない。

「それは、本気で言っているんだろうな」

「そうですよ。ここで嘘をついてもしょうがないじゃないですか。僕も捕まって殺されたんじゃないかと思ったんですけどね。いまこうして生きているのが証拠みたいなものじゃないですか。ただね、まぶたが勝手に閉じたとき、あいつは口を開けていたと思うんです。だからどうしても不思議な感じですよ」

 あの化け物から逃げて吹っ切れたのか、回りくどく俺たちが逃げたことを根深く思っているのか、リーマンの口数が減る気配がしない。そのまま喋らせても問題なさそうなので、その間に頭を整理することにした。

 はじめに、ここに来る前の記憶を探る。いつものようにパソコンゲームをした後、寝る前に何者かに拉致された。さっき、派手女と合流したときも彼女は「私を拉致した」と言っていた。ということはここにいる四人は同じ犯人に連れてこられたのかもしれない。派手女と俺、ヘタレリーマンはともかく、がっちりヤクザ男を連れてくるということは相当な手練れに違いない。さらに無い頭を回転させて、次の3点を考え出した。

・犯人が単独犯ではない。

・犯人とヤクザの男がグル。

・化け物は偽物であり、機械か何かで犯人が動かしていた。または犯人そのものがなりきっていた。

 考えば考えるほど疑心暗鬼になってくる。ずっと武勇伝を語っているリーマンさえ、殻を被ったピエロを演じているだけかもしれない。とりあえず、いまは派手女の話だけ聞いて、二人は話半分だけ聞きいれることにしよう。

「ちょっと訊きたいことがあるんだけど……………」

 派手女を見ると、器量は申し分ないのに愛嬌がなく、凍てつくような眼差しが返ってくる。ニートの俺でなくてもこの眼を向けられるだけで大抵の男は退くだろう。しかし、この状況から逃れるためにはハグレの俺でも奮い立つ必要があった。

「さっき拉致されたって言っていたけど、そのときのことを詳しく聞かせてくれないかな」

「聞かせてください……でしょ?」

 最初のヤクザ男との喧嘩から感じたが、この女はつくづく身勝手で冷酷だ。人が下手に出ればつけ上がりやがって、美人だからって調子に乗りすぎている。これがバーチャルの世界なら叩きのめしているのに。誰にも自慢できることではないが、ストリートファイターでは、何度でも美人ファイターを地面に寝かせてきた。怒りがこみ上げないうちに考え方を変える。いつまでもこの女に時間とエネルギーを浪費するわけにいかない。ここは口だけで終らせる。

「聞かせてください、お願いします」

 俺の言葉を聞いて服従したと勘違いしたのか、女はまんざらでもない顔をしている。

「それじゃあ話すわ。私を連れ去った人たちの予想はおおかたつくわ。彼らは私のマンションの合鍵を持っていて、私が寝ている隙に襲ったの――」

「ちょっ、ちょっと待ってください。犯人の予想はついているんですか。一体全体、その人たちは誰なんですか。どうして俺を狙ったんですか。そもそも、何でマンションの合鍵を――」

「あーもう。うっさい‼ あんた、初対面なのに質問が多すぎんのよ! なに、探偵気取っているの。バッカじゃない。私は拉致したっぽい奴が、周りに居るからそれを言っただけ。誰もそれが事実だとは言っていないし。ここに連れてきた魂胆も理由も知らないのよ!」

 彼女は人の話を聞くことができないのか、ちっとも協力して脱出しようと思っていないのかもしれない。俺が思うに、彼女の脳内は常に自分が他人よりも優位に立つことしか考えていないのだろう。

 やはり、ここには普通の人はいないのだろうか? 息を少し吐いて、すみません、と彼女の機嫌の回復に努める。その後ろ側で、無表情なヤクザ男にリーマンが武勇伝をまだ語っていた。彼にとっては本物のヤクザの恐ろしさより、化け物からの逃走劇の方が一世一代の出来事だったのだろう。化け物の特徴について、臆することなく喋る口に拍車がかかっていた。

 みんな、なにやってんだ、こんな状況で。そう心で呟くと、俺の中でなにかが弾けた。

「ここから出たいんだったら、みんなで協力すべきだ! そうじゃないですか。どうなっているのかは知らないが、外には化け物がいる。俺が見たのは二体の化け物で、その両方がこの人を襲ったんです。、みなさんはどうしたいですか。俺はここから抜け出して、また元の生活に戻れるなら…………」

 精神的に不安定なのか、いつもなら話さないことを流暢に口にしていた。魔法はそういつも続かないもので、日頃の生活を顧みたとたん、口から出ていく言葉が途絶えてしまう。

「戻れるなら、何なのよ」

 口が減らない彼女は友だちというものがいるのだろうか。まあ、俺がいう資格などないが、怒りを通り越して、哀れにさえ思えてきた。なんでもないよ。そう言って話の路線を元に戻す。

「それで。あなたはこれからどうするんですか。何か考えているのなら、是非ともご意見を聞きたいですね」

 精一杯の挑発のつもりで上目遣いに手を差し出してみる。自分でも驚くほど気持ち悪い格好になった。やはり、いまの俺はおかしい。自分が自分でないみたいだ。

「なによその手、気持ち悪いわね。いいわ、私の考えを教えてあげる。ここから脱出するのなんて簡単なことよ。団地から抜ければいいのよ。円に並んだ団地から抜けて森へ行けばいいのよ。そうしたら怪物ともこの汚い部屋からもおさらばできるでしょ」

 この女はよくもまあ簡単に言ってくれる。あの化け物を見ていないから、こんなことをいえるんだ。もしも襲われたのがリーマンではなくてこの派手女だったら、いまよりもおとなしくしていただろう。想像するだけで面白い。俺はそれとなく彼女の短絡的な計画を否定する。

「それもそうね……なら、どうすればいいのよ。ねえ、アンタはどうすればいいと思うのよ。考えていることがあるなら紙に書きなさいよ」

 女が考えに詰まってヤクザ男に救いを求めたおかげで話が切り出しやすくなった。この際、リーマンも派手女は放っておこう。ヤクザ男と会話するなんて思ってもみなかったが、いままでの経験から、言葉に注意して下手に回っていれば問題ないだろう。

「そうですね、できればあなたの意見を聞かせてくれませんか。あなたは実際にあの化け物と戦っている。なにか弱点とかありそうですか、なんでも良いんです、お願いします」

 痛みに慣れたのか再び無表情で話を聞いていたヤクザは、すぐにメモにペンを走らせた。また時間をかけて汚い字を解読することになりそうだ。重い気を揉んでいると、意外にもペンは早く止まった。男の吊り上がった一重がこちらを覗く。

 何も思いつかない……か。だんだんと男の汚い字を判別することもコツが掴めてきた。四角い形が丸みを帯びていて、〈い〉は繋がっていて〈N〉を逆さにしたように見える。

「そうですか……あなたならこの状況を抜け出せる方法を知っていると思っていたんですがね」

 元々そうなのか、それとも何か隠しているのか鎌をかけてみるも、顔色を見ても動揺の様子はない。というより反応というものが、この男に備わっているのか疑問だ。

「やっぱり、とりあえず外の様子を見ながら外に出るしかないじゃない」

 そういって彼女は腰を上げた。どうやらここから出ていくらしい。本気なのか? 止めようと後を追うが彼女は玄関のドアノブに手をかけているところだった。

 ダンダンダンダン‼

「キャアアアアアッ」

 薄い鉄の扉が外の状況を細かく伝えている。幸いさっき俺が鍵を閉めていたので大丈夫だろう。ドアを叩く音が止み、俺たちは腰を抜かしたまま冷えついた扉を見つめた。窓もなく暗い玄関は居間から漏れてくる微光に照らされていた。外に誰かいる気配はまだ消えない。諦めたのか考えているのか知らないが、なにもしてこない。

ジワリとこめかみを汗がゆっくり流れおち、時間を長く感じさせる。少ししてカチっと何かが音を立てた。薄暗い中でドアノブがゆっくりと回っていく。ギイィィィと音を立てながら更に時間をかけて扉が開く。

「嘘だ……嘘……だろ」リーマンが俺たちと合流したとき、確かに玄関の鍵を閉めていたはず。まさか鍵が開いているのか? ということは、派手女が開けたのか?

「な、なんなのよ。誰が来るっていうの」

なにもかも終わった。俺たちは、いや俺は、なにも知らずに化け物に食い殺されるのか。

「はあはあはあ、ヤット逃げらレタ。うわああああ! 君たちは誰だ、ここでなにをしてイル!」

 扉を開けて入ってきたのは、化け物ではなく謎の男だった。薄暗いので全体はわからないが、長身で服の上からでもわかるほどに隆々と筋肉を身体に備えていた。どこか話し方に違和感を覚えるが害を及ぼすことはなさそうだ。

「ま、待ってください! 私たちは味方です。あなたの敵ではありません、どうか落ち着いてください」

「ごめん、あたし無理。お二人仲良くごゆっくり」腰を抜かした派手女は脱出することを断念したのか、顔を引きつらせながら急いで居間に戻っていった。案外、自分自身を奮い立たせているだけで怖がりなのかもしれない。

「さあ、上がってください。っていっても私の家ではありませんが」謎の男を居間に通した。ヤクザ男とリーマンが訝しげにジッとこちらを見つめている。確かに言葉は変だが、何も問題はな…………なんだこいつは?

蝋燭の灯に照らされた彼は小麦色の無地の服を身に(まと)い、ラグビーなんかで見たことのある帽子を被っている。白っぽく頭に沿って薄いソレは、帽子というよりハンカチみたいな物で作ったものだろうか。こめかみのあたりに紐が垂れている。汚い上着を腰の位置でベルトを止めている。彼なりのオシャレだろうか、全体が同じ麻の布地でどこか古めかしい。それに左首の方に二つの何かのマークが彫ってあった。気づかれないように凝視すると、それが時計のマークだと知る。それだけでも衝撃だが、極めつけはまさかの、ガイコクジン?

「あなたは…………何者ですか」

「これは失礼しました。私はドミニクです」

「あ、あのう……日本語お上手ですね。私は洸太です」そっと彼に耳打ちした。本当は、人を褒めるのが恥ずかしくて聞かれたくないだけだ。さっさとお世辞を済ませ、この異様な外国人から話を聞きださなくてはいけない。

 ああ、どうも、とお世辞に眉を顰めるドミニク。派手女が逃げ、リーマンとヤクザ男が距離を置くのもいまでは頷ける。できれば俺も会話したくないが、誰も彼と話すような感じが見当たらないので仕方ない。それにこの状況で日本語を話せる外国人というのは、運が良かったといえるだろう。

「ドミニクさん、いきなりですが、私たちは何者かに拉致されたみたいなんです。ここの住人は誰一人とも居ないし、変な化け物に襲われる。まったく何がなんだかわかりません」

「私もナゼここにいるのか、わかりマセン。ですが、あなたたちが襲われたという、その化け物はスタブかノスルイスですね。スタブは対処できないことはないですが、問題はノスルイスの方で――」

「え? すみません何ですか、そのスタブとかノスなんとかっていうのは」

「スタブというのはキメラの一種デスネー。キメラってわかりますか、合成獣の。スタブは元々、普通の蜘蛛だったのですが、頭のイカれた医者の薬物実験のために怪物と化した。スタブは一見して狂暴だが、寄生された動物を攻撃して怯ませることができたら、身の危険を感じて逃げていく」

 彼のいう〈スタブ〉というのはあの蜘蛛と猫の化け物だろう。

「ノスルイスは純粋な悪魔だ。いや、元来はただの人でスタブと同じくマッドサイエンティストによって化け物と姿を変えた。心を惑わす赤い眼を持ち、その瞳を捉えた人を逃さない。そうして捉えられた人のあるモノを食らう。奴に対抗して倒そうと思っても無駄だ。鋭い爪で八つ裂きにされて足を狙う。奴は赤い眼を持っているが、機能していない。赤い眼はいわば醜い姿と引き換えに得た特殊能力といったところだろう」

 化け物だけでなく特殊能力だって? どこまで現実離れしているんだ。夢にしてはできすぎだ、本当にここは俺の知る日本なのだろうか。混乱を重ね続けた頭は、痛みを伴いはじめる。これ以上考えたところでなんになるんだろう。そもそもこの日本語マスター外国人はなぜ知っているんだ?

「どうしてあなたはそんなに知っているんですか、その――」

「化け物やここの経緯を、ってことかい。それなら単純なことだ。私が――――あれ、何だっけ。え? あれ、私は何でここにいるんだ…………おい、貴様らは誰だ!」

 流暢に話していたドミニクは、何もない宙を見つめると突然態度がおかしくなった。いままでの紳士的な会話が嘘のように言葉が攻撃的になり、興奮していて顔中が赤い。怒鳴り声をあげた彼は俺たちと距離をとって警戒する。俺たちはさっぱり訳がわからないが、ドミニクを落ち着かせるために説得を試みる。

「ドミニクさん、少し落ち着いてください。どうしたっていうんで――」

「うるさい、黙れ! お前に何がわかる」

「ちょっとアンタ、さっきから何いってるか知らないけど、怒鳴ることないじゃないの!」

「黙れ、女は黙っていろ! お前たち、まさか私を殺す気じゃないだろうな。やめろ、殺さないでくれ、助けてくれええええ」

 気が動転したドミニクは、最後に血走った眼で睨んだあと、部屋から飛び出していった。

 なによ、あれ、と派手女が言い終わるうちに俺は彼の後を追って外に出る。ドミニクはもしかすると記憶障害かもしれないが、彼ほど、この謎の多いこの場所のことを知っている人物はいない。記憶が戻るまで近くにいてくれた方が俺たちも助かる。考えを纏めたときには少し遅く、暗闇の中を駆ける彼との距離はだいぶ差があった。後ろから声がする。どうやら三人も渋々ついてきたらしい。人に流されているのだろうか、よくわからない人たちだ。突如、目の前を走っていたドミニクが足を止める。その先に赤い眼の化け物〈ノスルイス〉がいた。俺は距離をとって、彼と怪物を眺める。するとドミニクは何を思ったか、一歩、一歩とゆっくりと歩を進めていった。

「待って、待ってくださいドミニクさん! なに考えているんですか、殺されるぞ、やめろお!」いくら叫んでみても俺の声は彼に届かなかった。それでも俺は叫び続ける。やめろ、逃げろ、と声が枯れていくも、彼は一歩また一歩、と闇に光る小さな赤い球に近づく。

 どうして彼に俺の声が聞こえないんだ? よく見ると彼の視点の先は化け物の赤い眼を捉えていた。もしかしてドミニクが話していたノスルイスの特殊能力か? だとすると赤い眼は催眠力ということなのだろうか。それならいまの彼に何を言っても無駄だ。改めてノスルイスの脅威を知った俺はただ立ち尽くして、事の終わりを見届けるしかできなかった。

 ノスルイスの目の前まで進んだドミニクは、急に精神状態が戻ったのか、狼狽して慌てて逃げようと走り出す。しかし、もう遅く3m進んだところで後ろから串刺しにされてしまう。あばら辺りのわき腹からノスルイスの尖った手が血液によって黒光りしていた。片方だけでなく、更にもう片方の手も突き刺して右手には肝臓だろうか、腎臓だろうかわからないが臓器を握っていた。俺の顔を見ながら、グフッグフッ、とドミニクは口から大量に血を吐き出した。真っ赤に充血した鬼神ような顔で、想いのいっさいを遠くの俺に向けている。視線の先の俺はというもの、またたく間に血の気が引いてへたり込む。その間も彼のわき腹からはどくどくと血が流れている。

ノスルイスが右手を抜くと、ソフトボール大くらいの穴から反対側が見える。引き抜いた手を口元に持っていき、奴は臓器に喰らいつく。とうとうドミニクは息絶え、糸が切れた操り人形のように頭が垂れる。

しばらく呆然としていた俺は、ヤクザ男に腕を引かれて初めて逃げなくては、と我にかえった。すでに男以外の二人は元居た部屋へと走しだしている。つい先ほどまで、優しく話してくれたドミニクはもういない。あんなに親しく話してくれていたのに。玄関に回る前に、もう一度振り向いた。遠くの方で化け物が、俺たちに目もくれず、仕留めた肉体を貪っていた。

 次に奴のエサになるのは俺かもしれない――――。恐れが募った身体を奮い立たせ、再び走り出した。

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