リコス皇国に着きましたわ
ビシャァ!!
パッカパッカパッカ…
「……」
レオのお使いで市内の大通りを歩いていたプルーンは、いま泥だらけだ…
馬車の車輪が、水たまりにはまった泥しぶきの前に出てしまったのだ。運が悪い。
「ううぅ、なんでぇ?!え〜ん、こんなんじゃ帰れないわ〜!」
少女姿のプルーンは、いつも着ている肩出しワンピースや銀髪が見事に泥々になり半ベソになって立ちすくんでいる。
「まぁ、可哀想に。ちょっとこっちに来て。」
年若いお姉さんが、プルーンの元に駆け寄ると手を引いて道の端まで連れて行ってくれた。
「お姉さんのお家すぐ近くだから、そこで洗うといいわ。」
(見たところ商人の娘さんかしら。いざとなったらレオを呼べばいいし大丈夫かな。)
「ありがとうございます…そうさせてもらいます。」
プルーンは、お姉さんの家まで着いて行くことにした。
プルーン達は、ババ様に挨拶し街を旅立ったあと、ヒョウの姿でレオを乗せ移動し、丸2日間旅をしてリコス皇国首都エルザードに来ていた。プルーンは、情報収集に行ったレオとは別行動で、市内の市場に買い物に来ていた。猫耳少女になったプルーンは、猫魔法のみ使えたが、魔力量が少なく1日に使える魔法は3回程度だった。こうしてレオと離れる時は、少女型になって新しく覚えていた猫魔法"ご主人様との繋がり“を使えば、10km程の距離なら念話できるようになっていた。
お姉さんの家は、魔道具屋だったようだが、お店の中は埃を被っていた。奥の居住スペースに通される。家具は揃ってはいるが、調度品などは無く殺風景だ。
「服を洗ってくるからその間はこれを着るといいわ。」
お姉さんは、プルーンの髪や頬に付いた泥を拭いてくれ、着替えの服を渡してくれた。
お姉さんの小さい頃の服だったのか、民族衣装だ。袖と胸元が白いレースのブラウスで、胸から下は赤と黒の柄の編み上げ、腰から下はボリュームのあるスカートになっている。
服が乾くまで、お茶をいただいたり、お家のことを聞いた。お姉さんはミラと名乗り、最近結婚した旦那さんと2人で暮らしているそうだ。
「ミラさん、ありがとうございます!」
「ううん、私も1人で時間を持て余してたから大丈夫よ。」
優しく微笑んでミラは言うが、目線は下を向くことが多く表情はどことなく暗かった。
「ここは魔道具屋さんなんですか?」
「夫がやってたんだけど、今はもうお店は畳んだの…」
「そうなんですか…旦那さんは別のお仕事を?」
「そう、今は教会のお手伝いをしているわ。そっちに住み込みでここには帰ってこないわ。」
ミラは悲しそうな顔で言う。
(新婚さんなのにどうしたのかしら…)
プルーンが事情を聞くと、ミラは言葉を濁しながら答えた。
「結婚前は仲が良かったんだけど、今は全然よ。明日夫に話に相談してみるつもり。」
「そうなんですね、元どおり仲良くなれるように祈ってますね。」
「ありがとう。その洋服ももう着ないから、プルーンちゃんが代わりに着てくれないかしら。」
「いいんですか!嬉しいです。」
「ええ、もちろん似合ってるもの。何か急に妹ができたみたいで今日は楽しかったわ。いっぱい着てあげてね。じゃ、さよなら、プルーンちゃん…」
服が乾いてすっかり夕方になった頃、プルーンは、お礼を言いミラの家を後にした。
(仲直りできるといいな、ミラさん…)
プルーンは、この都市に来て初めて仲良くしてくれたミラに、心が暖かくなりそう思った。
宿に戻るとレオと合流し、話を聞く。
「何軒か最近急成長する組織について聞いてきたよ。その中でもスラガ魔導商会という所は、次々と魔導機械の新製品を編み出し販売を進めているそうだ。この都市の他の商会や貴族の勢いも凄いようだけど、皆んな新規参入してきた所ばかりらしい。」
リコス皇国は、魔導機械や魔道具の技術力が高く産業の要となっており、多くの商会や店があった。
「明日一度スラガ魔導商会の様子を見に行ってみよう。」
翌朝レオ達は、スラガ魔導商会に向う途中にある大桟橋に差し掛かった。
プルーンは、ふと橋に目を向け驚愕の声を上げる。1人の女性が橋の桟に登り、今にも飛び降りようとしていた。
「ミラさん?!」
プルーンは、見知った顔であることが分かり駆け出す。一歩遅く、女性は橋の下の河川に身を投げた。
ミラが川に落ちるのを追いかけて、プルーンは橋から飛び降りた。水中に落ちると、沈んでいくミラの姿が視界に映る。川の流れが速かったが、なんとか追いつくと腕を掴み、そのまま水面目指して上へと泳ぐ。なんとか顔を出せた。
「ぷはっ、はぁはぁ…」
(あっ浮遊魔法使えなかった…私のばか!)
勢いで飛び込んだもののプルーンは猫魔法しか使えず、ミラと流されていくしかない。
(こんな時使える魔法、魔法、なぁぁい!…服が水を吸って、重いっ、腕がもう…)
浮き上がろうと、自由な左手をバタつかせるが、体力的に限界が来ており今にも沈みそうだ。
その時、体が軽くなる感覚がし、水を飲まずに空気が吸えた。
「プルーン!!」
レオの声が耳元の近くにする。レオがプルーンを抱き抱えるように持ち上げてくれていた。気を失っているミラの腕を掴んでくれている。
「レオぉ、はぁはぁ…」
レオは風魔法を身体に纏わせ浮力を上げつつ、風の竜巻を水中で起こしジェットスクーターのように川岸の方へプルーン達を運んだ。
「助かった〜、はぁはぁ…ミラさんは?」
「彼女は、もう大丈夫。気を失っているだけだよ。君は、大丈夫?」
ミラに回復魔法をかけおわったレオが、プルーンに向かって両手を伸ばす。プルーンは、猫の時の癖で自然とレオの伸ばされた両手に収まる。ぎゅっと抱きしめられた。レオは、震えていた。プルーンは、レオの肩に頭を預けてされるがままになった。
「馬鹿!プルーン、無茶するんだから。」
「心配かけてごめんなさい、レオ。助けてくれて有り難う。」
(レオ、私に妹さんを重ねちゃったかな。不安にさせてしまったのかも。)
「レオ、この人はミラさんと言って昨日私を助けてくれたの。とにかくミラさんのお家に運びましょう。」
ミラの家に移動し、二人はミラが目覚めてから事情を聞くことにした。




