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恋と剣の狂詩曲  作者: ジキル
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喧騒。

知人と五個同じタグを共有してどちらのPVが伸びるかのバトルを気紛れに行ってます。因みに知人の方のタイトルは「姫と詠詩と選別の剣戟」です。暇で暇で仕方がない、時間に余裕がある、と言う方は是非そちらに行ってボロクソに貶してあげてください。

 何処からか、小川のせせらぐ音が聞こえる。歪に重なり合った葉緑の隙間から、黄金色の光が滑り落ちて、暖かい溜まり場が出来ていた。小鳥が楽しそうに泣き噦る声がそこら中に木霊するその空間は、まるで人々が空想し、思いを馳せる理想郷そのもの。そんな自然の楽園に、漆黒の革靴が一歩踏み出された。黒の燕尾服で身を包み、これまた頭髪まで黒で染め上げた男が、静かにその空間に入り込む。死した猛禽類を思わせるその鋭利な眼光は、常に周囲に警戒を向け緩めない。


 その時、男が突然腰を低くした。携えた剣の柄に手をかけ、刀身を幾分か外気に晒し、戦闘態勢に入る。すると今の今まで平和だったその空間を、粘つく嫌な臭いが駆け抜ける。男の頭上で、小鳥が羽を乱暴に叩き飛び立った。ざわざわと木々が警鐘を鳴らし、顔を覗かせていた太陽が雲の後ろに身を隠す。


 鳴き声が、聞こえる。


 先ほどの小鳥の物とは一線を隠す、重く、腹の底に響いてくるような叫び。地殻が揺れる音に酷似した声が聞こえる。男の少し前方、藪に覆われてはっきりとは見えないが、そこで何かが蠢いた。男の視線がそこに集中するや否や大きな衝突音と共に男に襲い掛かる巨木。それを寸前で身を翻した男が躱すと、低い唸り声を上げながら、茶色い塊がのそりと近寄って来た。


 血走った目に鋭い犬歯、日本刀のような輝きを見せる爪をそれぞれ五本両腕に引っさげ、ぎゃりぎゃりとそれらを擦り合わせる。男の二倍ほどもあろうか、その筋肉質な肉体を鼓動させるように膨張させており、今にも涎を垂れ流しながら襲い掛かって来そうだ。そんな様子の荒ぶる獣を眼前に見据え、男が深く息を吐く。それを皮切りに獣が男に飛び掛かった。


 右前足を男の肩がけになぎ払おうとする。が、男の腰が深く沈み込み、寸前でその腕の下を潜り抜けた。男の千切れた髪が数本空中に飛び、地面へと舞い降りる。途端、男が横に跳ねた。すると、獣の豪腕が、それまで男が居た場所の土を抉り、深い溝を拵える。獣が隙を見せた一瞬を男が的確に捉え、腰に携えた剣を抜刀し、獣の右肩元を一直線に薙ぎ払った。ばつん、と鈍い音と共に宙に舞うけむくじゃらの腕と迸る鮮血。剣で乱雑に空を切り付着した赤い鮮血を地面へと振るい落とす。


「ガルゥゥゥ……?」


 獣の口から間の抜けた声が響く。何が自らの身に起こったのか、到底理解が出来なかったから。軽く叩くだけで肉の塊と化すひ弱な人間が、攻撃を避け、あまつさえ腕を斬り落として見せた。ここで、獣は漸く警戒を抱き始めた。


 こいつは『餌』じゃない、排除すべき『敵』だ———


「グルルルァァァァ!!!」


 吠える、獣。光の粒子が欠損した腕部分に集まったかと思うと、瞬く間に収束し、全く同じ毛の生い茂った腕へと変貌した。治癒なんてスピードではない、再生したのだ。これがこの獣が使う魔法の一つ。即座に身体を治し、幾ら攻撃を受けようとも止まる事なく相手の喉笛を噛みちぎるための魔法。


 目の前で不敵にこちらを睨む男を敵と認め、全身全霊を持って襲い、喰らう。白い煙を吐いて獣が猛り狂った。


 男が再び抜刀し、一閃が獣の胴体を斜めに通り過ぎる。体表を容易く貫通し、細かく血が迸るが、むざむざと気にする必要は無い。少し魔力を込めて傷を塞ぎ、鋭く針のように尖った牙を無防備な体制の男へと押し付けようとする。


 が、居ない。既に獣の視界から消え失せていた。


 獣の背後で飲み込むような殺気が爆ぜる。生まれてから感じた事すらない殺意の塊が津波の如く押し寄せる。ここで、獣は初めて防御では無く回避の選択肢を取った。この世に生を受けてこの方味わった事のない恐怖が獣の脳裏を這い回る。


 殺意が研ぎ澄まされた線となり、獣の背後を薙ぎ払った。背中を深く刻まれながら、日頃追いかけている獲物のように転げ逃げる。仮にもし逃げていなければ、今頃獣の胴体は宙を待っていただろう。幾本も倒れ伏す郡強な巨木達がそれを物語っている。


 一心不乱に獣が逃げる。見せた事のない背中をひけらかして、短い尻尾を振り回して、野兎のように。獣が味わった死への恐怖は、その尊厳を簡単に排泄させ逃亡の選択肢を選ばせるには充分過ぎるほどだった。


 自らから遠ざかっていく獣を見据え、軽く溜息を吐くと、男が剣で何も無い空間に向かい振るった。鋭利な風を切る音はやがて実体を持ち、逃げる獲物を切り裂かんばかりに飛翔する。木々を伐採しながら獣に迫る音と風。最も簡単にそれは獣に追い付くと、健気に振るう二本の後ろ足を容赦無く斬り捨てた。


 まるで壊れたからくり人形かのように獣が体勢を崩し、無様極まりない様で土に転がる。獣が苦く渋い土を口いっぱいに噛み締め吠えた。


「ガァァァァァ!!!」


 光の粒子が獣の傷口に群がり、瞬く間に元の形同然の両足を作り出した。幾分か覚束ない足取りを加速させ、森の奥へと狂獣が尻尾を巻いて逃げていく。


 獣が背後にちらりと目をやった。追いかけてきているものとばかり思っていたが、獣の背後にあの死神の姿は影も形も見えなかった。ほっと安堵の息を吐き出す。が、それも束の間、獣の頭上から黒い影が舞い降りた。無防備な背中に剣線を幾たびも描き、赤く美しい彩りが刻まれる。まるで予想すらしていなかった頭上からの急襲に晒された獣は、肺の中の空気を余す所なく吐き出し、冷たい地面にうつ伏せになった。


「クゥ……クゥゥゥン」


 反撃する余力など残っていない。恐らく、自分はこれから喰われるのだろう。いつからかしてきたように。


 これまで生態系のピラミッドの頂点に君臨し、その座を退くことなかった獣は、ここにきて諦めに似た感情に支配されていた。


 男が口を開く。


「……良いですか? もう二度と、ここの住人に手を出してはいけませんよ」


 物腰柔らかな口調で男が獣に語りかける。和やかに微笑んでいるが、首から下の燕尾服は黒から赤に染められており、コントラストに寒気を覚える。


「ガウゥゥゥ……」


「もし次畑を荒らしたりなんかしたら今度こそ許しません。分かりましたか?」


 否応無しに獣が首を激しく上下に振り続ける。


「なら良いですよ……いやぁー、汚れちゃったな。これはお嬢様に何と言われるか……」


 柄に剣をしまい、血糊でべたべたになった全身に目を凝らし、男が肩を落とす。ぱんぱんと手で払い軽くそれらを落とすと、悠然と森の奥へ消えていった。


 辺りは静寂を取り戻す。そこにあるのはいつもの景色と、未だ恐怖を噛み締める一匹の獣だけだった。


 ♦︎♦︎♦︎


「カイシャ! カイシャ! 何処に居るんだ?」


 広く明るい屋敷の中を、中年の男性が声を張り上げて廊下を歩く。やがて一つの扉の前で立ち止まり、こんこんと二回人差し指で叩いた。返事が無いため、躊躇無く扉を開き、中に入る。ベッドの上で蠢く塊から毛布をひっぺがすと、頬を赤らめた少女がそこで舟を漕いでいた。


「コラ! カイシャ! やっぱりここに居たのか! ほら、もうお勉強の時間だろう? 早く勉強部屋に来なさい」


「……やだ。」


 ゆっくりと上半身を起こし、少女が呟く。


「何故だ? アルトリウス先生が手ぐすね引いて待っているんだぞ。早くしないと迷惑をかけてしまう」


「今日は勉強何てしたくない……。パパ、リジルは何処に行ったの……? せっかく一緒に寝ようと思ったのに……」


 シーツをなぞりながら、カイシャと呼ばれた少女が男にそう尋ねる。


「リジルにはちょっと討伐に行ってもらっているんだ。どうも領民の畑が荒らされたみたいだしな」


「パパ? それって、リジルが危ないんじゃないの……? ギルドに依頼を出さずにわざわざリジルが出向く何て……」


「あー、いや、一度依頼は出したらしいんだが……向かった冒険者の一人が瀕死で戻ってきたらしいからな。それでパパのところまで話が上がってきたってわけだ」


「……大丈夫かなぁ…………。心配。なので私はここでリジルの帰りを待つ事にする。帰ってきた時にうーんと暖めてあげて……」


「コラ! 寝るな! 先生が待ってるって言っているだろう

 第一リジルの部屋に入り浸るんじゃない!」


 恍惚の表情で毛布の中に潜り込もうとするカイシャを男が引っ張り出し、脇に抱えて出ていこうとする。扉が勢いよく閉められ、後には悲しげな少女の慟哭が微かに響いていた。



ヤンデレ書きたい……書きたくない?

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