きみとはなしができたなら『わたしのもみじ』
わたしのもみじ
ねえ、口元を見ていて。もうすぐもうすぐ。ほーらね、笑った。
あら、つられ笑い?
パパになったあなたにも、可愛いところがあるんだね。
そっくりだよ、そのニヒルな笑い方。にひひってなによ、あー可笑しい。
眠った顔に、そっと自分の顔を近づければ、ほわりと甘く、くすぐったい香り。
大切で、大切な、私のもみじ。
その手を必ず、守ってみせるよ。
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「なあ、俺がいつ、彼女がいるなんてこと言ったんだよ?」
「純太くんに会ったのよ、もちろん偶然よ、偶然」
「アイツ、口軽すぎ」
「いいじゃない。別に悪いことじゃない。反対してるわけじゃなし、内緒にしなくたって……」
「うるさいよ、ほっといてくれ」
「ほっとけるか、相手のこと傷つけたら、ママが許さんぞ」
「うぜえ」
「あかちゃんでもできたら……」
「うわ、そんな話するか、ふつー」
「ふふん、親にはそういう話をする義務があるんだからね」
「わかってっから、やめてくれよ」
「もし、あかちゃんできたら、うちのパパみたいに、結婚してきちんと責任取れよ」
「うわあ、重ぉー」
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ねえ、眠っているはずなに、今度は眉をひそめてる。
なんなの、どうしたの?
まだ私のもみじはなにも知らないはずなのに。
この世界の小石ひとつの憂いさえ、あなたは知らないはずなのに。
くすくす、眉間にしわを寄せちゃって、いったいなにを悩んでいるのかねえ。
勉強とか部活とか彼女とか。あれやこれやと悩むのは、これからだって言うのに。
それにしたって。
なんて可愛いの、私のこの手と比べてみてごらん。
私の手の面積の、半分もないくらい。
そんなもみじにだって、神さまは。
こんなにちっちゃな爪まで用意したんだね。
おとなになったらその爪で、ビールのプルタブ上げるんだろうなあ。
ねえ、想像できる?
そのビールを男らしく喉に流し込んで、ぷはってやるんだってこと。
想像したら笑えてきて。
大きなグローブのような手が、ビール缶を嬉しそうに握っている、そんな男前な姿。
あはは、お腹を抱えるくらいに、笑えてきて仕方がない。
そうなったらもう誰も、君の手がこんなもみじだっただなんて、思いも寄らないのだろうね。
あらら、今度は今にも泣き出しそうな、おちょぼ口。
その唇に、ちゅと軽くキスしてみる。
ああ、私の可愛いもみじ。
ずっとこの手を握っていく。
必ず、そして絶対に。
この手を離しはしない。
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「ちゃんとママにも紹介しなさいよ」
「あああ、もううるせ」
「うるさいじゃないよっ」
「わあったから、イテテ、足踏みつけるなよ」
「で……?」
「はあぁ、……」
「で? 潤?」
「あーーーもうっっ……はああ、町井だよ、町井っ」
「え、理沙ちゃん? マジで?」
「くっそー、白状しちまったあ」
「あんた……」
「ああ?」
「見る目あるじゃない」
「あああ、くそ恥ずう」
「理沙ちゃんママに電話しなきゃ」
「うわおい、ヤメろっ」
「うちのおバカのねえ、本当にこんなんで良いのか、聞かなきゃね」
「あああああ、だから嫌だったんだよ……くっそーー」
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可愛い私のもみじ。
今度は君が、新しいもみじを守る番になるのかな。
だとしたら、とても誇れる、私のもみじ。
まだあかちゃんの、きみへ




