裏の顔は殺し屋でございます。
昼休み。学校の屋上で缶コーヒーを片手にメンチカツバーガーをかじる俺のブレザーの内ポケットでスマホが振動し、着信を伝えた。
傍らにコーヒーを置き、スマホを取り出すとディスプレイにはクライアントの番号が表示されていた。
「はい。」
俺は画面をタップし、スマホを耳に当てた。
「ああ、例の件ですか。ご心配なく、期限内には終わらせます。」
電話の内容は仕事の催促だった。
クライアントからすれば今回の依頼は相当重要な案件らしい。
ちなみにその依頼とは、とある人物の暗殺だ。俺は裏で殺し屋をやっている。
「え?今ですか?平日のこの時間帯っていったら学校に決まってるじゃないですか。」
俺の表の顔はごく普通の高校生だ。
「問題ありませんよ。学校では痛い奴で通ってるんで、話に乗っかって来ることはあっても、まともに取り合おうなんて奴はいません。」
一つ訂正しよう。ごく普通ではなく、痛い高校生だった。
「ええ。なんの問題もありません。こちらからの報告をお待ちください。では・・・」
電話を切った俺はふっと息を吐き、残りのメンチカツバーガーをコーヒーで流し込んだ。
「また依頼主から?」
屋上から立ち去ろうとする俺に、背後からクスクスという笑い声とともに話しかける者がいた。
クラスメートの美少女、神崎だ。彼女はよく屋上で家から持参したであろう弁当を食べている。
時折、こんな女の子と付き合いたい思うことがある。しかし、殺し屋という仕事を持っている以上、それは叶わぬ希望だ。もっとも、殺し屋でなくとも神崎のような美少女と付き合うのは無理だろうが・・・
「まあな。」
振り返らず俺は背中で答えた。
「それで次のターゲットは?」
相変わらず笑いながら彼女は聞く。
「どっかの会社の偉い人だ。生憎、これ以上は答えられない。」
「えー、教えてよー。」
「無関係の人間を巻き込むわけにはいかない。」
そう言って俺はかっこよさを演出しながら振り返った。
「!?」
目の前に大きな黒丸。それが小型拳銃に取り付けられたサイレンサーであると認識するのに、そう時間は掛からなかった。
「私、無関係じゃないよ?」
銃を構える神崎が普段と変わらぬ笑顔で言った。