魔人という認識
この作品の目標。
必ず何かを一話で殺す。
腕輪の独白除く
ぴぃぃぃ
ちちちっ
鳥の声で目が覚める。
「ここは……?」
鳥など遠の昔に絶滅したはずだ。
勇者が魔王に倒されて、世界はどんどん作り替えられた。
魔人と魔獣だけの世界。いや、動物も居るがそれもすべて家畜だ。
「……ここは本当に過去の世界なのか?」
腕輪に尋ねる。
だが、
「……………………」
腕輪から返答はない。
「私の補助をするのではなかったのか?」
使えない。
いくら待っても返答らしきものは来ない。
仕方ないので、動く出すが、
「平和……だ」
人が多い。
人が笑っている。
人だ。
人が居る!!
生まれてから人がここまでいるのは見た事なかった。
魔族の作った家畜用の牧場には人が多いだろうが、そんなところ近づけない。
でも、今は違う。
人に近付いても大丈夫。
人と話をしてもいい。
師匠としか話をした事なかった。
それ以外の人は会った事なかった。
魔人に常に怯えて生活していたから普通の人――そう。魔族の世界になる前の世界を知らない。
だからこそ。
(こういう時どんな風に話をすればいいのか分からない)
どうすればいい。
お話ししたい。
人とどんな話をすればいいのか分からない。
好奇心がうずく。
実行したくてしたくて、でも、仕方が分からないと思っていたら。
嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!!
どこからか悲鳴が聞こえる。
平和な世界のはずだ。
いや、平和ではない。
この世界は、勇者が魔王に敗れる前の世界だ。
魔族と人の戦いはそこかしこにあったのかもしれない。
その事実に気付くと。その悲鳴の方に走り出す。
走る。
ふと思う。
走った事も無かった。
常に隠れていた。
こんな堂々と走る事も無かった。
まさか、草の感触が地面の感覚がこんなに心地よいとは思わなかった。
笑いだしそうになるのを必死にこらえて向かうとそこには、魔族。
(低級だな。人の姿も取れてない)
魔族は、強ければ強いほど人の姿に近くなる。
だからこそ、強い魔族は魔人と呼ばれていた。
その魔族が襲っているのは、二人の子供。
《おやおや。……助ける必要ないよ》
今まで沈黙を保っていた腕輪が口を開く。
《ただの仲間割れだ。――手を出すなんて労力使わなくていいよ》
腕輪の言葉にどういう事だと尋ねようとしたら。
《そんな事も分からないの?》
その言葉と同時だった。
襲われていた子供――女の子の身体が崩れて、その襲ってきた魔族を包み込む。
「………………………スライム?」
魔族の中でも最下層。師匠曰く、魔族でも人でも最初に力の使い方を実地で覚える為に最初に倒すのはスライムだと。
その最弱な存在が人の姿を取っている?
今襲ってきている魔族よりも人の姿を取っているから強いという事?
《ああやって、人の姿で油断させて、魔族や人を食べているんだろうね。へぇ~。面白いな! こんな事もするんだ!!》
腕輪が興奮している。
スライムが触れたところから魔族の身体が溶けていく。
断末魔の声が響く。
スライムが勝ったのだ。最下層が。いや、人の姿を取れるという事は魔人。魔族としては強いという事だろうか……?
困惑していると。
そのスライムに守られていた子供がこちらに気付く。
オレンジの瞳。その瞳は人の目とは違い、動物のような形の目をしている。
ばさっ
その子供の背から大鷹の様な翼が発生すると、スライムの魔人を連れて空に飛び立つ。
《あれは……》
腕輪が面白がる様に口を開く。
《へぇ~。勇者パーティーの一人は魔族に育てられた設定があったけど、あれかな~》
と意味不明な事を言い出した。
過去の世界は彼女の想像したような平和な世界でもない