ぞろ目
この小説には、一部、常用漢字表(昭和五十六年告示)に含まれない漢字を使用してありますが、間違いではありません。予め御了承下さい。 尚、それ以外での、誤字等ありましたら、ご指摘下さい。なくても、文章表現やストーリーの感想を頂けると、幸いです。
これは、ある臨床心理士から聞いた話である。
一人の精神を病んでいた患者、ここではAとしよう。
Aは、何もかも全てが、きちんと揃っていないと、精神的に不安定な状態に陥るそうだ。
それこそ、本棚の本の順が、一つ、たった一つ入れ代わっていてもだ。
また、髪の毛も同じく、真ん中から、綺麗に分けている。
さらには、服の皺でさえも、許せないらしく、暇さえあれば、あらゆる物の皺であったり、順序、汚れ等をいつもいつも直していた。
その考えは、数字にも当て嵌められた。入浴時間は、10分。睡眠時間は10時間。食事は1時間で、米粒一つ、いや、こびり付いた汁、孰の一滴さえも、残しはしなかった。
終いには、デジタル表示された時計を気にしだしてしまった。
ちょうど、昼下がりの2:35という数字が、妙に気に入らなかった。いや、正確に言えば、2:35.41であった。そこから、数字が綺麗に揃うまで、約30分………約ではいけない。24分19秒である。しかし、数字が揃わないまま、それだけの時間を待つことは、当然Aに出来るはずもなく、時間が経つにつれ、30000という数字の羅列ですら、気に入らなくなった。33333でなければならない、と思いはじめた。
そうなると、3時ちょうどまで待ったとしても、さらに、33分33秒待たなければならない。
既に、Aの精神は、白虎の爪痕程に、深く傷付けられ、その状態から33分33秒待つことは、不可能であった。
ついには、Aはこのようなことを、口走りはじめた。
「30627が襲ってくる」
「30858が襲ってくる」
「31146が襲ってくる」…………。
その後も同じようなことを、言っていた。
Aがこの世で最後に言った言葉はこれである。
「33332が襲ってくる」