蕁麻疹 その2
昼下がり。
昼食を食べ、眠くなる時間帯、神楽は眠気と戦っていた。
午前中に手を付けていた仕事は終わり、次の仕事に取り掛からなくてはいけないが、
次第に手は止まり、意識が遠のいてくる。
寝てはいけない、だけど眠い。
瞼が落ちてくる、でも仕事中、寝てはいけない。
繰り返される魔物から救ってくれたのは、玉越だった。
「神楽さん、高藤君が戻ってきたよ」
神楽は、慌てて資料を持ち、高藤のもとに向かった。
「課長代理、頼まれていた資料です」
彼女は、彼に近づくにつれて体に痒みを感じたが、我慢して、
すぐに立ち去ろうとしたのだが、高藤が呼び止めた。
「悪いんだけど、例の資料、今日中に作ってくれないか?」
「えっ、来週までって……」
「先方が、明後日に日程変更してくれって言ってるんだ」
「とにかく、明日中に、原稿がほしいんだ」
「分かりました。
何とかやってみます」
神楽は、自席に戻り、体を掻き始めた。
「体、大丈夫?」
「えぇ」
「それにしても、高藤君と話す時はきつそうね」
「なぜか慣れないわ……」
隣の席の同僚、折谷と話す時はもとより、その他の慣れた男性社員と話すときは、
少しの痒みなのだが、高藤と話す時は、体のアレルギー反応が大きい。
「大丈夫?」
玉越が神楽に声をかけたのだった。
「ありがとう、大丈夫よ」
「それにしても、何で高藤君だけ、ダメなんだろうね……」
「さぁ、私にも分からないわ」
神楽は、体を掻きながら、神妙な面持ちで応えた。
「まぁ、高藤さんに近寄らなきゃいいんだからね」
「そんな同期の同僚に近寄れないなんて……
恵子はなんてかわいそうな人ね」
「そんな大げさな……」
「ところで、恵子、何か言われていたわよね
何だって?」
「資料作ってくれって……」
「何、また!!
この前だって、残業してたじゃない」
「でも、こういう資料作るの好きだから。
あっという間に時間が過ぎちゃうの……」
「時間が過ぎちゃうの、じゃないでしょ。
ちょっと言ってくる」
玉越が立ち上がったが、神楽はそれを阻止した。
「大丈夫よ。
それに、他部署のわがままだから。
課長代理のせいじゃないわよ」
「でも、そこを何とかするのが上司でしょ」
玉越が食ってかかるが、神楽も応酬する。
「無理難題を押しけられて、それを何とかするのも私たちの仕事でしょ」
「まぁ……、そうだけどさ。
手伝えることがあれば言ってね」
「ありがとう。
でも、そんなにかからないと思うから……」
「もうっ」
その一言で、玉越は納得し、席に着いた。
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