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はじめての選択

作者: 春蘭

わたしは、周囲が水色の世界に浮かぶフワフワな雲の上にいた。

目の前にはおじいさんが口元に優しそうな笑みを浮かべてわたしの答えを待っていた。

わたしは大きく息を吸い、おじいさんの目をしっかり見ながら口を開いた。

「わたしね、」


どうしてこうなったんだったっけ。



確か、「おやすみ」と言ってママが部屋を出て行ったあと、一人残されたわたしはベッドの上で天井を眺めながら考えていた。

今日のわたしの一日は理不尽そのものだった、と。

まず、ママはわたしの嫌いなほうれん草を無理やり食べさそうとした。

パパはわたしが眠たいからお風呂に入りたいと言ってるのにまったく気づかずオロオロしてた。

わたしは人生を楽しもうと思っていたのに、どうしてこうも理不尽な毎日なのだろうか。

こんなはずじゃなかった。

そう考えていたはずだ。



そのあと、どうしてここに着いたのかはよく覚えていない。気がついたらわたしはこの世界にいた。

目の前にはおじいちゃんよりもさらに歳をとった目の細いおじいさんが座ってニコニコしていた。

「おじいちゃん、だあれ?」

「私はね、君たちの魂をどのパパとママのもとに振り分けるか決めて、送りだす仕事をしているんだ。」

「ふーん。でもわたしもう決まってるよ。わたしのパパとママはもういるもん。」

「そうだね、君も私が振り分けたからね。ただ、私の仕事はそれだけじゃないんだ。

半年がたったあとに【アフターサービス】として君たちがうまくやっていけているかを調べにきているんだよ。」

あふたーさーびす・・・?なんだか不思議なことをいうおじいさんだ。

「うまくやっているか?」

「そう。私が決めて送り出すわけだが、そこには君たちの選択権も拒否権もない。

だから、もし君たちがこんなはずじゃなかった、私の決定がおかしい、と思っているなら、

1回だけ人生のやり直しをさせてあげたいと思っているんだ。」

なんだか難しい単語ばかりでよくわからない。でもわたしでも一つわかることがあった。

「わたしがいやだって言ったら、違う家の子になるの?」

「そうだよ。今のパパとママのもとをさよならして違うパパとママのもとに振り分け直すんだ。

さて、君はどうしたいんだい?」



嫌いなほうれん草を食べさせられたり、泣いても相手してもらえなかったり。

毎日、理不尽なこともとっても多い。

わたしの人生、こんなはずじゃなかったって思うことも何回もある。

でも、そう思っているわたしの中ではあの時の光景が頭に浮かんでいた。



ふと気が付くと、目の前にはおじいさんが口元に優しそうな笑みを浮かべてわたしの答えを待っていた。

わたしは大きく息を吸い、おじいさんの目をしっかり見ながら口を開いた。

「わたしね、」



「わたしね、今のままでいいよ」




それを聞いたおじいさんは細い目をさらに細めて言った。

「ほう、どうしてだい?君には不満がないのかい?」

「不満がないわけじゃないよ。

でもね、わたしが生まれたとき、パパとママは本当に喜んでくれた。ここにきてくれてありがとうって言ってた。

だからね、もしわたしがいなくなったら、パパとママはとっても悲しむと思ったの。

それは、わたしも悲しいなって。だって、わたしもパパとママのことが好きだから。

おじいちゃん、せっかく来てくれたけどごめんね。わたしは今のままでいいの。」


おじいさんは満面の笑みでうんうんとうなずきながらわたしの言葉を聞いてくれた。

「そうかそうか。なに、謝ることじゃない。そう言ってくれる子がいると、私の決定も間違ってなかったと仕事に精が出るってもんさ。」

そういうと、おじいさんはすっと立ち上がった。

「おじいちゃん、どこに行くの?」

「【アフターサービス】も完了したし、私は本業に戻ることにするよ。

次の子の行き先を決めて振り分けないといけないからね。」

おじいさんはわたしに背を向けて歩き始めた。と思ったら数歩進んだところで振り返った。

「毎日理不尽かもしれないけど、人生いい時もあれば悪い時もある。今を大事にするんだよ。」




ふと気が付くと、わたしはいつものベッドの上で天井を眺めていた。

窓からは明るい朝の光が差し込んでいた。

あれは、あのおじいさんと話したことは夢だったのかな。

そんなことをぼんやり考えていると、ママが部屋に入ってきた。

ママはわたしが起きているのを見て、にっこりと笑って「おはよう」と言った。

わたしも「あーうー(ママ、おはよう)」と挨拶した。

ちゃんと伝わったかな。



今日も理不尽なことがあるかもしれない。いや、きっとあるんだろうな。

でも、わたしが考えてこのままでいいと選んだんだから、きっともう後悔はしない。

そして、いつかわたしがちゃんとパパやママみたいに話せるようになったら、こう言おうと思う。

「わたしね、パパとママの子供でよかったよ」って。



赤ちゃんは自分に何が起こったかを自分の言葉で伝えることができないので、

何か起こっててもおかしくないなあ。

もしかしてこんなやりとりがあったりして?

なんてことを考えていたらこんなお話になりました。


拙い部分も多いですが、

読んで少しでもほっこりした気分になっていただければ幸いです。

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