~やはり世界は異世界だと再認識させられた~
揺れる馬車の中、俺たちはお互いを見合うように座ってエルフの村へと向かっていた。ちなみに馬車を運転しているのはカルネである。
村に近づいていくたびにカンナの表情が曇っていくのを俺は見逃さない。
「なぁ?」
「…なに?」
不機嫌そうにカンナは反応する。
「屋敷を出る前にさ、失った信頼を取り戻すって言っていたけど、一体何があったんだ?」
「あなたには関係ないわ」
突き放すようなカンナの物言いに少しだけカチンときた。
「関係なくはないだろう! お前は俺の主人なんだぜ? 従者である以上、知ってもいい特権はあるはずだろ?」
「………」
ああ、そうかい。だんまりを決め込むってんなら俺にも考えがあるぞ?
「お嬢様? お話になられても良いのではございませんか?」
小さい窓から視線と声だけが車内に響く。カルネは知っているのだろうか?
「ダメよカルネ。これは私たち竜人の…いえ、カムイが犯した失敗を貴方たちに負わせたくはないから…」
窓の流れる景色を遠い日を思い出すような目でカンナは見ていた。
「失敗?」
口を開こうとしないカンナに聞くのを止め、俺は外で運転しているカルネにカンナの家の事情を聞いてみることにした。
「う~ん、私も一応この家にお世話になっておりますし、事情もよく知っています。ですが、カエデさん? 私の口からは話せません」
「な、なんだよそれ…」
俺だけ仲間はずれとか嫌な気分だ。
「時期が来れば話してあげるわ、カエデにも」
ボソリとカンナは呟く。ただし、俺の方を見ることはしなかった。
今を思えば屋敷を出た時からカンナとは目を合わせていないような気がする。勝手に執事に仕立て上げられた身だから、少々気が立って目を合わせようという気を起こさなかったのも事実だが、カンナも俺みたいな行動を取るとはなんだか苛つく。
というか、お嬢様のような言葉遣いが気にいいらないのだろうか。
まぁ、俺の世界ではこんなお嬢様のような言葉を使う子は誰もいなかったから免疫耐性が出来ていないからだろうけど。
「それじゃあさ、今俺たちが向かっているエルフの村っていうのはどういうところなんだ? 俺の世界だと耳が長くて長寿の命に、魔法が使えるっていう話だけど?」
「そうね、カエデの言う通りよ。エルフはこの世界の中でも長寿の種族よ。一番長くて三千歳の人がいたという話も聞いたことがあるわ」
「さ、三千!?」
「何も驚くこともないでしょ? 私だって二百十八歳だし?」
はっ!? ババア!?
「む、なんか馬鹿にされた気がする」
「いや、気のせいだろ?」
軽くあしらって誤魔化しはしたものの、年齢のことを聞いてからはカンナの見る目が変わってきた。
いやいや、二百十八という数字とかありえねぇだろ。俺でさえまだ十八歳だし、見たところカンナとは同い年位に見えるのだが、そうかぁ、二百歳も歳が離れていたなんて驚きだなぁ。
「そういうカエデだって三百くらいは行ってるでしょ?」
「人間はそこまで生きられません、長くて百歳までだな」
「はい? たったの百歳までしか生きられないの? じゃあ大人の枠はどこまでなのよ?」
「大人か? 一応十八を超えたら大人って枠に入るけど?」
「十八歳!? 赤ちゃんじゃない!」
「だから言ってるだろ? 人間はそんなに長寿じゃないっていうことだよ。ちなみに俺は十八歳だぜ?」
「そ、そうなんだ…」
「そうだけど、種族が違うんだから当たり前だろ? エルフから見ればお前だって赤ちゃんかもしれないし」
俺の言葉がどうやら論破になったようで、カンナはそれ以上話すのを止めた。というよりか、小窓から顔を覗かせたカルネが村の到着を促したことも理由に入っているかもしれない。
馬車は止まり、ドアが外から開かれる。メイドとしての仕事をそつなくこなしていくカルネには一生頭が上がらなそうだ。
む、そう言えばこういう時は俺が外に立って、主人の手を取るようにしなければいけないんだっけか?
「カンナ」
「なに?」
「ほい」
「はい?」
「こういうのって俺の仕事なんだろ?」
「……まぁ、いいでしょ」
俺はカンナの手を取って一緒に馬車から降りる。降りた際にカルネがクスクスと笑っていたのが疑問に思ったが、気にすることもないだろうと思い無視をしておいた。
それにしても、ここがエルフの村か。なんというか本当に森の妖精みたいな括りなんだな。
俺たちはカンナに先導されるようにエルフの村を歩いていく。
ひとつ気がかりだったのは、道行く人の全てが不機嫌そうに俺たちを見ていたのだ。なんだか俺たちを憎んでいるようにも見えて、居心地は良くない。
ひそひそとエルフたちは俺たちを見ながら喋べるが、エルフより耳がいいとは言えた義理ではないが、俺は耳がいい方なので内緒話も筒抜けだった。
「なぁカンナ?」
だが、カンナは俺の問いかけには目もくれず、目指すべき場所を辿るように歩をすすめる。
「なぁカンナってば!」
俺が引き止めようと腕をさし伸ばそうとした時にようやくカンナは足を止めてくれたが、視線はこちらを向きはしなかった。
「貴方の質問なら、私が今から行く場所に着けば分かるわ」
と、それだけを言って、歩くのを再開した。
「な、なんだよそれ………」
その場に取り残されるように俺はカンナの後ろ姿を見ていると、エルフたちの殺気のようなモノも感じ取れてしまったのでカンナたちを追いかけていった。