~変な世界に紛れ込んだ~
俺の名前は国後楓。年齢的には今年で18歳となる高校三年生だった。
だったっていうことは、事故にでも合って俺は世界と断絶されたという雰囲気になるのだが、実質こうして話をしているので、俺は死人でもないし、地中から蘇ってくる屍みたく意識がない人間でもない。
魂が肉体と一体となっているので、俺の体はちゃんと生きているということなのだ。
しかし、高校三年生だったという表記の仕方だとやはり俺は元の世界とのリンクが途切れたということになる。
まぁ、間違いではないのだけれど…
そう、新学期が始まる前、俺は友人と一緒に遊んでいた。毎日のように春休みをそいつと一緒に過ごしていたのだが、ある日、俺は事件に巻き込まれたのだ。
テレビでも取り上げられていた、路上に放置されている不法投棄されているカバンを開けて怪我をしたという人がニュースでも取り上げられていたのだ。
俺の家にはちゃんとテレビがあって、学校の行く前にも飯を食べながらニュースを流していたのがいけなかったのだろうか。
そう思うと、今更後悔が募っていくよなぁ。大体、向こうの世界だと俺の死因はなんと、爆死である。
滅多に無さすぎる俺の人生は、珍しい形で幕を閉じているということになるのだが、冒頭でも話しているとおり、俺はこうして生きている。
今回の教訓。
――怪しいものは触るべからず――だ。
手に負えないものは決して自分から触れてはいけないと、座右の銘にでも入れたいくらいだ。
だが、教訓を学んだところで、今、俺が置かれた状況では一切通用しないのだ。
「ここは、どこだぁぁぁぁぁ!!!!!!!??」
目を覚ませば、見たことがない森のど真ん中で眠っているという新しくともなんともない、べたな展開に俺は開口一番に叫んでいた。
そりゃあ、叫びたくもなるよ。さっきまで、隣には友人と、そんなに珍しくもない歩道と道路が混じり合っている場所に、ポツンと電柱に置かれていた、あからさまにお金が入っていますよアピールのしているカバンが置かれているんだもの。
昭和時代の展開だったら、金塊とか、万札の福沢諭吉さんが顔を覗かせていたに違いなかったのに、なんでだろうな、俺が生きている時代は平成だ。
文化も進んだから、ありきたりな展開だとつまらなかったんだろうな。だからと言って、爆弾を入れるバカはどいつだよ!
そして、まんまと引っかかっている俺って一体…
状況を整理しようにも、一面が樹海としか思えないし、なんか空が見えないほどに生い茂っているから、不気味さしか漂っていない。
もし、俺が女の子であれば、かっこいい男が俺を助けに来てくれるなんていう、昔っからの状況が通じるが、俺は男なので、助けなんかが来るとは到底思えない。
逆にあれか!? 可愛い女の子が俺を助けに来てくれるとか?
「なんてな、妄想だよ妄想」
誰にでも聴かせるわけでもなく、一人で呟く。こうでもしないと、不安とか色々な感情が俺を押しつぶしてしまいそうなのでブツブツと独り言を言いながら俺は樹海を歩く。
見てみろよ、今にも動き出しそうな食人植物みたいなデッカイ花が俺の目の前に登場してるんだけど、あんまり隣を通りたくないんだが、ほかに通るところは無い。
だからと言って、明らかにこれは罠だと思われる物体を自分から罠にハマリに行くような醜態を晒してなるものか。
そうだな、わかる人にはわかる例えをするとなると、ト○ネコの大冒険に登場してくる13階位から出始める四体の白い悪魔に、銀の矢を放つくらいだろう。
わかりずらい? ごめんなさい。
大体教訓に刻んだはずの事柄が、既に破棄処分的な早さで物事が進みすぎなのではなかろうか。
「ええい、ままよ!!」
俺は助走をつけて食人植物みたいなやつを飛び越えて向こう側に着地した。
なんだ、こけ脅しかよと心臓がバクバクに鼓動している俺は、正直だなぁと思いつつ出口を探そうと前に歩こうとした瞬間、滑りとした何かが俺の足首に巻きついていた。
しかも、それがどこから伸びているのかと思い、経路を辿ってみるとあの植物から真っ直ぐに俺へと伸びているではありませんか。
速度は遅いけれど、ズズズと地面を引きずるようにこちらに向かってくるのですが……
え、なにコレ、怖い。ていうか、逃げたいのに逃げられないこの状況に頭が追いつかないし、体が何故か動かないわで絶体絶命じゃないのですか!?
「う、うわあああああああああ!!」
悲鳴を上げるなんて多分人生で初めてじゃないのだろうか? それくらい俺の心はストレスを感じていたに違いない。
俺が悲鳴をあげて逃げようとしたから植物は体を起こして俺に食いかかっきた。花びらが開いて、中心にはグロテスクな牙を見せつけてくる。
ここは本当にどこなんだ!? 人外魔境かなんかか!? 夢ならマジで覚めて欲しいと思ったのは人生初めてだ。
あぁ、家に帰りてえよぉぉ。
半ば失神になりかけながら、走馬灯が俺の思考を走る。
もう駄目だと、思ったその瞬間だった。
目の前が一瞬にして真っ赤に染め上がり、植物は奇声を発しながら燃えていくのだ。火が伝って蔓まで引火してきたので俺はすぐに振り払って沈下させた。
火の海からは異形な翼を生やし、本来俺たちには無いものが尻から生えている。
「…くぞゅしのこど、たなあ?」
「はぁ?」
火の勢いが弱まってきたから、ようやく俺の前にいる人間なのかよくわからないやつと対峙して、開口一番に聞いたことのない言語が俺を混乱させた。
よくよく見れば、女の子だし。
俺のことに興味がなくなったのか、ぷいっと体ごとそっぽを向いて俺から離れていく。
「あ、おい!! ちょっと待ってくれ…よ?」
急に世界が真っ白になる。足元から崩れ落ちていく感覚。立ちくらみと同じ気持ち悪さが俺の体を支配して、受身を取ることもできずに俺の体は再び倒れてしまったのだった。
登場した会話のシーンですが、反対から読んでみると、意味がわかるようになっています。