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001000_不確定性原理【Uncertainty principle】

今回、説明で用いる法則はあくまで話の進めるためのものであって、その法則の本意や目的、全体を通しての正確さは本来のものとは異なる可能性があります。

そのことを理解したうえでお読みください。

「で、あんたはこの現象をどう考えるの?」




 あの後、謎の少女の意識が戻ってから瑠璃川と神楽坂の二人は、朝に会議をしていた部屋の隣の部屋にいた。簡単に言えば空き部屋で、暇な時などに勝手に入ってはくつろいでいたりする所だ。




「どう考えるも何も、テレポート以外に考えられないんだけどなぁ……」


「だから、それを聞いているのよ」




 そんなことを言いながら、瑠璃川は『姫』の顔を見る。




「私じゃなくって、この子が分かるように説明しろってことよ」


「……わたし、いいよ。分からなくてもいいから、……頑張って聞くよ、それしか出来ないから……」




 『姫』は何故か申し訳なさそうに俯いた。自分の身に何が起こったのか、それが分かればどうすれば『本当の自分』を見つけることが出来るのかが、導き出せると言うことなのだから。


 神楽坂はそのことを十二分に把握していた。まずは何が起きたかを考えるのだが、場合が場合なので、推理どころか仮定ですら曖昧になる。神楽坂はそれをとても嫌っていた。




「分かった、出来るだけ解りやすく説明するよ。これから話すことはあくまで仮説だから信じないで。いいね?」


「仮説じゃなくて妄想でしょ? 気持ち悪い」


「なんとでも言え、どうせ妄想ですよ!」




 神楽坂は開き直り、説明を始めようとした。その言葉を聞き流して、空間のパネルを操作し始めた。




「瑠璃川が言ったように、確かに妄想だが分かりやすく説明すると……」


「今からDNA鑑定するわよ~」


「……あ、あの……ねぇ」




 『姫』は突然、会話の中に割り込んで何かを言いたそうに二人を見つめた。その表情はとても動揺しているようであった。




「どうした? 姫」


「……今、何もないところを触って何かしていたけど……なにか見えるの?」


「「え?」」




 想定外、まさにそう思った神楽坂と瑠璃川は『姫』以上に動揺した。十年ほど前から脳波コントロール装置の普及が始まり、数年前から出生時に体の中に装置を埋め込むようになった。




「どうやらそういった、VR関係の装置はついていないみたいね。神楽坂、プロジェクタってある?」


「そんなもの今頃……あ、確かこの辺に……」




 そういって神楽坂はデスクの下をゴソゴソと探し始めた。そしてそこから缶コーヒーくらいの白っぽい機械を取出し、白い壁に向かって少しいじっていた。




「よくあったわね、そんなに古いもの。誰が持って来たの?」


「誰って、あんたが『本格的な映画を見る!!!』ってここに持って来たあとそのままだったじゃないか」


「そんなこと……あった?」




 そんなことを言っている間に白い壁に映像が現れる。黒い背景にして『検査中__03.26%』という文字が白く映っていた。




「これで見えるか?」


「……う、うん。大丈夫」


「そっか、じゃあ……」




 神楽坂は着ているベスト状の青い上着を脱いで、椅子の上に掛けてから咳払いを二回してから話し始めた。




「まず、この現象が『テレポート』として考えると、考えられる方法は幾つかある。そのなかで最も今回の状態に合うものは『不確定性原理』を利用したものだと思う。

 『不確定性原理』は位置の不確定さと運動量の不確定さの積がプランク定数以上になるというものだ。運動量の不確定さが限りなくゼロに近づくと位置の不確定さがとても大きくなるってことだ。

 つまり今回の場合は位置の不確定さによって『テレポート』を成功させたことになる。恐らく、ある物質を亜光速で飛ばすことで運動量の誤差を極限まで減らすことができたのだと思う。

 その証拠に倉庫が炎上していただろ?」




 神楽坂は得意げに自分の『妄想』を展開した。


 瑠璃川はあきれた表情で映像を見ながら言った。その映像は『検査中__36.51%』となっていた。




「私は量子論が嫌いだから何とも言えないけれど、この子の記憶がないこと、VRの装置がないこと、このことについてはどう考えるの?」


「もちろん考えてある。VRの装置がないのはこの実験のために外したか、この現象で壊れたか。

 記憶がないのは、そのー……あれだ、

 記憶というものはとても曖昧で、量子的だと思う。量子的ならば誰かが『見ている』という状態でなければ存在しない。


 『テレポート』が起きた時には必然的な体自体が量子状態になる。だから記憶がなくなった。」


「クックク、あ~ 面白いじゃない、ほんと!! 聞いて呆れる」




 『検査中__68.35%』の文字を眺めながら瑠璃川は神楽坂の言った言葉を笑った。




「そんな都合のいい話がどこにあるっていうの? そんなこと言っていいのはFictionの世界だけよ」


「フィクションをカッコよく言わなくてもいいから……」




 瑠璃川は完ぺきな発音で言ったが意味はない。高校生になる前まで、海外で営業をしていた彼女にとって英語なんて話せて当たり前だったのだ。



 『検査中__91.68%』となった壁に映った映像は相変わらず黒々としていた。




「姫、分かったか?今の……」




 神楽坂が『理解できたかな~』といった具合で、『姫』のほうを見ると目に涙を溜めながら、体を小さく震わせていた。怖いほど寒いのか、寒いほど怖いのか、どちらか聞かれたら間違いなく後者だろう。




「……違うの、分かったわ。言っていたこと全部。……でも、怖いの。自分が怖い。」


「怖いって……いったいどうしたっていうんだ?」




 神楽坂は心配になって聞いてみた。


 『検査中__98.30%』 あと少しで結果が出る。




「……私、何もかも分かった自分が怖いの。……知っている、不確定性原理。Δ⒳Δ⒫≧ℎ そうでしょ?」




 『姫』がそういったのと同時に、『検査中__100.00%』となった。


 そして、神楽坂と瑠璃川の脳内に『ブー』といった、警告音が繰り返し流れだした。そして映像のほうには





  ##ERROR##


  ☣Biohazard☣





 生物学的危害バイオハザードの警告が白い壁を赤く塗りつぶしていた。

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