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010111_無駄な知識【Trivia】

 ほむらと月見里が二人並んで座ってから、太陽が1度動いたくらいの時間で、電源が復旧した。太陽は一日で360度黄道を移動する。つまり、一周だ。


 それなら一時間では15度となって、1度動くのに必要な時間は4分だ。


 そんなことが分かったところで、時間が正確に分かる訳でも無いし、そもそも1度動いたかどうかでさえも分からない。




「……ぁ。電気、点いたね」




 時刻は三時半頃。太陽もそこまで傾いていないが、地面に開けた大穴なのと西側の山があるため、部屋に差し込む光は薄くなっている。電気が点いたことで部屋全体が、暖色の光に照らされる。


 月見里はおもむろに立ち上がって、ドアの電子錠に手をかざす。




「……ぁ、空いたよ。移動しよう、か?」


「え!? いい、移動って……どこ?」


「停電に気づいたのって、ほむらちゃんがドアを開けようとしたときだったでしょ? だから、どこかに行くのかと……。違った?」




 確かにそうなのだが、ほむらは十五分ほどで忘れてしまったらしい。直ぐに何の目的があったのか、解らなくなって迷走してしまうだろう。


 それ以前に、色々な知識が無く、忘れっぽくて、理解力もないほむらは大丈夫なのかと月見里は不安になる。しかし、ほむらは平均的か少し下なだけで、自分、月見里に知識がある事がおかしいのでは無いかとも疑える。


 どんどん拡がる友達との知識量の差に、少し気がかりだった。




「んんーー。……あ! そうそう! さっきまでいたあの部屋に戻れって言ってた」


「さっきのって、ソファとか瓶があった所かな?」


「うん、たぶんどうだと思うよ。みらいちゃん、『あの部屋』って言ったらあの部屋しか無いしね」




 どうやら月見里の予想は当たっていたらしく、二人は電気を消して部屋を出た。


 廊下の左右の壁はきちんと60度、寄り掛かれるように傾いている。つまり、部屋から見れば迫ってくるように傾いている訳で、開き戸のような開けにくい構造ではない。もちろん、油圧式の電動引き戸だ。




「えっと、赤い方で……。よし、鍵を閉めたし行こっか」




 ほむらは何かを呟き、液晶の赤い表示をタップした。その赤い表示の中には『LOCK』と書かれていて、ほむらはその意味を理解していないようだった。








 地下から地上に戻るため、長い長い上りエスカレーターに乗っていた。30度位の緩い傾斜で地上まで上っていく。エスカレーターの仕組みとかは覚えているが、いつ使ったとか、どこにあったか、そんな思い出はなかった。


 すると、唐突にほむらが話しかけて来た。




「ねぇ、よみちゃん。よみちゃんは……怖く、ないの?」


「怖いって、何が?」


「それは、記憶が……」




 そこまで言ってほむらは俯いて黙ってしまった。黙ったまま、両手はスカートのプリーツを握るようにして幾つか束ねた。


 今まで、と言っても数時間だが、月見里が見たことのない様子のほむらだった。何かとても思い詰めているようで、今までの明るいほむらと比べても、やはり心配なほど暗くなっている。




「ほむらちゃん……。大丈夫?」


「だ、大丈夫だよ大丈夫、大丈夫。なんか私、よみちゃんが嫌な思いをするようなこと、言いそうに……。ゴメンね」


「謝らなくてもいいと思うけど……。私は嫌な思いをしてないよ」




 太陽の光が直接差し込むようになったのか、ほむらが笑顔を作ると明るく輝いた。「良かった、良かった」と、ほむらが繰り返すうちに長いエスカレーターが終わった。


 強い西日が差すなか、ある程度の距離がある廊下を歩いていく。さらに地表から階段を上って四階に行き、渡り廊下を渡って部屋に入る。




「みらいちゃーん! ……って、いないじゃん!」




 ほむらの言う通り、部屋には誰もいなかった。二人は部屋のソファに座って、瑠璃川を待つことにした。


 すぐに来るかと待っていたが、全く来る気配がない。ドアは固くロックされたままで、一つの振動さえも起こさなかった。




「瑠璃川さん、来ないね」


「うん……。いつもはずーっとこの部屋にいるんだけど。どうしたんだろ?」




 再び、長い間を沈黙と共に過ごす。今度は、太陽が3度動く時間を待ったが、やはり来ない。


 話すことも無くなり、ほむらがあくびをしだした。ただ待っているだけでは時間が惜しいと思い、月見里はほむらに電話を促す。




「ねぇ、電話、してみたら?」


「おおー! 名案だね、電話しよう電話しよう」




 そうして、ほむらは慣れない手付きで操作をし始め、月見里の助けを借りながら電話をかけることができた。1回目は10コール待っても出なかった。2回目も同様に、留守電になってしまう。


 仕方がないので、時間を置いてかけ直すことにした。




「ねぇ、よみちゃん。その、みらいちゃんの事ってどう思う?」


「えっと……瑠璃川さんは優しい人かな。一度だけ恐い所を見たけど、何も分からない私を受け入れて、助けてくれた。あんなこと言ったのも、何かに一生懸命なんだと思うよ」


「え! みらいちゃんの怒ったところ見たの?」




 ほむらは物凄い速さで月見里の両手を掴んで、物凄い近くに引き寄せて言った。




「いいなぁ、よみちゃん。私の時はため息ばっかりで、全然怒ってくれないんだよ」


「……そ、そう。でも、怒った訳じゃないのかも……」


「へ? どゆこと? んんん?」




 ほむらは首を傾げて、引き寄せた両手を離して、腕を組んだ。そんな動作をしても理解できる訳ではないので、意味がない。


 もっとも、月見里にさえも分かっていないことなので、ほむらが思い付く余地は無い。


 DNAの結果を見ただけで、あんなにも変わったのは何かあると思った。アミノ酸が光学異性体だっただけで、地球外生命体やパラレルワールドの存在を示す。しかし、それだけであんなにも凄い、敵を見るような口調になるとは思えなかった。


 地球外生命体やパラレルワールドの住人と敵対関係になってしまえば、世界が飲み込まれてしまう。その事は私は知っていて、恐らく瑠璃川も知っている。


 それなのに私に対して強くあたった。


 月見里は瑠璃川が自分の正体を初めから知っているのだと思った。

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