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010011_照明技術【Illumination technology】

 玄関のドアの前、そこに立っていたのは勿論、影宮の知り合い――土田(つちだ)媛奈(ひめな)であった。


 長い茶系の髪は頭上で束ねられ、その束ねられた髪は肩甲骨を隠していた。さっきから飛び跳ねているせいで、束ねられた髪が乱れ、解けそうになっている。


 今は六月直前で衣替えのシーズンだ。しかし、土田はもうすでに半袖のブラウスで過ごしている。ほかの女子は夏でさえサマーセーターをブラウスの上に着ると言うのに、そこまで暑くないこの時期にそんな恰好をしていると、危険なことに巻き込まれそうだ。


 それに、先ほどから何度もジャンプをしている所為で、何度もスカートが捲れかかって、何度も見えそうになる。


 一応、影宮は気まずくなるのを避け、注意をする。




「おい媛奈、スカート捲れ過ぎ。ジャンプは止めろ」


「え、見えた? 私は今とっても嬉しいから、それくらいサービスしちゃうゾ」


「いや、そういうの要らないから」




 すると、媛奈はその場に立ち止まって、目線を下に送る。自分が土足で玄関を上がってることに気が付いたのか、何歩か下がって靴を脱いだ。




「……ちっ。少しやってみたかったのになぁ……。そーらちゃん、ひどい」


「土田さん、その言い方は良くないのでは? 奏夢様は私達より先輩なのですから」


「それって、そうちゃんから見て、でしょ?」




 媛奈はそう言いながらも、靴を脱いで玄関に上がったうえに、靴下までも脱ぎ出した。


 そして、肩に掛けていたバッグをポーンと影宮と楯速の頭上に向かって投げた。その投げ出されたバッグは放物線を描いて、廊下の終端にドサッと着地した。


 さらに、媛奈がブラウスの第2ボタンを外そうと、手を近づけた時だった。


 その手が影宮の手によってガッと捕まれたかと思うと、反射的に力を入れてしまった媛奈の手に、しっかりとブラウスの前掛けが収まっていた。その状態のまま影宮は腕を引き剥がしたので、まるで服を剥いだかのような格好になってしまった。




「……あぁ。その、ここで脱ぐのはマズいと思って、止めようとしただけで……。こんな事になるなんて……」




 まるで服を剥いだかのような格好、だけでは余りにも抽象的過ぎるので、具体的にすると、


 まず、媛奈の制服は第2、第3ボタンまで外れてしまい、その前掛けの間からは圧迫された胸が見える。制服が白いのと玄関の照明とで、より強く陰影が強調され、中央に一筋の影が生じていた。


 第3ボタンまでが外れてしまった影響か、媛奈の結われた髪はその形を失った。茶色の髪は玄関の照明の色でより深みを増し、さらに光を反射させて輝くように見えた。




「……へへ、へ。ちょっと、その、うわぁ……」




 当の本人は今の状況を十分に飲み込めないのか、その場に同じ姿勢のままでいた。


 何かを隠そうとも、誰かに当たろうともしなかった。




「媛奈、悪かった。俺があんなことしなければ……」


「あー……うん、いいって。私がシャワーでも浴びよっかなーって思って、脱ごうとしちゃったし。ボタン、取れちゃったのだけ謝って貰う事にしてあげる!!」


「そうか……本当に悪かった。ボタンは……いや、新しく服を買ってやるよ」




 媛奈は前掛けを手で握ってボタンのように機能させていた。そしてすぐに、玄関の横にある洗面所兼脱衣場に入っていった。




「そう、シャワーね……。っていうか何で、人前で脱ごうしたんだよ!!!」


「えっ!! あ、ゴメン。雰囲気っていうかノリで、かな?」




 ドアの閉まった脱衣場から媛奈の驚いた声と、布擦れの音が聞こえた。


 そうかと思うと、ガラガラッとユニットバスの戸が開く音がして、同時に水が流れる音がした。


 あんなことがあってから瞬く間に、媛奈はシャワーを浴びだした。










 暫くして、媛奈がシャワーから出てきて出てきたが、ボタンの外れたブラウスを着てきたので、影宮は仕方なく部屋に眠っていたジャージを渡した。


 しかし、媛奈はそれをブラウスの上から羽織るだけだったので意味が無かった。結局、媛奈が折れてジャージのファスナーを閉めることになった。




「で? オーディションって何の?」




 三人が部屋のソファに座ったところで奏夢が口を開く。




「そうよ! オーディション!! えっと、確か今度の小田工祭で音楽関係の発表会?的なやつがあるの。それに、ピアノで演奏することになりました!!!」




 媛奈は一人で大きな拍手をした。




「みんな拍手してよ……。で、その発表会の招待券が三枚しか無いんだよ」


「で、三人を選ぶのを相談に来たんだな」


「そう。奏夢ちゃんと、黄泉ちゃんでしょ。あと一枚を弥生君か颯也君で悩んでるのよ……」




 媛奈は俯きながらスカートの裾を握っていた。確かに、一人だけ来れないのはキツいが、かといってもっと人数を絞っても良いのかとなると、相談が必要になる。


 それを気にしながら、オーディションの発表にも集中しなければならないのは確かに負担だった。




「別に心配する必要なんて無かったのに……。俺は、自分のツテで行けるから問題ない。それに月見里だって名前だけで入れるような奴だぞ」


「……えっと、はっ、ホント? じゃあみんなで揃って行けるね!!」


「ああ、そうだな」




 媛奈はまあ先程のように、その場で高く跳び跳ねた。

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