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001100_もう一人の女子【Another girl】

 結局、瑠璃川がロックを解除して二人を外に出す。まだ話し込んでいる二人を置いて瑠璃川と神楽坂の二人は自分の教室に向かった。


 この学校の校舎は広い。1㎞四方の敷地があり、陸上競技場から野球場、三階建ての体育館に様々なコンクールや発表会でも使える大ホールまである。さっきまでいたこの特別教室棟もビルほどの大きさがあるのだ。


 偶然にも神楽坂達のいる場所からクラスまでは50メートルほどの近い距離にある。急いでも余り代わらないので二人は歩いて向かった。




「なぁ、月見里の事どうするつもりなんだ?」


「どうするって……隠蔽、かな?」


「隠蔽ってことは公表しないのか。」


「隠蔽ってその意味でしょ。バカ」




 階段を下って廊下を歩いて教室についた。教室のドアが自動で開いて、中の様子が見える。


 工科科の特進クラスは20人程しかいないが、教室は広々と40人のサイズ。普通の椅子や机より大きい物が等間隔で並んでる。


 中では、みんなが思い思いの行動をしていた。バカみたいに大きな声で話をしている者や、VR上の空間に完全に入って固まってる者が居た。




「みんな、遅れてすまない。午後からは作業を……」


「作業って、何やるか決まってないじゃないか」




 一人の生徒が神楽坂の提案を否定した。小田工祭の準備は今日の水曜日から始まって、週末の土日に出し物をする。つまり、学級委員の神楽坂と瑠璃川がクラスに一度も行っていない以上、出し物の内容は決まっていないのだ。


 今から話し合ったとしても、超個性的なこのクラスでは話が纏まらない。クラスメイトはどうすればいいのか分からず、思い思いのことをしていたのだ。


 そして神楽坂も同じく、どうすればいいのか悩んでいた。




「私は物販をやろうと思ってた。地域の食材で。それでいいでしょ」




 瑠璃川が突如、みんなに提案をした。それぞれが意見を持っているので反対が出ると思ったが……




「いいじゃん、面白そう」


「やっぱ、魚とか蒲鉾?」


「私の料理の腕を見せるときがきた!」




 という具合にみんな賛成したようだった。


 瑠璃川は笑顔を作って軽く頷いた。基本、瑠璃川が笑うというのは人をバカにするときだけで、その相手は大抵、神楽坂である。


 つまり今の笑みは作り笑い、営業スマイルってことになる。




「じゃあ、最初は机を片付けて屋台を建てるわよ」




 そもそも、何故学校に屋台の材料があるのか。


 小田工祭の期間中、各種大会が開かれ、多くの大会参加者が学校に訪れる。当然、人が居れば物が売れる訳で、学校の様々な所に物販の利益が使われている。


 勿論、物を売るには色々と道具が必要となる。そんな理由で祭りの屋台や鉄板、綿菓子の機械まで揃っている。




「神楽坂さぁ~お前が来ない間、普通科の女子が来たけど、どうなんだ? できてんのか?」




 作業をサボっていた神楽坂に同じくサボっていたサッカー部の男子が話しかけてきた。




「ああ、ほむらのことか」


「そっちじゃなくて、ほら、モデルの方だよ」




 この学校にモデルはいたかと神楽坂は思ったが、芸能には疎く心当たりが全くなかった。




「知らないのか? 天津(あまつ)美佳(みか)っていうんだけど」


「あー、天津かぁー」


「どうなんだ? できてんのか?」


「どうって……」




 はっきり言って、神楽坂は天津のことをよく知らない。そもそも学科が違うし、どこかですれ違ったとしても覚えている訳がない。


 すまないとは思いつつ、サッカー部の男子に詳しい話を聞く。




「僕はそういうの余り興味がなくてね。詳しく教えてくれ」


「勿論! 天津美佳はモデルの活動を3年間してから、この学校に入った、いわば浪年生。モデルという職自体もう人間にとっては末期となってる。にも拘らず、人工モデルを打ち負かし、一万年に一度とも呼ばれる、それはすごい人なんだよ!


 同じ学校に通えるだけで有り難いのに、関係を持っていてしかも向こうからなんて、随分と罰当たりなことだぞ!」


「そ、そう、か」




 話を聞く限りすごいとは分かる。今は人間の理想を人工的に作り出せる。そうなれば当然、人間の必要性を失う。


 それでも万人から認められ、稼いでいるのだから相当だろう。




「そこ! サボるな!」




 すっかり二人で話し込んでいると、屋台を組み終わった瑠璃川が大声で言った。




「いやいや、サボってなんかいないですよー」


「まぁ、組んだら今日は終わりだけど。じゃあ、今日は終わり。詳しくは明日」




 瑠璃川がそう言うと、みんなはすぐに荷物を持って何処かに行ってしまった。お昼はとっくに過ぎて、今は三時。部活動に所属している人は大会へ向けての準備が色々とあるらしく、忙しそうだった。


 二人は怪事件に遭遇してしまい、昼食をとる時間がなかった。神楽坂の腹は教室に入ってからずっと鳴っている。




「これから、昼食を取ろうと思うんだけど……えっと、一緒にどう?」


「え? 一緒に? あ、ああ、食事ね」


「どっちなんだよ」


「べ、別に私は食べなくても大丈夫だし。神楽坂が私と食べたいって言うなら食べてやらんことも無いんだが……」




 瑠璃川は少し照れた口調で言った。言っていることは照れぎみだが、それが表情や行動に現れない。


 一つ上げるなら、ほんの少し、本当に少しだけ背伸びをすることだけだった。




「そうか、食べなくてもいいんだな。ダイエットとかしてるのかー」


「そう、だ、ダイエットねぇ。最近は外食が多いから……」




 すると、瑠璃川は背伸びをやめて右手の拳に力を込めた。そして、それに気づいた神楽坂は腰を落として、ボクシングみたいな構えを取る。


 

 しかし、瑠璃川が出したのは回し蹴りで、神楽坂は予想外の攻撃に当たって、教室の床に叩き付けられる。


 俯せになった神楽坂の頭に足を乗せる瑠璃川。足に力を加えて言った。




「いいから、私を、誘いなさい」




 前日の悲劇と同じことを避けるべく、神楽坂は誘うしかなかった。

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