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刹那の風景 第二章  作者: 緑青・薄浅黄
『 ベニラン : 旺盛な探求心 』
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『 大食い競争 : 前編 』

* フィクションです。

お酒は、適度に美味しく飲みましょう。

飲めない人に無理強いするのは駄目ですよ。

 エリオさんが、機転を利かせてくれてアルトの席であった場所が

セリアさんの居場所として提供され、セリアさんは何処か安堵したような表情を浮かべて

大人しくその席に座った。僕に、チラチラと視線をおくるのは

僕が、怒っていると勘違いしているからだろう。


セリアさんが本当に楽しそうに、フワリフワリと浮きながら移動したり

空いている席に座って、そのテーブルで話している人たちの話題に耳を傾け

相槌をうったり、それは違うと思うワと呟いているのを見ていた。


彼女の姿も、声も僕にしか聞こえないけれど

それでも彼女は時おり、僕と視線を合わせてとても幸せそうに笑っていたのだ。


僕以外の人達には見えない。

だから、その他の人たちにはその席が空いているように見えるわけで

空いている席に、たまたま運悪く座った人が悲鳴を上げる事になったのだ。


セリアさんは、自分の魔力? をコントロールできるわけで

あそこまで顔が青くなるほどの何かを、その席に座った人に与える必要は全くない。


彼女にしてみれば、楽しい話題に耳を傾けているのを邪魔されたわけだから

少し拗ねていたんだろうけど。何も知らない人に八つ当たりするのはどうかと思う……。


悲鳴を上げたのが2人になったとき、黒の人たちの顔つきが変わり

セリアさんに、指輪に戻るように声を届けようかと考える。


だけど……。


自分の居場所を探すように、浮きながらざわついた店内を見回している彼女に

指輪に戻ってくださいとはいえなかった。そんな、寂しい気持ちにさせることを

言葉にする事が出来なかった。


自分が思っていたよりも、大きくなったざわめきに

だんだんと顔色をなくしていく彼女……。その表情に胸が痛んだ。


エリオさんが僕を見て、そして僕の視線の先を見ていたのを知っている。

それだけの事で、エリオさんはこの騒ぎの中心にセリアさんが居る事に気がついたようだった。


アルトが、先程までフリードさんが居た席に座り

全員の視線が、僕から外れた瞬間に新しいグラスにお酒を注ぎセリアさんの前に置いた。


エリオさんが1度グラスに視線を落とし、そして僕と視線を合わせる。

セリアさんが、この席に座ったことを頷く事で伝えエリオさんも軽く頷き

すぐに視線をアルトへと戻し、アルトがお皿を置く為の場所を作ってくれていた。


『セツナ……怒ってる?』


誰にも気がつかれないように、僕とセリアさんに心話の魔法をかける。


『怒ってないですよ』


『本当?』


誰もいないと思われている席に、視線を向ける事はせずに

セリアさんと心話で話す。


『楽しかったの。ちょっと羽目をはずしちゃったワ』


その言葉だけ聞くと、楽しそうに聞こえるかもしれないけれど

僕の心に響いてくる、セリアさんの声は何処か泣きそうな

気配をはらんでいた。


『宴会は、楽しむ為にあるんですから。

 セリアさんも、沢山楽しんでください』


『……』


『だけど……』


『……』


「悪戯はここまでにしてくださいね」


アギトさんが、テーブルの上のグラスに気がつき僕を見ていたので

この騒動の原因が、セリアさんであると伝えるように最後の言葉だけ

小さな声で言葉に出した。


アギトさんが、視線だけ動かしてアルトの席を見て軽く肩を震わせた。


『うん、私のお酒がここに在るから私もここに居るワ』


先程の沈んだような声ではなく、嬉しそうな声が心に届いたから

僕は、ほっと息をつこうとしたのだけど、先程から

じっとエレノアさんが、セリアさんが居る場所を見ている事で

まだ気を抜くのは早いと考え、気持ちを引き締めた。


バルタスさんが、魔法を疑ったのに対し

エレノアさんは、何か居るのかもしれないといっていたから。


彼女の目は、何もかも見透かすような印象を受け

何時も冷静に、周りを観察し把握しているように感じる。

僕やアルトに対して、好意的なものは感じるけれど

セリアさんのことを、知られるつもりはない。


エレノアさんが、お皿に視線を落とし肉をフォークで刺すと

その視線をまた、セリアさんへと向ける。何を考えているんだろう?


セリアさんは、エレノアさんの視線にオロオロと僕を見ていた。

見えていないはずなんだけどな……。


何を考えているにせよ、エレノアさんの思考を

先程の出来事から外す事を考える。フィーも協力してくれているようだし。


エリオさんが本気で、アルトと大食い競争をするようで、それを利用して

この空気を、特にエレノアさんの意識を切り離す為のものを考え

エリオさんとアルトの会話へと混ざる。


「なら、勝ったほうに僕から賞品を提供しますね」


アルトの目が輝き、エリオさんも食いついてくれた。

エリオさんは、僕に話を合わせてくれているんだと思っていたが


「賞品!」


「セツっち、何をくれるんだ?」


「勝ったほうにですよ」


いや……本気で、賞品を期待しているのかもしれない……。

たぶん、その期待は裏切る事はないと思う。


「賞品は、女神の硬貨。これでどうですか?」


僕は鞄から、硬貨の入った箱を取り出し

箱の蓋を開け硬貨を見せた。


全員の視線が硬貨へと集まる。

エレノアさんの視線も、グラスから硬貨へと移り

その目の中の色は、驚きに満ちている。フォークに刺さった肉は

口の中に入れられるのを忘れられていた。


冒険者にとって、女神の硬貨は十分価値のあるものだと思う。

アルトは、そんな賞品いらないと叫ぼうとしたのを

エリオさんに手で口をふさがれ、ジタバタと暴れている。


女神の硬貨、僕にとってはただの500円記念硬貨にしか見えない。

ただ……僕が知っている記念硬貨ではなかったけれど。


この箱の中に入っている硬貨の図案は、何かのアニメの主人公だったような気がする。

この世界の人には、この硬貨の図案はどういうふうにうつるんだろうか……。


聞きたいような、聞きたくないような。

聞かない事にしよう。もちろん、こんなふざけたものを作るのは1人しかいない。

どういう理由で作られたのかは、知らない。知らなくていいと思う。


この硬貨のおかげで、僕の目的は達成できたわけだけど

話はなにやら、僕が考えてもいないほうへと流れていく。


どうして……大食い競争から、黒の人たちが勝負する事になるんだろうか

それも、ほぼ本気の殺気をだしながら牽制しあっている。


黒というのは、ギルドを代表する人間だと僕はアルトに伝えてきた。

アルトは、大人気なく言い争っている黒を見てどういう感想を持っているんだろう。

チラリとアルトを見ると、アルトの視線は目の前の料理に釘付けだった。


これだけ……黒が殺気を放っているのに

殺気よりも、料理の方がきになるようだ……。


それは、それでどうなんだ?

まぁ……この場所が、安全な場所だと認識した上でのことだと思うから

注意を促す事はしないけど。


アギトさん達の会話はどんどんと物騒な方向へと向かっているし

エレノアさんの目は、冷たく光っている……。


エレノアさんが、アラディスさんとニールさんに何か指示を出していて

2人が青い顔で首を横に振っているのを見た。何を指示したんですか?


取りあえず……。

エレノアさん以外の黒を全員を沈めよう。そうしよう。


僕はそう決めた。

どちらが勝っても、騒ぎが収まるとは思えないし

アラディスさん達の顔色もすごく悪いから……。

僕が原因で? こうなっているわけだよね?

溜息をつきたい気持ちを抑えながら、僕は無詠唱で魔法をかける。

魔法の発動を感知されるような、へまをしないように注意を払う。


僕から少し認識をそらせるためのもので、僕は鞄の中から酒を取り出し

そっとテーブルの上へと置いた。準備はこれで完了だ。


アギトさん達の会話に口を挟み、勝負の方法を一方的に決め

口を挟む隙を作ることなく、グラスを3個用意してもらい

先程テーブルの上に置いたお酒を、そのグラスへと注いでいく。


アギトさん達は、互いをけん制するのに忙しく

グラスに注いだお酒が、何の酒かを気にすることもなく

僕の開始の合図で、グラスを持ち3人がほぼ同時にグラスの中のお酒を一気に空けたのだった。


その瞬間、3人の体が一斉に崩れ落ちる。


「アギトちゃん!!」


「おやっさん!」


「サフィ??」


「おやじ!」


固唾を呑んで見守っていた人達が、口々に倒れた3人を呼びその体を支える。

僕は魔法を詠唱し、3人の上に魔法陣を展開させ魔法をかけた。


全員が僕を見て、3人が倒れた理由を話せと視線で促す。


「毒や薬はいれてませんよ」


僕は、新しいグラスに3人が飲んだ酒を注ぎ

一気にそれを飲み干す。ピリピリとした刺激が喉を通過した。

その刺激に、僕自身少し驚く。エイクさんが必ず水で割って飲むようにと

何度も書いていた理由が理解できる。


「ね?」


「……何を飲ませた?」


エレノアさんが、静かに僕に問う。

その瞳からは、剣呑な光は消えている。


「昨日、サガーナの代表から頂いたお酒なんですが

 "虎殺し" というらしいです」


僕は、お酒の瓶を持ち上げ見せる。

獣人族の人達が、息を飲みそして叫んだ。


「はぁぁ!!!」


「ちょっとまてぇ!」


「そのまま飲ませてたよな!」


「死ぬ! 死ぬって!!!」


「おい、あいつを呼べ厨房に居るだろ!!」


「水、水をもってこい!」


「体を横に向けろ!」


「息してるよな!?」


獣人族の人達が顔色を変え、アギトさん達を見て

慌てて体を横に向けたり、ばたばたと厨房へと走っていく。


「お前! お前は大丈夫なのか!?

 水を! 水を飲め! 早く!!」


「僕は大丈夫です」


そう告げるのに、僕に水を並々と注いだグラスを渡してくれる。

飲まないという選択肢はなく

僕はグラスに口をつけ、水を飲み干した。


「貴方、本当に大丈夫なの?

 あのお酒は、獣人でも薄めて飲む人が多いのよ?」


「僕はお酒に強いようです」


「……いや、強いって、そういう問題じゃないでしょ」


「ありえないだろ」


「お前、2度と無茶な飲み方はするなよな!?」


その剣幕に、僕は素直に頷いた。

後日、エイクさんから怒りのこもった手紙をもらう事になる……。


エレノアさんが、アギトさん達の体の上に浮いている

魔法陣から視線を外し、興味深そうに僕の手の中のお酒を見て口を開いた。


「……なぜその酒を選んだんだ?」


「手っ取り早く、沈める事ができそうだったので」


「……」


沈黙がこの場を支配し、エレノアさんが控えめな声で笑った。


「……フフフ」


「サガーナで一番強いお酒なんだそうです」


「……知っててそれを選んだのか」


「はい」


「……なるほど、アギト達は大丈夫なんだろう?」


「はい、アギトさん達は数分ほどで意識が戻ります。

 魔法で体からお酒を抜き取っていますから」


治癒魔法も同時に、展開するようになっている。

意識が戻ったら、お酒の影響は全く無いはずだ。


僕の言葉に、獣人族の人たちが安堵したように息を吐き出し

厨房から呼ばれてきた人が、倒れているアギトさん達を見て目を丸くしていた。


「おやっさんが、酒で倒れてるのをはじめてみたぜ」


「俺も」


「セツナが、風魔法をつかったようだぜ」


「なら、俺はもう戻ってもいいな」


「ああ」


「面白いものが見れた……。

 明日、おふくろさんに話そう」


「それもそうだな」


「きっと驚いてくれるぜ」


厨房から呼ばれてきたのは、風使いだったようだ。

酒肴の人達は落ち着きを取り戻したようで、倒れているバルタスさんを

ニタニタと笑いながら眺めていた。


エレノアさんが、アギトさん達のほうをチラリとみて溜息をつき


「……命に問題が無いのなら、そのまま寝かせておけばいいだろ

 そうなったのは、ほぼ自業自得なのだから」


「それもそうね」


エレノアさんの言葉に、サーラさんが頷き

フィーもサフィールさんから離れ、自分の椅子へと座りなおす。


「……私もその酒を飲ませてもらってもいいか?」


「はい」


僕は、鞄の中から2本同じお酒を取りだし

残りのお酒と一緒にニールさんへ渡す。


「こ、れは?」


「こっちは、後半分ぐらいしか残っていないので

 2本あれば、全員が飲むのに困らないでしょう?」


「いいのか?」


「はい。僕が言うのもなんですが……

 相当強いお酒のようですから、獣人族の方に飲み方を聞いてから

 飲まれたほうがいいかもしれません。僕達の分もお願いしてもいいですか?」


「ああ、そうしよう。任せてくれ。

 すまないな、肉といい酒といい」


「いえ……。こちらこそ申し訳ありません」


「君が謝る事は何もないと思うが?」


首を傾げ僕を見るニールさん。

だけど、そのお酒にはこれからおこるであろうことを予想しての

お詫びも含まれているけれど、それを口にする事はしない。


「……セツナ。取りあえず座るといい。

 うるさい奴らが寝ている間に、少し話をしたい」


「はい」


ニールさんが、お酒を手に獣人族のほうへと向かい

その他の人間も、ニールさんについて行った。


口々に、珍しい酒……酒が飲めると言っている事から

喜んでもらえているようだ。その目が真剣なのは少し怖いけど……。

この中に、リペイドの将軍を入れたらきっと話があうに違いない。


アルトはエリオさん達に囲まれながら、料理を食べ始めている。

ビートが、競争するのに大丈夫なのかと聞いていた。


ニールさんが、エレノアさん、アラディスさん、クリスさん

僕にお酒を渡し、自分も席に付いた。


サーラさんとフィーには、果物のジュースが置かれている。

サーラさんは、一口だけ飲んでみたいと呟いていたけど

クリスさんに、睨まれて黙った。


エレノアさんが、お酒に口をつけ数回瞬きをした後僕を見る。


「……これを、そのまま飲んだのか?」


「はい」


「……水で薄めても、相当強い酒だとわかるが」


「うわ、これは私には無理だ」


アラディスさんが、一口飲んでグラスを置いた。


「美味いな……今日はいい日だ」


ニールさんがしみじみと呟く。


「蒼の煌きと輝きよりも、癖が強いな。

 でも美味しい。サガーナの酒は美味しいな」


クリスさんは、気にいったようだ。


「……貴殿は、酒の飲み方に気をつけたほうがいい。

 体を害してからでは遅いのだから。魔法で癒せるといっても

 限度があるだろう?」


「……」


エレノアさんの言葉に、サーラさんとクリスさんが笑い

2人が笑った理由を、アラディスさんが聞いていた。


「……さて、貴殿は我々のチームと同盟を組む気はあるか?」


「エレノアさんのチームと、ということですか?」


「……いや、私のチームだけではなく

 邂逅の調べ、酒肴もだ」


「……」


「……貴殿は、サフィールに返事を返そうとしていたであろう?

 あの馬鹿者が、勝手に返答を返していたが」


エレノアさんが、そう言ってアギトさんをチラリと見た。


「僕としては、月光と同盟を組んだばかりで……。

 僕とアルトが、月光との同盟が慣れてからでは

 いけませんかと、返事を返すつもりだったんです」


ここで魔法を詠唱し、アルトに僕の会話が届かないように魔法をかける。


「僕の声はアルトには聞こえていません」


僕の言葉に、エリオさんとビートが僕に視線を向け頷いた。

2人は僕の話を聞きながら、アルトにあれやこれやと話しかけてくれている。

僕の方に、アルト意識が向かないようにしてくれていた。


「僕達は、今までずっと2人だけだったので。

 僕は、1度だけアギトさんとビートとPTを組んだ事がありますが

 アルトは、僕以外の冒険者の人とPTすら組んだ事がありません」


「……」


「多分、アギトさんからアルトの生い立ちを少し聞かれているんでしょう?」


この店に入って、誰もアルトに両親のことや僕との事を聞かなかった。


「……そうだ」


「アルトは、人間に対しても獣人族に対しても余りいい感情を持っていません。

 だけど、それが少しずつですが変わりつつあります。

 月光の人達が、アルトの負担にならないように接してくれて

 アルトの警戒も薄れてきています。今は、ほんとに楽しそうにエリオさん達と

 遊んでいますし……」


アルトが、エリオさんと色々話しながら食べ物を口に入れている様子をみて

僕は苦笑を浮かべ、サーラさん達は微笑ましそうに見つめている。


「……真直ぐ育っているように感じる」


エレノアさんの目も優しくアルトを見ていた。


「僕とアルトの関係が、サガーナに認めてもらえました。

 アルトと獣人族との関係もいい方向へ行くように

 僕は努力するつもりです。だけど、1度に沢山の人と交流を持つとなると

 きっと、アルトの心が疲れてしまう。ハルにつくまでに、泣かれてしまいましたし」


サーラさんが、アラディスさんに同盟を組むのは嫌って言われたの! と話し

ニールさんが、その理由を問い、その返答に全員が肩を震わせ笑った。


「……それは、サーラ達が悪いだろう」


エレノアさんが呆れたように、サーラさんを見て

サーラさんは、口を尖らせながら「反省はしたわよ」と答えている。


エリオとビートは、必死に笑いをこらえているようで

アルトがどうしたのと聞いていた。


「なので、もう暫くアルトの心が落ち着くまで

 この状態で居たいと思っています。

 黒の方々や、そのチームの方達に気遣って頂いていながら

 僕の都合でお返事を返す事になるのは、心苦しいですが……」


「セツナよー、そこまで気にする必要はない」


頭をガシガシとかきながら、バルタスさんが席へと座る。

サフィールさんは、不機嫌そうな顔で黙って座り

アギトさんも、溜息をつきながら自分の席へとついた。


アギトさん達は、結構早い段階から意識が戻っていたようだが

僕の魔法陣が消えるまで、寝ながら僕達の話を聞いていた。


「……頭は冷えたのか?」


エレノアさんが、冷たい声を響かせる。


「強烈な一撃を貰ったわけ」


「ああ……酒で落ちたのは、久しぶりだ」


「まさか、あそこで沈められるとは思わなかった」


それぞれが、苦笑を浮かべながらエレノアさんに返事を返す。


「成長しない、馬鹿ばかりなの」


フィーが痛烈な一言を放ち、アギトさん達が口を閉じた。


「わしらが飲まされたのは、何の酒だ?」


バルタスさんの疑問に、ニールさんがお酒の名前を告げると

唖然とした顔して、苦笑した。


「世界で一番強い酒といわれるものを飲んだのか。

 虎の獣人でも、ひっくり返るものが居ると聞いたことがあるが

 あれは、そのまま飲むものではないじゃろ……」


「おやっさん! 人間がそのまま飲むのは自殺行為です!」


獣人族の人が、バルタスさんに声をかける。


「ああ、あれは無理だー」


「でも、セツナは親父さん達と同じ量を飲み干して

 平然としているけど……」


「……」


「……」


「……」


アギトさん達の視線がいたい。


「まぁ……言いたい事はあるがやめておくか。

 おい、わしにも飲めるようにして運んでくれ」


「大丈夫なんすか?」


「酒は綺麗に抜けているから、大丈夫だ」


「僕も欲しいわけ」


「私にも頼む」


「セツナよ、同盟の事は暫く保留という形でいいか」


バルタスさんが、僕を見てそう告げる。


「はい、申し訳ありませんがお願いします」


「お前が口を挟まなければ、簡単に解決したわけ」


サフィールさんの言葉を、アギトさんは綺麗に無視して

サーラさんに話しかけていた。サフィールさんは舌打ちをして

運ばれてきたお酒に口をつけた。


「うわ、水で割っていても強いわけ……」


よくこんなの一気飲みしたわけ……。

そう言いながら、ちびちびと口をつけている。

フィーが、サフィールさんに一口欲しいと強請って貰い

「美味しくないのなの」といって果物のジュースで口直しをしていた。


「ああ、この喉越しがたまらんなぁ」


「最高ですね」


バルタスさんとニールさんが、幸せそうな表情で笑い。

エレノアさんが、アラディスさんのグラスを受け取って2杯目を飲んでいた。


アギトさんは、この酒も美味いといっておかわりを頼んでいる。


「師匠ー」


アルトが僕を呼ぶ声で、僕はアルトにかけていた魔法を解いた。


「どうしたの?」


「大食い競争は、何時始まるの?」


アルトは、耳を寝かせて、ソワソワと体を動かし

厨房の方にチラチラと視線を送っていたのだった。




* 読んで頂きありがとうございました。


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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されました。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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よろしくお願いいたします。
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