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刹那の風景 第二章  作者: 緑青・薄浅黄
『 ベニラン : 旺盛な探求心 』

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『 宴会 』

* アギト視点

 サフィールとフィーの会話に耳を傾けつつも、月光以外のメンバーが

一番気になる存在は、セツナのようでチラチラと彼の方へ視線が集まる。


外套をかけ終わり、サフィール達の会話を邪魔しないように

セツナは静かに席へと座る。セツナが席に付いた事に気がついたフィーが

サフィールの膝から降り、セツナとサフィールの間に用意された椅子へと座った。


サフィールは、セツナを見て口を開きかけるが

結局は何も言わず不機嫌そうに顔をゆがめた。

礼の言葉を言いたいんだろうが、素直に言葉に出来なかったようだ。

まぁ、ここで礼の言葉が出るサフィールなど想像できないが。


そんなサフィールを、バルタスが苦笑して横目で見ながら

若者達に、料理を運ぶように告げる。


中央に、野菜の盛り合わせその隣に、焼きたてのパンが籠にやまもりにもられている。

サーラとアルトのグラスには、果物で作った飲み物が、そしてその他のものには

酒が注がれていた。


酒肴の若者が慣れた様子で、店内を歩きまわり

各自の前に、肉料理の皿を置いてまわる。その皿の上には、5種類の肉料理が

綺麗に盛り付けられていた。崩すのを躊躇してしまいそうな料理だ。


「何時もと趣向が違うようだが?」


こういう集まりをする時は、どうしても人数が多くなる為

大皿料理が多く、1人1人に料理の盛られた皿が配られた事はなかった。


「ああ、その肉はセツナが提供してくれたフィガニウスの肉だ。

 それも最上級の部位だ!」


バルタスの言葉に、サフィールと剣と盾のメンバーは驚いたように

皿の上を凝視し、コクリと喉をならす。


「アルトから譲ってもらった、ホリマラ貝は量があるからいいんだが

 フィガニウスの肉は、好きなだけ食ってくれとはいかないからな。

 争いにならないよう、平等に食べれるようにとの配慮だ」


その配慮は、私達にではなく酒肴の若者達にじゃないだろうか。

厨房に入っているものたちは、自分の仕事が終わるまで食べる事が出来ないだろうしな。


「後の料理は何時もの通り、大皿で来る」


「そうか」


「セツナは食材提供者ということで、肉の量を倍にしておいた」


と告げ、とてもいい笑顔で、バルタスがセツナを見る。

そんなセツナはと言うと、アルトと皿を交換している最中だった。


「……」


「……」


バルタスの言葉に、若者達やエリオなどは羨ましいと呟いたが

セツナとアルトが、皿を交換しているの見てその呟きが沈黙へと変わった。


「あー……すいません」


「セツナは肉が嫌いか」


バルタスが、穏やかな表情でセツナに問う。


「いいえ、嫌いではありません」


バルタスが、不快な感情を持っていないことを知り

安堵したように、セツナがアルトの前に自分の皿を置き

アルトが持ち上げていた皿を、受け取り自分の前へと置く。


「アルトは、成長期なので」


セツナの言葉に、バルタスが俯き肩を震わせ

アラディスが、噴き出して笑い出す。サフィールは唖然とし

エレノアは、珍しく表情を柔らかくしてセツナを見ていた。


「ああ、お前さんは本当に子育ての真っ最中なんじゃなぁ」


「あはは、あははははは。

 懐かしいな、懐かしい。私とエレノアも同じ事をした」


2人の言葉に、セツナは少し照れたように笑い

アルトが首を傾げてセツナをみるが、セツナはなんでもないというように

首を振った。


「師匠、本当にいいの?」


「いいよ」


「ありがとうございます!」


アルトは、自分が食べる事が出来る肉が増えた事で

その耳と尻尾は、忙しなく動いている。確かに、この姿を見ると

誰でも、アルトに食べさせたいと思ってしまうだろう。


フィガニウスの肉でなければ……。

若者達は、アルトが羨ましいようだ。

普通なら、自分がより多く食べたいと願う。

分けたとしても、皿ごと取り替える人間は少ないだろうな。


バルタス達は、喜びを隠そうともしないアルトの姿を見てもう1度笑い

ざわざわとした空気の中、バルタスが立ち上がりグラスを持つと

すっと波が引くように静かになり、全員が自分の前のグラスを持った。


「幻の肉と言われる、フィガニウスを提供してくれたセツナと

 丸焼きを断念して、我々にホリマラ貝を提供してくれた

 アルトに感謝して!」


そう言って、バルタスがグラスを掲げると同時に私達も

グラスを掲げる。口々に、セツナとアルトに感謝の言葉を告げ

グラスの中の飲み物を口へと運んだ。


グラスをテーブルに置き、待ってましたとばかりに

各々が料理のほうへと意識をうつし、フィガニウスの肉を口へと運ぶ。


「旨い!」


「美味い!」


「美味しい~」


「幸せ……だ」


「生きててよかった!」


「くそー、俺が料理したかった」


「あぁぁぁ、最高だぁぁぁ!」


あちらこちらから、幸せそうな声が次々と上がる。

たまに、呪いの言葉が吐かれているのが聞こえるが……。


「おぉ、セツっちが作ったフィガニウスのシチューも

 すげーうまかったけど、この肉は味が違うなぁ、美味い」


「お前! いつフィガニウスのシチューなんて食ったんだ!」


隣のテーブルから、エリオとフリードの会話が聞こえる。


「え……。セルリマ湖?」


「くそぉぉ、お前は俺に珍しい食べ物を分けようとは思わないのか!」


フリードが剣呑な光を目に宿しながら、エリオに詰め寄っていた。


「え……、くさるっしょ?」


「腐っててもいい!!」


「いや、流石にそれは駄目っしょ」


「大体お前は、学生時代の頃から俺に飯をたかるくせに

 自分は……」


「……」


フリードも酒肴のメンバーだけあって、バルタスに感化されてきていると感じる。


ビートは、2人の会話を耳に入れないように食事をしていた。

エリオとフリードは、ハルの学院時代からの友人同士だ。

まぁ、料理人の資格を取るために入学したフリードにエリオが

食べ物をたかっていたというのが、正しい気がするが気はあうようだ。


意識を自分が座っているテーブルへと戻し

アルトを見ると、口に頬張れるだけ頬張って食べている。

酒肴の若者達が、次々にテーブルへと大皿料理を運び始めると

アルトが大皿料理を見て、口を動かしながら目も輝かせていた。


「アルト、料理は逃げないから

 もう少し落ち着いて食べたらどうかな。喉に詰めるよ?」


口の中のものを、必死に飲み込みアルトがセツナを見上げる。


「師匠! 俺はこの肉が一番美味しいとおもう!」


セツナの注意を、何処か遠くへと捨て

5種類の中で一番自分の好みに合った料理を、セツナに教えていた。


「そうなんだ」


セツナは苦笑しながらも、アルトに返事を返し

自分もゆっくりと料理に手をつけ始めた。


「美味しい」


「サガーナの料理も美味しかったけど

 ハルの料理も美味しい!!」


アルトは満面の笑みを浮かべ、幸せそうに料理を語る。

その様子に、バルタス、ニール、そして厨房からこちらを見ている奴らが

満足そうに頷いていた。


「サガーナでは、どんな料理を食べたんだ?」


バルタスの問いに、大体の人間が食べながらも注意はこちらへと向けていた。

セツナとアルトの言動が、一々気になるようだ。まぁ、私もその1人だが。


「丸焼き?」


「……」


それは、サガーナの料理なのか?


「アルト、アルトの好きな料理じゃなくて

 サガーナの料理を答えるべきだと僕は思うけどな」


セツナの言葉に、アルトが1度首を傾げ頷き

バルタスとニールに、どんな料理があったのか味付けはどうだったと話しだす。


アルトの料理の話しに、酒肴の若者達が何処からか紙とペンを取り出し

アルトの言葉を書き取っているようだ、横のテーブルを見るとフリードも書いていた。


「リードっち、相変わらず研究熱心だな」


「サガーナの、狼の村の料理の内容なんて

 何時聞けるかわからないだろ?」


エリオの方に視線を向けずに、フリードが答えた。


「それに、食べるのが好きなだけあって

 アルト君のはなしは、参考になる。今日の朝、交渉していたときに

 広げていたノートをぜひ見せてもらいたいものだな」


「あー……。あのノートね。

 絵入りで、様々な情報が入り混じってすごいノートだった」


「お前、見せてもらったのか?」


「もらった。でも多分、リードっちは見せてもらえない」


「あー、やっぱりそうおもうか?」


「思うね。アルっちの宝物だからな」


「そうだよな……」


バルタスとニールも、笑顔でアルトと話しているが

その目は真剣な色を帯びており、アルトは少し緊張しながら話しているのが

気の毒だ。


「はい、アギトちゃん。セツナ君にもまわしてね」


サーラが、大皿に盛られている料理をとりわけ

私に手渡す。その時、サフィールが唖然としたようにサーラを見ていた。

エレノアもアラディスも、サーラを凝視している。


サーラが、サフィールとエレノア達をみて瞬きを数回繰り返した。


「どうかしたの?」


「いや……別に、なにもないわけ」


「……珍しい事もあるものだと」


「サーラさん、私の事もアラディス君と呼んでもらえないだろうか」


「嫌よ」


「……」


「……」


「……」


サーラがはっきりと拒絶した事に、3人が同時に溜息をつく。

クリスは、3人の溜息の理由が理解できるというように気の毒そうな目で

その光景を眺めていた。


「そういえば、セツナ君

 いい贈り物をみつけることができた?」


サーラが、セツナへと話題を振りエレノア達は食事を再開させながら

耳を傾けている。


「ええ、とてもいいものが見つかりました」


「何を買ったの?」


「置時計を買いました」


「時計? 値が張るものを買ったのね」


「結婚される2人は、貴族ですから」


「それなら、貧相なものは贈れないわね」


「はい」


「何処で購入したんだ?」


時計屋といっても、5店舗ぐらいあったはずだ。

購入場所を聞いた私の耳に帰ってきたのは、最高の時計を作り出すにも

かかわらず、評判がよくない店の名前だった。


「よく売ってもらえたな」


評判がよくないというのは、店が客を選ぶといわれている点だ。

金持ちにしか時計を売らないといわれている。その事を告げると

セツナは首を横に振って、そんな事は無いと言った。


「とても楽しい方でしたよ」


「楽しい?」


「はい」


セツナが時計屋で何があったのかを、面白おかしく話していく。

料理の話が一段落ついたアルトが、その会話に混ざり

セツナとアルトの話しに、皆が惹きこまれ笑いを誘う。


「時計から、幽霊が出てきたんだ!!」


アルトが顔色を悪くしながら、時計の中から出てきた幽霊のことを話すと

店は笑い声で包まれる。どうやら、セツナとアルトは店主に気に入られたらしい。


「時計を粗雑に扱わなければ、快く売ってくださると思いますけどね」


セツナが、最後にそう締めくくる。

どうやら、悪い評判を流していたのは売り物を手荒に扱い

売ってもらえなかった者達が逆恨みをした結果と言うことだろうか。


セツナの話が終わったところで、フリードが立ち上がり

厨房へと向かい、それと入れ替わるように厨房に入っていた者達が

空いている席に座り始める。


「ひぃぃぃぃぃぃ!!」


厨房から出てきて、空いている席に座った若者がいきなり悲鳴を上げ

店内にいた全員が、悲鳴を上げた人間に視線を向けた。


「どうした!」


「おい!


「大丈夫か?」


青い顔して、ガタガタと震える若者に近くのものが声をかける。


「なにがあった?」


「わ、わからない……けど

 椅子に座った瞬間、全身に悪寒が……それに鳥肌が」


「風邪でもひくんじゃないのか?」


「そんな事で、悲鳴を上げるなよ」


「吃驚するじゃない!」


たいした事じゃなかった事に、安堵したのか

悲鳴を上げた若者の頭を軽く殴りながら、同じテーブルのもの達が責めている。


「熱が出るようなら、見てもらえよな」


注目を集めた若者が、顔を青くしながら回りに謝り

ざわざわとまた、仲のいいものたちで酒や料理に意識が向きかけた時

また別の場所から悲鳴が上がった。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」


その若者は、椅子に腰を下ろす瞬間で止まっている。


「……」


「おい!」


「またかよ!!」


「今度は何だ!」


「な、な、何かが俺の体の中を通り抜けた……」


「何を言ってるの? 何かって何よ?」


「目を開けながら、寝てたんじゃないだろうな」


「ね、ねるわけない!」


「本当かぁ?」


先程の若者と同様、この若者も青い顔をしてガタガタと震えている。

余りにも顔色の悪い2人に、不安な感情が伝播していき緊張した空気がこの場を包んだ。

立て続けに、若者達が悲鳴を上げたことでバルタスの眉間に皺がより

サフィールをみて問うた。


「サフィールよ、理由はわかるか?」


「魔法が発動した形跡はないわけ」


「では、魔法ではないということか」


「それは、断言できるわけ」


「ふむ……」


「……何か居るのかもしれないな」


エレノアが静かにそう告げる。


「何かって何だ?」


「……それはわからないが……」


「気にする事はないのなの」


黒の会話に、フィーが口を挟む。


「世の中には不思議な事が沢山あるのなの」


「フィーは理由をしっているわけ?」


「知っているけど、教えないのなの」


フィーは理由を知っているようだ。

だが、教えないといっている事から聞きだす事は無理だろうな。


バルタス達の会話から、その場の空気が

重くなりかけた時、エリオがアルトに能天気な声をかけた。


「アルっち、こっちに来て一緒に食わないか?

 大食い競争しようぜ!!」


「大食い競争!? やるやる!!」


アルトは、全くといっていいほどこの空気を気にしていないようだ。

エリオも、何をどう考えてアルトを自分のほうへと誘ったのかがわからない。


エリオは、場の雰囲気を読める奴なんだが……。

何か意図があるのか?


エリオの言葉に、アルトが自分の食べかけている皿を持って

先程まで、フリードがいた席へと移動する。全員の視線は

アルトとエリオに注がれていた。


その瞬間を狙ったように、セツナが新しいグラスに酒を注ぎ

今までアルトが座っていた場所へと手早く配置する。


そして一瞬、エリオとセツナの視線が交差し

セツナが、困ったような笑みを浮かべて頷いていた。


そのやり取りを見た瞬間、何が起きたのかを理解する事ができる。

チラリとセツナを見ると、アルトが座っていた席に視線を向ける事はせず

本当に小さな声で「悪戯はここまでにしてくださいね」と呟いた。


理由がわかると、笑いがこみ上げてくるが……。

ここで笑うわけにはいかない。サーラとクリスもアルトの前に置かれているグラスで

理解したようだ。クリスは苦笑を浮かべ、サーラは笑いをこらえていた。

このテーブルの椅子には、他のものは座れないことから

これ以上悲鳴を上げる人間は出てこないだろう。


バルタスとサフィールが、アルトから視線を外し

フィーにあれこれと質問していたが

フィーがもう大丈夫だから、気にしなくていいと話を終了させる。


どうやら、フィーにはセリアさんの姿が見えているようだ。

バルタスとサフィールが諦めた表情を見せ、溜息をついて酒を口にする。


エレノアだけは、アルトの前に置かれたグラスを見つけ

見つめていたが、特に何も言う事はなかった。


「リードっち! こっちに料理を沢山頼む!」


この何とも言えない空気を吹き飛ばすように

エリオが厨房にいるフリードに、声を張り上げて料理を作れと伝える。

フリードが厨房から顔を出し、心底嫌そうな表情を向けながらも頷いた。

多分、アルトが期待に満ちた目を向けていたからだろう。


「アルっち、先に食べれなくなった方が負けでいいっしょ?」


「うん。俺は負けない!」


「俺っちもまけないもんね」


「なら、勝ったほうに僕から賞品を提供しますね」


セツナが、エリオとアルトの会話に混ざる。


「賞品!」


「セツっち、何をくれるんだ?」


「勝ったほうにですよ」


エリオが、もう貰う気でいるのに苦笑を返し

セツナが、鞄から何かを取り出す。


「賞品は、女神の硬貨。

 これでどうですか?」


セツナが、取り出した箱の蓋を開けて硬貨をみせる。

その瞬間、今までの出来事を吹き飛ばすほどの衝撃を全員がうけたはずだ。


「……」


「……」


「……」


目を見開くもの、息を飲むもの、大口を開けてるもの様々だ。

エレノアは、フォークが口の手前で止まっている。

私も、セツナが持っている箱から視線を外す事が出来ないし

サフィールは、立ち上がり凝視している。


だが、その価値を全く理解していないものが1人だけ居たようだ。


「えーー! 師匠、そんな賞品いらな……」


アルトがいらないと口にする前に、エリオがアルトの口を塞ぐ。


「いや……セツっち……それが何か知ってるっしょ?」


「勿論知っていますよ」


「賞品にしてもいいもんじゃないっしょ!?」


女神の硬貨。それは、二千年以上前の硬貨だと言われている。

その用途が、硬貨としてのものなのか魔道具としてのものだったのかは

知られていない。この硬貨は、とても深く魔法がかけられており

アーティファクトの1つだ。南で見つかる事はなく北で見つかる事が多い。


1枚として同じものがない事から、硬貨と言われていても

魔道具の1つだろうと、サフィールは考えているらしい。

サフィールとは反対に、特別褒章の硬貨だと言っている学者も居るようだ。


この硬貨にかかっている魔法は、持つものによって変化するといわれている。

魔導師が持てば、魔法の効果を底上げしたり、魔力量を増やしたり

騎士が持てば、体力や力を底上げしたり、速度が上昇したりと個人によって得られるものが

違う事から、女神の加護がかかっていると言われているのだ。


セツナが持っている鞄のような、ほぼ手に入らないアーティファクトではなく

女神の硬貨は、それなりの数は確認されている。競売にもちらほらと出品される事はある。


だが、それでもアーティファクトであることは確かで

そう簡単に見つかるものでもない。ましてや、こんな集まりの大食い競争の賞品に

なるようなものではない。賞品にしようとする発想がそもそもおかしい。


「セツナが使えばいいだろ?」


私の言葉に、セツナは懐からもう1枚女神の硬貨と思われるものを取り出した。


「僕は、もう持っていますから」


「あり得ないだろ!!!!!!」


サフィールが叫ぶ。そりゃ……叫びたくもなるだろう。

古代魔法の推移を知るための手がかりの1つだと、以前サフィールが話していたから。


帝国とガーディルが所持しているらしいが、どちらも見せてもらえなかったと

サフィールが落ち込んでいたのを思い出す。所持している人を見つけては

根気よく口説き、その硬貨をサフィールは記録していっていた。


手に入れるには高すぎて、サフィールの手には届かない。


千年以上前の魔法を纏めて、古代魔法と言うらしいが

古代魔法でも、色々と種類があるようだ。


千年前の古代魔法と、二千年前の古代魔法は

古代魔法と括ってはいても、全く違うものだとサフィールは言う。

三千年前になると、殆どわからないらしい。


ガーディルには最古の文献があるというが

その文献の文字を読むことが出来る人間はいないといっていた。

研究はされているようだが、成果は上がっていないようだとも。


現在の魔法は、国によって魔法が異なるという事は余りないようだが

昔の魔法は、国によって違っていた可能性があるらしい。

どの年代で、どう違っていたのか、それがどうして

どの国でも同じような魔法を使うようになったのかを

サフィールは知りたいと話していた。


「なぜお前が、硬貨をもっているわけ?」


「僕も学者の1人です」


「ああ……そうだったわけ

 なら、余計に所持しておくべきだろう?」


「僕が知りたい事は、知る事が出来ましたから」


「お前は何を知りたかったわけ?」


「女神の硬貨は、人によってかかる加護が違うと言われていますが

 2枚所持した場合、どういう加護が表れるのかが気になったので」


「どうだったわけ!?」


セツナの言葉に、サフィールが食いつく。


「両方とも同じ加護になりました」


「累積するわけ?」


「いえ、しません。

 僕の場合は、魔法の発動速度が上がりましたが

 1枚の場合と、2枚の場合では変化はありませんでしたから」


「……」


何かを考え込むように、俯き黙り込んでしまったサフィール。

セツナとサフィールの会話を、全員が興味深げに聞いていた。

1人を除いて。その1人は、口からエリオの手を引きはがし

エリオに文句を言っていた。


「エリオさん酷い!」


「酷くないっしょ! あの硬貨はすごいものなんだぞ!」


「えー、俺は違うものがいい」


エリオがアルトに、女神の硬貨の説明をはじめる。

アルトは、うんうんとエリオの話を素直に聞いていた。

そんなアルトを、セツナは苦笑を浮かべながら見ている。


店内がいきなり静かになったからか

厨房に居る数人が、こちらをのぞいていた。

それに気がついたバルタスが、料理を作る速度を遅らせるように告げた。


数度頷き、何かに納得したようにサフィールが顔を上げ

セツナを真直ぐ見て口を開く。


「お前、僕のチームと同盟をくむといいわけ」


いきなりサフィールが、セツナにそう告げた。


「エイクからも紹介があったわけ」


「同盟ですか?」


「そう」


「僕は……」


セツナが、サフィールに返事を返す前に

セツナとサフィールの会話に、無理やり口を挟む。


「却下だ、サフィール」


私の言葉に、サフィールが噛み付く。


「お前が、却下する理由がわからないわけ!

 同盟を組むか組まないかは、僕とこいつの問題なわけ!」


「駄目だ。セツナのチームと同盟を組む場合は

 私の許可を得てからにしてもらおう」


「意味がわからないわけ!!」


「アギトよー、それは少し横暴じゃろ。

 セツナよ、酒肴とも同盟をくまんか?」


「却下だ」


「……」


「……」


「理由をいわんか」


「私達との時間が減るだろう?」


「……」


「アギトよ……」


一触即発の空気が、この場を支配する。

エレノアが、私達の会話に加わっていない事を頭の片隅で

疑問に思いながらも、今はこの2人をセツナに近づけない事の方が先だ。


「どうしてもと言うのなら、私と勝負して勝ってからにしてもらおう」


「受けてたつわけ!」


「わしも受けよう」


サフィールが殺気をはらんだ目で、私を睨む。

バルタスは、殺気をだしてはいないがその目は真剣だ。


店内は静寂に包まれていた。


「なら、飲みくらべで決めましょう」


そんな私達に、さらりとセツナが口を出す。

この空気に飲まれることなく、私達の会話に加わってきた。


「すいません、グラスを3個持ってきてもらえませんか?」


私達の了承をとるまもなく、セツナがさくさくと話を進めていく。


「アギトよー、分はわしにありそうだな」


バルタスが、口元だけ笑みの形を作っている。

確かに、バルタスは私よりも酒に強いが

飲み比べをして数回に1度は勝っている。今日も勝てばいいことだ。


「僕も負けるわけにはいかないわけ」


サフィールは酒に強いと言うわけではないが

根が負けず嫌いなので、しぶとく喰らいついてくるはずだ。


「そう簡単に、勝てるとは思わないほうがいい」


「その言葉を、そっくりそのままお前にかえすわけ」


私達の前に、同じグラスが並べられ

その中に、セツナが酒をついでいく。


「それでは、アギトさんより多く飲めたら勝ちということでいいですね」


セツナの言葉に、私もバルタスもサフィールも同時に頷く。


「では、開始!」


セツナの開始の言葉で、グラスを手に持ち

私もバルタスもサフィールもほぼ同時に、グラスの中身を一気に空けた。

その瞬間、胸が焼けるような熱さと同時に視界が反転し意識が遠のく。


やられた……。そう思ったときはもう遅かった。


遠くで誰かが呼んでいる声が聞こえるが、答える事は出来なかった。






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