表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
刹那の風景 第二章  作者: 緑青・薄浅黄
『 姫藪蘭 : 新しい出会い 』
87/117

 『閑話 : 守るものは 』

* バルタス視点

* アギト視点

* セツナ視点

* バルタスとエレノア *

* バルタス視点



 わしから見て、何時までたっても落ち着きのない

アギトを追って、サフィールが部屋を飛び出していく。


その様子を横目で眺めながら、わしは深く溜息をついた。

わしのチームにも、様々な理由で保護した若者がチームの一員として

活動してはいるが、あの青年ほど暗い瞳をしたものはいない。


不幸を比べるなど意味のない事だが

それでも、その瞳の奥を覗いているこちらが

絶望に取り込まれそうなほどの闇など、どうすれば抱える事が出来るのか。


総帥に何を言われようが、反論1つしない己の存在否定など

できるものではない……。


黒の中で情に動かされない人間。

わしらの中で、アギトはそういう認識だった。


情がないのではなく、あやつも優しさというものは持っている。

助けを求めてきたら助けるだけの、度量はある。


だが、自分から若者を気にかけるという事は

今まで1度もなかった。助けたとしてもそれまでだ。

後は、自分で何とかしろと言う奴だ。


口を開けば、生意気な事しか言わないサフィールですら

それなりに、苦難に立たされている若者に手を伸ばしているのに。


まぁ、あいつのチーム自体が強くないとすぐに死ぬ事から

そういう理由で、チームに入れる事はなかったというのもあるだろうが

若者の育成は面倒と言い切り、制約がなければチームなど作らないと

断言していた男だ。黒の中で一番冷たい。サフィールの言葉通りの人間だったのだが


そのアギトが、手を差し出してしまうほど

あの若者は、独りだったのだろう。誰に助けを求めるでもなく。

唯独りで生きていた。


妻を持ち、子を持ったから知った感情かもしれないが……。

自分にも制約を課せられていながら、それでも情報を渡そうとしない

アギトの顔は、親の顔をしていたように思う。


「……ふふふ」


「どうした」


「……いや、アギトの言葉を思い出した」


「わしには、笑えんことばかりじゃな」


「……黒を断る理由が子育てか」


そう言って、また楽しそうに笑う。


「そういえば、お前さんも1度同じ理由で断っていたな」


「……黒の制約がつけば、依頼を破棄出来ないからな。

 子供を置いて死ぬ事はできん」


「お前さんも反対するか」


あの若者に黒の制約をつける。

反対していたのは、アギトだけだと思ったが

どうやら、エレノアも反対のようだ。


「……子を育てる大変さは、貴殿も知っているだろう?

 自分の子でも、大変なのだ。種族の違う子供を育てるのは

 私達よりも遥かに、困難が多い」


「わしも、わかってはいる」


「……黒になるかは自由意志。

 本人が嫌がっているのなら、これ以上の口出しはいらないだろう」


「……」


「……大きな戦いにはならない」


「なぜそう言いきれる」


「……貴殿は、目の色の変わった精霊を

 抑え付けることが出来るか?」


エレノアの言葉に、鳥肌が立つ。


「……契約を交わした精霊にも

 色々と、約束事があるらしいが……。

 何時ものフィーなら、総帥に手を出していただろう」


「そう……だな」


「……目の色が変わった精霊を、サフィールですら

 止める事が出来ない。その精霊を腕に抱いているだけで

 止める事が出来る人間に、私達4人が力を合わせたところで

 勝てる見込みはない」


「フィーが、手加減していたということはないのか」


「……ない」


エレノアが、わし達が気がつかなかった事を

的確に指摘していく。彼女はこういった分析能力が非常に高い。


「……あの青年は、ジャックと同じだ」


「ああ」


「……ならば、私達がするべき事は総帥を抑える事だ。

 だが、総帥は家族がどうにかするだろう」


エレノアは、言葉を1度そこできり表情を引き締める。


「……私達は、彼に力を使わせない事だ。

 総帥が、彼が守る子供にだけは手を出せないように

 守るべきだ」


「若者ではなく、子供か……」


「……青年は自分の為には、力を使わない。

 青年に、敵意が向いている限り戦闘にはならない」


「なぜそこまで言い切れる」


「……青年にとって、自分自身に価値がないからだ。

 反撃する理由がない。いや、自分を責めている分

 反撃しようなどとも考えないはずだ」


「おい……」


「……だが、関係のないものを巻き込もうとすれば

 彼は、力を振るう事を躊躇しないだろうな」


「若者が、力を振るわないという保障はない」


「……確かに。だが、貴殿も価値のないものに

 力を行使しようとはおもわないであろう?」


何処までも、救いがない。


「……だが、彼が暴走した時は

 止めるのは、我々黒の4人だ」


「そうだな」


「……バルタスはこれから、前総帥の所へ行くのだろ?」


「ああ」


「……私達が子供を守るという事は言うな。

 命かけて、青年を止める。報告する事はこれだけでいい」


「なぜだ」


「……前総帥ができる事は限られている。

 下手な動きをされて、子供に注意がいっても困る」


確かに、前総帥には総帥を抑える事に集中してもらった方が

いいかもしれないな。


「わかった。ほかにはないか」


「……戦闘になった場合

 総帥を、殺してまで止める気があるのかの確認を」


「エレノア」


「……」


「……」


暫くの沈黙の後、エレノアが口を開いた。


「……当然の事だろう。

 私達も命をかけるのだ。戦闘になれば勝てる見込みがない戦いに

 身を投じるのだ。同じだけの覚悟を促してこい」


「気が重いな。わしは、嬢ちゃんを幼い頃から知ってるからな」


「……それは、貴殿だけではない。私もだ」


「そうだったな」


「……全力で戦闘を回避できるように努めよう」


「ああ」


「……」


「……」


エレノアが眉間にしわを寄せ、その目に怒りを宿す。

わしも、ギュッと拳を握り扉の方を見た。


「あの、馬鹿者どもが……」


「……何時までたっても成長しない」


「今の話は、わしからあの2人に伝えておく」


「……頼む。私はあの愚か者たちを止めた後

 ヤトの所へ行く。何かわかれば伝えよう」


「頼む」


わしもエレノアも席を立ち、エレノアは剣を抜き

わしは手を軽く動かしならす。


扉の向こうからは、今にも殺しあうのかと思えるほどの殺気。

ここが医療院であるということを、完全に忘れているのだろう。

あの2人は、あの若者を見習うべきだ。


重い溜息をつきながら、2人を止める為に扉を開けた。




* アギトVsサフィール *

* アギト視点



 バルタス達との会話が終わり、サーラたちと合流し

セツナをつれて、家に戻ろうと考えていた。


セツナに色々と尋ねたい事はあるが、先ずは家につれて帰り

落ち着ける場所を提供する事が先だろう。

腹も減ったしな……。


話す気がなかった事まで、話す事になってしまったが

仕方が無いと割り切る。


さっさと、用のない場所を離れようと扉を開け

足早に歩きはじめ暫くいった所で呼び止められた。


「おい! 待てよ!」


そう呼び止められた瞬間、サフィールが私の肩に手を乗せ

私が振り向くと同時に、拳を私の頬に思いっきり叩き込んだ。


サフィールは恐ろしく怒り狂っている。

殴られた事で、口の中が切れ血の味が唾液に混じる。


「いきなり何をするんだ?」


サフィールの腕を叩く様に、私の肩からどけ

サフィールにそう尋ねた。


「あいつが! 命の恩人だと!?」


殴られた理由は十分わかっている。

だから、あえてよけなかったのだ。


「答えろ」


低い声で、私を睨みつけているサフィール。


「お前は、一瞬でもサーラを置いて逝く事を考えたのか!」


「考えたといったら?」


私の回答に、更に怒りを募らせ殴りかかってくるが

2発も貰う趣味はないために、避ける。


「だから、殴られてやっただろう?」


サーラを泣かせないと、サフィールと約束していた。

その約束を破る事になったから、殴られたのだ。


「ふざけるな!」


殴りかかってくるサフィールを

今度はよけずにその拳を受け止める。


どちらの力が上かなんて、分りきっている。

私は剣士で、サフィールは魔導師。


殴り合いの喧嘩で、私に勝てるわけがないのに

殴りに来た……それは、サフィールが本気で怒っていると言う事だ。


「お前は、何度サーラを泣かせれば気が済む……」


「……」


「何度僕に殴られれば

 サーラを傷つけるのをやめるんだお前は!」


サフィールの言葉に、何も言い返す事が出来なかった。


「いい加減、サーラを泣かせるな!!」


「だから生きているだろう?」


サフィールが拳を引き、私を睨む。


「死ぬ事を考えるな。考える前に

 サーラを残す事を考えろ。次、同じ事をしたら

 今度こそ、どんな手を使っても、僕がお前の息の根を止めてやる」


「次などない」


「……」


薄暗い廊下で、私とサフィールはただ静かに睨みあっていた。

サフィールが、何かを思い出したように薄く笑う。


「ああ、そうだ、今すぐ死ねばいいわけ」


「どういう意味だ」


サーラを残して逝くなといっておきながら

掌を返したように、死ねと言うサフィールに眉を寄せる。


「サーラと、サーラに似た女の子は

 僕が、大切に育ててあげるわけ」


「……」


「僕は魔導師だから、お前が死んでも

 僕はいきているわけ、末永く幸せにしてやるわけ」


「……」


その光景を想像して、何かが切れた。

私のいない未来で、サーラとサーラによく似た娘に挟まれ

幸せそうに笑っているサフィールを……。


「お前こそ、今ここで死ね」


私は剣を抜き、サフィールに向ける。

サフィールは、即座に私の間合いから離れ魔法を詠唱しながら

むかつく薄ら笑いを浮かべていた。


「安心していいわけ。

 息子達も、分け隔てなく面倒をみてやるわけ」


「黙れ……」


「月光じゃなくて、邂逅の調べにはいることになるけどさ」


「五月蝿い!」


本気の殺気をサフィールにぶつけると

サフィールもそれに答えるように、殺気を私に放つ。


一触即発の空気の中、サフィールが本当に楽しそうに笑った。


「楽しみだな、サーラの子供が生まれるのを

 こんなに楽しみに思ったのは、初めてなわけ」


剣を構え、サフィールに攻撃を仕掛けようとした瞬間

私の首に、エレノアの剣が突きつけられていた。


サフィールは、バルタスが羽交い絞めにしていた。


「……貴殿たちに、選ばせてやろう。

 ここは医療院だ。ここで数日世話になるか……。

 今すぐその殺気を抑え、戦闘をやめるか選べ……」


恐ろしく本気の冷気を放ち、立つエレノア。

ここが医療院で在る事を忘れていた。


私達が悪い。私達が悪いのだが……。


サフィールと目が合う、どうにも腹の虫が収まらない。

一発入れないと気がすまない。そう考えると同時に喉もとに痛みが走る。


「……次はない」


サフィールもバルタスに、制裁を加えられているらしい

表情が痛そうだ。


私が殺気を納めると同時に、エレノアが剣を引く。


「……とりあえず、頭を冷やせ。愚か者どもが

 アギトお前が先にもどれ。サフィールは暫くここで待機しろ」


エレノアの言葉に、剣を鞘にしまい

サフィールを1度睨みつけてから、足早にこの場から離れた。


エリオを鍛えなければ……。

絶対、娘にあいつを近づけない。私は改めてそう決意したのだった。




* セツナとアルト *

* セツナ視点。



「それでね、師匠!」


「うんうん」


「カキ氷は、危険な食べ物だったんだ」


「そうなの?」


「だってさ、最初食べたら頭が痛くなったんだ!」


「なるほど、じゃぁ……もう食べない方がいいね」


「え!?」


「だって、危険な食べ物だったんでしょう?」


「そうだけど」


「頭が痛くなるのはおかしいよ」


「でも、すぐに治ったから大丈夫!」


「えー……また痛くなると困るでしょう?」


「な……ならないよ!」


「危険なら、やめたほうがいいと思うな?」


そう答える僕をアルトが、面白い表情を作って凝視していた。



ナンシーさんと別れ、顔色が悪いと聞いた

リオウさんの魔力を辿って、リオウさんを探すと倒れていた。

粗悪品の指輪を、僕が持っているものと交換する前に

前総帥とヤトさんと会ってしまったのは、驚いたけど……。


ギルドの受付の前に戻ったところで、サーラさん達と合流し

フィーは、かき氷を食べた後、サフィールさんのところへ戻るといって

帰っていったらしい。


そして、アギトさんを待ちながら

アルトのカキ氷の感想を聞いていた。


サーラさん達は、笑いをこらえながらアルトを見ている。

僕の少し意地悪な質問に、耳と尻尾をせわしなく動かしながら

一生懸命に、どう答えるかを考えている姿はとても可愛い。


「えー! 次、頭が痛くなったら考える!!」


それはどうなの……アルト……?

必死に出した答えが、次に持ち越す事だった。


「俺、全種類食べるって決めてるし!」


その手に、カキ氷の無料券を握り締めて

全種類食べるんだと、目を輝かせている。


それはもう、頭が痛くなろうがなるまいが

全種類食べるまで通うってことだよね。


とうとう我慢できなくなったのか、ビートが笑い

クリスさんも笑う。エリオさんも笑ってはいるが

何時ものように、元気がなかった。何かあったんだろうか?


なぜ笑われているか、アルトは理解していないようだけど

クリスさんから、あの頭痛に危険は無いと教えてもらい

僕を見て、また騙された! と怒っていた。


アルトの機嫌を、適当に宥めていると

アギトさんが、ギルドへと戻ってくる。


アギトさんも、クリスさん達も僕に何も尋ねなかった。

アルトが、アギトさんに聞かれてカキ氷の事を話し

僕に、意地悪されたと話している。


アルトの話を目を細めながら、楽しそうに聞いている

アギトさんとサーラさん。もし、アルトに両親がいたら

こんな風景になるんじゃないだろうか……。


僕もビート達と会話しつつ、案内された

アギトさん達の家は……。


それはもう……とても立派な家だった。

執事とメイドさんが……迎えてくれるぐらいに立派な家だった。





読んで頂ありがとうございました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されました。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



html>

X(旧Twitter)にも、情報をUpしています。
『緑青・薄浅黄 X』
よろしくお願いいたします。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ