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刹那の風景 第二章  作者: 緑青・薄浅黄
『 姫藪蘭 : 新しい出会い 』

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 『閑話 : 黒の制約・黒の制裁 』

* アギト視点

 薄暗い明かりしかついていない廊下を歩き

目的地の部屋にたどり着く。何度か扉をたたき

返事が返ってきたところで、扉を開け部屋へと入った。


そこには、バルタス、エレノア、サフィールの3人が椅子に座って

私を待っていた。


「起き上がって大丈夫なのか?」


いきなりギルドで倒れた3人。


「ああ、まさか制裁が発動するとは思わなかったがなぁ」


「お前は、どうして無事なわけ?」


「金を払わなかったからだろ?」


「……なんだよそれ」


「フィーが言うには、対価を払って

 セツナを束縛しようとしたかららしいぞ」


「ああ、なるほど」


「フィーはどこなわけ?」


バルタスが、頷き

サフィールは、自分の精霊の事を聞いた。


「フィーは、リオウとセツナを探しに行った」


「……」


サフィールが、眉間に深く皺を作る。

気持ちは分らなくもない。


「……気絶という事は、2段階目の制裁が発動したか」


バルタスが、自分の顎を撫でながら苦笑した。


「私は、制裁の話は詳しく覚えていないんだが

 教えてくれないか?」


「お前、何故覚えていない!?」


サフィールが私の言葉に、大声を上げた。


「黒になる時に、前総帥が話してただろ!?」


「所々覚えている」


「そういう奴だよ……」


サフィールが、馬鹿にしたように呟き


「……そうだろうなとは思っていた」


エレノアが、呆れたように私を見た。

黒の制約は、黒全員が立ち会う。


当時の私は、黒になったという事で

相当舞い上がっていたようだ。黒の顔合わせの内容も

殆ど覚えていない。そう告げると、全員が呆れたように私を見た。


「お前さんは、あの頃と比べると

 本当に、落ち着いた感じを出せているな」


バルタスそれはどういう意味だ。

出せているではなく、落ち着いているだろうが。


「バルタスから、しっかり聞いておくといいわけ。

 サーラを巻き込む事になるんだからさ」


サフィールが、不機嫌な顔つきでバルタスへと視線を投げた。

バルタスは苦笑しながら、制裁について話しだす。


「黒の制裁は、何段階かある。それに、その制約によって

 制裁も微妙に変わるらしい。その辺りは、詳しくは知らん。

 今回、セツナがわしらに課した制約に対する

 制裁が発動したわけだが……気絶が発動するとなると

 力ずくで聞き出すと酷い目にあいそうだ。

 軽い警告で、すむと思っていたんだが……。

 詮索しない、強制しないという制約は中々厄介だな」


「……」


「まぁ、制裁の話しに戻すと

 最初は軽めの警告。これは身体に不調を感じる。

 我慢出来ないほどではないが

 ずっと続くと滅入る、そのようなものだ」


「それは知っている」


「次に、気絶。これは行動制限だな。

 これ以上制約を無視するな、立ち止まれという中程度の警告だ」


「今回バルタス達が、受けたものだな」


バルタスが頷く。


「そして、3段階。これはリシアから強制排除。依頼の停止。

 結界にはじかれ入ることが出来なくなる上に、手の甲の紋様が透けるらしい。

 その状態で依頼を受けようとしても受ける事が出来ない」


「それは……」


「自分だけならいいが、チームのメンバー全員が

 リシアに入る事が出来なくなる。

 リシア以外のギルドで、メンバー個人は依頼を受ける事は出来るらしいが

 黒は受ける事が出来ない。チームの行動が制限されるということだ」


こんな制裁を食らえば、黒としての面子がつぶれてしまう……。


「次、4段階目は2種類あるそうだ。

 1つ目は、黒から白への降格。それに伴いチームの解散」


「チームは関係ないだろう?

 どうしてチームまで解散させられる。

 それに、黒はランクが下がらないはずだ」


「黒の制約の中に、若手の育成が入っているだろう。

 その資格がないとみなされるそうだ。制裁によっての

 降格は、2度と黒には上がれない。

 だが、白になろうが黒の制約の一部は残る。

 もちろん黒の権限はなくなる」


なんというか……絶対に受けたくない制裁だ。


「2つ目、黒の剥奪。ギルドからの強制除名。リシアの出入り禁止。

 黒が剥奪されても、除名されても黒の制約の一部は残る。

 もちろん、冒険者として登録する事は2度と出来ない」


「……5段階目に意味はあるのか?」


「5段階目は、黒を剥奪、ギルドを除名されてまでも

 やめなかった場合、呼吸阻害らしい」


「ああ……黒の力は大きいからな。

 止める事が出来ない場合もあるだろうしな」


「その為の枷だ。黒は手本であれ。

 黒以外が、狂ったら止めるのがわしらだ……。

 本当に制約に縛られる事になるのは、黒以外が狂った場合

 わしらが、そいつを始末しなければならない。

 他のくだらない依頼を破棄しようが、せいぜい3段階目までの制裁だろう。

 だが、冒険者が狂った場合……わしらが命をかけなければいけない。

 受けるか受けないかの選択肢は与えられているが、断る事はできんだろう」


「……」


バルタスが真剣な目で私を見た。

エレノアも、静かに私を見ている。


「そろそろ本題に入って欲しいわけ」


サフィールがバルタスを促す。


「黒の3人が、わざわざ私を呼び出した理由は?」


「アギトよ。わかっているじゃろうが」


「……」


「お前の知っていることを

 全て話さんか?」


バルタスの口調は疑問系だが、その目は話せといっている。

エレノアも、サフィールも同じだ。


「私が知っていることも少ない」


「それでもいい。知っていることを全て話せ。

 お前さんと、セツナとの出会いからだ。省くな。

 記録もとっているだろう。ある記録を見せてくれ」


黒が何時も持ち歩いているもの。

映像で記録する為の魔道具だ。黒の間で情報を

共有する為に使う。セツナやアルトのように、秀でたものの

ランクを上げるための話し合いや、要注意人物の情報や魔物の情報など

を記録する為のものだ。


「……」


私が、何も答えないのを見かねてエレノアが口を開いた。


「私は……貴殿がそこまで

 あの青年に肩入れするのを不思議に思う」


「……」


「貴殿は、そんな人間ではなかろう?

 バルタスなら、わかるが貴殿がそこまで若者を

 気にかけているところは、見たことがない」


「僕も不思議に思ったわけ。

 お前は、黒の中で一番冷たい」


サフィールの言いように、思わず笑う。

確かに、今までの私ならば気にもかけていなかっただろう。


「私も、昔のままではないという事だ。

 妻ができ、子供が出来て初めて分る事も多い」


「ふーん。今はそんなことはどうでもいいわけ」


サフィールが聞きたくないとばかりに、断ち切る。


「お前も、あいつがやばいと感じているんだろう?」


「……」


サフィールの言葉に、私は1度溜息つく。


「確かに。彼は見ていて何処か危うい。

 一番最初に、その事に気がついたのはガーディルの

 ギルドマスターだ。私にセツナのお守りをしろといった」


「あの、おっさんがそんな事を言ったわけ?」


「ああ、肩の力を抜いて生きるように教えてやってくれとな」


「珍しい事もあるわけ」


「私も驚いたな。だが……。

 私とセツナが出会ったのは、彼がギルドに登録して2ヶ月という頃だ。

 2ヶ月で、ギルドのランクが緑の2段階目だった」


「……」


「彼と旅をして、マスターの言っている意味がわかる。

 彼はとにかく何事にも一生懸命で、隠れて観察していた

 彼の訓練でも、一心不乱に剣を振っていた」


そこで私は、持っている魔道具で彼の訓練の様子を見せる。

そこで全員が息をのんだ。


セツナのその時の目の色は、何の感情も浮いていないのだから。

ただ、何かを自分のものにする為に剣を振るっている姿が映る。

彼が誰にも見られていないと思っていたからこそ、見せた表情だろう。

この目を見たのは、この時とそして彼が過去を少し語った時の2度。


「どうやって生きてくれば、この若さでこんな目が出来る……」


バルタスが、映像から目を離さずに深く溜息を吐いた。

エレノアは、頭を数回振っていた。


「その姿を見る前、彼が天涯孤独だと聞いた。

 彼が一番信頼していた人を、亡くしたことも」


「それは……」


「ああ、ジャックだったんだろうな」


「……」


「普段なら、天涯孤独の身の上などよくあることだと

 思ったかもしれないが……。ちょうどビートが一緒にいてね」


「あの馬鹿と、比べたわけ?」


「そうだ。ビートに理不尽な事で責められても

 言い返しもせず、受け止めていた」


「馬鹿は、やっぱり馬鹿なわけ」


「なんともいえない気持ちになったな。

 18といえば、成人しているとはいえ

 まだ周囲に甘えていてもいい年齢だ」


セツナを気の毒だとは思った。彼の孤独を見て胸が痛んだ。

彼に対する興味もあった。好感も持てた。

だが、深く立ち入るつもりはなかった。

そういう事は、黒達が言うように私の柄ではないからだ。


ガーディルのギルドマスターに、頼まれた事だけをするつもりで

それなりのアドバイスをして終わるつもりだったのだ。


自分の思考にはいり、黙り込んだ私を

バルタスが視線で先を促す。


「そんな事を考えていた翌日、彼の訓練をみた。

 その瞳を……みた。言葉を失ったよ。そして不意に

 ビートの体が、魔物に貫かれている記憶が脳裏に浮かんだ。

 彼には、誰か助けてくれる存在が居るのだろうかと……」


あの目を見るまでは手を差し伸べようとは思わなかった。

あの訓練を見るまでは……彼の姿は、それほど衝撃的だった。

サフィールが冷たいという私が、心配になるほどに。


「彼はチームも組んでいなかった。

 2ヶ月の間、独りで依頼をしていたらしい。

 誰とも積極的に、関わろうとしなかったようだ。

 あの目の理由も、なぜ人と関わろうとしないのかも気になった。

 セツナという人間に興味もわいた。そして、力になりたいと思った。

 だから、月光にさそったんだが……断られてしまってね」


「断った!?」


「ああ。まだ1人で頑張りたいとね。

 無理強いするのもなんだから、深くは誘わなかったんだが

 あの時無理やりにでも、チームに入れておけばよかったと今は後悔している」


「おい」


バルタスが、突っ込む。


「セツナは、知れば知るほど面白い。

 その知識も技術も素晴らしいものだ。だが……。

 知れば知るほど……彼の孤独が闇が深いことも知る」


私は、クリス達と話している映像を見せる。

自分の記憶がないのだと。助け出されたのだと。

そして、自分のせいで恩人が死んだと苦しそうに語るセツナ。


そして……殺される時を待っていたと

殺されるのを望んでいたと告げる。


黄色い月というところは細工をして消してある。

なぜか、この言葉は誰にも言わない方がいいような気がしたのだ。


「お前、どうして途中で会話が切れているわけ?」


サフィールが気がつき、眉間にしわを寄せた。


「腕の中のサーラに気をとられたからだ」


「くそが! 死ねばいいわけ!」


「フンッ」


バルタスとエレノアは、口を開かず

映像の中のセツナを、唯見つめていた。

そして、2人とも深く深く溜息を付き俯いた。


「彼の動向は、ある程度追うようにはしていたが

 彼はギルドによる事が少ないせいか、情報が余り入らなくてね」


バルタスとエレノアが、顔を上げ私と視線をあわせる。


「気がついたら赤まで上がっていた」


本当に、何をしていたのだろうか。

彼がリペイドとサガーナに居た事は分った。

その両国で、セツナにどんな事があったんだろうか。


セリアさんに話していた、狂いかけたとは……?

セリアさんに聞いても、答えてくれなかったが。

セツナとセリアさんとの契約も、気になる……。


バルタスが、目元の疲れを取るように

指でぐりぐりと押しながら、話す。


「ハルマンが血眼になって探していたな」


「……青年が時使いだろう?」


「それは、私の口からはいえない」


「アギトよ、わしらに情報をすべてわたさんか」


「……」


「お前さ、それだけあいつに心を割いていながら

 あいつは、お前にも枷をかけたわけ。

 そこまで守る必要があるとは、僕には思えないけど?」


「私は信用してもらってはいるようだが

 信頼はされていないからな。嫁が居る事も知らなかった」


「ならさ」


「頼る事が出来ない。頼ろうとも考えない。

 いや、……誰かを頼る事を知らない。


 それは余りにも悲しい事だ。それは、彼の周りに

 彼の味方が誰も居なかったと言う事だろう。

 無条件で守ってくれる人が居なかったという事だ。


 無条件で守ってくれた人は、自分のせいで命を落とした


 アルトを見ていてもそうだ。アルトはセツナしか信じていない。

 私達に、少しずつ心を開いてくれてはいるが

 やはり警戒心をなくしては居ない。

 彼等は、本当に誰も信頼していない……」


話していて胸が痛む。


「セツナが私を信頼しないから

 私もセツナを信頼しない。そんな事は言いたくはない。

 彼が私を信頼する事が出来なくても、私は彼を守ると誓った。

 話したくないことなら、話さなくてもかまわない。嫁の事は別だ」


嫁の事は聞かなくては……それは譲れない。

気になるじゃないか。


「……馬鹿なわけ。どうしてそこまでするのさ

 理解できないわけ」


「そうだな、一応は命の恩人になるのか?」


「はぁ?」


「私は、冒険者を止めようとしていたからな」


サフィールが険しい顔をして立ち上がる。


「お前っ!」


「サフィール」


バルタスがサフィールを止める。

サフィールは、私を睨みながらも座りなおす。


私はサフィールを無視して、魔道具を使い

セツナとアルトの訓練風景の映像を見せる。


「……」


「自分の事だけでも大変なはずだ。

 身よりもない。記憶もない。帰る国もない。

 それなのに、彼は獣人の子供を弟子にする事に決めた。

 バルタス達も、彼等の噂は聞いているだろう。

 彼等に向けられていた視線を、何処からか見ていただろう?」


 本部へついた時の彼等に向けられる視線。

 それに付随する噂……。正直いってここまで酷いものだとは

 思わなかった。セツナは気にしないと笑っていたし

 アルトは、もう何処か諦めたような表情を見せていた。

 

「彼は、彼らは……自分の心を削りながら生きている」


「……」


「セツナとアルトは、師弟であり兄弟であり親子だ。家族だ。

 だから、2人はそれを重荷とはせずに笑える強さを持っている。

 いや……2人で乗り越えてきたんだろう。

 黒の短剣を渡した時に、黒に憧れるといいながらも

 彼は、短剣を受け取るのを断った」


「……なぜ?」


エレノアが驚いたように目を開く。


「アルトが大切だと。

 子育てが忙しいという理由で断られた」


エレノアがふっ、と表情を緩め笑った。


「……子育てか」


「僕の育て方は、間違っていないんだろうか?

 と、真剣に悩む彼をみてしまうと、手助けしたいと思うのは

 あたりまえだろう?」


「……ふふふ」


「私はね、その時に決めた。

 彼と親しくなろうと。彼が私を信頼できなくとも

 私は彼を信頼しようとね。私が勝手に決めた事だ。

 セツナには関係のない事だ。だから、彼が私に枷をつけても

 私はそれを恨むつもりはない。口では許すとは言わないが」


「2人に同情してるわけ?」


「同情がないといえば嘘になるが……。

 それ以上に、彼等と居ると退屈しないからな。

 湖から、ここまでの道のりは楽しくて仕方がなかった」


「……」


「……」


「アギトよ……その一言は余計じゃい」


「結局は自分の為なわけ……」


「……アギト」


「私は自分の息子達を見ているのも面白いが……」


私は、セツナ達と逢ってからの息子達のことを話す。


「お前は、鬼畜か」


サフィールが珍しく、息子達に同情していた。


「だから、私は彼の意思を無視することを許さない。

 彼を黒にする事を、私が許可しない」


私の殺気に、3人が無表情に私を見た。


「……率直に聞く。貴殿はあの青年に勝てるか?」


エレノアが目を細めて、私を見た。


「否」


私は最後の魔道具を取り出し、私とセツナの模擬戦をみせた。


「……」


「……」


「……」


「彼は私より強い」


「こいつは、魔導師だろ!?

 どうして、剣でお前と互角に戦ってるわけ!?」


「私が知るわけがないだろう」


私が聞きたい。


「黒にして、制約をつけるべきだろ!

 幸いな事に、黒の資質は十分ある」


サフィールが、そう告げる。


「セツナはそれを望んでいない」


「お前さ、あいつが暴走したらどうするわけ?」


「……」


「あいつとフィーの話しは、断片的にしか分らなかったけど

 フィーは、あいつにこういっていた。

 『精霊、セツナ、敵、ならない』てな。

 これが何を意味しているのか、わかるだろう!?」


精霊はセツナの敵にはならない……。

フィーは、そんな事を言っていたのか。


「あいつは、精霊と契約している。フィーの言葉から推測すると

 上位精霊だ。僕とあいつが戦ったら、必ず精霊がでてくる。

 その時、フィーはあいつの精霊には勝てない!

 上位精霊と中位精霊じゃ、力の差は比べる事も出来ないほど

 の差があるんだ!


 それどころか、フィーは僕に手を貸さない。断言しても言いわけ。

 そうなると、僕はあいつの精霊を止める事なんて出来ないわけ!

 最悪、フィーもあいつに味方する可能性があるわけ!」


サフィールは、一気にそうまくし立てる

肩で息をして、私を睨み静かな声で私に問う。


「……」


「お前はどうやって、あいつを止める?」


「アギトよ……。お前さんとサフィールの2人なら可能か」


「分らない。だが彼は……あの模擬戦闘で手を抜いていた」


「……」


「私はそれなりに、本気で向かったが……」


私の戦闘を分析する余裕が、セツナにはあった。


「エレノアを当てたらどうなる」


「エレノアが負けるかもしれない」


「お前さんと、エレノアだとどうだ」


「殺す気でいけば、勝てる可能性はあるかもしれない。

 だが、彼が得意な武器で来れば負ける」


「得意な武器? 両手じゃないわけ?」


「これは、私に合わせてくれたものだ」


「まじ……かよ……」


「……」


バルタスは、深く息を吐き出した。

先程から、バルタスが数に入っていないのは

この4人中で一番弱いからだ。弱いといっても

手を抜く事は出来ないが。


この中だと、エレノアが一番強い。

その次に私、サフィールとなる。


「わしら4人だと、止める事が出来そうか」


「……」


「何で答えないわけ?」


「わからない」


「お前ふざけてるのか!?

 まだ何を隠しているわけ!?」


「アギトよ、お前さんもわかってるじゃろ。

 総帥がおかしい。総帥が、セツナに何か仕掛ける

 可能性は高い。その時、何も出来ませんでしたは通らん。


 少しでも的確な情報が必要だと、何故わからない。

 お前さんも、2人のやり取りを見ていたじゃろ。

  

 お前さんが勝てないという青年と、総帥が戦闘になれば

 この街が大打撃を受ける。杞憂に終わればいいが……。

 わしには、嫌な予感しかせん」


「……」


「共に魔導師だ。

 その、破壊力は考えたくもない」


「彼は、そこまで浅はかな人間ではない」


「それはわかる。だが、何が起きるかわからないのだから

 その対策は必要だといっている。対策をせずにその時を

 迎えるほど、愚かな事はないじゃろ?」


バルタスの言葉に

私は一呼吸おいてから、答えた。


「セツナは能力者だ」


「……」


「……」


「ありえないだろう……」


サフィールが途方にくれたように俯いた。


「……能力は?」


「わからない。

 話さないし、見せない」


「……」


「弟子に聞く事はできんのか」


バルタスの言葉に、私よりも早くエレノアが答える。


「……それはするな」


「なぜか」


「……彼が唯一守るものに手を出すのは危険だ」


「……」


「アルトに手を出せば、彼は2度とその人間を信用しない。

 月光は、アルトからは情報を引き出す事はしないと決めている」


私の言葉に、エレノアが頷き続ける。


「……アルトが、彼の枷。

 その枷を我等は外してはいけない。

 彼自身、自分の命に価値を見出していない。

 そうなれば、誰も止める事が出来ない」


セツナと総帥との会話を思い出す。


『貴方が存在しなければよかったのよ』


『……僕もそう思います』


自分の存在を自分で否定する……。

それは、どんな気持ちなんだろうか……。


「アギトよ……黒の短剣をセツナに渡せ。

 お前も1度は、渡そうとしたのだろ」


「彼に制約をつける為ではない。

 彼に黒の資質があるからだ」


「わしらも、それは認める。

 黒の資質がなければ、短剣を渡せとは言わん。

 黒になる資質があり、その強さも申し分ない。

 だから渡せといっている」


「できない。私には制約を課せとしか聞こえない」


「お前、現状を見てるわけ!?

 それが最善の方法だと、お前以外の全員が言っている!」


サフィールが、机をたたき立ち上がる。


「前提がおかしいのなの。馬鹿なの?

 貴方達の、頭は何時も軽すぎるのなの」


静かな声が、部屋にとける。


「セツナではなく、あの女をなんとかすればいいのなの」


「フィー……」


サフィールが疲れたように、いつの間にか自分の横に居る

精霊を見ていた。


「フィー、今まで何をしていたわけ?」


「リオウとセツナを探していたのなの」


「あいつは何処に居たわけ?」


「海の中」


「はぁ?」


全員が、意味がわからないという感じでフィーを見た。


「結界を張って、海の中でごろごろしていたのなの

 お魚が泳いでいて、とても綺麗だったのなの」


「……」


「セツナを追い詰めちゃだめなの。

 海の中で、1年間暮らすとか言っていたのなの」


「……どうやって、海の中で1年も暮らすわけ?」


相変わらず、面白い事を考える。逃げた先が海の中か。

私の笑う声に、サフィールが睨む。


「その後は、クリスがご馳走してくれたのなの」


サフィールが驚いたように、フィーを見た。


「クリス達と、どこかに行ったわけ?」


フィーは余り、私達が好きではない。

サフィールの割り切れない感情を、フィーも感じ取っているようで

口を開けば、毒を吐いている。


「セツナがアルトと一緒に

 カキ氷を食べておいでって、言ってくれたのなの」


あぁ……特別なセツナの言葉に従ったのか。

クリス達は多分凍りついていただろう。


「フィーは、アルトと仲良くなったわけ?」


「そうなの。お友達になったのなの」


「ふーん」


面白くなさそうに、サフィールが答えた。


「拗ねても可愛くないのなの。

 それよりも、サフィこれを預かっていてほしいのなの。

 勝手に使ったら殺すわよなの」


拗ねているサフィールを無視して、持っていた袋を渡す。


「なんなわけ?」


「金貨7枚なの」


「はぁ!? こんな大金どうしたわけ!?」


「セツナとアルトにもらったのなの」


「なぜ!?」


フィーが、受付であった出来事を楽しそうに話した。


「ホリマラ貝を自分で食べるとか、正気なわけ?」


「あはははは! あはははははははは!」


「アルトか、わしと話があいそうだ」


「……後ほど受付によるか」


サフィールは信じられないと頭を抱え、私は笑いがとまらず

バルタスは、アルトに興味を持ったようだ。

エレノアは、貝殻を分けてもらうつもりだろう。


「精霊に、大金を渡す人間をはじめてみたわけ」


サフィールが呆れたように、金貨の入った袋を見ていた。


「セツナらしいのなの」


「あいつらしい?」


「セツナは、人間だろうが、獣人だろうが

 精霊だろうが、竜だろうが、関係ないのなの。全て同じなの」


「どういう意味?」


「……」


フィーの言葉に全員が黙り込み、フィーが口を開くのを待つが

フィーは、それ以上何も話すつもりはないようだ。

無表情で、私達を眺めていた。


「フィーよ」


バルタスがフィーを呼ぶ。


「……」


「……」


フィーはバルタスの視線を黙って受け止め

そして口を開く。セツナに見せていたような、甘さなど

一欠けらも混ざっていなかった。

口を開くが、先程の答えではなかった。


「セツナを、狂気に誘ってはいけないのなの」


「誘うとどうなる」


フィーはバルタスの問いに、それはそれは見事な笑顔を見せる。

その瞳はどこまでも、冷たく輝いていた。


その笑顔は、私達に大きく不安を抱かせるものだった。




読んで頂きありがとうございました。


5/11 本文訂正。

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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されました。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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