『 セツナと黒 』
* 前半セツナ視点。
* 後半アギト視点。
* かなで(時任かなで:23番目勇者)
* シゲト(花井重人:5番目の勇者)
殺気を纏っているアギトさんと、廊下を歩いていた。
転移魔法陣を出たところは、この建物の最上階らしい。
どうやら、会議をする部屋のフロアーは
権限のある人の許可が必要なようだ。
両開きの扉の前で、アギトさんが立ち止まる。
1度僕に視線を送り、僕が頷くのを確認してから扉を開けた。
部屋に入った瞬間、僕の視線と感情を全て持っていくほどの
衝撃を受ける。アギトさんと周りの黒であろう人達が何かを
はなしているようだけど、それは言葉として僕の耳には入ってこなかった。
飛び込んできた、花井さんの記憶の欠片。
初めて花井さんの姿を知った……。想像していた感じとは異なっている。
その隣には綺麗な女性。
一瞬の映像と、そして目の前の壁一面に書かれている
『春』という一文字。
この世界では、一度も見る事のなかった日本語。
その文字は、消えている場所もあるけれど
書道の知らない僕ですら、芸術を感じた。
『春』の文字の後ろには、丸い三日月。
とがった先端が両端ギリギリ触れそうな、黄色の三日月……。
そして邪魔にならない位置に、小さく小さく書かれている日本語の句
『天の原 ふりさけ見れば …… …… ……』後半はもう完全に消えていた。
-……。
そうか。この街の「ハル」というのは『春』からつけられたのか。
視線をその文字から外し、文字の少し上辺りから薄紅色の懐かしい花。
その花を咲かせている枝を視線で追い、天井を見上げた。
天井には一面の薄紅色の桜。この世界にはない花。
僕の紋様の椿も、この世界にはない。
今にも花びらが降り注いできそうなほどの、見事な桜。
思わず手を伸ばし、その花を手の中に入れたいと願う。
胸を鷲掴みされるような、望郷。帰りたい……。帰りたい。
こみ上げる想いを、必死に抑え天井の隅に書かれた日本語を見る。
『もろともに あはれと思へ 山桜 花よりほかに 知る人もなし』
花井さんは笑っていた。
幸せそうに笑っていた。寂しそうに笑っていた。
この桜の咲く部屋で……。かなでは、僕と同じものを見ただろうか?
かなでは……その時何を思ったの? 答えは返らない。
僕は俯き静かに目を閉じた。
「セツナ?」
アギトさんが、心配そうに僕を呼ぶ声が聞こえた。
僕は、この場所がどこかを思い出し全ての感情を胸へとしまいこむ。
「はい」
目を開けて、顔を上げるとアギトさんの心配そうな顔。
そして、驚愕の表情を浮かべて立っているサフィールさん。
その他の、初めて見る人達も僕を見ている。
意識が落ちた時のカイルの最後の言葉を思い出した。
『黒の奴らは、様々な事に貪欲だ。
お前が、黒になりたいとおもうなら別だが
黒は黒で楽しいが、その分制約も付きまとう。
暫く、のんびりと暮らしたいのならこの魔法を使うといい。
チャンスは一度きりだ、失敗するなよ。黒は馬鹿じゃないからな』
アギトさんには言わなかった、もう1つの伝言。
僕の自由を守るための魔法。
この国の、桜の名で縛る黒の制約の魔法。
そして僕はここでも嘘を重ねる。
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私の後ろをセツナが黙って、付いてくる。
私が殺気を放っていようと、余り気にならないらしい。
私はといえば、セツナの放った言葉で胸糞悪い思いをしているというのに。
サーラに似た自分の娘が、サフィールに懐く姿など見たくない。
『サフィたん、だいすき』なんて言葉を吐こうものなら、サフィールを
その場で殺してしまうかもしれない。
いや……子供の時代はまだいい。
私が守ってやれるからだ。だが、魔導師であるサフィールの寿命と
私の寿命は同じではない。エリオが2種という事が現在の救いではあるが
いまのあいつでは、サフィールの足元にも届かない。
鍛えなければ……。エリオを半殺しにしてでも強くしなければ。
心の中でそんな事を考えているうちに、黒の会議の場へと着く。
ここにあいつがいると思うと、本当に殺したくなってきた。
扉の前でセツナに視線を投げ、セツナが頷いた所で扉を開けて
室内へと入った。
私の後ろで小さく息をのむ音が聞こえたが、酒肴のリーダーである
バルタスが口を開き、私の気を散らした。
「アギトよ。その殺気をどうにかせい」
「私の勝手だろう?」
サフィールと目が合い、私の殺気は更に膨れる。
サフィールは、人を馬鹿にしたように目を細め肩をすくめた。
「サフィール。お前も、挑発するのはやめんか」
バルタスは、年長者らしい事を言うが酒と食の事になると
私達より手がつけられなくなる。
私とサフィールの静かな戦いに、水を差したのは
剣と盾のリーダーである、エレノアだった。
「アギト……貴殿の後ろの青年の様子がおかしいようだが?」
エレノアの言葉に、殺気を収めて後ろを振り返る。
目を見開いて、正面を凝視したまま微動だにしないセツナ。
その目の色は、私とアルトが米の話をしていた時と同じ色。
サフィールは興味なさそうに、バルタスは観察するように
エレノアは、ずっとセツナを見ていたのだろう。
総帥と副総帥は、黙ってその様子を見ている。
総帥の椅子に、副総帥が座り総帥はその後ろへ立っていた。
セツナが、総帥を凝視しているのかと思ったがそうではないようだ。
総帥は、見た目はセツナよりも年下に見える。16歳か17歳ぐらいに。
サフィール同様、総帥も整った顔をしておりその黒髪は何処か
神秘的なものを感じさせ、一目で心を奪われるものも多い。
セツナもそうなのかと一瞬思ったが、セツナの視点は
総帥の後ろ、壁に釘付けだった。この部屋の壁には今は読むことが出来ない
文字……模様? が刻まれていた。サフィールが言うには文字だということだ。
セツナの視線の先を何気なくみた瞬間……。
心臓が嫌な音を立てた。今まで、全く気がつかなかった。
文字の後ろにある、黄色い月……。
『あの部屋で、今日か……明日にでも
殺されるかもしれないと知っていた。
やっと、殺してもらえると思いながら
僕は部屋の窓から、大きな青い月を見ていた。
寂しく輝く青い月……。その部屋には僕と月だけ。
あの月の色が、黄色ならと何度思っただろう……』
何かを思い出したのか?
静まり返った部屋に、セツナの小さな呟きが響く。
「そうか……ハルは……ハルからつけられたのか」
ハルはハルからつけられた?
意味のわからない言葉に、私が首を傾げると同時に
サフィールが、驚愕の表情を浮かべ立ち上がりセツナを見た。
椅子が嫌な音を立てて倒れるが、セツナは聞こえていないのか
全く反応を示さない。
セツナの視線が、壁の文字から天井へとゆっくり移動する。
そして、天井の小さな沢山の花を目を細め見つめ、手を伸ばす。
まるで……大切な何かに手を伸ばすように……。
つかむ事の出来ない何かを、求めるように。
辛そうに表情を崩し、今にも泣き出しそうな感情を浮かべ
見ているこちらが、苦しくなるようなそんな表情だ。
「セツナ……?」
様子のおかしい彼に、小さく声をかけるが私の言葉は届いていない。
泣いているのかと心配になるが、涙はでていない。
【もろともに あはれと思へ 山桜 花よりほかに 知る人もなし】
全員が天井を見上げ、セツナの視線の先を見ていたはずだ。
そこに記されている、文字の羅列をセツナは静かに言葉にした。
何処の言葉かはわからない。聞いた事もない音だ。
だが……綺麗だと感じた。
意味は理解できないが、素直に綺麗だと感じたのだった。
ここで全員が理解する。セツナがこの文字を読めることを。
今は誰も読むことが出来ない文字を読めることを……。
この文字は、初代ギルド総帥の国の言葉だといわれている。
彼は謎多き人であるといわれており、彼の文献は余り残されておらず
この文字で書かれていた本も、3代か4代前の総帥が火をだし燃やしてしまっており
今まで手がかり一つ、残っていないといわれていた。
学者であるサフィールも、この文字の謎を追い求めていたはずだ。
その先には、初代総帥に繋がるなにかがあるはずだから。
この街の、魔法構築、技術、知識は、何処の国とも交わらないものが多い。
その謎は、沢山の人が追い求めてきたものだ。
総帥のセツナを見る目付きが鋭いものへと代わる。
それは、他の黒たちも同じだろう。私は選択を間違ったのだろうか。
ここまで、興味をもたれるつもりはなかったのに。
内心、舌打ちをしながらもセツナを守らなければと心に誓う。
セツナは、黒にはなりたくないと私に告げたのだから。
セツナが俯き静かに息をはいた。
「セツナ?」
少し力を込めて彼を呼ぶと
セツナは、ゆっくりと顔を上げ私と視線を交わした。
その瞳にはもう、先程の感情を一欠けらも残してはいない。
「はい」
思わず、言葉を失った。
あれほどの感情を、一瞬にして消すのか?
私だけでなく、他の黒もセツナの感情の制御に目を細めている。
「大丈夫かい?」
「はい」
「お前、この文字が読めるわけ?」
私とセツナの会話に、サフィールが無理やり割り込んだ。
「……」
セツナは黙り込んで何も答えない。
「何で答えないのさ!?」
「どうして答えないといけないんですか?」
「……はぁ? お前何を言って」
「どうして、貴方に答えなければいけないのですか?」
「……」
「興味のない僕の事は、放置してくださって結構です」
セツナが先程言われた事を、サフィールへと返していた。
何時もとは違う、攻撃的なセツナを見てやはり何処かおかしいと感じる。
「お前っ!」
自分はいいが、人にされるのは嫌いなようだ。
サフィールが激昂しそうになるのを、総帥の席に座っている
副総帥が止めた。
「サフィール。座れ」
副総帥にそう言われ、セツナを睨みながら渋々座る。
「初めまして。セツナ。
私は、ギルドの総帥をしているヤトといいます」
「初めまして」
「私達も非常に、この文字に興味を持っている。
教えてくれないか?」
ヤトがセツナの目を見てゆっくりと話す。
まずい! そう思った瞬間、体の自由が制限された。
ヤトを見るが、彼はこちらを見ようともしない。
他の黒も、ヤトを睨むように見ている。
「僕よりも、貴方方のほうが詳しいのではないのですか?
この文字は、ギルド初代総帥が残したものでしょう?」
「……恥ずかしい話だが、何代か前の総帥が全てを
燃やしてしまってね。手がかり1つ残っていない。
私達の街でありながら、この街の名前の意味を私達はしらない」
「……」
「長年知りたいと思っていた。
この街の名前の意味を。初代総帥の残した文字を。
街の名前の意味だけでもいいから、教えてもらえないか」
セツナは俯き何かを考えるように目を閉じる。
追い込むように、副総帥が声をかけた。
「お願いする」
「強制しない。詮索しないと約束していただけるのなら」
「意味がわからないが。
私は、強制しているわけではないよ?」
「僕も、教えてもらっただけなので
全ての文字が読めるわけではないのです」
「ほう」
「だから、それ以上のことを求められても困ります」
「だから、強制しない、詮索しないという約束を
というわけかい?」
「そうです。僕はこれからも旅を続ける予定ですから
リシアに、縛られるつもりはありません」
ヤトが小さく笑う。その笑いが何を意味するのかを
私達は知っているが、この場でセツナにそれを伝える事が出来ない。
サフィールは無表情で、バルタスは悪感情を浮かべている。
エレノアは、ずっと同じ表情のままだ。
ヤトが何を考えているのかがわからない。
こういうやり方は、賛同できない……。
創設者の信条に反するのではないか?
まえもって伝えておくべきだった。
この場はもう、ヤトに支配されている。
ヤトは、場を支配する能力者。
ヤトが能力を解除するまで、私達は自由に話すことも出来ない。
一番性質が悪いのは、この能力は対象者1人の30分間の記憶を
消去する事が出来るという点だ。
セツナは、知っている事を話した後
この場のやり取りを覚えていないことになる。
約束はなかったことにされるはずだ……。
「初代総帥の信条は、自由意志。
ギルドが君を、縛り付ける事はない。
もちろん、強制も詮索もするつもりはない」
ヤトを睨みつけるが、私と全く視線を合わさない。
ヤトの言葉に、セツナは安心したように笑う。
「総帥だけではなく
他の黒の方たちも約束してもらえるんですか?」
セツナの言葉に、ヤトは楽しそうに笑い
視線で私達に返事を促した。
総帥とヤト以外の全員が、ヤトが能力を使うとは
考えていなかったために、対処が遅れてしまった。
こんな方法をとるなんて……何を考えている。
それぞれの黒が、首を縦に振ることしか出来ない。
なかったことにされる約束に、胸が痛い。
こんな事に、セツナを巻き込みたくなんてなかった。
自分自身の甘さに、怒りが沸く。
セツナがふと、ヤトの後ろの総帥へと視線を向ける。
「彼女にも、約束してもらっていいですか?」
「……」
ヤトが一瞬、総帥と視線を交わす。
総帥が軽く頷き口を開いた。
「秘書である、私などにも約束を?」
「僕は、小心者ですから」
「冒険者には、大切な事ですわね」
総帥が穏やかに笑い、約束すると口にした。
全員から約束を取ったセツナは、安堵したように息を吐き出した。
そして考えるように俯く。
その時、セツナの口角が少し上がるのを見た。
「自由意志。素敵な言葉ですね。
僕は。初代総帥の信条が、この先も続く事を願います」
ヤトは、訝しげにセツナを見る。
「僕は、こういう交渉のされ方は嫌いだと
ハルマンさんに、お聞きになりませんでしたか?」
そう告げるのと同時に、セツナが掌を上に向け前に出す。
「桜の名の下に、黒の誓いを制約す。
初代総帥の信条の下に、我らが交わした契約を
汝達の黒の制約の一編となす」
全員が、驚愕を浮かべた表情でセツナを凝視する。
総帥とヤトが、叫ぶがセツナの詠唱の方が早い。
ヤトの能力が、セツナに影響していない事に
ヤト自身が驚いているようだ。
セツナの詠唱と同時に、彼の掌の上に黒の魔法陣が浮かび上がり
セツナの詠唱が終わると同時に、黒の魔法陣が光り砕け散り
手の甲に、熱を押し当てられたような痛みを感じた。
全員が自分の手の甲に感じた熱に、言葉がでないようだ。
それは私も同じことで、自分の紋様に手を当てながら熱が引くのを待つ。
これで、私達は総帥でさえもセツナに対して
詮索も強制も出来なくなっている。いや……。
ヤトが余計な事を付け加えている分、ギルドはセツナに
手出しする事が出来なくなった。
まぁ……人を介してならば、問題はないのだろうが
私達の能力や魔法を使って、セツナを縛る事は出来なくなっている。
「貴様……何処でその制約の一文を知った」
ヤトが凄まじい殺気をセツナにぶつける。
黒の制約により、ヤトの場が強制解除されていた。
「黒の制約の効力は、すごいですね。
初代総帥の力の片鱗を、感じませんか?」
ヤトの殺気を気にする事もなく、セツナはそう問う。
サフィールは、ブツブツと呟いて自分の世界に入っている
制約が増えた事より、自分の欲求を満たす事で忙しいようだ。
サフィールらしいといえばサフィールらしい。
バルタスは、苦虫を噛み潰したような表情を見せている。
エレノアの表情は、全く変わっていなかったが
その心中は穏やかではないはずだ。
黒の制約は、黒全員が背負うものだ。
だから、黒全員の同意が必要になる。
だが、セツナは黒ではない。セツナは私達全員に枷をつけたが
セツナは何も背負わない。
一方的な制約は、どう考えても納得がいかないものだ。
だが、私達が頷かなければ阻止できた事だけに
その憤りのやり場がない、といった感じだろう。
ヤトが場を支配していたとはいえ、私達がヤトの
能力にのまれなければ、よかったことなのだ。
現にセツナはのまれてはいなかったのだから。
ヤトの矜持は、激しく傷つけられているだろうが……。
まぁ、やろうとしていた事が初代の信条に反する事なのだから
自業自得といえば、自業自得である。
大体……あの制約の一文を知っている事自体おかしい。
私が話したという選択肢はない。話せないことを制約として
定められているから。
ヤトが顔色を悪くしながらも、セツナに問う。
詮索はしないと、制約に加えられた事から
体調に不調をきたしているはずだ。
そんなヤトに、一切視線を向けることをせずに
セツナが私を見た。
「すいません。アギトさんにも背負わせてしまった」
「……」
いいとは言えない。
黙っている私に、セツナは少し寂しそうに笑いながら
それ以上何も言わなかった。
許してもらえるとも、思っていないようだ。
そんな彼を見て、なぜか悲しくなってくる。
誰も頼らないその姿勢に。そうする事が、当たり前になっている彼に。
唯独り、セツナは何と戦っているんだろうか。
ゆっくりと私から視線を外し、ヤトではなく総帥を真直ぐに見る。
総帥の瞳は、怒りで揺れていた。
「改めて、初めまして。
サクラさん。現ギルドの総帥」
総帥が女性である事を知っているのは
総帥の一族のものと、冒険者では黒だけだ。
公の場に姿を見せる時は、ヤトが変わりに表に立つ。
「……最初から、私が総帥だと気がついていたの?」
「はい」
「理由を問うことを、許可してくださる?」
丁寧な言葉だが、瞳の中には怒りを宿したままだ。
「貴方の手の甲の、紋様の花を知っていますか?」
総帥の手の甲にも黒の紋様がある。
だが、総帥は黒の数には入れられていない。
「知らないわ」
「その紋様の花の名前は、サクラ」
「聞いた事がないわね」
「ええ、もう見る事は出来ないものですから。
きっと、初代総帥が一番愛された花だと思います」
「……」
「その理由は、この部屋の天井のこの花がサクラだからです」
「え……」
セツナの言葉に、全員が天井を見上げた。
「総帥の、手の甲の紋様はこの花を表したもの。
そして、総帥のお名前もこの花の名前ですね……」
「……」
「この花が咲く季節は、シルキス。
初代総帥の国の言葉では、シルキスの事を「ハル」といいます」
「それは……」
セツナが語ることを全員が真剣に聞いている。
サフィールは、ノートを取り出し必死に書き取っているようだ。
「初代総帥の国の文字にすると、総帥の後ろの壁の文字となります。
読み方はこの街と同じです」
「初代総帥は、シルキスを街の名前にしたということ?」
「はい。きっと……一番好きな花が咲く季節を
街の名前にしたのだと思います。この辺りは僕の想像ですけどね」
「貴方の言っている事が、真実だと証明しようがないわ」
「その辺りは仕方がないのでは?
本人も生きていない、文献も残っていない。
僕もそう多くの知識を持っているわけではない。
ただ、仮説を立てることしか出来ないのですから。
それでも、あの文字の意味をこの街の名前の由来を
知りたいと言ったのは、貴方方だ」
「……」
「僕は、約束は果たしました」
「……」
ヤトが、街の名前だけでもと言ったことから
それ以上のことを質問する事が出来ない。ヤトが凶悪な表情で
セツナを睨んでいた。
「僕は、納得できないわけ」
サフィールが、そう告げたかと思うと
"フィー"と呼んだ。
「サフィール!」
「サフィールやめんか!」
私とバルタスが同時に、止めるがサフィールは聴く耳を持たない。
「バルタスもエレノアも、気にならないわけ?
そいつは、エイクの話していたフィガニウスを狩って来た奴だ」
「エイクから聞いた名前の奴か」
「貴殿だったのか……」
バルタスとエレノアの目つきが変わる。
あのフィガニウスは、バルタス達にも渡っていたのか。
これで、サフィールを止める奴が私しかいなくなった。
今の黒のリーダー達は、それぞれが自分の目的のために黒でいる。
黒の制約という、面倒なものに縛られながらも黒でいるのは
それ以上の恩恵があるからだ。例えば、自分の追い求めるものの情報
自分が手に入れたいものがギルドに入ってきた場合
申請しておけば、格安で買い取れる優先権。
魔道具も安く手に入る。
強さを求めて、黒になる人もいたし
アルトのように、守りたいものを守るために黒になる人物もいた。
だが、現在ここにいる黒は
全員が自分の夢を追い求めている者達だ。
夢を求めているからといって
最強の座を蔑ろにするつもりはない。
最強であってこその、黒だ。
強くなければ、自分の我を通す事が出来ないのだから。
それぞれが追っているもの
酒肴は、酒と食に。
剣と盾は、強い武具を求めて。
邂逅の調べは、古代の魔法と遺跡の研究を。
そして私は強い魔物を求めている。
いくつかある制約を守りながら。
だから、自分の欲求を満たすためならば……多少の事には目をつぶるのだ。
それが、相手にとってどれ程非常識な事でも……。
それでも、サフィールは止めるべきだ。
あの最凶が来る前に……。
サフィールを、そのまま少女にしたような彼女が来る前に。
人間でない分、サフィールよりも性質が悪い。
あれがでてきたら、私では守りきれない。
「フィー来てくれないか」
「サフィール! 止めろと言っている!」
「そう思っているのは、お前だけなわけ!」
そして、音もなくその少女はサフィールの横に立っていた。
見た目はとても可愛い、5・6歳の少女に見える。
「サフィ? 私に何か用なの?
くだらない事で呼んだなら、その口を縫い付けてあげるのなの」
その声はとても涼やかなのに、言っている事は恐ろしい。
サフィールと契約しているにもかかわらず、その実態は余りにも自由。
自分はサフィールに容赦ないくせに、私達がサフィールを悪く言おう
ものなら、目の色を変えて攻撃を放ってくる。死なない程度に、抑えてではあるが。
彼女が言うには、精霊とはそういうものらしい。
精霊に憧れていたサーラが、閉口するほど彼女は……自由だった。
「あいつの記憶を読んでくれない?」
「サフィール!」
余りにも、セツナの心を無視した願いに怒りが沸く。
「アギト? 私は今サフィと話してるのなの。
邪魔しないで欲しいのなの。落とすわよなの」
「……」
「サフィ。人の記憶を見るのはよくないことなの。
馬鹿なの? そういうこともわからないのなの?」
「だけど、あいつは僕が長年追い求めてきたものを持っている!」
「素直に教えて欲しいと言えばいいことなの。
そんな事もできないのなの?」
珍しく、至極まっとうな事を言っている。
そのまま、サフィールを説得して欲しい。
「それが出来ない魔法をかけれたから、頼んでいるんだろう!?」
「魔法をかけられた……なの?」
「そうだ。黒の制約を1つ増やされた」
「それはどういうことなの?」
サフィールがかいつまんで、今までの事を話す。
「それは、ヤトが馬鹿なの。考えなしなの。
自分の力を過信しているから、こんな愚かな事態を招くのなの。
ヤトの殺気がうざいから、抑えて欲しいのなの」
フィーの言葉に、ヤトが渋々殺気をおさめる。
これに、逆らうと碌な事が起きないのは目に見えているからである。
何度か、この部屋を破壊された事からそれは身にしみて知っていた。
1度機嫌を損ねたら、サフィールが止めても止まらない……。
迷惑極まりない精霊だ。
精霊とはみなこのようなものだというのだから
私は、他の精霊には会いたくないと心から思う。
「だけど、黒でもないのに黒の制約を
行使するのは卑怯なの。それも、サフィにかけるのは許せないのなの
他の人間は好きにしたらいいのなの」
私達はどうでもいいらしい。
結局は、サフィールの言う事を聞くのか……。
「サフィは、何を知りたいのなの?」
「フィー」
私が彼女を呼ぶが、全くの無視だ。
「あいつの記憶の中にある
初代総帥の知識を知りたいわけ」
「サフィール! それは、人の研究成果を
盗む事になりはしないのか!
お前には矜持というものがないのか!?
お前も学者のうちの1人だろう!」
「はっ! 今ここで謎を解く鍵を手放す方が苦痛だ!
はっきり断言できる。この文字はこいつしか知らない。
こいつが命を落としたら、全て失われる事になる……。
だが、こいつはそれを話そうとはしない。僕には、目を見たらわかるわけ。
泥棒といわれようが、卑怯者と罵られ様がかまわない!」
「……」
誰もとめようとはしない。初代の残したものは
1人の人間を傷つけてまで……欲するものらしい。
私も興味がないとは言わない。
だが……セツナが感じる苦痛を思うと
そこまでして、知りたいとは思わない。
「セツナの記憶を覗くというのなら……。
私が先に相手になろう」
勝ち目はないが、私がここにつれてきてしまったのだ。
「私に勝てると思っているのなの?」
目を細めて笑う精霊。
「……」
緊迫した空気の中、何処か場違いな声が私の隣から聞こえた。
「僕の記憶を覗くのは
やめたほうがいいと思います。闇の精霊さん」
セツナの言葉に、フィーがはじめてセツナを目に入れた。
「それは……」
フィーの言葉が途中で途切れる。
そして、それ以上目を開いたら落ちるだろう
と思われるほど目を開き、セツナをガン見していた。
いつもなら、「それは、私が決める事なの。貴方が決める事ではないのなの」
とでもいいそうなのに。
「フィー?」
サフィールが、様子のおかしいフィーを心配そうに呼ぶが返答しない。
なんだ、かんだいいながらもサフィールの呼びかけをこの精霊は
無視する事はなかった。サフィール同様口も悪いし、態度も悪いが。
フィーが、とことこと歩いてセツナの前まで来る。
阻止するかしないか迷ったが、セツナが私を視線で止めた。
「セツナ……なの?」
「ええ。初めまして闇の精霊さん」
「私はフィーというのなの」
「フィーさん」
「フィーでいいのなの」
誰もが、絶句していた。今まで一度もこんな態度のフィーを見たことがない。
頬を赤く染めて、もじもじと恥ずかしそうに上目遣いでセツナを見上げている。
何かをいいたそうなのだが、言うのを戸惑っているような感じだ。
「あの……凶悪が……。変なものでも食ったのか?」
バルタスが、ぼそっと呟く。
「セツナにお願いがあるのなの!」
もじもじとしていた、フィーが意を決したように口を開く。
「なんでしょうか。記憶を覗くのはやめて欲しいのですが」
「フィーは、そんな酷い事はしないのなの!」
拗ねたように、口を尖らせるフィー。
いや。先程まで、記憶を覗く気満々だっただろう。
酷いことをしようとしていただろう!! 私が止めるのを無視して!
それに、何時から自分の事をフィーと呼ぶようになったんだ?
「僕が叶えられるなら」
そう言って優しく笑うセツナに、フィーが私達には
絶対に見せた事がない笑顔を、セツナに見せた。
「あのね! あの……なの」
それでも、恥ずかしそうにためらっているフィーに
セツナが片膝を突いて、フィーと視線を合わせる。
視線が同じ位置になったからか、余計に赤くなるフィー。
何時もこんな感じなら、可愛いのに……。
そして、本当に小さな声で自分の願いをセツナに言った。
「フィー、セツナに抱っこしてほしいのなの」
こいつは、フィーの偽者に違いない。
絶対にこんな事を言う奴ではない。
口を開けばちびサフィールと言われるほど
可愛げがなく。可愛い姿かたちに騙されて
フラフラと近寄ってくる人間を、躊躇なく踏みつける奴だ。
「その願い。承りました」
そう言ってセツナはフィーを抱き上げる。
フィーはセツナの首に、その小さい手を回して引っ付いていた。
「セツナの魔力はとても優しいのなの。安心するのなの。
それに、とてもいい香りがするのなの」
「それは僕の魔力というよりは……」
セツナが全てを口にする前に、フィーが小さい手で
セツナの口を押さえた。手でだ!!
私達には、魔法という実力行使で黙らせるというのに!
この差はいったいなんだ……。顔か? 顔なのか?
「駄目なの」
「そうですね」
セツナの返答に満足したのか、フィーはまた首に腕を回す。
はたから見ていると、父親とその娘という感じだ。
将来私の娘もきっと、私にこうしてくれるに違いない。
「フィー……?」
サフィールが、呟くように自分の精霊を呼ぶが
フィーは気がつかない。今は、セツナに色々と話すのに必死だ。
セツナは嫌がりもせずに、フィーの話を聞いている。
こう……ぽつんと立っているサフィールが哀れで
皆がサフィールを気遣うように、横目でサフィールを見ながら
耳は、セツナとフィーの会話を聞いていた。
「お姉さまが、セツナに次に会う時までに
なまえをかんがえてねって、連絡が来たのなの」
「……誰ですか?」
「光のお姉さまなの」
「もしかして、見境なく連絡してるんじゃないでしょうね?」
「契約している精霊だけなの」
「どうしてですか?」
「契約していない精霊は、セツナに近づけないのなの」
「そうなんですか」
「近づいたら怒られるのなの……。
フィーは、サフィと契約していたから近づけたのなの」
誰に怒られるんだ?
「光の精霊に、聞かれたら
許可がもらえたらいいですよと、伝えておいてくれますか?」
「わかったのなの。
お姉さまの願いは、きっと叶う事はないのなの~」
「……大人気ないですよね」
「仕方ないのなの」
「そうですか」
「そうなのなの」
うんうんと頷いているフィー。
私達にはまったくわからない会話を繰り広げる二人。
だが、セツナは精霊の知り合いが多数いるらしい事はわかった。
一通り話したいことを話したのか、フィーがサフィールを見る。
落ち込んだようにフィーを見るサフィールに、フィーが困ったように笑った。
「セツナ。サフィを嫌わないであげて欲しいのなの。
フィーと違って、口は悪いし、態度も悪いけど。
人間としては、マシな部類に入るのなの」
「……」
フィーそれは、契約している精霊としてどうなんだ。
セツナが、なんと返事を返していいのか困っているじゃないか。
曖昧に笑うセツナを気にすることなく、フィーは続ける。
「サフィは、馬鹿なの。でも、フィーはサフィが努力して
努力して、努力している事をしっているのなの」
「フィーは、サフィールさんが好きなんですね」
セツナの言葉に、コクコクと可愛く頷く。
絶対こいつは、フィーの偽者だ。
「特に、ギルドの初代はサフィに生きる道を与えた人なの。
だから、その鍵を見つけたから……必死になるのは理解できるの」
セツナがサフィールに、視線を向けるが
サフィールは、ふいっと横を向いた。
「セツナの記憶を覗こうなんて、気がおきないように
フィーがサフィをしつけなおすのなの。
だから、嫌わないであげてほしいのなの」
色々と……突込みどころが満載だが。
フィーは、セツナにサフィと仲良くして欲しいらしい。
私としても、そのほうがありがたいのだが。
「僕の記憶を覗いても、何も出てこないですけどね」
「……知っているのなの。
ここ半年間の記憶しかないのは知っているの。
セツナの記憶が、壊れているのは知っているのなの」
サフィールが驚いたように私を見る。
私は唯それに、頷いて返す。
「あの方は……。【全ての精霊に全ての情報を流したのなの。
だから、セツナがあの方とあの方の樹にしたことを全ての精霊は知っているのなの。
この先、精霊がセツナを害する事はないのなの。あの方が何時消えてしまうかと
不安で不安で堪らなかったフィー達に、光を与えてくれたのはセツナなの。
だから、フィー達はセツナに感謝してもしたりないのなの。
フィー達は、あの方が大好きだから】」
途中から、私達にはわからない言葉で話すフィー。
だけど、セツナはその言葉を理解できているようだ。
フィーが小さな両手を、セツナの両方の頬に当てる。
そして、不遜な態度しか見せた事がない精霊が……涙を落とした。
「ありがとうなの」
そう言って、フィーはセツナの額に口付けを落とした。
はじめて見た。精霊が祝福を与える所を。
「どういたしまして」
「……」
「どうしたんですか?」
難しい顔で、セツナを見ているフィー。
「セツナには、祝福がひしめきあってるのなの」
「……」
「本当は頬にしたかったのなの」
「……」
溜息を付いているセツナを、誰もが観察していた。
セツナを知れば知るほど、謎が深まっていく。
一向に解決することなく、謎は深まるばかり……。
やはりあの時、月光へ入れておけばよかったと後悔がよぎる。
私だけではなく、サフィールもバルタスもエレノアも興味を持ったはずだ。
総帥とヤトは、その瞳に不穏なものを宿していたが。
最近の総帥とヤトは、初代の信条と反する事をしていることがある。
先程のセツナに対する、能力の使い方もその1つだ。
それが、ギルドを揺るがすことにならないといいが……。
漠然とした不安を抱えながら、視線をセツナへと戻した。
「フィーの力を少し貸してもらえませんか?」
「何するのなの?」
「僕がこの街に来てから、もらった記憶を
フィーが大好きな人への、贈り物として僕からフィーへの
祝福のお礼とさせてもらいます」
「よくわからないけど、いいのなの」
フィーがそっと、セツナの額に自分の額をつけ目を閉じた。
セツナもゆっくりと目を閉じ、口の中で呟くように魔法を詠唱し始める。
全員が緊張を纏うが、フィーが傍にいることから動く事が出来ない。
セツナの詠唱とともに、床に巨大な魔法陣が浮かび上がり
一瞬にして、室内が闇に包まれた。私達の周りには机や椅子、調度品が
あったはずだが、全てのものが消えていた。
全員が立っており、机のあった中央がほのかに輝きだす。
そして光が大きく広がり見えたのは、一組の夫婦が楽しそうに話している
姿だった。
男性の方は、黒髪に黒い瞳。その顔つきは女性好みの甘い顔。
女性の方は、淡い桃色の髪と淡い緑の瞳をしていた。
『シゲト、この文字はなんて読むの?』
女性が、男性を呼び壁を指差す。
その壁には、まだインクが乾ききっていない文字が大きく映し出されている。
「これは……」
サフィールが呟く。
『ハルと読む』
『ハル?』
『そうだ』
『意味はあるの?』
『共通語で、シルキスという意味だ』
『へぇ……変わった文字なのね』
『そうか?』
『そうよ。私は見たことがないわね』
『ないだろうな。それは私の国の文字だ』
『……』
『リシア。私は今は幸せだ』
初代はそう言って、穏やかに笑う。
そう……この映像は初代の記憶。隣にいるの女性は
初代の伴侶だ。
『天井の花は、なんていう花?』
『サクラだ』
『何処か寂しげな花ね』
『そうだな』
『でも、心をうばれそうになるわ……』
『私が一番好きな花だ』
『私も、好きになりそうよ』
『そうか』
『ええ、その下の方に書いてある文字はなんて書いてあるの?』
『【もろともに あはれと思へ 山桜 花よりほかに 知る人もなし】』
『どういう意味?』
『そうだな……それは、またの機会に教えてあげよう』
『意地悪っ! 今教えてくれても良いじゃない!』
初代の服は、黒と薄桃色のインクにまみれていた。
どうやら、この部屋の文字や絵は初代が直々に描いたようだ。
文字の意味を教えない初代を、女性はぽかぽかと殴りつけて
口を割らそうとしている。それを楽しそうに受け止め。
そして、彼女を抱きしめた。
『君は私の全てを愛してくれるだろう?』
何処か寂しさをにじませた声で、初代はそう彼女に囁いた。
なぜか胸が締め付けられるような、寂しさが私を襲う。
この時の初代の感情だろうか? 歯を食い縛りその感情に耐える。
『……』
彼女は何も言わずに、初代を抱きしめ返した。
それが答えだというように。初代がそっと瞳を閉じた瞬間
2人がいた場所に現れたのは
大きな樹が、小さな薄紅色の花を沢山つけていた。
その樹は、私達のすぐ傍にまで迫っている。
大きな枝に、満開の花。サクラの花……なんて美しいんだろうか。
こんな美しい樹は……花は見たことがない……。
その小さな花が、風に吹かれると花びらを散らしていく様が
暗闇の中に、幻想的な光景を作っていた。思わず手を伸ばして
その花びらを、手の中におさめようとするが手に触れた瞬間
その花びらは消えてしまうのだった。
サクラの樹は、徐々に淡くなっていき消えたと同時に
今までの部屋に戻っていた。
誰もが、そっと息をはく。
その余韻を、心の中に閉じ込めるように。
セツナが、総帥に語っていた事は全てが本当だった。
フィーに手伝って欲しいと願ったのは、自分が作り出した
幻想ではない事を、フィーに証明して欲しかったのだろう。
フィーの大切な人へと言っている事から
フィーに嘘をついたら、フィーが怒る可能性が高い。
サフィールの努力を、踏みにじる行為は許さないはずだ。
「僕の中に埋め込まれた記憶です」
セツナがサフィールを真直ぐに見てそう告げる。
サフィールは、目元を乱暴に服の裾でぬぐい一言「悪かった」と口にした。
あのサフィールが謝るとは……。
あれも偽者に違いない! そんな事を考えながらサフィールを見ると
人を馬鹿にしたような目を私に向け、「死ねばいいわけ」と口を動かした。
「綺麗だったな。本物を見てみたいもんじゃ」
バルタスがそう呟いたのに、エレノアが同意するように頷いた。
「お前さんに、この記憶を埋め込んだのは誰じゃ」
バルタスが、セツナに問いかける。
「僕の恩人です」
ああ、あの倒れた時の私達には
話せないといっていたものかと気がつく。
「名前は?」
「ご存知かどうか知りませんが
冒険者で、ジャックと名乗っていたようですが」
セツナの口から出た名前に、私の心臓が跳ねた。
全員が一斉に総帥を見る。
総帥の顔は、いまや蒼白に近かった……。
参考図書
古今集より (阿倍仲麻呂)
金葉集より (前大僧正行尊)





