『 僕達と同盟 』
のんびりと馬車の横について、アルトと歩いている。
今日の午後あたりには、リシアのハルにつく予定をしていた。
今回は、月光と一緒に向かうという事で
何時ものような、自由奔放な歩みではなく
馬車の速度に合わせながら目的地に向かっている。
それでも、アルトはあっちへふらふら
こっちへふらふらとしながら歩き。
その姿を見て、アギトさん達は苦笑をこぼしていたけれど
何も言わずに、馬車の速度をアルトに合わせてくれていた。
注意しようとする僕を止めて、子供とはこういうものだと
言われてしまえば、何もいう事が出来ないでいた。
時折、気になるものを見つけては
僕のところに持ってきて、何かと尋ねてくるアルト。
その度に、説明をする僕の話をアギトさん達も楽しそうに聞いている。
「セツっちとの旅は、退屈しないきがする」
エリオさんのこの言葉に、アルトが眉間にしわを寄せた。
最近のアルトの機嫌は下降気味で、どうしてアルトの機嫌が
悪いのか、僕もアギトさん達もわからない。
ただ、僕とアルトの話にアギトさん達が混ざると
アルトの眉間にしわがよるのだった。
アギトさん達と、いい関係を築いていると思っていたけれど
アルトにとっては違っていたのだろうか。
そんな事を考えている時に、アギトさんが僕達に同盟の話を切り出した。
「セツナ。リシアについたら同盟申請をするが
セツナ達は、それでいいかい?」
「はい。月光はいいんですか?
今まで何処とも、同盟を組まなかったと聞いていますが」
「私達に有意義なチームが居なかっただけの事だ」
「そうですか」
「アルトも大丈夫かな?」
アギトさんが今度は、アルトにも尋ねた。
アルトは、1度俯きブツブツと何かを呟いた後顔を上げて
アギトさんを真直ぐに見て、僕が思ってもみなかった返答を返した。
「俺は、同盟を組みたくない!」
「……」
「……」
アルトの言葉に、全員がアルトを見る。
馬車も止まっていた。
「ア……アルト?」
僕の呼びかけに、アルトは僕を見てもう1度はっきりと拒絶した。
「俺は同盟を組むのは嫌だ!」
「どうして?」
「……」
僕が理由を尋ねると唇を噛み俯く。
その姿を見たクリスさんが、エリオさんとビートに殺気混じりの
言葉をぶつけた。
「お前達……アルトに何か言ったんじゃないだろうな!」
クリスさんの殺気に、ぎょっとした表情を作り
エリオさんとビートが必死に、何も言っていないと告げる。
「俺っちは、何も言ってないし!!
言うわけないっしょ!!」
「何も言うわけないだろ!」
アギトさんとサーラさんは、困ったようにアルトを見ていた。
「アルト。理由を教えてくれるかな?」
僕の問いかけに、ピクリと肩を揺らし顔を上げたアルトの目には
涙が浮いていたのだった。その涙を見て、クリスさんの殺気は膨れ上がる。
クリスさんの中では、エリオさんとビートが何かをした事になっているようだ。
きっと……日頃の行いが悪いんだろう……な。
「アルト?」
返答を促す僕に、アルトが叫ぶように訴える。
「師匠は、俺の師匠でしょ!?」
「……」
「なのに!!」
そう言って、アギトさん達全員の顔をキッと睨む。
「俺の勉強の時間とか!
俺の訓練の時間とか!!
俺が師匠と話してる時も!!」
そう言って、ぽろぽろと涙を落とし
僕にしがみ付いてきた。
「……」
その場に、微妙な沈黙がおりた。
誰もが、アルトから視線を外している。
きっと各々が、心当たりがあるに違いない。
アギトさんは、自分の興味を満たすために。
サーラさんは、竪琴の事を。
クリスさんは、能力や剣技について。
エリオさんは、精霊語や同種について。
ビートは、盾の訓練をやりたがった。
アルトにしてみれば、僕との時間が極端に減ったように
感じたんだろう。今まで我慢してきたけれど、同盟を組むと
これがずっと続くと考えた。だから、拒絶したんだろうな……。
「し……師匠は、俺の師匠だよね?」
瞳に必死な光を宿して、涙をためて僕を見るアルト。
「僕は、アルトの師匠だよ」
僕はぐずぐずと泣いているアルトの頭を撫でながら
苦笑することしか出来なかった。
クリスさんの殺気は消えている。
僕がアルトを慰めている間、アギトさん達はそれぞれが
お前のせいだと、擦り付け合っていた。
色々と話し合っているのを横目に見ながら
アルトが落ち着くのを待って、アルトと相談する。
「アルト。少し考え方を変えてごらん?」
「考え方?」
「そう。同盟を組むという事は
僕だけの知識ではなく、アギトさん達の知っている事も
教えてもらえるんだよ?」
「……師匠が教えてくれたらいいと思う」
「僕も知らない事がある」
「嘘だ!」
「本当だよ?
例えば、アギトさんは黒だから黒のことについて
教えてくれるかもしれないし、クリスさんはアルトと同じ
サブリーダーとしての知識を、アルトに教えてくれるかもしれない」
いつの間にか、僕とアルトの会話を聞いているアギトさん達。
アルトがチラっとアギトさんとクリスさんを見ると
2人は顔に笑みを浮かべながら頷いている。
口元は少し……引きつっていたけれど。
「エリオさんは、アルトと同じ火属性の魔導師だから
エリオさんの魔法をそばで見ていると、勉強になるだろうし
ビートは、剣も格闘も出来るから僕とはまた違った対戦ができる」
エリオさんとビートにも視線を向けるアルト。
エリオさんは、親指を立て笑い。ビートは拳を作って構えた。
「サーラさんは、きっと美味しいお菓子のお店を知っていると思うな」
僕の言葉に、サーラさんが「どうして私は個人の能力じゃないの!?」
と呟いていたが、聞こえない振りをする。
だけど、一番アルトの反応がよかったのはお菓子という言葉だ。
「お菓子?」
耳を動かし、サーラさんを見るアルト。
「リシアは、私の庭みたいなものだから!
美味しいお店をたくさん知っているわよ!
ハルについたら、アルトを案内してあげるわ」
アルトは少し考え、頷いた。
「確かに、関わる人が増えると
僕とアルトの時間は、少し減るかもしれないけれど
アルトもアギトさん達に、質問してごらん?
きっと、色々と教えてくれるから。お互いに足りないものを
補い合う為に、同盟を組むんだよ。僕も知らない事を教えてもらえるし
僕の知っている事は、教える事が出来る。
いいことだと思わない?」
尻尾を振って頷くアルト。
それをみて、小さい声でサーラさんが「かわゆい」と言っている。
「アギトさん達は
アルトのいい先生になってくれると思うけどな」
「……」
「同盟を組んでも、いいことばかりじゃなく
悪いこともあるかもしれないし、喧嘩をするかもしれない。
口論になることもあるだろうね。
だけど、それと同じぐらい楽しい事も沢山あると思うんだ。
僕とアルトだけでは見つけることが出来ないものを
見つけることが出来るかもしれない」
「……うん」
「そういうことを考えた上で、もう1度考えてみてくれるかな?
それでも、どうしても嫌だと思ったのなら
2人でアギトさんに謝ろう」
「……」
今まで静かに、僕とアルトの話を聞いていたアギトさんが
真剣な様子でアルトに話しかける。
「アルト。ハルにつくまでゆっくり考えてみて欲しい。
私は、セツナとアルトと同盟を組んで仕事をしてみたいと
思っている。いい返事を期待している」
アルトは、僕から離れてアギトさんを見て首を横に振った。
今ここで答えを返すらしい。
「俺に色々教えてくれる?」
アギトさんを見て、クリスさん達を見る。
それぞれが、しかっり頷くのを見てからアギトさんへと
視線を戻した。
「俺も同盟を組みたい。
よろしくお願いします」
そう言って頭を下げるアルトに、アギトさんは微笑みながら頷き
アルトに近づいて、頭をガシガシと撫でたのだった。
「緊急の場合を除き
アルトの勉強の邪魔と訓練の邪魔はしないから
私達も、セツナに教えてもらうのを許してくれるかな?」
「はい」
納得したアルトを見て、僕もそしてアギトさん達も
胸をなでおろした。また、ゆっくりとリシアのハルに向かって歩く。
今は、サーラさんとリシアのハルで食べる事の出来るお菓子のことで
盛り上がっているようだ。
「お前はアルトに、怒る事はあるのか?」
ビートが、僕の隣に来てそんな事を言った。
「もちろん、悪い事をすれば怒りますよ
どうしてですか?」
「いや、ちょっと気になっただけなんだけどさ。
俺が、さっきのアルトみたいなことを言うとするだろう?
すると、間違いなく兄貴の拳が飛んでくるぜ」
「アギトさんじゃないんですか?」
「親父? 親父はただ静かに笑ってると思うぜ……」
「……」
「目は笑ってないけどな……」
クリスさんが肉体的に、アギトさんが精神的に
罰を与えるのか。同時にされると辛そうだ。
「だから、驚いたな。
俺の周りの奴も、問答無用で殴られてる奴が多かったからさ」
それはそれで、どうなんだろうか?
「お前の場合、いきなり殴りつけるってところが
想像できないが……」
「アルトは、僕を怒らせる事を怖がっていますから
自分で歯止めをかけているところがありますね」
「酷い怒り方でもしたのか?」
「いえ、僕がアルトの手を離すことを恐れてるんです」
「あー……。なるほどな」
「それでも、最近はあんな感じで自分の気持ちを
言えるようになってきましたけどね」
「そっか。それは、いいことだよな」
ビートは、うんうんと頷きながらアルトを見ている。
「独占欲を見せる事が出来るのは
それだけ、心を許してるってことだしな」
「……」
「アルトが泣いた時
まじで俺が何か言ったのかと思ったぜ」
そう言って、困ったように頭をかくビート。
「俺、言う事きついらしいしな」
「心を抉ることをいいますものね」
「おいっ!」
「冗談です」
「お前の冗談は、冗談に聞こえねーんだよ!」
「そうですか?」
「ああ」
「気をつけないといけないですね」
「……お前、本当にいい性格してるよな。
全然っ、気をつけようなんて思ってないだろう」
「確かに、思ってません」
「……」
「冗談ですよ?」
「だからっ! 何処から何処までが冗談なんだよ!」
「全部です」
「全部!?
心をってところは、結局冗談なのか!? 違うのか!?
どっちだよ!」
「えー……」
「……もういいっ!」
ビートと言葉遊びをしながら歩いていると
指輪の中から、セリアさんが出てくる。
僕にしか見えていないようだけど。
「……」
「……」
出て来るだけで、何も言わず
何処かぼんやりしたセリアさんを見ていると
ビートが怪訝そうに僕を見ていた。
そして、何かに気がついたように僕と同じところを
じっと凝視する。
「今日は見えないな」
その言葉に、セリアさんがハッとしたように僕を見た。
「テントに入れなかった夜の会話を
全部聞かれていたようですよ」
「!!!!!!」
「やっぱりいるんだよな?」
ビートが目を細めて、セリアさんを見つけようとしている。
「います」
「今日は、どうして見えないんだ?」
「本人が姿を隠していますからね。
この前は、姿を隠すのを忘れていたみたいですから」
セリアさんは、空中でおろおろと彷徨っていた。
「おい、いるなら姿を見せろよ。
礼も言いたいしさ」
ビートが全然違う方向へ話しかけている。
「ビート、そっちじゃなくてこっちにいます」
ビートは、耳を少し赤くして言葉をかけなおす。
「いるんだろ?」
「……」
「セリアさん。彼等は大丈夫だと思いますよ」
僕の言葉に、思案する表情を見せながらも姿を見せた。
「おー、そばで見てもやっぱり透けてるのな」
「幽霊ですからね」
「……」
「今日は話さないのか?」
「そんなことないワ」
セリアさんが短く答える。
ビートはふっと表情を緩めて笑った。
「お前のおかげで、思い描いていた事の
とっかかりができた。ありがとな」
「……」
「これで、親父を踏み台に出来るぜ」
ビートが、とてもいい笑顔を見せたことに
セリアさんが、プッと噴き出した。
「私は、何もしてないワ。
能力は、持って生まれたものだもの」
「それでもだ。知っているのと知らないのとでは
全然違うからな」
「そう。それならよかったワ」
ビートとの会話が終わったところで、アルトがセリアさんを見つけ
クリスさんまで、馬車を止め御者席から降りビートと同じように
お礼を言っていた。
サーラさんは、セリアさんで遊んでいる。
見えるのにつかめないというのが、不思議で楽しいのだそうだ。
セリアさんは、エリオさんだけは苦手なようで
エリオさんが近寄ると、すっと逃げてしまう。
全く近寄る事ができないので、エリオさんが肩を落とした。
「俺っち……わざとしたわけじゃないんだけど……。
セリっちがいるなんて、知らなかったし。
もうしないからさ、俺っちとも普通に話してくれないか」
「……」
「セリっちの前では、魔法も使わないからさ」
「本当に使わない?」
「約束する」
エリオさんに、そう約束を取り付け
ようやく、エリオさんから逃げなくなった。
馬車を止める事が出来る場所まで移動し
簡単な昼食をとりながら
好奇心の赴くままに、セリアさんに質問を浴びせる
アギトさん達に、戸惑いながらも答える事ができる事は答え
セリアさんが、緊張した表情から
笑顔に変わるのにそう時間はかからなかった。
その間ずっと、セリアさんに手を握られて
動けなくなっていたアルトは、気の毒だと言えば気の毒だけど
その辺りはもう、諦めているようだ。
ただ……僕もセリアさんも、アギトさん達に言えない秘密を抱えていた。
アギトさん達の仲間であった、メンバーはもう今は生きていない
と言う事を。この事を、知ったときアギトさん達はセリアさんを
恨むだろうか。
アギトさんから、トリア草原の話を聞いたときから
そこに居るのが、誰かを僕もセリアさんも知っていた。
だが、それを伝えるつもりはない。
あの場所に何がいるかも、教えるつもりはない。
きっと知らないほうがいい。このときの僕はそう考えていた。
だけど、僕がこの時全てを話していたならば……。
そう後悔するのは、止まる事が出来ない所まで走り出した後だった。
読んで頂きありがとうございました。





