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刹那の風景 第二章  作者: 緑青・薄浅黄
『 リコリス : 再会 』
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 『 閑話 : 食前・食後 』

* セツナ視点

* エリオ視点

* ドラジア *

* セツナ視点 *


 しょんぼりと肩を落としているアルトを

クリスさん達が慰めているというか、謝っていた。


半分泣きそうになりながら、釣りから戻ってきたアルト。

何があったのか聞くと、アギトさんが殺気を放ち。

クリスさん達が、それに応戦するように闘志を放った事で

魚がいなくなってしまったらしい。


「……」


アギトさんも混ざり、アルトに謝っているが

アルトは、蹲ったまま何も言わない。

浮上する気配のないアルトに、解決策を示す。


「アルト、今日は早く寝て

 明日の朝、釣ってみたらどうかな?」


「……訓練の後時間ない」


「明日の訓練は、盾を壊す訓練にすればいいよ」


アルトの耳が動く。アルトが一番好きな訓練だ。


「明日は、リシアに向かって移動するし

 疲れない程度の訓練がいいだろうしね」


「本当? 本当にあの訓練にしてくれる?」


「いいよ」


「50回連続で壊したら、魚図鑑ちゃんとくれる?」


「うん。壊せたらね」


「じゃぁ、そうする!」


一気に浮上した、アルトにアギトさん達は苦笑を落としながらも

ほっとしたように、息をついた。


「アルト、晩御飯はどうするの?」


「ドラジア食べる」


「どうやって食べるの?」


「どーしよう?」


「そのまま焼くか……。

 解体して、一部だけ食べて残りはギルドに売る」


「全部焼く」


「やっぱり全部焼くんだね」


「うん」


「どうやって焼こうかな……」


これだけの大きさの物を焼くとなったら

薪を集めるだけでも大変だ。僕とアルトだけなら

僕が魔法で焼いてしまうんだけど……。


僕が悩んでいると、僕とアルトの会話を聞いていた

エリオさんが、会話に口を挟む。


「焼くだけなら、俺っちが焼いてもいいけど?」


「お願いしてもいいですか?」


「俺っち、焼くことしかできないけどな」


「十分です」


そんな感じで、エリオさんにお願いしてドラジアを焼いて

貰う事になったのだが……。


ドラジアの焼け具合を確かめにきたら

エリオさんが、アルトを横に置いて色々と愚痴をこぼしていた。


気配を消して近づいたわけでもなく。

足音を消して近づいたわけでもない。


だけど、エリオさんは僕には気がついてない。

アルトの視線は、ドラジアに釘付けだ。


「なぁ……アルっち。

 信じられるか? 高価な魔道具をドラジアを焼くために

 使ってるんだ……。俺っち、冒険者になって

 魔道具をこんな風に使う魔導師をはじめてみた」


「便利だから、いいんじゃないかな」


「……」


ドラジアを焼くために、魔法を使うといっても

エリオさんの火の威力は強いため、ドラジアが消し炭になる可能性があった。

なので、魔道具を通してエリオさんの魔力消費と火の威力を

適したものになるように魔法を構築した。


「それにさ……このドラジアを焼くために

 いったい、どれだけの風魔法がかかってるんだ?

 普通、料理するのに風魔法なんてつかわないっしょ?」


「師匠はよくつかう」


「……」


焼きドラジアより、蒸し焼きにする感じにした。

風の魔法で魚を包み、ドラジアを風を使って浮かせる。

そして、熱が均等にいくようにゆっくりと空中で回していた。


「挙句の果てにさ、セツっちは風使いだろう?

 どうして、火の構築式を組み立てることが出来るんだ?

 俺っちも、風の構築式を組み立てる事はできる。

 できるけど……火使いの俺っちより構築式が綺麗ってどういうこと!?」


「しらないよ~。まだ焼けないの?」


「多分。まだしょ?」


こう……話しかけるタイミングが見つからない。


「……地面に魔法陣を刻んで、魔法陣に魔道具を配置する方法は

 珍しいわけじゃない。魔法を発動させる為の装置にすることが多いし。

 だけどさ、火力調節のために使う魔導師はセツっちだけだよな?

 それも、料理……。料理だアルっち!」


「一気に焼いた方が、早く焼けるんじゃないかなぁ」


「いや、俺っちの魔法じゃドラジアが炭になる」


魔道具は、簡単に言えばガスコンロのガスのような

役割をしている。エリオさんが、それなりの魔力をこめた火の魔法を

魔道具あてるとそれを溜め込み魔力を増幅させ、魔力がなくなるまで

火の魔法を発動するようになっている。


「それに、こんな魔法の使い方はじめてみたし。

 火の魔法は攻撃魔法が主だから

 こういう魔法は、余りないんだよな……」


「エリオさん、火が小さくなってきた」


「おー……」


エリオさんが、アルトの言葉にしたがって

魔道具に、魔法を放った。キラキラと輝くように

エリオさんの、魔法が吸収されていく。


エリオさんの魔法を見て、違和感みたいなのを感じる。

普通の火の魔法じゃないような……。見た感じは火なんだけど。

どういうことなんだろうと思い、久しぶりに頭の中の情報を引き出した。


情報を引き出しながらも、耳に入ってくる

エリオさんとアルトの会話を聞いていた。


「この構築式の、この記号にこめる魔力の量で火の威力を

 変える事が出来てこの記号は、魔法陣をなぞるようにしか

 火の魔法が発動しないようになっている。他に燃えうつる心配がない。

 そして、この魔道具を魔力を蓄積する記号に変えて魔法陣を作ると

 足止めの魔法に応用できると思うっしょ?」


「もっと火力をあげたほうが、早く焼けると思うんだ」


「セツっちじゃないと、この魔法陣は触れない」


魔道具が、ガスの役割なら

魔法陣は、コンロの役割になっている。


しかし……。

アルト……人の話はちゃんと聞かなければいけないと

思うんだけどね……僕は。


情報を引き出し終わり、エリオさんが使う魔法の

違和感がどういう意味か理解できた。中々珍しいケースだ。

エリオさんは多分、この事実を知らないんだろうなぁ……。

かといって、いきなり話しだすのもおかしい。


時機を見て、話せば良いかと今は心にとどめておくだけに決めた。


「この構築式……。俺っちにくれないかなぁ……」


「俺、師匠に聞いてこようか?」


「え?」


エリオさんが驚いた顔をして、アルトを見た。


「いや……」


「そろそろ焼けたか、見てもらわないと!」


「……」


アルト……。

それはどうなの!?


アルトが立ち上がり後ろを振り向く。


「あ! 師匠。

 俺、そろそろ焼けてると思うんだ」


「え?」


エリオさんが、後ろを振り向き僕を確認すると

困ったように、笑った。


「聞いてたか?」


「聞こえました」


「あぁぁぁぁぁ……」


エリオさんが頭を抱えて呻きだす。

その声には、様々な感情が込められているように思えた。


「僕では使えませんから

 その構築式、エリオさんが好きにしてくれていいですよ」


「……本当にもらっていいのか?」


僕と視線を合わさずに、何処かソワソワとした態度で

確認を取るエリオさんに頷くと、悪巧みを考えているんじゃないかと

言う顔で、「俺っちの野望に一歩近づいたっしょ」と呟いていた。


エリオさんの野望とは何だろう?

少し気になったが、僕を急かすアルトに負けて

ドラジアを火から降ろしたのだった。


ドラジアは、中々に美味しく。

一欠けらも残ることなく、殆どがアルトとエリオさんのおなかの中に

消えていった……。







* 学習内容 *

* エリオ視点 *


 晩飯を食い終わって、アルっちがセツっちに勉強を教えて欲しいと

ねだり始めた。俺っちは、魔法に関しては知識を増やしていくのは好きだが

他のものは余り興味がない。興味がないが……黒、いや取りあえず白に

なるには、他の知識も必要らしいからリシアについたら本を買うつもりだ。


「ノートに書いた問題はどうしたの?」


「もうやった」


「えぇ……。もう解き終わったの?」


「うん」


「まず、ノートの方の答えあわせからしようかな?」


そう言って、セツっちが鞄から机をだし椅子を出して座る。

アルっちもセツっちの前に椅子を出してもらって座っていた。


アルっちがどんな勉強をしているのか興味を持った俺っちは

頼んで一緒に、いることを許してもらった。


だけど、興味を持ったのは俺っちだけじゃなく

母っち……母さん以外の全員が椅子を出してもらって座ることになっていた。

セツっちに、暇なんですか? と聞かれたが返答はせずに曖昧に笑う。


母さんは、楽しそうに竪琴を弾いていた。

母さんが竪琴を弾けるとは……たまに音を外しているが……。


アルっちがセツっちにノートを渡し、セツっちが赤で丸をつけていく。

何処か懐かしいその光景に、俺っちもこんな時期があったなーっと

見ていたが……が! ノートの内容を見て全員が黙り込んだ。


そこに書かれていたのは、2桁と2桁の乗算。

3桁と2桁の乗算……。そして2桁と1桁の除算と

3桁と2桁の除算。12歳の勉強内容じゃないっしょ!?


どう考えても、私設学校の授業内容っしょ!?

俺っちは、15歳でならったぞ!


大体学校と呼ばれるものは、3種類。

国が経営する学校。王侯貴族や金持ち達が通う。

大体、15歳~18歳ぐらいまで。

騎士を目指すとか、宮廷魔導師をめざすとか

そんなやつが通うんじゃないか? 多分。


学校に通うまでは、教育係をつけるなり何なりしてるはずだ。

多分。行かない奴もそんな感じだろう。

金持ちなんかは、貴族のつながりを持つために

子供を通わせる事もあるようだし。

まぁ、俺っちには関係ない。あったとしても行きたくない。


次に、冒険者ギルドがギルドの隣に併設している学校。

12歳以上であれば、年齢関係なく受講できる。

教えているのは、共通語の読み書きと加算・減算。

後は簡単な地理と歴史。一般常識ぐらい。

学びたいものだけを、学ぶ事も出来る。


最後は、私設の学校。結構な額の金を取られる。

今のところ、リシアのハルにしかない。

リペイド側の事は余り知らないから、もしかしたら俺っちが

知らないだけで、有名な学校があるかもしれない。


入学するのに試験があり、基礎知識がないものは落とされる。

ギルドで一通り教えてもらえるものを覚えていれば

落ちる事はないといわれているが、卒業するのが難しい。

入れば終わりというわけではなく、卒業する為の試験に合格しなければ

卒業証明をもらえない。受験資格は15歳以上。

卒業は半年に1度行われる、卒業試験参加申し込みを金を払って

申請し、そこでよい成績であれば卒業の証をもらえる。


金を払えば、何度でも卒業試験を受ける事は出来るが

半年に1度、受講する科目の授業料を納めなければ

いけないため金銭的に余裕がないと苦しい。


学ぶ科目は多岐に渡る。

卒業の証も、それぞれ受講するものによって違う。

一般教養、剣、武術、魔法、魔法構築、魔道具開発

魔法開発、考古学、数学、語学、鍛冶……色々とある。

俺っちにはよく分らないものもある。


1つの科目に、1つの卒業の証。

金はかかるが、専門的に学ぶならここの学校ほど

設備も教師も充実している場所はないだろう。

この学校の卒業の証を1つ持っているだけで

食う事には困らない。


王族や貴族の、教育係もこの学校の卒業者が多い。


そして、この学校のおかしなところは

学びたいという意思があっても、金銭的な理由で学べないという者は

試験を受け、条件を満たす事が出来れば全てが無料になる。


ただ、1つの科目につき1度だけ。卒業試験も1度だけ無料だ。

2度めからは、金を払わなければいけない。


色々と申請が必要で、もし虚偽が発覚した場合全ての科目の

受講資格がなくなる。後から金を払うと言っても受け入れてもらえない。


俺っちは、12歳でギルドの学校へ。

15歳で、この学校へ入学し一般教養と魔法

魔法構築の卒業の証を持っている。


兄っちは、一般教養、剣、魔物生息地概論。

後卒業の証はとってないが、受講だけの科目もあるはずだ。


ビートは、一般教養、剣、格闘……後なんだったか?

よく覚えていないが、そんな感じだったような気がする。


とりあえず、今アルっちがセツっちから

教えてもらっている内容は、どう考えてもおかしい。

訓練もおかしかったけど……。


「20問中、18問が正解。

 間違いは2問だね」


答えあわせが終わったノートをアルっちに返す。

セツっちの計算も恐ろしく速かった……。


「うぅぅぅ。くやしぃぃ」


そう言って顔をしかめるアルっち。

セツっちと一緒に間違った所を確認して

正しい解答を導き出し書き直して、今度は青色で丸を貰っていた。


「あぁー」


その青色の丸を見て、悲しそうに溜息をついた。

いや……2問間違っただけっしょ?

そんなに落ち込むことないんじゃないかと思う。


「アルト始めようか」


セツっちのその一言で、アルっちの背筋がピンと伸びた。

耳を立てて、セツっちが出す問題を真剣に聞いている。


「アルトは1分間に5メートル(メル)の距離を歩けます。

 アルトの歩く速さは変わりません」


アルっちはコクコクと頷いている。


「では、12分間でアルトは何メルの距離を歩く事が出来るでしょうか?」


アルっちが、問題をブツブツと口の中で繰り返し

そしてノートに、式と答えを書き始める。


「セツナ……?」


親っちが、戸惑いながらセツっちを呼んだ。


「はい」


「その問題は、どう考えても12歳用の

 問題じゃないような気がするんだが」


セツっちは、何度か瞬きをし

そして、首をかしげて何かを思い出すような仕草をする。


「そういえば、前もそんな事を言われたような……」


「……」


「誰に言われたのかな?」


「いや、それはしらないが」


「まぁ、そんなに難しい問題ではないですし

 今更簡単な問題にすると、文句を言われますからね」


そう言って笑い、アルっちが正解すると次の問題へ

間違えると、何処を間違えたのか一緒に考え

よく似た問題をもう一問だし、正解したら難しい問題へと

切り替えていく。


ビートの顔は引きつっていたし、兄っちは頭の体操になるなっと

楽しそうに解いていたのだった。


セツっち……。

その問題は、絶対12歳が解く問題じゃない。

セツっちは、もうちょっと一般常識を学ぶべきだと俺っちは思った。





読んで頂きありがとうございました。


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2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
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