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刹那の風景 第二章  作者: 緑青・薄浅黄
『 リコリス : 再会 』
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『 俺と親父 』

* ビート視点。

 アルトとセリアさんが、しりとりをしながら歩いていた。

数日前の怪談話から、幽霊が幽霊を怖がって泣く姿を見て

セリアさんに対して恐怖を抱かなくなったらしい。


その理由を聞くと、「俺より弱そうだから」と言っている。

アルトが急に足を止め、セリアさんに文句を言い始めた。


「なんで! また "る"なの!?」


「え? 偶然よ。偶然だワ」


「嘘だ!」


「嘘じゃないワ」


「怪しい……」


目を細めて、アルトはセリアさんを見て

セリアさんは、楽しそうに笑いながらアルトに続きを促した。


「アルト君、樽だよ! たーる! "る"」


どう考えても偶然ではないだろう、セリアさんの小さな嫌がらせに

アルトは唸り、"る"のつく文字を探しながら歩く。


セリアさんが僕を振り返り、人差し指を自分の唇に当てている。

どうやら、アルトに手を貸すなって言う事らしい。

セリアさんの楽しそうな様子に、僕はただ苦笑を返したのだった。


「アルト君、こうさんするぅ~?」


「しない!」


絶対遊ばないと言っていたわりには、楽しそうに遊ばれているアルトを見て

この調子で行けば、今日の夕方には "セルリマ湖"に着きそうだなと思いながら

2人の後についてのんびりと歩くのだった。




----



 馬車の速度に合わせながら歩く。親父が先頭を行き

俺は殿を歩いていた。あの日から、親父とは口をきいていない。


月光を抜けると言った俺に、親父は冷たい光を目に俺にこういったのだ。


『君が、月光を抜け私の弟子を辞めるというのなら。

 私は、黒の権限を持って君をギルドから除名する。それでもいいのなら

 何処へでも好きな所へ行くがいい』


親父の言葉に、息を呑んだのは俺だけではないだろう。


冒険者ギルド最強と呼ばれる "黒"の称号。

依頼について強制される事はないが

一度受けた依頼は破棄出来ないという制約がある。


その制約を受ける代わりに、様々な権限も与えられているらしい。

権限については、俺も数個しかしらない……がその中の一つが


冒険者ギルドからの除名。

ギルド本部の幹部、ギルドマスター、もしくは "黒"から除名された場合

二度と冒険者には戻れない。


『……』


『私は、警告はした。

 後は、ビート。君が決めればいい』


冷たく言い放つ親父に、俺はただ立ち尽くすしかなかった……。


数日前の出来事を思い出し、苛々とした感情がわきあがる。

結局俺は、除名されるのが嫌で月光を抜ける事はしなかった。

親父がやると言ったら、実行することを嫌というほど知っていたから。


自分の息子だという言うだけで、月光を抜けると言っただけで

黒の権限を使うと、俺を脅した親父に不信感がわいたし嫌悪した。


何故そこまで反対されなきゃならない!

俺は何も間違った事を言った覚えはない……。

2番目の兄貴のエリオも、どちらかといえば俺よりだったはずだ……。


「おふ……」


お袋といいかけて、慌てて母さんといいなおす。

母さん以外の呼び方で呼ぼうものなら……。

口が滑った時の事を思い出し、体が震えた。


「母さん」


少し前方を歩いていた母さんを呼ぶ。


「なに? ビートちゃん」


年中頭の中に花が咲いているんじゃないかと思うほど

のんびりした返答を俺に返す。ビートちゃんは止めてくれと何回言っても

やめない。親父の事も、アギトちゃんと呼んでいるが親父はまったく

気にしていなかった。少しは気にすればいいものを……。


きっと死んでもこの呼ばれ方は、なおらないんだろうと

最近では諦めつつあった。自分は頑なとして、母さん以外の呼び方を

認めないというのにだ!!


「……黒の権限を、私的な事に使ってもいいのかよ」


母さんは首を傾げて俺を見る。


「あ~。アギトちゃんが除名するっていったこと?」


「ああ」


「必要だからそういったんでしょう?

 ビートちゃんが馬鹿なのよ」


「……」


「アギトちゃんをあれだけ、怒らせるなんて。

 本当に、お馬鹿さんなんだから」


「……」


「ビートちゃんも、エリオちゃんも

 もう少し、物事を深く見るべきじゃないかしら?

 頭に、お花を咲かせてないでしっかり考えるべきよ」


「俺っちは関係ないしょ!」


話を聞いていたエリオが、後ろを向いて

衝撃を受けたような表情を作っていた。


年中頭の中に花が咲いている、母さんに

頭の中のことを言われたのが、心に突き刺さったようだ。


「でも、俺っちも親っちの言い分は無理が

 あるとおもうけど。チームを抜けるだけで除名はないっしょ」


「そうかしら? 私が黒なら同じことをしたわよ?」


「だから、その理由を聞いてるんだろ」


俺が苛立ちながら母さんを見ると、母さんは呆れたような視線を向けた。


「頭があるのだから、自分で考えなさいね」


そう言って、親父の方へと歩いていってしまう。

途中で立ち止まり、俺とエリオを見て目を細めながら


「そんな風だから、貴方達のランクが足踏みしてるのよ」


「なっ!」


「……」


エリオが反論しようと口を開くが、母さんはスキップしながら

親父に声をかけていた。


エリオが頭をかきながら、元居た場所へと戻っていく。

特に声をかけることもせず、俺は自分の思考の中へと入っていった。


事の起こりは、チームのメンバーであり

俺の友人であるマキスが持ってきた依頼用紙だった。


マキスのランクは赤になったばかり。

それでも腕は確かで、俺よりも強い。俺より年上なのだが

兄貴達よりも、俺と仲がよかった。

メンバーの中で一番マキスと組むことが多かった。


親父が立てた予定では、レグリアからサハル、アルオン、バートルを経由して

リシアに向かうことになっていた。サハルの中間地点の町で2泊ほど物資の補給も含め

滞在することになったときのことだ。


酒場に行ったマキス達が、興奮した様子で帰ってきたのを覚えている。

その場には、メンバー全員がそろっており何事かとマキス達を見ていた。


酒場で依頼を募集していたと開口一番に告げるマキス。

酒場での依頼募集は多々あることで、ギルドが拒否したものや

過去に規約違反で依頼できないとか、手数料を払うのが嫌で自分で

直接雇う商人とか……理由は様々だ。


冒険者は自己判断で、それらの依頼を受けていいことにはなっているが

その際発生した問題については、ギルド側は一切関与しない事になっている。

支払われる金額が違うとか、違約金が発生したとか……そういう事態になっても

助けてはくれない。全てが自分の責任となるのだ。


だから普通は、そういう依頼は余り受ける事はないんだが……。


マキスが依頼用紙をまわしながら、説明しはじめた内容は

トリアにある、"トリア草原"の魔物の調査らしい。


その草原には、古くからすんでいる魔物が居るようだ。

その正体を調べたものに、金貨50枚。

討伐したものには金貨200枚という、破格な報酬が記載されていた。


討伐した魔物の素材は、依頼者のものだと書かれていたが。

討伐した時の金貨200枚というのは、心が躍る。

どうやら、トリアで配られていたものをサハルまで持ってきた冒険者が

居たようだ。期限は決まっておらず、早い者勝ち。


この依頼を運んできた人物は、トリアからサハルの依頼を受けていた為に

サハルの酒場に居たらしい。


そこでマキスと意気投合し、一緒に依頼をという事になったそうだ。


『アギトさん、この依頼を受けましょう!』


楽しそうにそういったマキスに、親父は否の返事を返した。


『その依頼は受けない』


『なぜ!?』


マキスと一緒に戻ってきたメンバーは

またかという、苦々しい表情を作り親父を見ている。


『その依頼は受けてはいけない』


はっきりと受けるなといった親父。

だが、マキスは食い下がる。


『まだ誰も見たことがない魔物かもしれないんですよ!

 俺達が一番最初に発見し、討伐できる機会なのに!!』


マキスの夢は、未発見の魔物を見つけ

それを討伐して、初討伐した者として本に名前を載せることだ。


『マキス。トリア草原の魔物は

 クットとリペイドの洞窟に居る魔物と同じぐらい古いものだ。

 私の言っている意味がわかるだろう?』


『調査だけでもいいんじゃないか?』


マキスと一緒に戻ってきたメンバーの1人がそう口を出す。


『駄目だ』


即座に却下する親父に、依頼を手に持って帰ってきたメンバーが

口をゆがめた。そこに苛立ちを隠そうともせずに親父を睨みながら

ドグさんが口を開く。


『最近、アギトは何だ。俺らの腕が信用ならねーっていってんのか

 自分が持ってきた依頼だけを俺らにさせ、俺らの依頼はさせないつもりか』


『そういうわけではない』


ドグさんの言葉で、一気に緊張感が高まる。

俺から見ても最近の親父はおかしい。前は、メンバーが持ってきた依頼も

何割かは受けていたのに、最近は自分が持ってきた依頼しか受けさせない。

その事に、メンバーが不満を募らせていたのは知っていた。


『じゃぁなんだ! 俺らは黒の犬じゃねーんだよ!!』


『ドグ……』


その場に沈黙が下りる。ドグさんは、俺たち家族以外の中で

一番長く月光に居る。気性は激しいが、親父とは仲がよかったはずなのに。


『ドグ。最近魔物の様子がおかしいと伝えただろう?

 魔物が強くなっているように感じると』


『俺は感じねぇと言ったはずだ』


『……』


『アギトが感じたというから、注意してきたが

 そんな事はない。かわりはない。

 お前の腕がおちたんじゃねぇのか』


ドグさんの切り替えしに、親父は黙り込む。


『お前の腕が落ちたのを、魔物のせいにして

 俺らを巻き込んでんじゃねえよ!!』


『ドグさん! リーダーを侮辱するのか?』


一番上の兄クリスが、ドグさんに殺気を飛ばす。

クリスの殺気を受け、ドグさんも殺気を纏った……。


何時の間に、これだけすれ違っていたんだ?

確かに、依頼を受けなければ金も入らないしランクも上がらない。

ジリジリと焼け付くような焦りを感じる事はあるが

それでも、ここまで深い溝が出来ているとは考えてなかった。


『アギトさん、別行動を許可してください』


マキスが、親父とドグの間に入ってそう告げるが

首を横に振った。


『駄目だ。その依頼を "月光"が受ける事を許可しない』


『っ……』


悔しそうに親父を睨むマキス。

冷めた目で親父を見ているドグさんとメンバー達。


『ドグ。マキス。そして皆もよく考えてほしい。

 あの草原の魔物は、長い間あそこに居る。

 なのに、その正体がわからない。

 それは魔物の強さを現していると思わないかい?』


『今まではそうだったかもしれねぇが。

 人が集まれば、そうじゃねぇかもしれないだろうが。

 やってもいないうちから、駄目だと言い張る理由にはならんだろうが』


『私は、なりうると思っている』


『アギトや、お前は何時からそんな腰抜けになったんだ。

 強い魔物と戦う事がこのチームの意義だろう』


『冒険と無謀は違うだろう? ドグ』


ドグさんが親父を射るように睨む。

無謀といわれたのが気に入らないようだ。


『アギト。俺はもうお前にはついていけそうにない。

 腰抜けとつるむつもりはねぇ!!』


ドグさんが、首に下がっていたドッグタグを引きちぎり机の上に

たたきつけるように置いた。その行動に、親父は目を見開きドグさんを見る。

そのドグさんに続くように、マキスがそして他のメンバーもドッグタグを外し

机の上に置いた。


『待てよ。ドグさんもマキスもちょっと落ち着けって』


余りに突然の出来事に呆然としながらも、そう口にすることしかできない。


『酒が抜けてから、もう一度話し合ったほうがいいしょ!!』


エリオもメンバーを宥めようとするが、頭に血が上っているのか

聞く耳を持たなかった。


『わりぃな、エリオにビート。

 俺は俺で好きにさせてもらう。受理しろアギト』


親父は机の上のドッグタグを凝視し、そして一度目を閉じて開く。


『受理しよう』


『親父!』


『親っち!』


まさか、受理するとは思わず声を張り上げる。

親父は、それぞれのドッグタグを手に取りこの部屋から出て行った。

ギルドに向かったんだろう。


俺達に簡単に挨拶をし、自分の部屋へと戻るメンバーの後を追い

引きとめようとした俺とエリオに、今まで黙っていた母さんが口を開いた。


『無駄よ。やめておきなさい』


『親父が悪いんだろうが!』


『アギトちゃんは、何も悪くないわ』


『いや、最近の親父はおかしいだろう?!』


『俺っちも、親っちはおかしいと思うね』


『おかしくないわ。アギトちゃんがおかしいとおもうのなら

 貴方達は、黒になる資質がない』


『なっ……』


『……』


母さんの言葉に、俺もエリオも固まるがそれを気にする事もなく

自分も部屋に戻るといって出て行ってしまった。


『兄っち。兄っちはこれでいいとおもってるのか?』


チームのサブリーダーである兄貴にエリオが問いかける。


『私には、魔物が強くなっているのかはわからない。

 同じに感じる……が……。私は父であり黒のアギトを信じている。

 リーダーを信じる事が出来ないというのなら、チームを抜けるは当然』


『親父が間違えることだってあるだろうがよ!』


俺の言葉に、兄貴が俺を見て告げた。


『魔物に対して、私は父さんが間違った判断をしたところを

 見た事は一度もない。まだ、父さん自身色々と迷っていると思われる。

 だからこそ、メンバーを危険に巻き込む事が出来ないと思い

 確実な依頼しか受けなかったんだろう?』


『だけどさ!』


『お前達は、自分の父親を信じられないのか?』


クリスは俺達に真直ぐ視線を向け、返事を返さない俺達に溜息をつき

部屋をあとにした。


結局、マキス達は月光を抜けドグさんをリーダーにチームを立ち上げたらしい。

月光の内部分裂として、話題になっていた。


それが大体、マナキス2の月の最初の方だった気がする。

それから何度か、マキスから手紙が届いていたがマナキス3の月の中旬あたりから

マキスと連絡が取れなくなっていた。


俺は、親父にマキスを探しに行くと告げるが

親父は首を縦に振らなかった。元メンバーが心配じゃないのかとか

メンバーは家族だといっていたのは嘘だったのかと。


親父と数日間口論した挙句、月光を抜けるといった俺に

返ってきた言葉は、ギルドからの除名……。


俺にはさっぱり、親父がわからない……。


その夜も、親父から離れた位置で飯を食っていたら

兄貴とエリオが俺の傍まで来る。


「ビート、まだ拗ねているのか。

 いい加減機嫌を直したらどうだ」


「拗ねてるわけじゃねぇ!

 納得がいかないって言ってんだろう?!」


「俺っちも納得してるわけじゃない」


兄貴が呆れたように俺達を見た。

そして、溜息をつきながら呟く。


「誰が好き好んで、自分の家族を見殺しにしたいと思うんだ」


「はぁ?」


「見殺し?」


「マキス達が消息を絶ったのはトリアだ」


「そんな事はしってるっての」


「マキス達は、トリア草原の依頼を受けたんだろう」


「多分な」


「それで消息をたったのなら……。

 もう生きてはいないという事だ」


「兄貴!」


「兄っち!?」


俺は兄貴をにらむ。


「頭を使え。自分達に都合のいいように捉えるな。

 マキス達はお前たちよりも強かった。更に強いドグさんもいた。

 それでも全員の消息が不明なんだ。それがどういうことかわかるだろう?」


「……」


唇をかむ俺に、兄貴が俺を気遣うように言葉をかける。


「ビート。お前とマキスが親友同士なのは

 父さんも私もわかっている。父さんも心配していないわけじゃない。

 本部に行けば、何か情報が入るはずだ。

 自分の感情を優先させず、先ずは周りを見ろ。深く物事を考えろ」


おふ……母さんと同じ事を言う兄貴に、苛立ちを覚える。


「それに、お前を除名すれば

 父さんもそれなりの責任をとることになる」


「どういうことだよ」


「黒の権限を、私的に使う事になるんだからな。

 もしかしたら、黒を剥奪されるかもしれない。

 それでも、お前の命を守るために言ったんだ。

 父さんの気持ちも考えるんだな」


そう言って、俺とエリオから離れていく兄貴。


「エリオは、親父が許可したらトリアに行ったか?」


「行ったね。行くに決まってるしょ」


「だよな」


色々と考えながら、ぼーっとしていると

何か思い出したように、エリオが顔をしかめながら俺に文句をつけてきた。


「あのさー。お前どうして兄っちは兄貴で

 俺っちの事は呼び捨てなわけ?

 俺っち、兄っちと呼べっていったっしょ?」


「……」


「聞いてるのか?」


「はぁ……わーったよ。

 出来損ないのほうの兄貴って呼べばいいだろう」


「ビート。それは俺っちに喧嘩を売ってるよな?」


目を細めて俺を見るエリオを、鼻で笑って肩をすくめた。

俺とエリオの一触即発の空気を感じて

兄貴が笑ったまま、俺達を沈めに来た……。


手加減なしの兄貴の攻撃に、俺達は朝までぐっすりと眠るのだった。








読んでいただき有難うございました。

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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されました。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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