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刹那の風景 第二章  作者: 緑青・薄浅黄
『 ユーカリ : 再生 』
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『 僕と同盟 』



 幸せそうな光景を、気配を消してみていた僕の傍に蒼露様が来る。

悪戯が成功して、満足そうだ。


「そこまで、隠れる事はないと思うがの」


「こういう事って、家族も嬉しいものでしょう?

 主役がエイクさんじゃなければ、ここまではしなかったでしょうが

 僕の自己満足です」


「シーナのためか」


「そうですね。見えないようにはなっていますが

 そんなに、しっかりとかけてはいないでしょう?」


「うむ」


光の精霊が、僕と蒼露様のコップとお酒とおつまみを持って傍に来る。

もちろん自分の分も忘れてはいない。


蒼露様の話を聞いたり。光の精霊の話を聞いたり。

たわいもない話をし、ふと会話が途切れその沈黙に身をゆだねながら

力比べが始まった場所を、ぼんやりと眺めていた。


蒼露様の視線を感じて、顔を向けると静かに蒼露様が問う。


「セツナ。おぬしの夢はなんじゃ」


「夢ですか?」


「世界を見終わった後、お主はどうするのじゃ」


僕の夢……。この世界のセツナとしての夢。

考えた事もなかった。杉本刹那としての夢は胸の奥底へと沈めた。

今の僕には、何もない。


「僕は……」


言葉が詰まった僕の肩を、蒼露様が軽く叩く。


「そう、深刻に考える事はあるまい?

 そなたはまだ若い。魔力量から見るとそれなりに長生きをするであろう。

 アルトと一緒に、そなたの夢も探したらいいではないか。

 色々な国を見て、様々な人と出会い、そなたが人生を楽しめるようなものを

 探せばいいのじゃ」


「……」


「どうしても見つけ出せぬのならば」


蒼露様がニヤリと笑う。


「わらわ専用の、酒商人にしてやってもよい」


「……お断りします」


「何故そこだけ即答なのじゃ!」


プリプリと怒る蒼露様に苦笑が浮かぶ。


「夢を持とうなんて、考えた事もありませんでした」


持っていたのは、昔の夢。

だけど……探してみるのも悪くはないかもしれない。


「そうですね。僕も、何かやりたい事を探してみようかな」


「うむ」


「師匠がいない!!」


食べる事に夢中だったアルトが、僕がいないと騒ぎ出す。

アルトが叫んだ事で、かけてあった魔法が解けた。

ロシュナさん達が、アルトと同じように焦りを顔に浮かべながら

僕達を探している。


「なに、興味を持った事を片っ端から試していけばいいのじゃ」


蒼露様の少々乱暴な言葉に、思わず笑う。

アルトが僕を見つけて、クッカと一緒に走ってくる。

ロシュナさん達が安堵したような表情を見せていた。


「それは楽しそうですね」


「そうであろう? そなたらしく生きればいいのじゃ」


慈愛に満ちた眼差しを僕に向け、優しくそう言ってくれた蒼露様に

僕は只頷いて返した。


アルト達に手をひかれもとの場所へと戻ると

アルトは安心したのか、お皿を持って丸焼きを取りに行ってしまった。


「お、おぅわりぃ」


ぶっきらぼうにそう口にするエイクさん。

その態度が照れ隠しだと、誰が見てもわかるものだった。


「おめでとうございます」


「あぁぁぁぁぁ……」


もう一杯一杯なのか、頭を抱えて動かなくなってしまった。

気持ちはわからなくもないけれど。

思わず笑った僕に、エイクさんが恨み言を呟く。


「お前ほどの魔導師なら、魔力感知は得意だろう?

 なんで、とめてくれねーんだよ……」


「悪意や害意がなかったので、別にいいかと思ったんです。

 何の魔法を使ったのかも、調べませんでしたしね」


誰が黒幕かわかっているために、表立って文句も言えない状況に

エイクさんが肩を落とした。ロシュナさんがそれを宥めながら

これ以上エイクさんを追い詰めないように、話題を変える。


「セツナ君の次の目的地はどこなんだい?」


「次は、バートルのソーラインに行く予定だったんですが」


バートルは騎士の国で、ソーラインはその城下町になる。

サガーナとは同盟を組んでいるはずだ。

獣人が騎士として認められた事で、話題になっている国だった。


「だった?」


「ええ、バートルを素通りしてリシアのハルに向かうつもりです」


ハルは冒険者ギルド本部がある港町だ。

ギルド創設者が作った街だといわれている。


「バートルによらない理由はなんだい?」


「ここに来る前に手紙を受け取っていたんですが、

 読むのを忘れていたんです。

 それで先程目を通したんですが、

 差出人が僕とリシアで会いたいという内容だったんです」


「なるほど。バートルによっていたら間にあわないのか」


「ウィルキス1の月の間は、リシアに滞在する予定だと書かれてあったので

 その間にリシアにつけばいいんですけどね」


「今日は、マナキス3の月の21日だけど、

 ソーラインによっても余裕があるように思うよ?」


「そうなんですが……。

 出来ればハルもソーラインもゆっくりと見て回りたい街なので。

 ハルに行ってソーラインに戻るという手もあるんですが、

 ウィルキス2と3の月は移動が困難になりますよね?」


「ああ、そうだね。大人ならともかく子供の足では辛いだろう」


「予定では、ウィルキス1の月をバートルで過ごして

 ウィルキス2の月の間に、リシアに着くつもりでした」


アルトの興味が赴くままに歩いていくので

1日で着く距離も、3日かかったり……4日かかったりと

まちまちだ。計画通りに進む事の方が珍しい。


急ぐ理由がないのならば、のんびりと歩きたい。

楽しく旅をするほうが大切だから。


「2の月と3の月はどうするつもりだったんだい?」


「雪の間は、リシアで依頼を受けながら暮らすつもりでした」


「そうか……」


「リシアで誰と会うんだ?」


やっと浮上して来たエイクさんが、酒の瓶に手を伸ばしながら聞く。


「俺のチームのリーダーと、会ってもらいたかったんだけどな」


「邂逅の調べのリーダーですか?」


「そうそう。俺のチームと同盟を組まないかと思った。

 お前物知りだし。学者だろ? リーダーと話が合うと思うんだよな」


「勝手にそんな判断をしてもいいんですか?」


「別に。俺は紹介するだけで決めるのはリーダーだ。

 でも、お前なら絶対気に入られると思うんだよ」


「僕のチームは、僕とアルトの2人だけですよ?」


「そうだけど、お前の場合、

 1人で数十人分の力があるから、問題ないだろ?」


「僕に聞かれても」


「会うだけ会ってみないか?」


「お会いしたいとは思いますが……」


アギトさん以外の黒の紋様を持つ人に、会って見たい気持ちはある。


「実は、リシアで会う約束をしているのは

 同盟を組む前に、顔合わせをしたいという内容だったんです」


「顔合わせ?」


「ええ、僕と面識があるのは、

 リーダーとその息子さんだけなのでチームの人が、

 判断できないとの事で一度顔をあわせてみないかと。

 今の段階で、同盟が組めるかはわからないんですが

 先に、約束をしているチームを後回しにするのは良くないと思いますから」


「ああ……そうだな。

 何処のチームと顔合わせをするんだ?」


「チーム月光です」


「はぁ……?」


「月光です」


コップを口に運ぼうとしていた手を止めて

僕を凝視するエイクさん。


「月光って、あの月光だよな?

 リーダーが黒の持ち主の」


「そうです」


「お前……。あのチームは同盟要請しても

 断りの手紙しか送ってこないって有名なチームなんだぞ?」


「本当は、チームに入らないかと誘われていたんですが、

 断ってしまったので、チーム同士の繋がりをもてないかなと、

 手紙をだしてみたんですよ」


「はぁ!? 勧誘を断った!?

 お前……正気か!?」


「……」


「あのチームほど入るのが難しいところはないんだぜ!?

 黒の中で、一番稼ぐチームが"月光"なんだ」


「そうなんですか?」


「そうなんですかって……同盟を組むチームの事ぐらい

 もっとちゃんと調べろよ!!」


「すいません」


エイクさんの剣幕に、素直に謝る。


「俺達のチーム "邂逅の調べ"は "考古学"が主だ。

 酒肴は "食"。剣と盾は "武器や防具"とそれぞれのチームで特色が違う。

 特色がないチームの方が多いが、黒のチームは全て何かに特化している。

 もちろん、酒肴のおっさんも俺のリーダーも強いぜ?

 だけどな、"月光"のアギトは黒の中でも2番目に強いといわれている。

 俺はまだあったことがないけどな。"月光"のチームの特色は

 "戦闘"だ。あのチームは強い魔物を狩る事に力を入れている」


物腰が穏やかなアギトさんからは、ちょっと想像できない事を聞く。


「黒同士繋がりはあるみたいだけどさ、

 邂逅との同盟を断ってきた理由が、

 "私のチームと同盟を組まなくても、困らないだろ?" だぜ?」


「へぇ……」


僕が抱いているイメージと、ずいぶん違う……。


「大体、あそこのチームは "家族"で固まっているし」


「家族?」


「そう。黒のアギトがリーダーで長男がサブリーダーだ。

 黒の伴侶が風使いで、次男が……火使いだろ。

 三男は……知らないな」


「よく知っていますね」


「いや……普通、黒のチームの情報ぐらいは知ってるだろう……」


首を横に振ると、呆れたように僕を見るエイクさん。


「だけど、半年前ぐらい前にあったときは

 チームメンバーの人数は、12人だといってましたよ」


「今は5人のはずだ」


「え!?」


「確か……メンバーの5人が新しくチームを立ち上げて

 2人がそれを機会に、チームを抜けて所帯を持ったらしい」


「それ何時頃の話なんですか?」


「つい最近だな。ギルドでうわさになってた。

 内部分裂かってな。でもさ、よくある事だろ」


「よくあるんですか?」


「誰だって、自分のチームを作りたいって思うらしい。

 俺のチームにだってそういう奴はいるし。

 赤まで育ててもらって、恩を返してからチームを作るか

 恩を返さずチームを抜けるかの違いだ」


「……」


「俺は黒のチームに入っていた方が

 色々と便利だと思うんだけどな。

 チームが強いのに、それが自分の強さだと

 勘違いする馬鹿な奴らもいるからな」


吐き捨てるようにそう口にするエイクさん。

何か思うところがあるらしい。


「入るのが難しいチームに入れてもらっておきながら

 出て行ったんだ、よほど自信があるんだろうさ」


しかし……。アギトさんのチームがそんなことになっているとは

思っても見なかった。チームの人数が半分減るという事は

戦力が半減するということだ……。大丈夫なんだろうか……。


僕の思案する表情をみてなのか

エイクさんが、心配する必要はないだろうといった。


「黒がいるんだ。人数が減ったぐらいで

 揺らぐなら、黒なんてもらえない。

 それに、サブリーダーも白だしな。

 次の黒に一番近いだろうって言われてる。

 そこに風使いと火使いがいるんだ問題ないだろ」


ビートが抜けているような気がする。


「で? 何を話していたんだっけか?」


「あー……。同盟を組む?」


最新の情報に、驚きながらも

脱線していた話を元に戻す。


「そうだ、そうだ。

 でも、そうなると先に月光に会うのが筋だよな。

 まぁ、俺からリーダーに話しておくからさ

 機会があったら、会ってみてくれよ」


「そうですね。

 機会があれば」


そう締めくくり、黙って聞いていたロシュナさんを交えて

色々な事を話す。ハンクさんは、アルトとなにやら楽しそうに?

口論していて、ユウイとアイリは少し前にターナさんに連れられて

家に戻っていた。


クッカは、蒼露様と光の精霊と優雅にお茶をしていたようだ。

クッカの方へと視線を向けると、クッカが僕の傍に来る。


「ご主人様、クッカはそろそろ戻るのですよ」


「そう」


「はいなのですよ。トゥーリ様が待っているのですよ」


長い間、クッカを引きとめてしまっていた。

あの広い洞窟で、1人は寂しいだろう。


「そうだね。いきなり呼び出してごめんね。

 心配もかけてしまったね」


「……いいのですよ。ご主人様の役に立つ事が

 クッカの幸せなのですよ。だから、ご主人様……。

 クッカはご主人様が一番大好きなのですよ。

 それだけは、忘れないでいて欲しいのですよ」


「……うん。わかった」


僕の返事に、可愛らしく笑い頷くクッカ。


「クッカ。わらわからも礼を言う。

 そなたがいなければ、セツナと話すことができなかった。

 そなたには、沢山迷惑をかけてしまったの。許しておくれ」


「いいのですよ! クッカは蒼露様も好きなのですよ!

 それに、いいものも貰ったのですよ~」


クッカの足元には、蒼露の樹の苗が置いてあった。


「そうか。大切に育てておくれ」


「はいなのですよ~」


僕は、鞄から箱を一つ取り出す。


「クッカ。

 帰ったらトゥーリにこれを渡してくれるかな?」


「クッカが渡すのですか? 送ればいいと思うのですよ。

 そのほうが、喜ばれると思うのです」


喜ぶだろうか。


「いや、お土産として持って帰って欲しいんだ。

 クッカの分も入っているから、一緒に食べるといい」


「了解なのですよ!!」


箱を抱えて、笑うクッカにアルトが声をかける。


「クッカ。俺も手紙を書くからね」


「クッカも、アルト様に手紙を書くですよ」


そう約束を交わし、長がもう一度無礼を働いた事を

謝罪していた。もういいのですよとクッカが謝罪を受け入れた後

僕はクッカをトゥーリの元へと送った。


アルトが寂しそうに、耳を寝かせているのをみて

慰めるように背中をたたく。また会えることを告げると

頷いて、また食べ始めた……。


ハンクさんが、まだ食うのか……と驚きの声を上げているのを聞いて

アルト以外の人達は苦笑を浮かべる事しか出来なかった。


ちらほらと、切り上げて帰る女性陣を見ながら

男性陣は、まだまだ飲むらしい。僕もそろそろ、戻りたかったが……。

蒼露様と光の精霊が離してくれなかった。


泥酔して、転がっている人を眺める。

エイクさんはとっくに、転がっていた。

アルトも満足したのか、幸せそうに転がっている。


ロシュナさんとディルさんは、さほど飲んではいなかったのか

ちゃんと意識を保っている。ハンクさんは、半分落ちかけている。


ハンクさんも途中までは、セーブしていたようだけど

蒼露様に進められると断ることが出来ないのか、相当な量を飲まされていた。

穏やかな空気の中、ロシュナさんが僕を呼ぶ。


「セツナ君」


「はい」


「青狼の子供である、アルト君を君に託すよ。

 アルト君がそう望んでいるからね」


ロシュナさんが僕の目を見て、そう告げる。


「君からの手紙を読んだ。ラギールからの手紙も読んだ。

 君が何かの理由で、アルト君と行動できなくなった場合の心配はしなくていい。

 私とハンクで、アルト君を守ると誓う。ここは、アルト君の帰る場所として

 覚えておいて欲しい」


「ありがとうございます」


「そして君も、何か困った事が出来た時は

 私を頼って欲しい。君に返せる事は少ないけれど

 これでも、長く生きている。知恵ぐらいは出せるかもしれない」


「その時は、よろしくお願いします」


ロシュナさんの好意を素直に受け取る。


「君とアルト君の旅が

 よき出会いに恵まれるように、祈っているよ」


ディルさんが、ロシュナさんの後に続く。


「種は自分でまかなければ育てられない。

 お前の未来は、まだまっさらだ。

 お前の過去は……絶望でみちていたかも知れないが

 希望という種を自分でまかなければ、芽が出る事もない。

 お前自身が、種をまき、育ててこそ刈り取る事が出来る。

 その喜びは、かけがえのないものだ」


希望の種……。

夢の種。


「お前の未来に、幸あることを私は願う」


「……」


「ふん。そいつがそう簡単にくたばるわけがない。

 往生際が悪そうだからな。アルトを不幸にしたら

 わしが、殴ってやるからな! 殴られる前にアルトをここによこせ!」


ハンクさんが、遠まわしに頼れと言ってくれる。

人間の僕に色々思うこともあるだろうに……。


アルトには、この村が故郷だと。ここで暮らす権利があるのだと告げるが

僕にその言葉はない。


それでも、長達ができる

ギリギリの精一杯で、僕を心配してくれている気持ちが嬉しかった。


そして、アルトを受け入れてもらえた事に心から安堵したのだった。




読んでいただき有難うございました。

* 移動困難な月をウィルキス2と3に変更。

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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されました。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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『緑青・薄浅黄 X』
よろしくお願いいたします。
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