『 69人の勇者 』
* セツナ視点。
あぁ、僕達は本当に使い捨ての駒だったんだ。
光の精霊の説明が耳に入り、そんな事を思った。
勇者の腕輪を外すと、死んでしまう理由が今わかった。
千切られた魂の、何かを補う為の魔道具なんだろう。
魂というのは、その世界、世界でなにかしらの情報が刻まれているのか?
その世界で命を終え、どこかに還る瞬間のタイミングで召喚されるのだろうか?
召喚と同時に、魂の隷属魔法がかかるようにつくられているのかもしれない。
僕は68番目。
僕の前に67人。僕の後ろに1人。全部で69人。
僕は、花井さんとカイルの恩恵を受けたから生きている。
何故、花井さんが生きていられたのかなんて僕にはわかりようがない。
カイルが言っていた事も、多分推測に過ぎなかっただろうから。
運がよかったとしか、いえないんだろう。
花井さんもカイルも、僕の中で眠っている。
僕以外の65人の人達が、どのような感情を抱いて死んだのかは知らない。
勇者として召喚されて、満足して死んだ人もいるかもしれない。
だけど、僕とカイル。そして花井さんはそのまま日本で眠りたかった。
『帰りたいところに帰れないのなら、何処にも帰れなくていい』
この世界が好きになれない僕は、この世界の根本に還りたいとは思わなかった。
僕が帰りたい場所は、この世界の何処にもない。どんなに願っても帰る事はできない。
その事自体は、もう諦めがついている。だから、僕は消えてしまってもいい。
だけど、何処にも還ることができなかった勇者の事を思うと
胸が痛んだ……。そして、僕の変わりに召喚された69番目の勇者の事を考えると
僕の気持ちは暗く沈んでいった。
蒼露様が、僕の記憶を全て読めなかったのが、カイルの魔法のせいなのか
僕が、この世界の住人じゃないからなのかはわからないけれど
読まれなくて良かったとも思う。きっと、僕が召喚されたというのを知ったら
優しい蒼露様は、自分の命を犠牲にしても魔法を消しにいこうとするだろうから。
この世界を愛して欲しいと願う蒼露様に、僕は愛せないと返す。
この世界で生まれていない僕は、サーディア神の愛といわれてもわからない。
そのことに悲しみを見せながらも、無理強いすることなく大切なものを増やせと言った。
僕が憎しみでこの世界を壊さないように。その枷になるものを……増やして欲しいと。
僕の魂を覗いた蒼露様には、僕の奥底にある感情が伝わってしまったんだろう。
カイルと花井さんから貰った幸運を、僕なりに返して行きたいという気持ちと同じぐらい
僕は、この世界が、憎い。
人が。獣人が。というものではなく。
監禁されていた時は、この世界を歩けたらと思っていた。
もちろん、色々興味は尽きないし、楽しい事も沢山ある。
珍しいものも。魔法を使うのも面白い。
だけどそれと同じぐらい、様々な暗い感情が狂気となって
僕の心の奥底に、沈んでいくのも知っていた。
水が違う。空気が違う。太陽が違う。月が違う。大地が違う。
人種が違う。価値観がちがう。食べ物が違う。似たものはあるけれど。
僕の記憶が感情が違うと叫ぶ。ここは違うと。
幸せそうに笑っているこの世界の住人を目にして
こんな事を思うんだ。
僕は何故こんな場所に居るんだろう。
僕は何故独りでこんな場所に居るんだろう。
気がつかない振りをしてたんだ。
そのうち忘れてしまうだろうと。この世界に慣れていくだろう。
生きていくことに必死で、そんな事に心を割いている余裕がなかったというのもある。
だけど、その感情がだんだんと膨れ上がってきたのはラギさんが死んでからだった。
そして決定的な答えがでたのが、今日だった。
見て見ぬ振りをしていた感情を、見てしまった。
理解してしまった。理解してしまったからには
自分の狂気を抑えるのに、知らないという鍵は使えない。
僕は全ての理から外れた存在なんだと気がついたんだ。
そんな僕に、神の愛は届かない。祈ったところで届かない。
元々……祈るつもりなんてなかった。
神は何一つ、僕の願いを聞いてくれた事はないから。
だけど……。
だけど……僕の額に優しく触れた唇。
そこから伝わる想いは、とても暖かいものだった。
神の愛は僕には届かないけれど。
元女神の想いは、僕の心にしっかりと届いた。
僕の為に泣いてくれた。蒼露様と光の精霊。
大切なものが、また一つ増えていく。
こうやって、僕の狂気を大切なもので埋めてしまえば
僕は、いつかこの世界を好きになる事が出来るだろうか?
『旅に飽きたら、魔王になるなり何処かの国を守るなり
好きに過ごせばいい。一生旅をしてもいいけど……』
-……。
『人と関わっていけよ 刹那』
あの時、僕に命をくれたカイルとの最後の会話。
どういう気持ちで、僕に人と関われって言ったんだろう。
わからない。わからないけれど。
わからないから、年長者の言う事は聞いておくべきだろう。
年長者が2人、同じ事を言うのだから……。
読んでいただき有難うございました。





