『 狩 : 後編 』
* オーバルト視点(奴隷商人)
* エンディア : 月の神
散々、コケにされたことから
奴だけは、許さねぇと思っていた。
体の痛みよりも、駆け出しの若造の手の上で踊らされていた事が
俺の矜持をこれでもかというほど傷つけたからだ。
そう、俺達が商品を失ったのも
死ぬような思いをしたのも
出口のない森を彷徨っていたのも……。
全て、奴のせいだと思うと奴に対する恐怖より憎しみの方が勝った。
奴には俺達を殺す事はできない。
俺達を殺す度胸はないだろう。
少しぐらいは、怪我をするかもしれないが
その怪我も、後に俺達に有利に働くと考えていた。
それに、奴が纏う空気が荒々しさとはかけ離れていたし
人を殺した事はないだろうと思わせた。
奴が獣人と、どんな取引をしたのかはしらないが
奴が手に入れたいものが、ガキの首輪の鍵。
そして引き出したい情報が、ガキを浚った方法だと踏んでいた。
俺達が首輪の鍵を持っていれば
奴隷商人だという証拠になり、ガキの首輪も外せただろうが……。
だが、俺達の手元に鍵はない。
最悪、全てを奴に話したとしても、証拠がないから罪には問われない。
商品も手元にないからだ。
だから、薬の効果が切れ
朝になれば、俺達の状況は変わると信じて疑わなかった。
それまで、黙秘をしていれば時は過ぎるだろうと……。
魔導師でもある奴が、魔法を使い俺達を痛めつけたとしても
耐えるだけの自信はあった。
奴は最終的に、俺達の身柄を獣人に渡すといっていた事からも
耐え切れば俺達の勝ちだと、今ここで奴を痛めつける事はできないが
商人を目指すならば、必ずどこかで奴の情報が手に入るはずだ。
その時に、不幸のどん底へと落とす方法を想像しながら
溜飲を下げていたのだった。
あの目を見るまでは……。
そう……あの目を見るまでは、奴に復讐することを考えていたのだ。
あの目、無機質な感情を宿さない瞳。
苦しんでいるハーゲンと、得体の知れない魔法を目の当たりにして
体から血の気が引いていった……。あれが俺にも向けられるのか?
苦しむハーゲンと奴を見ていた。
奴の質問に、従順に答えるハーゲンが虚ろな目で関係のない事を
話し出す。ガーディルでは珍しくもない話だ。
その話を聞いていても、奴の目には何の感情もうつしていなかった。
獣人の女の話から、男の話へと移ろうとした瞬間
奴が凄まじい殺気を放つ。そしてその目は
絶望に落ちきった奴が見せる色に近い色を持っていた。
暗い光。他の色が混ざる余地がないほどの憎悪……。
なぜ……たかが獣人の話で
ここまでの感情を浮かべるのかがわからなかった。
だが、ハーゲンは……いや俺達は何か踏んではいけないものを
踏んでしまったのかもしれない。
カタカタと震える体。
殺される事はないだろうと思っていた。
だが……先程向けられた殺気を知ってしまった今
殺されるかもしれないという恐怖が腹のそこから這い上がる。
この瞬間、奴に復讐するという思いは消え
いかにして、この場から逃げ生き残るかを考える。
恐怖に体が震えながらも、必死になって頭を働かせた。
失敗すれば死ぬ……。
奴が殺気を見せたのは一瞬。そしてまたすぐ感情を消す。
ハーゲンが怯え使い物にならないと知ると、フゼイルに視線を移した。
「フゼイルさん。
貴方方が使っている隠れ家の場所を全て教えてください」
答えさせてはいけない。情報を渡せば渡すほど死に近づく。
咄嗟に、俺は口を開いてた。
「まて……まってくれ」
「……」
「と……取引をしようじゃないか」
「取引?」
「そうだ。お前にとっても悪い話じゃない」
嘘をつけないことは、奴が一番知っているはずだ。
俺の言う事が本気だと言う事は、気がついてるはずだ。
思案するように、俯く奴に手ごたえを感じ
うまくいくかもしれないという期待に、口角が上がった。
顔を上げた奴は、鞄から机を取り出した。
あの鞄が何でも入る鞄だと聞いてはいたが……驚きは隠せない。
机の上に、地図のようなものを2枚置くが
その一枚を魔法を使ってフゼイルに渡した。
深く椅子に腰掛け、足を組む様は何処かの国の王子のように尊大だ。
その様子に苛立ちを感じながらも、放たれた殺気を思い出し
反抗しようという気にはならなかった。
「フゼイルさん。その地図には縦と横に数字が振ってありますよね?
隠れ家の場所をその数字で教えてください。例えば……。
1の5南寄りとか……中央とか。最初の数字が縦の列。次が横の列です」
「……わか……た」
「おい! まってくれ!
取引の話は……」
取引をしたいと言ったにもかかわらず
奴はフゼイルと話を進めようとしている。
奴の右手には、ペンが握られていた。
「大丈夫ですよ。隠れ家の場所を聞きながら
オーバルトさんの話を聞くぐらいは造作もありません」
「……くっ……」
片手間に……俺の話を聞くというのか。
「フゼイルさん、どうぞ。
オーバルトさんも、どうぞ?」
フゼイルが声を震わせながらも、隠れ家の位置を奴に教えていく。
フゼイルが全てを言い切る前に、奴の興味をこちらに向けなければ。
「お前は商人になりたいんだろう? 店を持ちたいんだよな?」
「……」
「俺はキリーナ商会の一員だ。お前をキリーナの傘下に置いてやってもいい。
悪い話じゃないだろう? お前の店も俺が用意してもいい。
土地も店も俺が金を出す……どうだ?」
俺が提示した条件に、フゼイルが目を見開いていた。
「仕入れも融通してやるし、他の商人ともつなぎをとってやる。
お前の夢がすぐに叶う」
「フゼイルさん、次へいって下さい」
こちらに少しも視線をよこさずに、机の上の地図を見て
位置を書き込んでいる奴に、焦りが生まれる。
商人になろうという奴にとって、この話は最高の条件のはずなのに。
「商人を目指すなら、キリーナ商会を敵に回すことが
どれ程愚かな事か、わかるだろ?」
大きな商会を敵に回せば、それだけ商売がやりにくくなるだろう。
ここでやっと、奴が俺に視線を向けた。
「別に、他の商会と手を組めばいいのでは?」
「……」
「僕はガーディルに戻るつもりはありませんし」
「戻る……?」
「僕はガーディルに住んでいましたから」
「……」
「……」
「オーバルトさんの話はそれだけですか?
フゼイルさん、続けてください」
「……お前は何処で、店を持ちたいんだ?
クットか? サガーナか? よその国にも多少は融通が利く
そこで出せるように、手を尽くしてやる!」
「4の3の位置をもう少し詳しく……」
「……北西の……ほうだ」
「おい!」
俺の声に、奴がため息をつき俺を見た。
「僕は先程、茶番劇は終わりにしようと言いました」
「……」
「僕は、商人になるつもりなどありません。
なので、店を持ちたいとも思いません」
「え……?」
俺ではなくフゼイルが、信じられないというように声を出した。
「なので、貴方の話に何一つ魅力を感じない」
「なにを……」
こいつは何を言っているんだ?
あれほど、目を輝かせて商人になると店を持つ事が夢だと言っていたじゃないか。
「あれは全部嘘ですから、本気にされても困ります」
奴の言葉に、一瞬頭の中が白くなる。
楽しそうに、熱心に夢を語っていた表情も言葉も全部嘘だというのか?
それこそ嘘だろう……?
「なにを……なにを……。
じゃぁ……その情報をどうするつもりだ……。
お前が金儲けの為に、使うつもりじゃなかったのか……」
「……」
「何に使うつもりだ!」
「その前に、オーバルトさんは取引と言っていましたね
僕に何を要求するつもりだったんですか?」
「……俺とハーゲンとフゼイルの命の保障だ」
「ああ……そんな事ですか」
「なっ」
そんな事? 俺達の命がそんな事だと!?
「最初に言いませんでしたか?
貴方方の身柄は、獣人族に渡すと。
その点だけは、安心してもらっていいですよ。
僕は貴方方を殺しませんから」
そう言って奴は目を細めて笑う。いや哂った。
感情のない瞳で哂った。背筋が凍りつくような不安が背を這い上がる。
まるで、ここで命を落とした方が幸せなのにと言われたような……。
「フゼイルさん、これで全部ですか?」
「ああ……」
「……」
嫌な感じが離れない。不安が体全体にまとわりつくほどに
冷静な思考からかけ離れていく。ここでどうにかしなければ。
「おい、お前はガーディル出身なんだろう?」
「さぁ……」
「俺達は同族だよな」
「……」
「同族で同郷だ……」
「……」
「見逃してくれないか?
お互い全てを水に流して、いい関係を築かないか?」
「……っ」
俯いた奴から小さな声が漏れる。
もともと甘い考えの奴だから、ここで絆されてくれれば
この嫌な感じが消えるかもしれない。だが聞こえてきたのは笑い声だった。
「あは、あはははは。
水に流す? いい関係? 今更ですか?」
笑っていても、目の中に感情は浮かばない。
「散々人を殺そうとしておいて?
いい関係を築こうなんていうんですか?」
「それ……それは、お前が同郷だとしらなか……」
「同族とは、ずいぶんと都合のいいものなんですね」
「……俺達も切羽詰っていた」
「寝言は寝てからも言わないでください。
迷惑ですよ」
冷たく言い放つ奴に、それでも俺は食いつくのを止めない。
止めれば、絶対的な何かに捕まってしまう。
「神……神の教えにもあるだろう」
「そうなんですか?」
「ガーディル出身なら、エンディア神に祈りを捧げるだろう」
「僕は神などに祈った事はない」
切り捨てるような奴の言葉に
俺もフゼイルも頭を抱えて震えていたハーゲンでさえも
奴を凝視する。静寂が辺りを支配し、そこに響くのは奴の声。
「僕は神など信じた事はない」
「……」
「……」
「……」
「どれ程祈った所で、その祈りが届く事はないんですよ。
祈るだけ無駄だと思いませんか?」
「な……」
言葉が出ない。神を信じていないなどと言葉にする奴を見たことがない。
神は身近にいて、俺達が生活できるこの世界を与えてくれた存在だ。
「信仰心を否定する事はしませんが……。
僕に同じものを求められても、僕には信仰心なんてありません」
はっきりと言い切る奴に、誰も口を開けない。
本気か? いやこれが嘘だったとしても神の事を悪く言うのはありえない。
「さて……オーバルトさん。
これから僕の話す事に、間違いがあれば訂正してください。
間違っていなければ、口は開かなくても結構ですから」
「……」
俺と同じ事を、きっとハーゲンもフゼイルも思っているはずだ。
神を信じない人間はいない……。こいつは人じゃない。
コクリと唾を飲み込む。奴から離れるべきだ。
どんな情報を渡したとしても。
奴が俺達から引き出した情報を使って金儲けをしたとしても
関わるべきではないだろう。命があればまた、金儲けは出来る。
一からやり直せばいいことだ。そう命さえあればなんでもできる。
「貴方方は、キリーナ商会の商人の馬車でサガーナに入り
途中で降り別行動をし、獣人の子供を浚い追っ手をまくために
隠れ家で数日過ごす。その後、帰りの商人と待ち合わせ場所へと移動し
ガーディルに帰る商人と一緒に馬車に乗って帰る」
「……」
「食料が多いのは、待ち合わせの場所で数日過ごす事も
加味してですよね? 待ち合わせ場所の隠れ家にも食料等が置いてある」
「……なぜ……そこまで」
フゼイルが、小さく呟く。
その呟きは奴に聞こえていたようだ。
「情報がそろえば、誰にでもわかることでしょう?
大きな組織なのに、情報の漏洩がないというのはすごい事ですね。
いや……大きな組織だからでしょうか? 裏切ると怖そうですし」
「……」
「獣人達は魔力がない。だから体臭を消すと後を追えない。
その体臭を消す魔法を体に刻んでいるとは、思いませんでしたけどね」
「……」
「サガーナからクットへの検問も
キリーナ商会だというのなら、そう詳しくは調べないんでしょう。
キリーナの息のかかった人などもいそうですね」
口を開くのが怖かった。人でない何かと一緒にいるというのが
俺達の精神を何処までも削っていくような気がした。
早く、早く、早く、早く、一刻も早く奴から離れたい。
だから、奴の言葉で心のそこからほっとしたのだった。
獣人に渡されるなら、俺達は無事に国に帰れるのだから。
「そろそろお開きにしましょうか。
聞きたいことも聞き終わりましたし……。
僕の魔法で暫く寝てもらいますね。
目が覚めたら多分牢屋? だと思います」
「……」
早く開放してくれ……。
もう暫くは帰れないだろうが、妻と子供の顔が見たい。
家に帰って、心のそこから安心したい。
ハーゲンとフゼイルを見ると、2人も憔悴した顔つきをしていたが
目の中には、光が戻りつつあった。
そんな俺達に、奴は静かな声でこう聞いた。
「獣人族から解放された後、何処へ行くんですか?」
何処へ……?
「僕は、クットにも、ガーディルにも帰るのはお勧めしません」
「どう……いう……いみだ」
嫌な予感がする。
なぜ、奴は獣人から解放されると知っている……。
「いえ、一応同族らしいので忠告はしておこうかなと」
「何を……だ」
自分の心臓の音が嫌にでかく聞こえる。
「僕は、この情報を獣人族に渡します」
俺達の目が見開き奴を見る。
「貴方方が牢屋に入っている間に、全ての隠れ家がつぶされるでしょう」
「ま……まて!」
ハーゲンが叫ぶ。
「今も、その隠れ家で迎えに来る商人を待っている人もいるでしょうね?」
「止めてくれ!」
フゼイルが、泡を吹きながら叫ぶ。
「その場にいる奴隷商人が
言い逃れが出来ないぐらいの証拠も見つかるんでしょうね」
「待ってくれ!」
「そうなると、誰がこの情報を流したのか?
というのが問題になってくるはずです」
「止めろっ!!」
「真っ先に疑われるのは貴方方だ。
緊急用の魔道具も飛ばせませんでしたしね」
ハーゲンとフゼイルが顔色をなくしながら奴に懇願しているのを横目に
俺は恐怖も忘れ、奴を見据えた。
「……俺達が流したという証拠はない!」
そうだ、国に帰ればどうにかなる。
どうにかしてみせる。
「死ななければ、どうにでもしてみせる!」
俺の言葉に、奴は小さな声で笑う。
「どうにでもですか……。
嘘がつけないのに……?」
「……」
「もしかして、その薬が明日の朝には抜けていると思っていますか?」
どんな薬でも、一日は持たないはずだ。
「貴方方が飲んだ薬はとても貴重なものですよ。
竜の血が混ざっていますからね。体力も気力も魔力も充実しているでしょう?」
奴の言葉に、自分の耳を疑う。
「うそを……つくな」
「嘘じゃないですよ。あの薬は嘘をつけなくする効果と
傷を治療し、体力を向上させる効果があるんです。
だから、ハーゲンさんの肩の傷も顔の傷も綺麗に治っているでしょう?」
ハーゲンを見ると、綺麗に傷が消えていた。
「竜の血というのはね、魔力回復と持続効果
そして、ほんの少し薬の効果を向上させることが出来るんです。
万能薬といわれているのは、それがどのような薬にも適応するからなんですよ」
「うそだ……。
そんなものが……手に入るわけがない」
奴の言う事は、嘘だ。
頭では嘘だと思いながらも、体がそれが真実であると語っている。
「飲んだ薬の効果は、最低でも3年」
「うそだといえ!」
「僕は逃げる事をお勧めしますね」
「嘘だといってくれ!!」
聞きたくない情報に、耳を塞ぐ事も出来ない。
「話を聞かれると、本当の事しかいえない」
ハーゲンとフゼイルの目はもう絶望に落ちている。
「その時は……お前も道連れにしてやる……」
「どうやってですか?」
「ありのままを告げる」
「僕の名前も知らないのに?」
「な……に……?」
「本名を名乗るわけなんてないでしょう?
それに、貴方方が目を覚ました時
僕の顔も姿も声も思い出せません」
「そんな事出来るはずがない!」
「できるんです。少々値は張りますが……。
闇魔法の魔道石を持っていますから。
自分の身を守るためですから、出し惜しみする事はないですよ」
「ふざ……ふざ……」
混乱しすぎて、言葉が思い浮かばない。
「貴方方は、僕の偽名しか覚えていない。
どんな姿をしていたか、性別はときかれても答えられない。
体に傷一つついていない。それでは、信じてもらうほうが難しい」
「……」
「薬の効果は、知られないようにしたほうがいいです」
「……」
「拷問にかけられても、傷が治りますから
ずっと苦しみます。そう簡単に死ぬ事も出来ない」
「たのむ……」
「高値で売られるかもしれませんね?
普通の奴隷より何倍も働く事が出来る」
「解毒薬をもっているんだろう!?
それを、それを渡してくれ。なんでもする。
金ならいくらでも払う!!」
捕まった時の想像をして、体に力が入らない。
土下座に近い姿で奴に懇願するしかない。
この先待っているであろう未来を思うと
絶望が這い上がる。
「なので、僕は獣人族から解放されたら
逃げる事をお勧めします」
「俺には、妻と子供がいる。
俺の帰りを待っている家族がいるんだ!」
「……だから?」
「……だから……?」
何故ここでだからという言葉がでる?
「貴方達が浚った子供にも、家族がいた。
子供は泣いてこういいませんでしたか? お家に帰してって
お父さん、お母さんって泣いてませんでしたか?」
「今は獣の話などしてないだろう!」
「獣ね……」
「解毒薬はあるんだろう?」
「まぁ……家族の元にも帰らないほうがいいですよ。
貴方方の家族が、何処の国の人かは知りませんが
貴方方が、本当のことを告げているとは思えませんから」
会話が成り立たない。
俺の話を聞いていない。
「……は……はっ……はっ……」
呼吸が苦しい。
絶望で押しつぶされそうだ。
「些細な嘘もつけないというのは
結構、大変ですよね?」
獣人から解放さても、行く場所がない。
帰る場所がない。キリーナは裏切り者を許さない。
3年後薬の効果が切れたとしても、見つかれば奴隷にされるか
殺されるかの二択しかない……。
一生、逃げ回るしかない!
「解毒薬をくれ!
頼む! 助けてくれ! 頼む! 頼む!!」
「僕からの忠告は以上です」
「頼むっ!」
矜持も何もかもかなぐり捨て、必死に懇願するが
奴には何も届かない。
「それでは、もう二度と会うこともないと思いますが……」
届かない。助からない。簡単に死ぬ事も出来ない。
憎い! 憎い! 憎い!! 幸せを奪っていく奴が憎いぃ!
「殺す! 殺してやる!! 殺してやるからな!!!」
「僕を覚えているのならどうぞ」
人の皮をかぶった悪魔。そう悪魔だ。
「悪魔! 悪魔めぇぇぇぇ!!!」
俺の言葉に対し、奴は深く椅子に腰掛けなおし
足を組み、指を組んだ手を膝の上に軽く載せて笑った。
見惚れるほど綺麗な笑い。そして静かな声でこう告げた。
「さようなら」
何かが壊れる高い音と共に、俺の意識はそこで途切れた。
読んでいただき有難うございました。