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刹那の風景 第二章  作者: 緑青・薄浅黄
『 ハイドランジア : 冷酷 』
42/117

『 狩 : 中編 』

* 残酷描写あり。

* 奴隷商人視点。

「貴方方が、奴隷商人だ」


セナの断定した言葉に、乾いた笑いが漏れた。頭がおかしいのか?

こいつの言っている全ての意味が分らない。


「セナさん、言っていい事と悪い事がある」


「そうだぜ」


うまく話が流れていたと言うのに、頭のおかしいこいつのせいで

手間が増えた事に、苛ついた。こいつの目に浮かぶ色も気に喰わない……。

狩られるのはお前で、俺達じゃぁない。


「では、どうして僕が狼の村を訪れたことを知っているんですか? 

 浚われた子供が、どうして狼の村の子供だと? 僕は一言も狼の村の事は

 話していない」


先程の会話を思い出し、口を滑らせた事に内心舌打ちしながら

白を切った。


「そんな事言ったかな?」


俺は、ハーゲンとフゼイルに視線をやり尋ね

その時に、左手で左耳を触る。"隙を突いて狩る"という合図を送る。


いいかげん、善良な振りをするのも飽きた。

不思議な水を飲んだからか、全てが充実している。

武器も持っていないこいつなら、簡単に押さえ込めるだろう……。


ただ、奴隷の首輪を持っていない事が悔やまれる

絶望に落ちる瞬間の瞳の色を、見る事が出来れば胸がすくだろうに。


「聞き間違いじゃねぇか?」


「聞き間違いだろ?」


「……聞き間違い?」


「そうだ、聞き間違いだよ。セナ君、私達を信じて欲しいな」


信じてそして、絶望の中へ落ちろ……。


「では、お聞きしていいですか?」


「何でも聞くといい」


「貴方方は、奴隷商人ですよね?」


しつこい奴だ……。

一瞬そうだといったら、どういう表情を作るのか

見てみたい気もしたが、面倒なので止めた。


「いや、違うよ」


「奴隷商人じゃねぇ」


「違うぜ?」


俺達全員が、違うと返事を返した。

大体、馬鹿正直に答えると本気で思っているのだろうか?

余りにも、気の毒な頭の構造をしているこいつに哀れみを感じる。

まぁ、頭が弱い方が俺達にとっては都合がいいんだが。


「そうですか、僕は貴方方が嘘をついていても分らない」


だから、信じる事にしますと、今まで騙してきた奴らと同じような

言葉が続くとだろうと予想できた。

今まで騙してきた人間同様、何時ものように言葉が続くと思っていた。

だが……。


「嘘をついていないなら、苦しむ事もないでしょう」


理解できない返事に、ハーゲンやフゼイルが首をかしげる。

俺が、聞き返すと同時に奴が地面に刺してあった魔道具を抜いた。


「どういうい……」


そして、奴が魔道具を抜いた瞬間、凄まじい痛みが体中を襲う。

俺の声なのか、ハーゲン達の声なのか分らないぐらいの叫びが

静寂の森の中に響く。響く……。


痛い、苦しい、そんな言葉が頭の中をグルグルと周り

そう考えている事すら、わからなくなるほどの痛みが駆け巡る。

目を見開き、これ以上声は出ないというほどの声を上げ少しでも

この痛みを逃そうと、地面をのた打ち回ることしかできない。


楽な体勢などない、意識がなくなってしまえば

いや……いっそ殺してくれた方がと思うほどの苦痛が俺を支配していた。


「- 痛みを封印 -」


静かな声と何かが壊れる高い音と共に、痛みが消え

俺も、後の2人も、痛みの余韻を歯を食い縛り耐えた。


「どうやら、貴方方の答えは嘘だったようだ」


聞こえてきた声に、視線だけを動かし奴を見つける。

先程とは全く違う、奴の目の色に血の気が少し引いた。


"苦しむ事もないでしょう" 奴はそう言った。

ということは、あの凄まじい痛みはこいつのせいか……。


何時の間に奴が、立ち上がっていたのかは知らないが

涼しい表情で、自分の鞄から椅子を取り出し座りやがった。


その態度に、その表情に、体力が戻ってくるにつれて、フツフツと怒りが湧き上がり

こんな若造に……なめられてたまるかという気持ちが心の奥底から沸きあがる。


「貴様……こんな事をしてただで済むとおもってるのか」


「それが本性ですか?」


「……」


「まぁ、どうでもいい事ですね」


「俺達に何をしやがった……」


「特には何も」


確かに、奴は俺達に何もしてはいない。

先程の言葉は、呪文のようだったが怪しい魔法をかけられた覚えはない。


怪しいものといえば1つだけ、しかしそれは奴も口をつけていたはずだ。

だが、色々思い返してみるが怪しいものはあの不思議な水以外なかった。


「俺達に何を飲ませやがった……」


殺気を放ち、威嚇するように声を出すが

奴は、歯牙にもかけない。


「飲ませた? 冗談は止めてください。

 貴方方が、水を飲ませてくれといってきたんでしょう?」


「……」


「僕から飲みますかとは、一言も言ってませんよね?」


そして少し遠いところを見て、意味の分らない言葉を話す。


「結構時間がかかりましたね。

 流石に、ドン引きされた視線は苦痛なんですが……」


俺達にむけて話しているのか、いないのか

誰も居ない空間に向けて、話す奴が不気味に映る。


椅子に座り足を組み、俺達を見下すような奴の態度

そして、奴の受け答えの全てが気に入らない。


隣にいるハーゲンも、歯軋りをしながら腰に隠してある短剣をつかんでいた。

隙を狙って、投げるつもりなんだろう。


「そろそろ、体力が回復してきましたか?」


奴の言葉の通り、体力は戻りつつある。

痛みももうほとんどない。そろそろ動けるだろう……。

ハーゲンを見ると、ハーゲンが軽く頷いた。


「立ち上がらずに、座ってくださいね」


「ふざけんじゃねぇ!」


奴の言葉に、ハーゲンが吼えるように声を上げ

それと同時に短剣を投げつけた。


思わず笑みが浮かぶ。この距離で椅子に座っている奴が、短剣をよける事は不可能だ。

"死ね!" 呪いの言葉を思い浮かべ、短剣が刺さる瞬間を見逃さない為に奴を見る。

だが、奴は表情一つ変えることなく椅子に腰をかけたまま、動こうともしなかった。


そして、高い音がしたと同時に奴に届かず地面に落ちた短剣……。

俺も、そしてハーゲン達も呆然と落ちた短剣を眺める。


「武器を投げても無駄ですよ。短剣はお返しします」


そう言って座ったまま武器を拾い上げ、軽く投げ返された短剣が

ハーゲンの肩辺りに吸い込まれるように刺さる。


短剣が刺さった痛みに、ハーゲンが呻くように声を出すが

その痛みよりも、奴に対する怒りの方が強いのだろう。


「くそがっ!」


ハーゲンが、肩から短剣を抜き立ちあがり奴に短剣を向ける。

ハーゲンの目は血走り殺気を撒き散らしていた。


「僕は座ってくださいと言ったはずですが?」


「うるせぇ!」


ハーゲンが動くと同時に、奴の声と高い音が響いた。


「- 捕縛 -」


すると、ハーゲンが崩れ落ちるように座り込む。

必死になって立ち上がろうとするが、動けないようだ。


「何をしやがった!」


憎憎しげな目で、奴を見るハーゲン。


「魔道具を使って、動けないようにしただけです。

 オーバルトさんも、フゼイルさんも動けません」


どうやら、度々聞こえていた音は使い捨ての魔道具が壊れる音だったようだ。


正直奴をなめていた。

そのつけが、今ここに現れたのだ。自分の甘さに反吐がでる。


「時間もないので、さくっと僕の質問に答えてください」


「……」


「ちなみに嘘をつくと、先程の痛みが体を襲います」


「貴様は、俺達に何を飲ませた」


「僕のせいにするのは止めて欲しいんですが」


「答えろ!」


飲まされたものが何なのか、答えを聞き出すまでは

ずっと同じことを聞いてやる。そう心に決めたのだが

すんなりと、奴が俺の質問に答えを返した。


「貴方方が飲んだのは、簡単に言えば一切嘘がつけなくなる薬です。

 嘘をつかず、正直に答えれば何の害もありません」


「……」


そんなものがあるなんて聞いたことがない。

聞いた事はないが、実際に強烈な痛みが体を襲うことから

一種の拷問用の薬なのだろう。


「貴方の疑問が解決した所で、僕の疑問も解決してくださいますか?

 首輪の鍵は誰が持っているんでしょうか?」


「……」


そうか……奴の狙いは首輪の鍵か……。

奴は獣人と何か取引をしたに違いない。


「ガキから聞かなかったのか?」


「何をですか?」


「首輪の鍵は……」


「鍵は?」


「……」


思わずないと言ってしまうところだった……。

本当はあるのだ、ないといってしまえば嘘をつくことになる。


「鍵がないなんて事は言いませんよね?

 なければ商品としての価値がさがるんですから」


「……」


「鍵は誰が持っているんですか?」


「……」


「……」


「……」


嘘をつくことで、体に痛みが走るなら

何も答えなければいい。口を開かなければいいことだ。

奴は時間がないといった。時間が立つと薬が切れるのだろう。


今の所、妙な薬の効果は嘘をつけないということだけ

のらりくらりと話をしながら、時間を稼ぎ薬の効果が消えれば勝機はあるだろう。

フゼイルが、魔法を無効化する魔道具を仕込んだ指輪を使うのが見える。

後数分もすれば、奴の魔道具の効果は消えるはずだ。最後に勝つのは俺達だ。


「黙秘……ですか?」


「……」


俺達は視線だけで会話し、口を開かない事に決めた。

奴は思案するような表情を浮かべ、俺達を見る。

ざまぁみろ。


「もう少し簡単に、答えてもらえると思っていました。

 あの痛みを経験してなお、そこまで反抗できるというのはある意味尊敬しますね」


「……」


奴は一つため息をつき、右手で髪をかきあげた。

何かを悩んでいるようで微動だにしない。奴が俺達から視線を外している間に

体の束縛が消えている。フゼイルの魔道具がちゃんと発動したようだ。


奴は俺達が動けないと思っているのだろう、隙だらけで何かを考えいてる。

3人で一気に殺そうと思っていたが、殺すだけじゃ飽き足りない……。

苦しめて、苦しめて、死んだ方がましだと思わせてから殺す。


2人に目で合図を送り、俺とハーゲンは指輪に仕込んである捕縛用の魔道具を

起動させた。心の中で数を数え俺の合図と共に俺とハーゲンは奴に対して

魔道具を向け捕縛する。フゼイルは捕縛した奴の上に乗り首元に短剣を押し当てる。


はずだった……。


そのはずが、先程まで動いていた体は今は指一本動かす事ができない。

俺達にかかっていた魔法は解けていたはずだ。魔道具は正常に起動した。

なのになぜ、なぜ! 動けない!


「あは、あはははは」


突然聞こえた笑い声……。

呆然とする俺達を眺めながら奴がおかしそうに笑った。


「何がおかしい!!」


こちらの神経を逆撫でする様な笑い声に、殺気をこめた言葉を放つ。


「いえ、余りにも僕が思い描く通りに行動してくださるので

 思わず笑ってしまいました」


「何を……」


何を言っている? 俺達の疑問に奴は口元に笑みを浮かべながら答える。


「僕は魔導師なんですよ」


「魔導師……? 貴様、商人じゃなかったのか!」


「商人でも魔法を使える人はいるでしょう?」


「……」


「それとも、僕は貴方方に全てを話さなければいけなかったんでしょうか?」


「ぐっ……」


「僕は、魔力感知は得意な方です。

 だから、貴方方が数種類の魔道具を持っている事は知っていた。

 だけど、その魔道具をどう使うのかを見てみたかったんです。

 貴方方が狩り……獣人族を捕らえる方法はどういった方法なのかを知りたかった。

 付随して、貴方方が使う合図なり行動なりを知る事もできました」


満足そうに微笑む奴に、俺は奴に泳がされていた事に気づく。

全てが奴の演技だったのか? 悩む様子も……見せた隙も……。

俺達は奴の手の平の上で踊っていたのか?

憤りと同時に、得体の知れない奴に対して恐怖が芽生える。


「さて、そろそろ僕の質問に答えてもらいましょうか?

 足掻くだけ足掻いたのなら諦めもつくでしょう?」


奴の言いように、喉から唸る様な声が漏れる。


「答えると思うか?」


「答えてもらいます」


嫌な汗が背中を伝うが、奴に対する憎悪が俺を支えている。

必ず奴を殺してやる……。


「調子に乗るなよ若造が」


「貴方方の命は、僕が握っていると考えないのですか?」


「殺したいのなら殺せばいいだろう?」


奴に俺達は殺せない。奴との会話からそう感じた。

奴が欲しいのは鍵とそして情報だ。俺達を殺せば両方手に入らない。


「……」


奴から返事が返らない事で、俺の考えが正しい事を裏付ける。

奴は俺達を殺せない。


魔道具を使いきった今、俺達が出来る事は時間稼ぎだけだ。

飛ばした魔道具が、人を連れて俺達の元へ戻ってくるまで時間を稼ぐしかない。

朝になれば、人が通りかかる可能性もある。


「動きを封じられている上に、魔道具も使い果たしているのに

 何故そこまで、楯突く事ができるんでしょうか……?

 貴方方にとって、この状況を打破できる何かをまだ持っているんですか?」 


「……」


「また、黙ってしまうんですか?」


「……」


誰が教えるか。


「うーん」


「……」


「もしかして、貴方方の希望はこれでしょうか?」


「……」


よく分らない事を言いながら、奴は懐から何かを取り出すと

それを俺達に見せた。奴が持っているもの……。

それは、5日前に俺達が飛ばした緊急用魔道具だった。


「なっ……」


なぜお前がそれを持っている……。

そう問うつもりが、声にならない。

ハーゲン達は目を見開いて、息を呑んでいた。


「僕が張った結界に引っかかっていたんですけどね」


どういうことだ……。どういう……。

頭を何かで殴られたような衝撃に、思考がうまくまわらない。


「貴方方が、8日間彷徨っていた場所は

 僕が作り出した結界の中だったということです」


「何を……言っている」


「そろそろ、種明かしと行きましょうか?

 茶番劇にも飽きました」


「茶番劇……?」


「ええ……貴方方も僕を騙す為に演じていたでしょう?

 善良な商人という役柄を、僕も似たようなものです」


「……」


奴の手の中にある魔道具から目を離す事が出来ない……。

今日まで、俺達を支えてきたものだ。それがなぜ、奴の手の中に……ある?


「僕は、狼の村に向かう途中で貴方方を見かけた。

 貴方方が抱えていたものが、獣人の子供だと分ったので

 貴方方に魔法をかけて、その子供を保護しました。

 最初から僕は、貴方方が奴隷商人だということを知っていた」

 

奴の告白に、体が震える。

体中の血という血が沸騰し、頭に集まっていく。


最初から全て、全て……こいつが仕組んだ事だったのか?

俺達と同様、奴も俺達を騙していたのか? 奴の言葉がよみがえる。


"いえ、余りにも僕が思い描く通りに行動してくださるので

 思わず笑ってしまいました" この言葉は、先程の事だけではなく……。

きつくかみ締めた歯から音が鳴る。


全ての出来事が、こいつのこいつが仕組んだ事なのか!

俺だけでなはく、ハーゲンもフゼイルの形相も凄まじいものになっていた。


「保護だ? 俺達の商品を奪い

 己の交渉につかったんだろう? だが、ガキには首輪がついていた

 だから、俺達から鍵を奪おうってんだろう」


「貴方方と一緒にしてもらいたくないですね。

 子供はちゃんと、親元に帰しましたよ」


「俺達が奴隷商人だと知っていたなら

 何度もしつこく、奴隷商人か確かめる必要などなかっただろうが!」


「あぁ、あれは薬の効果を体験してもらいたかっただけですから」


話せば話すほど腸が煮えくり返る……。

それでも、浮かんでくる疑問を口にせずにはいられなかった。


「俺達を閉じ込める必要がどこにあった!

 商品だけ持っていけばよかっただろうが!」


「僕は、保護したといったんです。貴方方の故郷はクットなのでしょう?

 サガーナでもクットでも誘拐は犯罪です。

 犯罪者を野放しにするわけがないでしょう?」


「貴様っ……」


「あの修羅場の中で、中身を入れ替えられたとも知らず

 必死で袋を運んでいたようですが、ご苦労さまでした」


そう言って奴は笑う。嘲りの表情を浮かべながら哂った。


「- 朽ちろ -」


奴のその一言で、緊急用の魔道具が壊れる音が響いた。

本当に魔法が使えるようだ……今まで魔道具を使っていたのは

俺達を嵌める為……か……。叫び、殴りかかりたい衝動が体中を駆け巡るが

体が自由に動かない。その事がまた、俺の怒りを煽る。


奴が魔道具の残骸から俺達に視線を移し、ゆっくりと口を開いた。


「貴方方は、僕の質問に答えるしか道がない」


奴の哂いに……奴の言葉に。

目の前を赤く染めるような怒りが更にわき

俺は奴の言いなりにだけはならないと誓った。


落ち着け……冷静になれ。奴に飲まれるな!

助けがこない今、自分達でこの状況を打破するしかない。

そう心の中で繰り返し、折れそうになる心を必死で立て直す。


「……答えた後、俺達をどうするつもりだ」


「狼の村の人達に渡します」


奴の言葉に、思わず顔が緩みそうになるのをこらえた。

少しだが希望が見える。奴はクットとサガーナの取り決めを知らないらしい。


今の俺達に奴隷商人だという証拠はない。奴が証言しても受け入れられる事はない。

それに、妙な薬を飲まされて自供を強要されたといえばいいことだ。


道は閉ざされていない……。

最後に笑うのは俺だ。最後に笑うのは俺達だ!

そう自分に言い聞かせ、心の中から恐怖を追い払った瞬間

ハーゲンの怒鳴り声で、我に返り自分の思考から抜け出した。


「答えるわけがねぇだろ! くそがっ」


どうやら、奴がハーゲンに質問に答えろと告げたようだ。

ハーゲンの暴言に、奴が目を細めながら声を出す。


「僕は貴方方が少し、羨ましいですね」


厭味か……?


「貴方方のその根性は見習いたい所です……が

 僕も暇ではないので、ハーゲンさんに答えてもらうことにします」


「……」


「ハーゲンさん、首輪の鍵は誰が持っているのですか?」


「……」


ニヤニヤと笑いながら、口を閉じるハーゲン。

だが、その笑いが苦悶の表情に変わっていく。


顔を真っ赤にし、口をパクパクと動かしているのだが

声がでていない。そして、魔法で縛られている事から

手をつくことも出来ず、顔から地面に倒れこんだ。


地面に顔がこすれる音が響く。


「貴様! 何をしている!」


「黙っていてください。僕は今、ハーゲンさんと話している」


「……!」


そう言って、俺のほうに向けた奴の瞳を見た瞬間

背筋が凍るような恐怖が這い上がる。

何の感情も宿していない、ガラスのような無機質な瞳。


今までとは明らかに違う奴の様子に、フゼイルの顔も蒼白になっていた。


「後ほど……貴方方にも話を聞きます。

 それまで、口を閉じていていただけますか?」


奴が纏う雰囲気とはかけ離れた丁寧な口調が

更に俺の心を恐怖に追い込んだ。俺は唯息を呑むことしか出来なかった。





読んでいただき有難うございました。

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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されました。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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