『 僕と蒼露の精霊 』
少し強めのお酒に、エイクさんが持ってきてくれたおつまみがとてもよくあい
1人で2本も空けてしまった。大体1本1リットルぐらい入ってるのだろうか?
エイクさんは、僕におつまみを渡すとすぐに帰ってしまった。
どうやら、エイクさんたちの夕食を少し分けてくれた形になったようだ。
のんびり飲み始め、時刻はそろそろ10時にさしかかるところなんだけど
なにやら外が騒がしく、バタバタと人が走る音が聞こえる。
"鳥 "を飛ばし、適当に会話を拾ってみると村の近くで魔物が出たようだ。
慌てている雰囲気から、結構強い魔物かもしれない。
ここで大人しくしているか、外に出て手助けするか一瞬迷ったけれど
怪我人がいるかもしれないと思い外にでて、人が集まっている方向へと歩き出す。
5~6分歩いたところで、明かりが見え近づくにつれて怒鳴り声やら
ザワザワと話す声が聞こえてくる。そして、明かりが届く範囲へ入った瞬間
僕の目の前には、それはそれは大きな樹が……枯れていた……。
多分この樹が、蒼露の樹だと思う……。枯れて蒼色の葉はつけていなかったけど。
いや……ほんの一部だけ枯れていない場所があるが…あったというべきだろうか?
その場所は無残にも噛み千切られていた……。
「どうしてお前がここにいる」
地を這うような声を響かせ、ディルさんが僕の側へと来る。
「魔物が出たと耳に届いたので、僕でもできる事があるかと」
「魔物はもう片付けた」
「そうですか」
「お前は戻れ。ここは私達の聖域だ」
ディルさんの言葉に頷くように、僕に厳しい視線を向ける人々。
その中でも一番憎悪に近い視線を向けているのが、土下座に近い姿をして
蹲っている若い獣人だった。
「……」
「おい、聞こえなかったのか?」
「あ、いえ……聞こえていますが……」
枯れかけている、いやほぼ枯れている蒼露の樹をこのままにしておくのも
どうかと思ったのだ。アイリが病気になった時に、この樹がないと困るのではと。
どうも、情がうつってしまっているようだ。
内心苦笑しながら、僕は足元に落ちている枯れた葉を2枚拾うと
1枚は風の魔法を使い癒してみる。そしてもう1枚は、蒼露の樹と呼ばれるものに
時の魔法が使えるのか分からないが、時間を巻き戻してみた。
時の魔法を使ったのは、単なる好奇心からだったけれど。
その結果どちらも、蒼々と輝くばかりの葉になったが……どこか違和感があった。
見た目は同じなのに、何かが違う……そんな感じだ。
しかし僕には何が違うのかが分からない。なぜこんな結果に?
僕は、もう一枚葉を拾い今度は風の魔法を使うように見せかけながら
癒しの力を葉に込めた。すると……3枚とも何かが違う。
「……どうしてだろう?」
思わず呟いてしまう。見た目は蒼露の葉なのに使った力によって
蒼露の葉が変化しているみたいな……。訳が分からなくて自分の思考へ入りかけた時
僕の肩を強く揺さぶられた事で、意識が浮上する。
「おい!」
顔を上げると、ディルさんと視線があった。
「すいません」
何度も僕を呼んでいたのかもしれないと思い、謝罪の言葉を口にする。
「いや、お前は蒼露の樹を治す事が出来るのか?」
ディルさんが僕の手の中にある葉をみて、そう聞いた。
ディルさんの言葉に、僕の手元を凝視していた人達も僕へと視線を向ける。
「……わかりません」
「わからない?」
「魔法を使ってみたんですが、何か違う気がするんです」
「私は、お前の言っている事が分からない」
「風の魔法を使って癒した葉と、時を戻した葉とでは
何かが違う気がするんです。だけど、僕には何が違うのかが分からない」
「私には、どちらも同じに見えるが」
「見た目は同じなんでしょうが……。
違和感が残る限り、蒼露の樹に対して魔法を使うのは
やめたほうがいいと思います」
僕の言葉に、少し落ち込んだような空気が周りを包んだ。
その様子から、僕に対する風当たりが強かったのも人間だという事だけではなく
色々と切羽詰った状況の時に、悪い事が重なってしまい今に至るという事かもしれない。
蒼露の樹は、獣人にとって生命の樹と言っても過言ではないのだから。
「……」
色々知識を漁ってみても、解決策は見つからない。
どうしたものかと考えて、ふと蒼露の樹を見上げる。
精霊の事なら、精霊に聞くのが一番いいかもしれないと思い。
僕は、クッカを呼ぶためにクッカとのラインを繋ごうとした。
その時、僕をずっと睨んでいた獣人から声が上がる。
「ディルさん! 人間が蒼露の樹を穢す前に追い出してくださいよ!」
彼の言葉に数人の若者が頷いた。
その声に、返事を返したのはディルさんではなくエイクさんだった。
「お前らが、手を抜いたから魔物がここまで来たんだろうが。
お前らは、蒼露の樹を治せるのか? 治せないだろうが黙ってろ」
僕を睨む事をやめない彼等のことは、とりあえず後に回して
僕はクッカを呼んだ。
『クッカ、聞こえるかな?』
『!』
僕の声に、クッカの驚いたような気配が僕に届く。
ラインを繋ぐというのは、本当に身近に精霊を感じる……。
クッカは、僕とずっと繋がっていたいようだけど……僕の心の動きがクッカに影響を
与えるだろう事は分かったので、僕はクッカと契約してすぐにラインを切ったのだった。
会話をするだけのラインでも、こんなにクッカの気持ちが伝わってくるのだから。
全てを繋げたら、きっとクッカは僕の感情や心に支配されてしまうだろう……。
契約した下位精霊は、主の心のままに動くらしいが僕はそれは嫌だと思った。
『ご主人様なのですよ!』
『久しぶりだね、クッカ』
『酷いのですよ! クッカとはお話ししてくれないのは酷いのですよ!』
『……』
そういえば、内容はともかくトゥーリとは話をしていたけれど
クッカとは話をしていない。何時も手紙だけだということを思い出す。
『クッカも、ご主人様とお話ししたいのですよ!』
『うん、わかった。ごめんね、クッカ……。
とりあえず、その話は後にして今から僕の側に呼ぶけれど
トゥーリにそのことを伝えてくれるかな?』
『!』
なにやら慌しい気配を感じながら、クッカの返事を待つ。
『大丈夫なのですよ!』
クッカからの返事と同時に、僕はクッカを呼んだ。
ラインを通してではなく、魔法で……。
「クッカ……おいで」そう呟くと同時に、僕のすぐ近くに魔法陣が浮かび
光を放った瞬間、クッカが僕の側に現れた。
「ご主人様!」
「呼び出してごめんね、クッカ」
「クッカは嬉しいのですよ!」
満面の笑みで可愛く笑ってくれるクッカに、僕も思わず笑みを返す。
「そう。ありがとう」
「それで御用は何ですか?」
首をかしげて問うクッカを見て、僕は蒼露の樹に視線を向けた。
その一瞬に、僕をずっと睨んでいた獣人が立ち上がりクッカとの距離を詰め
クッカを抱きかかえ、首筋にナイフを押し当てて後ろへと跳び僕と距離をあける。
「それ以上、蒼露の樹に近づくな……この変態が!
ディルさんも、エイクさんも今聞いただろ?
こんな小さな子供に、ご主人様なんて呼ばせている奴が
まともなわけがない!」
彼の言葉に、項垂れそうになる。敵として警戒していなかった事から
クッカが人質にとられてしまった……。僕が作った指輪をつけている限り
クッカが傷つく事はないけれど、俯いている姿を見ると心配になった。
ディルさんとエイクさんに声をかけようと視線を向けると
2人の顔は蒼白に近く、その事に驚き周りを見ると周りの人達も顔色が悪かった。
僕と、数人の若者以外の顔色が悪いのが気になり僕が動こうとした時……。
背筋を冷たくするような声が辺りに響いた。
「ご主人様を、変態と呼ぶ口はいらないのですよ。
クッカは、クッカが認めたもの以外に触られるのは嫌いなのですよ。
だから、その手もいらないのですよ」
クッカがそう呟くと同時に、クッカの首筋にナイフを当てていた彼の
口と手が石化し……そしてあっという間に、口からしたが全て石に変わった。
抵抗するまもなく、石に変わってしまった彼が自由になる場所は目だけしかない……。
そしてその目は、今は恐怖に見開かれていた。
クッカは石化した彼の腕から飛び降り、僕のすぐ側まで来るが
僕とは視線を合わせない。
彼の友人が、慌しく彼の側により武器を手にかけて彼を守ろうとするが
クッカの言葉を聞いて、驚愕に目を見開き武器から手を離し彼の側から離れる。
「クッカのご主人様を侮辱するのは許さないのですよ。
精霊である、クッカに触れた罪も許さないのですよ」
「クッカ?」
クッカを呼ぶが、クッカは僕のほうを見向きもしない。
「クッカが殺してあげるのです」
そういうと同時に、クッカの周りに数十個のピンポンだまぐらいの水の塊が浮かんだ。
僕はクッカの台詞と魔法に戦慄を覚える。
「自分の体が崩れるところを見ながら、死ぬといいのですよ」
その言葉が合図となったように、クッカの周りにあった水の塊が
一直線に石化している彼に向かって飛んで行こうとした。
「- 風の揺り籠!-」
僕は、慌てながらクッカの魔法を使えなくする為に
クッカの周りに風の膜を張った。
クッカは薄い膜に覆われて、プカプカと浮いている。
見た感じは、シャボン玉の中に入っているような状態だ。
水の塊は彼に届くことなく消える。
「ご主人様! 邪魔しちゃ駄目なのですよ!」
「いやいやいや……邪魔するでしょう」
クッカと目を合わせると、クッカの瞳の色が青色から赤色になっていた。
髪の色は、緑色のままだ。
どうやら、感情が怒りで支配されると瞳の色が変わるようだ。
正直、精霊のことはよく分からない……。
カイルも花井さんも、精霊に関しては余り興味がなかったのか……?
いや、興味がなかったのではなく契約した精霊の在り方が嫌だったのかもしれない。
カイルは契約していたのに、カイルから引っ張り出せる知識は
精霊は口が悪いし、態度もでかいという情報と精霊とのラインの切り離し方ぐらいだ。
カイルも僕と同様、精霊を使役するという事に抵抗を感じたのだろう。
「とりあえず、彼を元に戻してくれないかな?」
僕が石化した彼に目を向けると、クッカはその瞳に更に怒りを宿した。
「嫌なのですよ」
「うーん、僕がお願いしても駄目なのかな?」
「……う……」
「う?」
「う……」
「……」
クッカの目に見る見るうちに涙が溜まる。そしてぽろぽろと涙を落とし
泣きながら、不満をこぼしていく。
「どうして、クッカが我慢しなきゃいけないんですか!
ご主人様を侮辱されて、精霊であるクッカに断りもなく触れた上に
人質にとったのですよ!」
「確かに……」
「ご主人様に、殺気を向けて悪意をみせたあれが悪いのですよ!
それにここの空気は、なぜか苛々するのですよ!」
涙をこぼしながらも、周りを睨みつけるように見渡すクッカ。
どうやら、村人達の僕に対する感情を敏感に察知しているようだ。
「……」
そして睨むように怒りの視線を向けられた石化中の彼は
恐怖に涙をこぼしながら僕を見ていた。
-……どうしてこうなったんだろう……。
誰ひとり口を開こうとせずに、僕達のやり取りを息を殺して見つめていた。
僕は少しため息をつきながら、クッカの魔法を解除して
クッカを抱き上げる。背中を叩きながら宥め
それでも泣き止まないクッカに、どうしたものかと
考えていると頭の中に女性の声が響いた。
【しばしその幼き精霊の器を借りるからの】
その声と同時に、クッカが泣き止み目を閉じた。
「クッカ?」
僕の呼びかけにその瞳を開くと、その瞳の色はベビーブルーになっていた。
「この精霊の契約者はそなたじゃな?」
「そうですが……貴方は?」
「わらわは、蒼露の精霊じゃ。
今のわらわの力だけでは、姿を作る事すら難しいからの……」
「……」
クッカの中に入っている蒼露の精霊の言葉に、顔色をなくしながら成り行きを見ていた
獣人達が一斉に膝をついた。僕がクッカの体をそっと地面に下ろすと
蒼露の精霊は、石化している彼に呆れたような視線を送りながらその石化を解いた。
体に自由が戻った瞬間平伏する彼を一瞥した後、僕に視線を戻す。
「本来なら、この幼き精霊に殺されても文句は言えまい。
だが……わらわの前で、わらわが守護する者達を殺されるのも嫌だったのでのう
幼き精霊に無理を言って、許してもらった。そなたも、よく止めてくれた礼を言おう」
「いえ……流石に殺すのは……」
僕の言葉に、蒼露の精霊は不思議そうな表情を作った。
「……そなたは精霊のことを余り知らぬようじゃの?
この幼き精霊が、かの者を殺そうとしても誰も口を挟まなかったであろう?」
そういえば、顔を蒼白にして見守っているだけだった。
「特に獣人族は、精霊を手にかけようとはしないだろうのう。
人だとて、精霊を人質に取ろうとするあほうはおらぬ。
実体を持つ精霊を、敵にまわそうなどと愚かな事はせぬ。
いや……精霊と気がつかないことのほうが、愚かな事なのだがのう」
そう言って、いまだ顔を上げる事が出来ない彼を蒼露の精霊は見る。
「だが、そなたも一言精霊を呼び寄せる事を告げておれば
ここまでこじれる事はなかったのじゃ」
蒼露の精霊は僕を見て、僕にも非があると告げる。
「もう少し配慮するべきでした」
僕の言葉に頷きながら、蒼露の精霊は話を続ける。
「契約者と精霊に対して、気をつけたほうが良い事が2つある。
まず1つは、精霊の前で契約者を侮辱するような事は言わないほうがよい。
精霊は契約者を侮辱されると、大概は怒り狂うからの」
それは、精霊の感情なのか……。それとも、意識がつながっている状態だから
本人の感情を受け取ってしまうのか、どちらなんだろうと一瞬考えるが
クッカとはラインを繋いでいないのに、怒っていたから精霊本来の感情なのだろう。
「そして次に、契約者が居ようが居まいが
精霊に触れてはならない。己が認めたもの以外に触れられると殺したくなるのじゃ」
「……物騒ですね」
「そうかの? 精霊とはそういうものなのじゃ。
これに当てはまるのは、中位精霊以上からになるがの」
「それはどうしてですか?」
「下位精霊はそもそも、実体がないであろう?」
「え!?」
僕の驚きに、蒼露の精霊は少し眉をひそめた。
「そなた、本当に何も知らぬのか?」
「すいません」
先ほどから謝ってばかりのような気がする。
しかし……周りの村人達も驚いている事から、常識ではないような気もする。
きっと、精霊の中の常識なのだろうと思う……。
「それでよう、精霊と契約などできたものじゃな……。
精霊と契約するには、知識と手順が必要だろうて」
「クッカと契約したのは成り行きで……」
クッカと契約した時の事を簡単に話すと、蒼露の精霊は楽しそうに笑った。
「そなたは、色々抜けておるのだな」
「……」
余りにも酷いいわれように、少し落ちこむ。
「これこれ、落ち込むでない。
それでもこの幼き精霊は、そなたを心から慕っておる」
「……ありがとうございます」
微妙に慰めになっていない気がしなくもないが……。
「この幼き精霊も少し勘違いをしているのう。少し、精霊のことを教えようか。
まず、下位精霊との契約の場合は契約者が魔力を使い、精霊を呼び出すことから始まる。
その魔力に惹かれた精霊が居れば契約になるし、居なければ契約は出来ない。
ここまでは、いいかの?」
「はい」
「下位精霊の役割は、自然界の調和を助けている存在なのじゃ。
例えば、簡単な大地の浄化や水の浄化。空気の流れを作ったりと様々じゃ。
まぁ……自分が何者かなどとは考えぬから、自分の役割など知らないのだが……。
契約者と出会えなかった、精霊たちにもちゃんとした役割がある。
無意味な存在ではないのじゃ。ただ消えていくだけではない……分かったかの?」
最後の言葉は、クッカに言った言葉だろうか?
「契約者と出会うことが出来た精霊は
契約者の魔力で、己は精霊で在るという事を知る。
名付けで、契約者と意識を繋ぎ、言葉を話せるようになるわけじゃが
やはり、実体はないのじゃ。触れる事は出来ぬ。姿はあるけどの……。
例外なのは竜だけじゃ、あやつらは下位精霊であろうが捕まえる事が出来る」
「クッカは、最初から触れる事ができましたが」
「この幼き精霊は、上位精霊なのじゃ」
「え?」
「なぜ自分を下位精霊だと思っているのか……分からぬが
最初から実体があったであろう?」
「ええ……」
アルトが掴んでいたから、実体はあった。
「名付けをする前に話せたであろう?」
「そうですね……。
それならどうして、僕達は攻撃されなかったんでしょうか?」
触られるのが嫌なら、攻撃を受けても不思議ではない。
「そなたは、自分を助けてくれたものを攻撃するのかの?」
「いえ……」
「想像するに、この幼き精霊は生まれたばかりであったのだろうな
生まれたばかりの上位精霊は、すぐ近くの中位精霊が面倒を見るのだが……。
運悪く近くに精霊がおらなんだのかもしれんのう……。それでも、暫くすれば
上位精霊の魔力を感じ取って、わらわらと中位精霊たちが集まるはずが
精霊たちと会う前に、そなたたちと出会ったというところだろうの。
今も気になるのか、遠巻きに覗いておる」
そういって、周りを見渡す蒼露の精霊。
僕もつられて周りを見るけれど、僕にはその姿を見ることは出来なかった。
クッカはずっとアルトと一緒に結界の中に入っていたから
クッカの魔力が外に流れなかったのだろう……。今もトゥーリと結界の中に居る。
記憶があやふやなのは、高いところから落ちたせいだろうか?
色々と思い返しながら蒼露の精霊に質問していく。この際聞けることは聞いておく。
「上位精霊と中位精霊はどう違うのですか?」
「まず、この幼き精霊も間違えているようなのだがの
下位精霊は、契約者が死ぬと同時に死ぬ。中位精霊にはなれぬ。
下位精霊は、中位精霊や上位精霊がその場を浄化した後の魔力から
生まれる精霊じゃ。中位精霊と上位精霊は、サーディア神の眷属じゃ」
「眷属ですか……」
「色々と話すと長くなるのでな……簡単に言ってしまえば
神の手足となって動く為に生み出されたのがわらわ達じゃ」
「へぇ……」
神を信じていない僕としては……どう返事を返していいのかが分からない。
「遥か昔になるがの……。その時、中位精霊をまとめていたのが
上位精霊ということだの。力は上位精霊のほうが上じゃ」
「今も、そうなんですか?」
「いや……。神は眠りについておられるからの……。
わらわ達はもう神の手を離れておる。各々が好きに過ごしておるが
サーディア神が、最後にわらわ達に与えた命令だけは違う事ができぬ。
全ての精霊は、魔物が残す穢れを祓う事が最後に与えられた命じゃ」
「穢れですか?」
「そうじゃ。魔物が現れ倒されても魔物が残す穢れは
自然を破壊していくのじゃ、そのまま放置しておくと穢れは広がり
草花が育たなくなり、水も汚れていくからの。
わらわ達は、そこに存在するだけである程度の穢れを祓う事ができる」
「なるほど……」
「それでも祓うことが出来ない場合は、力を使って浄化するがの、しかし……
上位精霊が新しく生まれているという事は、穢れがひろがっているのかの……」
最後のほうの言葉は、思案しながら小さな声で呟くように言った。
「まぁ……その辺りは、そなた達が知る必要はないことじゃな」
精霊の増減に関して、深く教えるつもりはないのだろう
知る必要はないと区切ってしまった。
「ちなみに、中位・上位精霊の契約は下位精霊とは違うからの。
下位精霊は、契約者の魔力を取り入れた瞬間にほぼ契約完了となるが
上位精霊は、呼び出すところまでは同じじゃが
まず、魔力の質と量がよほどよくないと現れぬ。
それに、魔力を与えただけでは契約にはならない。
まぁ……魔力でその契約者の品定めをし、気に入ったら名前を求めるという感じじゃな。
その名が気に入れば契約を完了させ、気に入らなければ消える。
最終的に、契約を結ぶ決定権は精霊側にあるのじゃ」
「……」
「そなたはよほど気に入られたのだろうな。この幼き精霊はそなたが
精霊の事を知らぬのを利用して、無理やりそなたと契約を結んだのじゃ」
蒼露の精霊は僕に少し哀れみの視線を向けた。
「まぁ、そなたに惹かれる理由は分からぬでもないが」
「理由はどうであれ、僕はクッカが好きですし問題はありません」
僕の返答に、蒼露の精霊は苦笑し「お人好しじゃな」と呟いた。
精霊にとって、余りほめられた事ではないのだろう。
「大雑把じゃが、こんなところじゃろ。
他に知りたいことはあるかのう?」
蒼露の精霊の言葉に、僕は精霊の事ではないけれど
本当に神が居るのかどうか確認してみたかった。
が……流石に、神の眷属だと聞いたそばからその質問は出来ないので
遠まわしに尋ねてみる。
「サーディア神は、どうして眠りにつかれたのですか?」
寝ているということは、そのうち起きる事も在るのだろうか?
蒼露の精霊は、僕の質問に考える素振りも見せずに即答した。
「その事については、わらわの口から語る事を許されてはおらぬ。
そなたは……少々変わっているようだからの、そのうち神々の歴史を
紐解く事もあるかも知れぬが……わらわからは話せぬ」
「そうですか……」
色々興味は尽きないが、話すことが出来ないのなら仕方がない。
ただ、神に関しては不用意な事を言わないように気をつけようと心に決めた。
他に何か聞いておくことはないかと考えていると
蒼露の精霊は少し緊張した面持ちで、僕を真っ直ぐに見つめて言った。
「問いがでてこぬのなら、幼き精霊も落ち着いたようだからの
そろそろ本題に入りたいのだが……」
蒼露の精霊の言葉に、すっかり忘れていた事柄を思い出したのだった。
読んで頂きありがとうございます。