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刹那の風景 第二章  作者: 緑青・薄浅黄
『 弟切草 : 敵意 』
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『 僕と彼等の計画 』

【荷物を、花屋に……】


【中身はお菓子でよろしいでしょうか?】


【ああ……。それでいい】


【毒は何を……つかいましょうか】


【そうだな……解毒剤が手に入りやすいものを……】


【了解しました】


【接触は……明日にするか】


【……では、今日中に荷物が花屋に届くように運ばせます】


【ああ】


【……手に入るとよろしいですね……】


【いや……手に入れるんだ。どんなことをしてもな】


【……】



-……どんなことをしてもか……。


「…………う……」


「師匠!」


アルトの僕を呼ぶ声で我に返る。


「……どうしたのアルト?」


僕は、飛ばしていた鳥から流れてくる情報に集中しすぎていたようだ。

意識を情報から、アルトに戻し呼びかけに答えた。


「どうしたも、こうしたも……お前の食事が止まってるからだろ?」


ルーハスさんが、呆れたように僕を見ており


「調子でもわるいの?」


コーネさんが、心配そうに聞いてくれた。

3人の様子に、長い間ボーっとしていたらしい。

正直に答えるわけにも行かないので、適当に返事を返す。


「いえ、少し考え事をしていました」


アルトになんでもないと言い、ほっとしたような表情を見せる様子に

内心苦笑しながら僕は食事を再開した。


アルトはもう食べ終わっているようだが、デザートの林檎には手をつけていなかった。

なぜ残されているのか、分かってはいたけれどソワソワしているアルトにあえて聞く。


「アルト、林檎がまだのこっているようだけど?」


「これは、ムイにあげるんだ」


即答で返ってくる答えに、やっぱりそうかと心の中で思う。


「……」


「……」


ルーハスさんと、コーネさんが顔を見合わせて青くなっている。

お祭りは明日だし、これ以上先延ばしにするのはよくないと思った僕は

アルトにムイムイの事を話すことに決めた。


「アルト、あのムイムイは明日のお祭りの賞品なんだよ」


僕が、さらっと放った言葉に3人が目を見張った。

アルトはともかく……ルーハスさんとコーネさんまで驚くのはなぜだろう。


「賞品……?」


「そう、何かの競技で1番をとった人に与えられる予定なんだよ」


「……」


「だから、ムイムイと一緒に居ることができるのは

 今日で最後になるからね」


「……お……お肉になるの?」


うっすらと目に涙を浮かべながら、僕ではなくコーネさんに顔を向ける。

なぜそこでコーネさんなんだろうか? アルトの中でルーハスさんよりも

コーネさんのほうが、決定権があるように感じたのだろうか……?


まさか自分が、聞かれるとは思っていなかっただろう

コーネさんが、とても慌ててルーハスさんを見ているが

ルーハスさんは、コーネさんと視線を合わせようとはしなかった。


机の下で、ガンッという音が聞こえると同時にルーハスさんが声を殺しながら

机に突っ伏した。


「お肉になるの?」


アルトが、コーネさんを真っ直ぐに見て問う。

コーネさんは、少し声を裏返しながら「お肉に……ならない……わよ?」と疑問系で

返事をしていた……。


「……」


ルーハスさんは、まだ苦悶している。

いったい何をされたんだろうか……。


「じゃぁ、どうなるの?」


アルトの突っ込んだ質問に、目を泳がせながら答えを探すコーネさん。


「え……とね? あの子は……優勝者にそのまま渡されるの……。

 そう! 生きたままね? その後、ペットとなるか家畜になるかはわからないけど……」


本当は、肉として渡されるはずだったんだろうけど

色々悩んだ挙句、生きたまま渡すことに今決めたようだ……。


「……」


コーネさんの返事に、アルトは黙ったまま俯いてしまう。

きっと、肉なる可能性もあることが分かっているんだろう。


「アルト。僕は今日も出かけるけれど

 アルトはどうする?」


僕は、ムイムイの話しはこれで終わりという意思表示のために

一方的に僕の予定をアルトに告げた。

冷たいようだが、ムイムイは賞品でアルトのペットではないのだ。


「俺は…… ムイと一緒に居たい」


「じゃぁ、ここでお留守番してるんだね?」


「うん」


「僕が帰ってくるまで、1人で外に出ないと約束できる?」


「できる」


「ルーハスさんか、コーネさんと一緒なら外に行ってもいいからね」


僕の注意に深く頷くと、林檎を手に持って駆けていった。

やっと、痛みから解放されたのかルーハスさんがコーネさんに低い声で凄んだ。


「てめぇ、何しやがる……」


「元はといえば、ルーのせいでしょ!」


お互いににらみ合い、今にも喧嘩が始まりそうな空気だ。

そんな空気の中、僕は2人に謝罪する。


「申し訳ありません。お2人にご迷惑をおかけしてしまいました」


僕の言葉に、2人が険悪な雰囲気を振り払うように

ため息をつきながら、お茶を飲んだ。


「いや……。子供が動物に懐くのはよくあることだからな……。

 今回は俺のミスだ……」


「でもよかったんですか? 本当はお肉として提供する予定だったんでしょう?」


「そうなんだが……もう、そのまま渡すってアルトに言ってしまったからな」


「今までが、お肉として渡していただけで……。

 別に、そのままでも問題ないわ……。もらった人は戸惑うだろうけど……」


ルーハスさんと、コーネさんが微妙に笑っている。


「なんなら……僕が潰しましょうか?」


僕の提案に、2人は目を見開き僕を凝視し2人同時に同じ事を言った。

2人の息はぴったりで……きっと喧嘩をするのも仲がいいからなんだろう……。


「お前……鬼か?」


「セツナ……貴方……鬼ね」


「……」


アルトを想って、2人ができないというのなら

アルトの行動の責任をとるのは、僕の仕事だろう……。


「……好きな師匠が、包丁を持って血だらけになって

 好きなムイムイを捌いてるのを見たら……心の傷になるわ!!」


コーネさんが何かを想像したのか、机に両手を置いて立ち上がった。


「駄目よ! そんな残酷なことをしちゃ駄目!」


凄くまじめに、僕に駄目だと言い切るコーネさん。


「俺も……その案には反対だな……。悪夢を見そうだ……」


苦々しい表情で、コーネさんと同じように反対するルーハスさん。

ムイムイは家畜で、食べるためにつれてきたというのに……。

アルトの気持ちを優先させてくれていることに、自然とお礼が口からこぼれ

座りながらではあるけれど頭を下げる。


「ありがとうございます」


そんな僕に、照れたように明後日のほうを向きながら返答するルーハスさんと

ドサッと勢いよく座ったコーネさんが、気分を和らげるような口調で

僕に責任はないと言ってくれたのだった。


「いや、お前がそこまでする必要はないってことだ」


「そうよ、ルーが悪いんだからセツナが謝る事はないの」


アルトの気持ちはともかく、ムイムイ問題は解決したことになるのだろうか

僕達は、その後のんびりと他愛のない話をしながら時間を過ごし

仕事を始めた2人の邪魔にならないように、僕は部屋へ戻った。


椅子に座り、先ほどの鳥からの情報をまとめ

それ以上の情報を手に入れるために鳥を動かす。

リペイドでは、特定の人物につける事はなかったが……。


僕と接触しようとしている人物を知るために、その仲間と思われる人にも鳥をつけ

彼らの個人情報を取得していった。


彼等の使っていた言葉が、共通語でも獣人語でもなく

ある国の言葉であることから、僕の良心というものは少しも痛まなかった。

それ以前に、卑怯な手を考えそれを実行しようとしている彼等に憤りを感じる……。


【花屋に毒入りのお菓子を】


これは、きっとノリスさんとエリーさんに送りつけるつもりなんだろう……。


【解毒剤が手に入りやすい】


殺してしまっては意味がなくなるから……。


【どんな手を使っても……手に入れる】


次々に入ってくる情報で、彼等が僕に何を求めているのかが分かる。

どういう計画を立てているのかも分かった。

何のためにかも知ることができた……。


だが、そこに僕の意思や気持ちを慮るものはない。


-……。


どんな手を使っても、僕を思い通りにしようというのなら。

僕も、手段を選ばすに報復させてもらおう。


僕は、鞄から数種類の毒物を取り出すと魔法を使い固め

僕以外には見えないように魔法をかける。

他人には見えないだろう毒物を袖に隠すようにしまいこむ。


能力で小瓶を3個つくり、その中に僕が作った飴を10個ずつ入れ

お祭りで売っているかのように、リボンを結びコルクで栓をする。

後はこれを、あるルートを使って目的の人物に届けてもらう……。


彼等が……リペイドの人を狙うというのならば……。

僕も、彼等の大切な人を狙うことにしよう……。


鞄に小瓶をしまい、次に数種類の薬草を取り出しある薬を作り

それを、パラフィン紙で包んでいった。作った個数は3包……。


彼等が喉から手がでるほど、欲しいと思っているものは渡す予定だ。

だが、それを使うか……いや使えるのかどうかは別になるけれど……。


部屋でやるべきことを済ませ、ルーハスさんとコーネさんに

アルトのことをお願いしてから、アルトにも出かけることを伝えて

詰め所を出た。


僕は、鳥から送られてくる情報を頼りに目的の場所へ早足で移動する。

まずは、ノリスさん達に送られる予定の荷物の回収から始めた……。


全ての準備を終えて、詰め所に戻りアルトの居場所を聞くと

まだムイムイと一緒に居ると教えてもらう。迎えに行くために訓練所へと足を運び

アルトを探すと、アルトはボールを投げていた。


何時もなら、ボールを追いかけるムイムイと笑いながら遊んでいるのだが

今のアルトの表情は、楽しげなものではなく何かを深く考えているようだった。


ムイムイがボールをキャッチして戻り

アルトの足元に置くが、何の反応も示さないアルトを見上げて

「ムイ~?」っと鳴きながら鼻でアルトの足をつついた。


つつかれたことで、ムイムイとボールに気がついたアルトは

笑顔を作りボールを投げる。楽しそうに走るムイムイを目で追うが

不意に頭を抱えるように、その場でしゃがみこんでしまった。


僕は、そんなアルトに声をかけずに部屋へ戻る。

ルーハスさんも、コーネさんもできる限りのことをしてくれたのだから

後は、アルトがこの現実を受け入れなければいけない……。

アルトが自分の心とどう折り合いをつけるのか心配ではあるけれど……。


-……明日は色々と忙しくなりそうだ……。


お祭りを楽しむつもりだったのに

そうはならない気配をヒシヒシと感じ、僕はため息を落とした。






読んでいただきありがとうございます。

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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されました。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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