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刹那の風景 第二章  作者: 緑青・薄浅黄
『 杜若 : 音信 』

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『 風からの手紙 』

* リヴァイル視点

 新しい家にも慣れ、知人の仕事の手伝いをして金を稼ぎ

ある程度、生活に落ち着きが出たころ実家へと戻る。


近くにいるのだから、たまには食事を一緒にと母から言われていたのを

思い出し、足を向けた。そこには大量の食事が用意されていたのだが

父を見ると、胃を抑え顔色を悪くしていた。


「どうしたんだ?」


「リヴァイルか……いや、胃の調子が悪くてな」


「大丈夫なのか?」


「ああ、薬は飲んでいる。

 余り効き目はないようだが……」


「薬師をかえたのか?」


「……人間だったからな。

 もう亡くなった」


「そうか」


私は席につき、食事をとり始める。

他愛無い話をしながら、ゆっくりとした時間が過ぎる。

泊まって行けという言葉に、帰るのも面倒だし頷くと

母が嬉しそうに笑った。


ここに、弟妹達が居れば……。

今は座る者が居ない、椅子をぼんやりと眺めながらお茶を飲んだ。


トゥーリが戻り、あれがトゥーリの番になれば

この椅子に座ることになるのか? その事を想像し

あれを半殺しにしたい気持ちがわき上がった。


一度ため息をつき、あれを頭の中から追い出そうとした時

机の上に、手紙が来ていた事を思い出す。


時間がなくて、懐にしまい込んだままなのを思い出した。

あれからの手紙は、久しぶりのような気がする。


封筒に厚みがあり、何かが一緒に入れられているようだ。

丁寧に封筒を破り、先に手紙を取り出し読み始める。


「誰からだ」


父が私の手紙を見て、そう声をかける。


「契約者からだ」


「そうか、連絡は来るんだな」


「たまにな」


あれからの手紙の内容に、思わず便箋を握りつぶす。


「……」


父と母が、その様子を見て眉をひそめた。

心配そうに私を見る母に、何でもないと伝えるが

納得している様子はない。


「血をよこせと言ってきた」


「血?」


「ああ、私の血が欲しいらしい」


「魔導師だったか?」


「そうだ」


「なら、我々の血は欲しいだろうな」


「……」


あれは、私の血を持っていたはずだが。

よこせということは、もう使ったという事か。


母は、あまりいい顔をしていない。

父は気にした様子はなかった。


「渡すの?」


母が聞く。


「……どうするかな」


返事を濁し、しわになった手紙を元に戻し続きを読む。

すべて読み終え、封筒から入っていたものを取り出した。


手のひらにのるぐらいの、革の袋の中に入っていたのは

薬だった。10包ぐらい入っている。


トゥーリが作ったらしいが、あれは自分で胃薬を

作ったばかりで、余っているから私に送ってきたようだ。


あれの手紙には、人間用に作られていたけど

薬を足して、竜に効くようにしてあると書かれている。


「それはなんだ? 薬か?」


「あれの弟子が作った薬らしい。

 大量に作って、余っているから送ってきたようだ」


私は、1包取り出し父に渡す。


「なんだ」


「胃薬らしいから、飲んでみたらどうだ?」


トゥーリが作ったものだ。

効き目があろうがなかろうが、父に教えれば喜んで飲むだろう。

教えるわけにはいかないが……。


父はじっと薬を眺め、私の持っている革袋を見て

包みを開く。


母は、父を止めようとしていたが

父は、薬を水と一緒に流し込んだ。


私が先に飲むより、自分がと思ったのかもしれない。

もう子供ではないのだが、父と母にとって今いる子供は私だけ。

その気持ちを考えると、やりきれない何かが胸に渦巻いた。


あれに限って、毒を送り付けてくることはないだろう。

私は読みかけの本を開き暖炉の傍で読み始める。


母は父をじっと観察しながら、父に気分が悪くないか聞いている。

飲んだ薬が本当に胃薬なのかが、心配なのだろう。

父から離れようとしなかった。


「あ……」


母から漏れた小さな声に、本から視線を外し父を見る。


「……」


「……」


私と母が固まったように父を凝視するのを

父が、眉にしわを寄せ「なんだ」と聞いた。


「いや……。

 体調は悪くないのか?」


「ああ、胃痛が治まった。

 なかなか、いい薬だな」


「……そうか」


それ以上何も言えない。

何を言えばいいのかわからない……。

なぜ、ああなった?


薬が効いたのは良かったが……これはどういうことだ。

私は、革の袋を机からとり袋の中を確認すると

小さなメモが、袋の中に入っていた。


母は、父の眼をじっと見つめ髪にそっと触れた。

その行動に、父が少し驚き母の手を取る。


「どうした?」


少し甘さを加えた声音に、母が頬を染めている。


「あなた。目の色と髪の色が変わっているわよ」


母は、父の状況を理解しているようだ。


「は?」


わけがわからないという顔をして、父が眉根にしわを寄せた。

私は、メモを開き読み片手で目元を抑えた。やられた……。

手紙に書かず、見つかりにくいこちらにメモを入れたのは

意図的にだろう。メモにはこう書かれている。


”胃薬なんですが、彼女が薬草を間違え

 姿変えの草(ミソラ草)が入っていますが、体に害はありません”


あの男……。ギリッと歯が鳴る。

胃薬が余っているからではなく、処分に困ったからこちらに

送ったのだろ。トゥーリが作ったものなら捨てられないだろうが!


父は母から鏡をもらい、自分の姿を見てため息をつく。

そして、目を細めて私を見た。私は、手に持っているメモを渡す。


「……」


「……」


父はそのメモを見て、何とも言えない微妙な表情を作っていた。

母もそのメモを見るが、クスリと笑っている。父が妙なものを飲まされたというのに

そこに怒りはなく、ぽつりと「あの薬草は、よく似ているから」と呟いた。


「お前の契約者、少々変わっているようだな」


父は、そう言ってため息をつく。姿が変わったことに怒りはないらしい。

母は、父の髪の色が気に入ったようだ。まだ撫でている。

そんな母に、父は苦笑を浮かべながらも好きなようにさせていた。


どうやら、何かしら2人の思い出があるようだ。

私は本を閉じると、自分の部屋へと移動した。


しかし……あの薬を私が飲んでいたとしたら

私の色が変わっていたという事か……。あれが作った薬ではない為

文句を言う事もできず。苛々とした感情が残る。


手紙に書かれてあった、血をよこせという要求を無視することに決め

少し溜飲を下げた。


次の朝、いつも朝早い父がまだ椅子に座り寛いでいた。


「仕事はいかないのか?」


「この姿で行けると思うか?」


「確かに……」


自分の席につき、出された朝食を食べていると父が私を呼んだ。


「リヴァイル」


視線だけで、話を促す。


「昨日の薬の事だが、余計なものが混ざっていない薬が欲しい。

 変わった人間らしいが、薬師としての腕は確かなようだ。

 弟子が作ったものでも、あれだけの効果があるのなら

 本人が作ったものも、大丈夫だろう」


「……」


「薬を分けてくれるように頼んでくれ。

 ここ数年、完全に痛みを抑えた薬はなかった」


母は、あまり乗り気ではないようだが

父が胃痛で眠れない姿をずっと見ていたからか、反対はしなかった。


母もある程度薬を作ることはできるが、家族の常備薬をそろえるぐらいのものだ。

父ほどの胃痛になると、母の薬では全く効かないらしい。


父が頼むという事は、あの薬はよく効いたようだ……。

あれに頼みごとをするとなると、あれの頼み事も受け入れなければならない。

父の胃薬となると、定期的に頼まなければいけないことになるだろう。


「人間が作ったものでもいいのか?」


「かまわない。仕事に支障をきたすほうが問題だ」


それほど酷かったのか? 母を見ると悲しそうに頷いた。

内心、断りたい気持ちを心にしまいこむ。


「わかった」


「対価が必要なら、私の血を渡す」


その言葉に、母が拒絶を示す。


「あなた!」


母が何かを言う前に、口を挟み必要ないと告げる。


「私の契約者だ、私が渡す」


「そうか」


母は、私の言葉も気に入らないようだったが

竜騎士契約をしている限り、主を蔑ろにできないことも知っている。


「主の元に行かなくてもいいのか」


父の言葉に、私は一瞬数日前の事を思いだす。


数日前、あれの魔力が急激に減少しているのを感じた。

だが、すぐに魔力の流出も止まったことから、出向くことはしなかった。

何をしているのかは知らんが、それなりに危ないことをしているのか?


「……必要ないだろう。

 必要なら、向こうが呼び出すはずだ」


「お前たちの関係は、よくわからんな」


「私にもわからない……が

 だが、契約者がそれでいいと言うのだから

 それでいいのだろう」


「そうか」


食事が終わったことで、父との会話をやめ

家を出る。またすぐに来ることになるだろう。


帰りに適当な、小瓶を購入し

自宅で、ナイフで腕を傷つけ血を入れて封をする。

薬が欲しい理由を書き、少し考え一文を付け加える。


”あの薬は父が飲んだ。残念だったな”


以前、白い鳥が運んできた魔道具を置いてある机の上に小瓶と手紙を置き

魔道具を発動させると、一瞬にして机の上の物が消えた。


それから数時間も経たずに、あれから手紙が届く。

父の胃痛の状態を詳しく聞いてこいとのことだった。

そして最後の一文。


”リヴァイルが飲むと思ったのに、本当に残念です”


「……」


殺意がわきそうだ。


一度息を吐き出すことで、苛立ちを吐き出し

面倒だと思いながらも、実家に出向きあれの手紙の通り質問をし

紙に書き込んでいく。家に戻り、封筒に入れるのも面倒で

そのまま送り付けた。一文を付けることを忘れない。


”魔力が急激に減っていたが、そのままくたばっていたら笑ってやったのに”


その後、昼食をとるために外出し帰ってくると

薬が届いていたのだった。あれからと思われるメモにはこう書かれてあった。


”薬が効かない場合、また教えてください。

 薬の種類をかえてみます。あの薬で効いたのなら

 その薬でも大丈夫だとは思いますが。

 しかし、残念です。本当に残念です。

 僕の魔力はもう全快です。ご心配いただきありがとうございます。

 お兄さんも、体調にはくれぐれも気を付けてヘロヘロを治してください。

 それでは、また”


「……」


2度いうか……。いや……3度だ。

その後の言葉も、苛立ちを助長する。


くそがっ! いつか殺す(やる)

人の神経を逆なでする手紙を、ごみ箱へ丸めて捨て

机の上の薬を手に取り、父に届けたのだった。




読んでいただきありがとうございました。

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2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されました。
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