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選ばれた戦舞姫  作者: 雪野おと
第一章・敵国への偵察
4/5

 ランデリア王国王都にたどり着いたのは、祖国の帝都を出てから十日はたった頃だった。

 帰りもそれくらいかかるとすれば、薬はぎりぎり。かなりまずい。

「帰りはスピードアップして帰らないと」

『にゃ。それで無理して薬の量増えても、駄目じゃないにゃ?』

 そんな事言われたって、早く帰らねばならないのだ。

「せめてイオンテリアに入れればお兄様が何とかしてくれるです……っとと、会話、気をつけないとね」

 もうここはランデリア王都。イオンテリアに帰るなんて話題はまずいし、何よりルベラの言葉は今私しか聞き取れないだろう。

 ルベラは話したい相手に言葉を伝える事ができる不思議な猫だ。もっとも、ルベライトの首についている魔力石のおかげなのだけれど。

 お父様はいつも家にいらっしゃらない方だから、よく一人ぼっちになっていた私の大切な友人……友……猫?


 王都に入ってから私は身体を足元まですっぽりと隠してしまうマントに身を包んで、頭もフードを被って隠している。顔もなるべく見えないように深めにフードを被り、口元は布で覆い隠している。

 旅の人間ならよくある格好だから、特に怪しまれる事はないが、私がここまでするのはレイお兄様の指示。

 なんでも女の子が顔を出して歩くといけない国だから……とか言われたのだが。

「……みんな顔出して歩いてるじゃない」

『顔どころか、露出高い国だにゃぁ』

 お兄様の嘘付き。みんな可愛らしい装飾品やら赤い布に金の刺繍が施された胸を覆おう布とスリットの大きく入ったスカートを身につけたりして、とっても美人さんが多い。

 それに比べて私ときたら。全身ベージュじゃん。

『まぁ、きっと心配したんだにゃぁ』

「どこがなのですっ暑くてしょうがないですよ」

 布の下でちょっと頬を膨らませて街中を歩く。街中は賑わっていて、所狭しと並ぶ店にはきらきらした衣装やぴかぴかの宝石と、心引かれるものが多く並んでいる。

 ああ、宝石屋さん寄りたいな、いい魔力石あるかもしれないし。


 ……そう、私の魔術は、魔力石の力を利用する神の宿る石イオンテリア宝玉に選ばれし者のみに使える特殊な魔術。

 魔力石に宿る能力をそのまま自分の魔術として使用でき、たとえば翡翠ジェイドを使えば風を身に纏い軽やかな動きをする事ができる。

 使う石はイオンテリア宝玉が生み出した飾突槍と呼ばれる槍に装着するもしくは身につける事によって使用する事ができ、槍自体は普段宝玉の中に収められている為今は手ぶら状態。まぁ、体術もそれなりにできる……とは思うけど。

 と、言う事で、暑いしアクアマリンが欲しい。冷却したい、冷却。

『無駄に魔力使うと、レインに怒られるにゃ』

 ……はい、わかってます。



 さて、私のそもそもの目的は、観光ではなくて敵国調査。

 もちろん我が国に攻め入ろうとする動きがあるかどうかなんだけど……

 どうしたものか。まさか軍の重要なとこには行けそうにないだろうし……

 ふむ、と考えて私は果物屋から一つ、赤い実を買って日陰に入り頬張る。リンの実と言って、甘酸っぱくて美味しい、柔らかい果肉の果物だ。少し取り分けてルベラも冷やしてあった冷たい果実を頬張り、口元をぺろりと舐めている。

 とりあえず軍本部の近辺まで近寄ってみるか……イオンテリア国との国境を見れる高台に上るのもいいかもしれない。あと重要なのは、人々の噂だ。

 私は果物を食べ終えると、とりあえず歩きながら人々の会話に耳を傾ける。

 流行のファッションの話題やら、どこぞの店のお茶がおいしいやら。平和そのものの会話。


 しかし……


 少し治安の悪そうな通り入り口付近になれば、じろりと睨みあげてくる男の傍での立ち話は興味深いもの。

「なんでも、誰でもいいから兵を募集する、らしいぜ?」

「どうせイオンテリアに攻め込む為の捨て駒にする気だろ? 俺らを」

「お国のお偉いさんにとっちゃ俺らゴロツキ野郎共も一掃できて一石二鳥ってか?」

「でも金額が破格だぜ、なんたって戦に参加する奴にはそれまでの衣食住、プラス帰還後十万バルタ払うってんだから」

「マジかよ、一年は飲んで暮らせるな」

 ふむ。十万バルタなんて、確かに破格。普通の人が一月で稼ぐのが五千バルタくらいなのだ。

 つまり……その集める兵っていうのは、捨て駒だ。確実に。そして、戦まで衣食住の提供という事は……

「で、それいつからいつまで募集なわけ?」

「再来月から一ヶ月募集するってよ」

 ってことは、三ヶ月後以降は危険だ。衣食住の提供にかかるお金を、いつまでも国が負担するわけないだろう。

 よし、後は高台にでも上って国境付近の様子でも見て……


「あっれぇー? 君、女の子が一人でこんなとこ歩いてちゃいけないよ?」

 急に俯いていて視界に入っていた地面に影ができて、私ははっと顔を上げた。

「うっわ、超可愛いじゃんマジで! やっりい、上玉発見」

 目の前には、二人の男。にやにやと君の悪い笑みを浮かべていて、こちらを見下ろしている。

 しまった……果実食べた後、口元を布で隠すのを忘れていたんだ!

「ねぇ、ちょっとお兄さん達とイイ事しようよ」

「はっ! イイ事ってお前。まぁ、イイよなぁ?」

 にやにやにや。気持ち悪い笑み。声を聞いているだけで、ざわざわと胸が絞まる感じがする。

「通してくださいです」

「うわ、声も超可愛いー」

「何歳? 十三くらい? 犯罪じゃねー?」

「ばっかお前、何言ってんだよ」

 ぎゃはは、と笑う二人。……今なんていった? 私の事、十三歳って言った?

「通して」

 肩の上では、ルベラがひやりと冷たいオーラを放っている。

 ルベラに攻撃させるのは、まずい。ここはまだ大通りに近いのだ。なら、大声を上げるか……いや、誰もこんな場所に立ち寄りたくはないだろう。

 なら……私が対処するしかない、か。正直男の人相手は……苦手、なんだけれど。


 その時、私の腕を右側に立っていた男が掴んだ。右腕に、激痛。なんて強い力で掴むのだろう。それと同時に、ぞわりと鳥肌が立つ。

 ルベラが牙をむき出して威嚇した。が、男はけらけらと笑う。

「……放してほしいです」

「放す? んなわけないじゃん」

 ぷつ、と何かが切れた音がした。

 さっと痛む右腕を、強く引く。思わぬ力に男がバランスを崩す。ルベラは私の動きに合わせて男の腕に飛び乗った。いけない、ルベラに攻撃させたら騒ぎになる!

「ルベラ!」

「おっと、あんたらこんなところで何やってんの」

 目の前の二人とは別の、透き通った声が辺りに響いた。



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