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選ばれた戦舞姫  作者: 雪野おと
prologue
2/5

「よく来たな、ルゥ!」

 にっこりと微笑んで私に手を上げてくれるのは、この国の皇帝陛下。まだ若くて三十歳。背が高くて、かっこよくて、赤い髪がよく映えている。

 その青い瞳に覗き込まれれば私の目だって同じ色なのに心臓は激しく高鳴る。肌の色が白くて綺麗で、でも筋肉は凄くて、抱きしめられたときその硬い胸板にすごくどきどきする。

「今日もちみっこくて可愛いなぁ! ほら、こっちに来い」

「陛下ってば、ルゥを子供扱いしないでくださいです!」

 む、と怒りつつも身体は招く手につられるようにふらふらと陛下の傍へ。

 陛下の私室には、今陛下と私の二人きり。普段は護衛が付いているんだけど、私が来る時は外に出される。

 陛下は私を信頼してくれている。能力も、そして存在も。

「陛下、任務って聞いてきました」

「……そう、だな」

 歯切れ悪く陛下は頷いた。心なしか……というか思いっきり顔色が悪くて、どうやらいい任務ではないらしい。

「陛下?」

「実はな……貴族院の連中が煩くてな。特務に隣国に乗り込ませて探りを入れろと言ってきているんだ」

「……つまり、ルゥ一人でランデリア王国に乗り込んで内情を探って来いって事?」

「悪い。あいつら、特務の人間がまさか女で、まだ十代だなんてもちろん知らねぇし、宝玉に選ばれた奴だってのも知らないから……駄目だといっても煩いんだ。力ない皇帝で、本当に悪い」

 隣国ランデリアとはもうすぐ戦争が起きるだろうと囁かれている。つまり、向こうがどこまで準備をしているのか私に乗り込んで調べて来いといっているのだ。

 バレたらもちろん私は命が危ない。それどころか、人質としての価値があるかはわからないが、この国に迷惑をかけるかもしれない。

 それでも。

「私の仕事だよ? 大丈夫。私にはイオンテリアの神様が付いてますです。きっと無事に調べ上げて戻ってきますよ?」

「……そう、言うと思ってたんだ。悪いな、ルゥ。絶対に、絶対に無事に戻って来いよ」

 特務は陛下付きの隠密師団。しかも、私一人だ。私は表向きレイお兄様……レイン少将の部下でアイオライト大将の娘、能力が高いという事で単独行動が多い、少佐の扱いを受けている。少佐でもこんな若い奴が、とやっかみを受けているのに、まさか特務師団の大佐だとは誰も思っていないだろう、一部の人間以外は。

 陛下は何度も無事に戻って来いといって頭を撫で、目を覗き込んでくる。

 私は笑顔を返す。どんな危険な任務も、陛下の為なら私はやる。例え私の身体が普通と違っても。

「そうと決まれば、レイお兄様のところによって旅の準備をしてきますです。陛下、必ず戻りますから、待っていてくださいね?」

「ああ、わかった。怪我はするな……それと、薬も飲みすぎるな。わかったな?」

「もちろんです! では、行って参ります!」

 にっこり笑って頭を下げて、部屋を出る。


 大丈夫、私は頑張れる……



「レイお兄様!」

「やっぱり、旅? 今度はどこに?」

 再び姿を見せた私を見て、執務机に座っていたレイ兄様は心配そうに私に近寄って引き寄せ、頭を撫でてくれる。

「隣国ランデリアに。どこまで戦の準備ができているか調べて来いって」

「……っ、そんな危険な任務をまさか陛下が行けと? ああ、どうせ貴族院が騒いだんでしょう。ルゥ、あなたの身体は……」

「大丈夫! 薬も使いすぎないし、本当に頑張れるから。それに複数じゃ動けない任務だし、私ならばっちりだよ」

 まだ何か言いたそうに形のいい唇を動かしていたお兄様は、諦めたようにため息をついた後部屋の奥へ歩いていく。

 片手に乗る小さな袋を取って、私にそっと渡してくれた。

「二十粒程入っています。一月半は持つでしょう……けれど、無理をすればそれも足りない。今日渡した分を合わせても、期限は一月半から二ヶ月と思って。いい? 魔力を使わない前提の話です」

「わかった。でも二ヶ月か……厳しいな。言って、王都に入るのに多分半月はかかるだろうし……急がないと」

「二ヶ月あると思わないで。なるべく、早く。私もいけたらいいのですが」

「心配しないで、必ず無事に戻るから。お兄様が隣国に行ったら、すぐにバレちゃうよ。戦場の嵐レイン・クンツァイト少将を知らない軍人なんて向こうにいないだろうし」

「くれぐれも、あなたこそ顔を知られないように。フードを被っていきなさい。いいですね、顔を出しては駄目」

「お兄様、必ず、無事に戻るです。だから、そんな悲しそうな顔、しないで?」

 そっと背の高いお兄様の眉間に、手を伸ばして指で摩る。

「ルベライトはどうします?」

「連れて行くです! こんな長期間離れるなんて嫌だもん。家に戻ってルベライトと合流したら、すぐに発つです。行ってきます、お兄様!」

 ぱっと手を上げて、元気に振る。最後まで心配そうにしていたお兄様に笑顔で行ってきますを告げて、私は愛猫ルベライトを迎えに屋敷へ戻り、旅の準備をして。

「にゃぁん」

「ルベライト、長旅になるよ。力貸してね?」

 真っ黒のつやつやの毛にぴったりの赤い首輪と赤い石を揺らして、ルベラはにゃんと返事を返してくれた。

「よし、出発!」

 私は暗くなってきた街を一度だけ振り返って、帝都を飛び出した。

 




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