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ティエンランの娘  作者: まめご
ティエンランの娘
10/21

嵐の前

女官たちが、こちらを見ながら笑っている。振り向くと慌てたように駆けて行った。

シラギは眉を顰めた。試合から半年も経つのに、未だに人の噂に上るのは何となく居心地が悪い。

王はあれから上機嫌で、寝台にしばしばシラギを呼びつける。試合の話を何度も繰り返しするのだ。横についているショウギは凄まじい顔で睨んできて、訳のわからない嫌味をネチネチ言う。剣技を見せてくれ、と大臣たちはせがむ。果物でも切ったら満足するのだろうか。副将軍たちまでキャッキャとうるさい。まあ、それはいつものことだが。

宮廷のど真ん中でもう勘弁してくれと叫びたいほど、シラギは疲れ果てていた。

自分に付けられた異名もそうだ。いつの間にやらシラギは黒将軍、カグラは白将軍と呼ばれるようになった。王女まで面白がってそう呼ぶ。この間、リウヒの部屋に入った瞬間

「いよっ、黒将軍」

王女の口から掛声がかかった。反応に戸惑い、うっかり

「ありがとうございます」

と言ってしまった。トモキと女官三人が、隅の方で苦しそうに震えていた。

誰だ、王女につまらぬ事を吹き込んだのは。大方、カガミ辺りにちがいない。

しかし、あの試合は本当に面白かった。カグラが意外に強くて、久しぶりに楽しんで剣を振るえた。途中から意識が飛んだほど熱中した。

だが、あの剣の型は自分と同じではなかったか。幼いころの稽古を思い出した。毎日痣だらけになって帰った日々。

「まさかな」

政務室に入り、椅子に腰を下ろす。目の前には仕事が山積みだ。

シラギは気持を切り換えて、書類を繰る手に集中した。どれほど時が経っただろうか。

扉が叩かれる音がした。トモキだった。

礼をしたもののしばらく話しにくそうに、目を泳がせている。シラギはかける言葉が見つからない。目の前の少年が、口を開くのを待った。

沈黙が流れた。

「わたしは、あなたがリウヒにした仕打ちは多分一生忘れないと思います」

静寂を破ったのはトモキだった。無表情で淡々という。

シラギは頷いた。

「でも、やっぱりあなたを嫌いになれない。憎みきれないんです」

再び沈黙が流れる。

老人の戯れは少女を闇に落とした。しかし、少女は自らの力で暗い闇から脱出した。獣が穴倉からおずおずと安全を確認しながら顔を出すように。そこまで導いてくれたのは、この少年なのだ。

自分は何もしなかった。ただ傍観していただけだった。

「本当にすまなかった」

苦しくて苦い痛みが心の中を広がっていく。

失礼します、とトモキは再び礼をして出て行った。

シラギはしばらく少年が出て行った扉を凝視していた。そして息を吐くと、再び書類に目を落とした。


****



東宮の庭でトモキは深いため息をついた。

言いたいことは言った。シラギの苦しそうな顔がちらつく。もう一度ため息をついた時、柔らかい声が聞こえた。

「どうしたの」

マイムだった。遠くを色とりどりの衣装を纏った踊り子たちが通りずぎてゆく。

わざわざ声をかけてきてくれたんだ。

そう思うと胸の中がじんわり熱くなった。なんだろうこの気持ち。

「いえ、ちよっと喧嘩して」

少し違うような気がしたが、どう説明して良いのか分からなくて、かいつまんだつもりがかいつまみ過ぎた。

「へえ、あなたでも喧嘩することってあるの」

「マイムさんはしないんですか」

この人の事をもっと知りたかった。職業は踊り子。集団の中にいても一人でいるような、そんな感じの人。

「あたしは群れないから」

多分、人との距離の取り方が下手なのね。そう言って笑った。

「喧嘩するほど仲がいいっていうじゃない。仲直りなんて、一緒にお酒を飲めば一発よ」

適当な助言だなあと思いつつも、今度またシラギを部屋に呼んでみようと考えた。

「マイムさんはお仕事あがりですか」

「ええ、アナンさまのところに行ってきたところ」

相変わらず微笑みながら、遠くを見るマイムの顔がなんだか嬉しそうに見えて、少しだけ不快になった。

「今人気の第一王子ですね」

「人望があるのも頷けるわ。とても良い方だもの」

ますます面白くない。話を転換させるため、リウヒの事を持ち出した。少しでも長く二人でいたかった。マイムはクスクス笑いながら聞いてくれた。そして

「じゃあね、少年。王女さまによろしく」

といって、あっさり去って行ってしまった。


「最近トモキくんさあ、きれいな女の人と密会しているって本当?」

カガミの声に、トモキは含んでいた酒を盛大に吹いた。そのままむせる。

シラギが背中をさすってくれた。

「な、な、なん…ええええ?」

涙をためてうろたえまくるトモキに、オヤジはうれしそうに目を細める。

「君は本当に正直ものだよね」

マイムの適当な助言通り、久しぶりにシラギを呼んで部屋でひっそりと三人で飲んでいる。最初はぎごちなかった空気も、だんだんと緩やかになってきた。オヤジはもう酔っぱらって絡んでくる。

「いいねえ、恋かあ。ぼくの恋人は歴史だからさあ。散々翻弄されているんだよね」

「そんなんじゃないんです。ただそのあの」

「うんうん。おじさんに何でも話してごらん」

やばい、このままでは肴にされっぱなしだ。

「し、シラギさまは、恋人とかいらっしゃらないんですか」

この人なら、よりどりみどりだろう。一人や二人や三人いてもおかしくはない。

「いらん」

「いらんって…」

「女はな、狐だ。狸だ。妖怪だ。魑魅魍魎だ」

トモキはまじまじと目の前の男を見た。昔、何かあったんだろうか。


****



昔の夢をみた。

目の前にぽっかりと大きな黒い穴が開いている。穴を覗いていると、横に人が来た。孤独だった自分に、優しくしてくれたその人はカグラをポン、と前に押した。

闇に落下しつつも、怒りは湧かなかった。

そうだよな。そんなものだよな。自分が泣いている事に気が付いた。ああ、おれは泣きたかったのか。

そこで目を覚ました。豪華な寝室、蕩けるような肌触りの薄布団、軽いいびきの音、体に絡みついている女の腕。その腕を邪険に払うと、散乱している衣を纏って外に出た。

冷たい風が心地いよい。南宮の園に腰を下ろすと、そのまま本殿を見上げた。

昼間とは違って闇の中の巨大な建築物は、ずんぐりとして見える。その方がより近しく思えた。カグラは長椅子に腰かけ本殿に目そそそいだまま、微動だにしない。片手は膝に、片手は口に当てている。

そしてゆっくりと何かを味わうように、目を閉じた。

ちろり。

何かが体の中を走り抜ける。それはちろちろと分裂してゆき、体中を巡り始めた。快感を伴って。思わずそれを押さえるように両手で自分の腕を掴んだ。

知っている。これを何と呼ぶか知っている。破壊願望だ。最近、やけに頻繁に訪れてくる。

ああ、でもまだ駄目だ。

お前を解放させるわけにいかない。時期はまだ来ていない。腕を掴んだまま、衝撃が去るのを待つ。それすらも一種の快感だった。ちろちろと体の中で這っていたものはいつの間にやら小さくなってゆき、やがて消えた。

カグラは目を開ける。うっすらと汗をかいていたが、緩やかに吹く風が乾かしてくれるだろう。そうしたらまたあの寝台に戻らなければならない。ショウギが起きて騒ぎだす前に。



****



「御前試合がついこの前だと思っていたのに」

「もう三年も経ちましたよ」

「いやー年を取ると時間の流れが分からなくなっちゃうんだよねー」

ぼくがここにきてから七年が過ぎたんですよ、とトモキが笑うとそんなになるのかい、とカガミも笑った。

日々は何も変わらず過ぎていく。リウヒがたまに、公に顔をだすようになったぐらいだ。

「そうだ、この間アナンさまに声をかけていただきました」

君が、リウヒかい。長身の好青年は笑顔で話しかけてきた。王女と目線が合うように腰を折って。リウヒははじめ、怯えてトモキの衣の裾をつかんだが、息一つはいて気合いを入れたようにふんばり、笑顔で応じた。

「ごきげんよう、兄さま」

和やかに当たり障りのない会話をしていると、他の王子二人も寄ってきた。リウヒに興味を持っていたようである。さわさわと話し、さざめく様に笑う彼らをみて、控えているトモキは涙がでそうになった。見事に猫を被るリウヒを、誇らしく思う気持ちでいっぱいになったのである。ジュズがあの場にいれば、トモキの横で落涙していたに違いない。

「ふうん、どうだった、噂の好青年は」

「ええ、噂どおりとても良い方でした」

確かに、人気があるはずだ。存在感のない他の王子たちに比べ、ひときわ大きく見えた。安心して任せられる、信頼にたる人物に見えた。

「だから、もし国王が亡くなってもアナンさまがいれば安泰かなと思うんですけど」

「ショウギは宮廷を追い出されるだろうね」

もしかしたら、殺される可能性だってあるだろう。いや、そちらの方が高い。後ろ盾を無くした女は全てを失い、存在を消される。その息子も一緒に。

カガミはしばらく空を見て考えていたが、

「トモキくん、君がもし今のショウギの立場だったらどうする」

「えっ?そうですねぇ。どっかの田舎に引っ込んでのんびり暮らすかな」

君は欲のない子だね、とカガミはつまらなさそうに鼻を鳴らした。

「いいかい、ショウギは権力意識の高い女だ。それを前提に考えると、今の生活は手放したくないんだよ」

贅沢で豪奢な暮し。望むものがすべて手に入る満足。臣下や貴族たちが自分にかしずく優越。

「それを失うぐらいなら」

トモキは思わず唾をのんで続きを待った。

「謀反を起こすね」

その時、部屋の戸が叩かれた。

トモキとカガミは同時に飛び上がりヒッシと抱き合った。

「どどどどちらさまですか?」

裏返った二人の声に、シラギの声が応じた。戸を開けると、間違いなくシラギが立っていた。

「どうしたのだ、怯えた声を出して」

いえ、ちょっと怪談話をしていまして、と誤魔化しながらシラギの顔が憔悴しきっているのに気が付いた。

「シラギさまこそどうしたんです、珍しい」

「いや、すぐに戻る」

部屋に招き入れると、シラギは身を投げ出すように椅子にかけた。大きなため息をつき、両手で髪をむしる。

あまりの態度にカガミとトモキは顔を見合わせた。

「本当にとうしたんですか?何かあったんですか」

「あった。大いにあった」

シラギが手と手の隙間から声を出した。

「アナン王子が消えた」


****



「アナン王子が行方不明?」

カグラはさすがに驚きを隠せなかった。

マイムが無言でうなずく。

後宮の一角の小さな庭園。虫の鳴き声も聞こえなくなり、空には丸い月が辺りを煌々と照らしていた。何日かに一度、マイムの報告をここで受ける。始めマイムはショウギに報告をしていたが、あまりにも明後日な指示をするため、また、凛気を発して当たり散らすためカグラに直接話すようになった。

「その方が確実だもの。どうせ、ショウギを動かしているのはあなたなのでしょう」

見透かしたように微笑みながら、言い捨てるマイムを見てカグラも苦笑した。

「一体何をしたいの」とも聞いてきた。

「あなたに言う必要はないと思いますが」

そういうと、それもそうね、と首をすくめた。

「王子は自ら姿を消したのですか。それとも誰かに攫われたのですか」

「もしくは殺された可能性もあると思うけど」

あなたが指示したんじゃないの?目で問いかけられてまさか、と笑う。

おれではない。

「わたくしにそういう勇気はないですよ」

目の前の女は、全く信用してないようだった。

「とりあえず、その原因を探ってください」

マイムは再び無言でうなずいた。

「王子がいなくなれば、ショウギが天下を取るわね」

沈黙のあと、マイムがポツリと言う。

他はぼんくらばっかりだし。あ、でも。と呟いて再び黙った。

「他の王子はさておき、要注意なのが王女ですね」

公の場に姿を現せ始めたちいさな王女。

御前試合で見かけた藍色の髪をもつ王女。

あの試合。カグラは未だ忌々しげに思う。誰だ、あんなものを考えついた連中は。剣の腕には自信があったものの、最初の一本しか取れなかった。三本は取れると踏んでいたのに。

シラギの顔が忘れられない。

笑った。

頬に傷をつけられ、血を流しながら嬉しそうに。思わず、背筋が凍った。その後は全く歯が立たなかったのである。その剣技を称えたいような認めたくないような奇妙な感情が残った。それ以上に屈辱が残った。父に無様なところを見せてしまった。

ショウギは、あなたが死ななくてよかったとまた縋りついて泣きわめかれ、なだめるのに苦労した。最近、更に統御が難しくなってきている。

まあ、いい。火種は強いほど燃え上がるのも早い。そろそろ煽ろうか。

ここの生活に飽いてきた、年増の面倒も疲れてきた、そしてこれが父の言っていた時期なのだろう。

「王女の方も探ってください」

他にも間諜を放っているが、この女が一番、確実で使い勝手がいい。

「もし、何か起きるとしたら」

目の前のマイムがちらりとこちらを見た。

「もうすぐですね」



****



もうすぐ謀反が起きる。

それは確信として、マイムの心の中に残った。

カグラは王子の出奔の原因と王女の身辺を探れと命令しつつ、もうすぐ何か起きると漏らした。矛盾している。

マイムは自分の勘を信じる。だってあの笑い。カグラは最後嬉しそうに笑った。腹に一物の笑い方だ。

謀反。何をする気だろう。王族の幽閉か。殺害か。王とその側室、息子たちは間違いなく狙われるだろう。いやいや、それよりも真っ先に狙われるのはあの王女だ。

彼らの側近も危ない。幽閉どころじゃない、きっと殺されるだろう。

月明かりの下、黙々と歩きながら考える。そしてぴたりと足を止めた。

トモキも殺される。

初めて会ってから三年が経った。少年の幼さは消えて、すっかり大きく成長していた。トモキは王女の話をするようになった。その内容は微笑ましくて心から笑った。本当に大切に思っているのだな、とも。あたしは誰かにここまで思われたことはあるのだろうか。否なかった。

もちろんカグラには報告しない。だれがあんな男にこんな話をするか。

トモキが殺される。

心臓の音がうるさい。呼吸が苦しくなった。自分が殺されるそれも嫌だったが、あの子が殺されるのは恐怖だった。

「あ、マイムさん」

トモキがいる。眼を疑った。

「どうしたの、こんな夜中に」

散歩、とトモキが答える。

「なかなか、寝付けないし、同室のオヤジの鼾がうるさくて」

ああ、ありがとう。同室のオヤジ。

相変わらずの世間話を聞きながらマイムは決心した。幸い周りには誰もいない。見ているのは丸い月だけ。

手招きをして、近づいたトモキの両肩を掴んだ。少年が顔を赤らめる。

「近々謀反が起きるわ」

トモキが目を見開いて、マイムの目を見た。この子だけは逃がしてあげたい。

弟と同じ名前をもつ男の子。

「誰にもいわないでね、でも宮中で騒ぎが起きた時は」

この手の中で冷たくなっていった弟。

「すぐに逃げなさい」

流行り病で死んだ弟。

「お願いだからあなたは死なないで」


****



「死んでも嫌」

食べることに異様な執着をみせる王女にも、苦手なものがあった。

菜飯である。絢爛豪華な宮の食事だが、健康のためか稀に菜飯が食卓に上ることがあった。残さず食べるよう、トモキが注意するとリウヒはツンと横を向いて拒否した。

「じゃあいいです」

ため息をついて、トモキが食事を再開した。リウヒが不思議そうにこちらを見ている。いつもは口うるさい教育係が、あっさり引き下がったのに不安を感じたのだろう。呻きながら不承不承、茶碗を手に取った。

「ほらほら、ちゃんと食べないと大きくなれませんよ」

笑いながら給仕をする女官たちに、だってこの青臭いのが嫌いなんだ、とリウヒは口を尖らせた。

どこか懐かしい気がする。かつて自分も同じようなことを言っていたのかもしれない。遠い昔の記憶。

昨夜、偶然マイムにあった。透き通った青い目で、間近から見つめられた。心臓が跳ねて、顔に血が上ったのが分かった。マイムのふっくらとした唇が動く。その唇から紡ぎだされた言葉は

「謀反が起きるわ」

現実感がない。しかし、頭から離れない。たしかにアナン王子が行方不明になってから、妙に静かだった。

謀反。

十分、考えられる事ではないか。カガミも予測している。もっとも予測しているだけで、何かしている訳ではないけれど。

いざそれが起きればどうすれば良いのか、考えなければならない。勿論、標的は王族だろう。リウヒも危ない。まず、リウヒを逃がすことだ。しかしどこに逃がせばいい。

突然、額に冷たいものがあたった。顔をあげると女官の一人がトモキの額に手をあて、もう片方を自分の額に当てている。

「お熱はないようですが」

「大丈夫か」

リウヒが心配そうに聞いてきた。すでに王女の前の食器は下げられる途中で、菜飯の茶碗もきれいに空だった。

「すみません、もういいですごちそうさま…」

トモキはひとりでフラフラと外に出た。

「あっ! お前、人に食べるよう言っておいて残しているじゃないか卑怯者!」

リウヒの叫び声が聞こえたが、無視した。

「どうしたのかしら、トモキさん」

「今日は何かおかしいわねぇ」

「もしかして恋煩い?」

きゃーと三人娘は声を上げる。リウヒがまさかと青ざめた。

「そういえば、きれいな女の人と、よく一緒に話しているらしくてよ」

「トモキさんもお年頃ですものね」

「温かく見守りましょう。ね、殿下」

女官たちに好き勝手に言われていることは、まったく気が付かずにトモキは東宮の庭園にでた。日差しがまぶしい。今日も暑くなるだろう。

御影石のそばに座って石に身を寄せた。ひんやりしていて気持ちよい。

謀反。

どうなるのだろう。女官たちや教師たちも逃がさなければならない。シラギにも報告して…。いや、まずはリウヒだ。どこに逃がせばいい。

思考が堂々巡りして何も思いつかない。

庭の真ん中でへたり込んで御影石に抱きついているトモキを心配して、顔見知りの警備兵が声をかけてきてくれた。

何でもない、とトモキは答えた。昼餉を食べ損ねて腹が減っているだけだと。

本当は叫びだしたかった。

謀反が起こるんです。みんな死んでしまうかもしれないんです。だから逃げて…!

言えない。多分マイムは、危険を冒して教えてくれた。口止めもされた。

「いい天気だなあ」

警備兵が空を見上げ呟く。まったく、本当にいい天気だった。抜けるような青空。呑気に雲が二つ、ぽっかりと浮いている。蝶が三匹、絡み合いながらトモキの前を通りすぎていった。頭を石に付け目を閉じる。

今はこんなに美しくて平和だというのに。


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