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ティエンランの娘  作者: まめご
ティエンランの娘
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序章 夕暮れ時

陽は遠く西へ傾き、歩く二人の影を間延びして落としていた。

トモキは遊び疲れ弟の手を引き家路へと向かっている。

村は小高い丘の上にある為、上り坂をえっちらおっちら歩くと、地に這う長い自分も一緒になって動く。夕暮れ時のこの影がトモキは好きだった。背が伸びて大人になった様な気がするからだ。実際はまだ六つで大人にはほど遠いのだけれど。

長い坂道の途中、一人の少年とすれ違った。

瞳はまっすぐ前を向き、長い髪は高い位置で括られていた。高そうな衣を着ており、襟や袖には見事な刺繍が施されている。その瞳も髪も衣も帯すらも、すべて黒色で統一されており、なんとなく暗く陰気な感じがした。

見たことのない顔だ。村のものではない。

歩き方も妙だった。全く隙がない。声をかけるのをためらう様な、周りの空気を排除している様な、そんな雰囲気をかもしだしている。

彼はトモキたちに見向きもせず、そのまま真っ直ぐ東へと去って行った。

つい目で追って振り返る。

少年はもう小さな人影になっていた。速い。

太陽が山際にさしかかり、辺りを赤々と照らし始めた。遠くに見える都も、その先に広がる平地も、村への小道も、周りの木々も、遠ざかっていく少年の後ろ姿も。影がさらに伸びた。

「にいちゃん」

弟が手をひっぱる。

「早くかえろう、おなかすいた」

「そうだな」

今日のご飯はなんだろう、三日連続で菜飯はイヤだよね。笑いあう二人は手を繋いで家へと向かう。

少年のことはすっかり忘れた。



遠い昔。

イーストエンド大陸の一つにティエンランという小さな国があった。

三方を山、一方を海に囲まれた美しい豊かな国だ。

大陸側は二つの国に挟まれていたが、おおむね良好な関係を保っていた。万一、攻められる事があろうとも小高い山々が自然の城壁となって防いでくれる。

一方の海側は、貿易が盛んに行われ港が賑わっていた。が、防衛面は弱くしばしば海賊が出没した。

その海を左手に見下ろす山の中腹に、この国の宮廷がある。山地の形状を生かし傾斜になだらかに這うように建てられていた。

平地から小高い場所に位置する宮廷は、霧の発生する季節になるとまるで雲の中に浮かんでいるように見え、民たちは親しみと誇らしさをこめて「天の宮」と呼んだ。周りは堀で囲まれており、表玄関となる大門はその巨大さで見る者を圧倒する。

宮廷の山裾には、整備された城下町が円形状に広がる。中央の大通りを挟んで四区ずつ、計八区に分けられ、民が住む住宅街、市場、商店街、色町、学問機関がある。

大通りは市街の中心をまっすぐ抜け、宮廷の大門と都の表門を一直線に結んでいた。その両脇を柳の木が行儀よく並べられている。地面はすべて石畳で整備されており、城下と宮廷を守るように白い塀に囲まれていた。

都を離れると、平地が広がり所々に村や町がぽつりぽつりと存在する。平地には町が多く、村は山地や海沿いにあった。

太陽は山際に沈みかけている。家々から灯りが灯り出した。

城下でも、町でも、村でも、夕餉の香りが漂い始め、遊んでいた子供たちは一斉に家路に向かう。

またね、明日ね、と友達に手をふって。

都から遠く離れたシシの村でも、今二人の兄弟が家に帰り着き、その扉を閉めたところであった。

陽はとうに山間に消え、辺りには夜の気配が漂っていた。


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