表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

the 5th Section: Her Point of View in a Japanese Izakaya again. ~この関係に名前をください~

「先輩、大丈夫ですかぁ?」


急に、声をかけられて、我に戻る。


『あ、うん、大丈夫。ちょっと酔っ払っちゃったみたい。』


「えー!まだ3杯しか飲んでないじゃないですか。」


「審査部なんかに行くから、酒が弱くなったんじゃないですかぁ?」


審査部で働くのと、酒が弱くなるのと、何の関係があるんだ。

全く、論理的でなく、この子らしくないが、こういう仕事では見れない、おバカな一面を見るのも、実は好きだった。


私は、その後、異動となり、業務上の関わりはなくなったが、彼とは、プライベートで、何度か飲みに行った。


アルコールの勢いもあったのだろう。ある日の夜、私にとっては、人生で初めての経験を彼とした。


でも、幸せな気持ちになれたかというと、よく分からなかった。


プライべートで会う時は、私のことを立ててくれて、大切にしてくれる。そして何より、素直で純粋な子だと思う。


でも、彼は、普段のプライベートの時でも、とてもストイックだ。


PF二課に配属された後、海外と仕事をする機会が急増したこともあり、米国公認会計士の資格も取り、TOEICも900点を超えたと聞いた。


こんな人と一緒になって、私も彼も幸せになれるんだろうか。


かつて、一度だけ聞いたことがある。


『あなたは、私のことを、どう思ってるの?』


回答は簡潔だった。


「職場の先輩です。」


私は、上手く表現ができないが、この言葉に、きっと傷ついたのだろう。でも、何か他の言葉を期待していたわけでもない。

その後、どうしてか分からないが、彼と会うことで、少しずつ胸が苦しくなっていき、少しずつ距離を置くようになった。


彼は、たまに連絡をくれたが、私が塩対応をしていたら、その後、彼からも連絡がこなくなり、長い期間が経った。


しかし、年を重ね、再来月で45歳になる。四捨五入すると、アラフィフか。

想像していたよりも、独り身でいるのは、寂しいし、現実は辛い。


仕事が上手くいかず、夜、誰もいない家に帰り、一人でいると、勝手に涙がこぼれる日もある。


妊娠をした、課長や調査役たちが、ムカついて、そして羨ましくて、しょうがない。


勿論、彼女たちは何も悪くない。だけど、私は、どうしても、自分がこの道を選んだという現実に向き合うことができなかった。


でも、私には、どうしても、男性とお付き合いをして、結婚をして、子供を授かり、生活をするということに、自信が持てなかったし、想像もつかなかった。


そんな中、4年前に、PF二課に配属となり、久しぶりに彼と再会してしまった。


彼は既に課長になっており、私はまだ主任だった。


長いこと会わない間に、立場が逆転してしまっていた。


彼は、新卒の時から変わらず、仕事は厳しかったが、それでも、私には、丁寧に優しく教えてくれた。


そして、久しぶりに、プライベートで、また一緒に飲みに行き始めて、ギャップのある素直で純粋な彼が、新卒の時から変わっていなことが嬉しかった。


コンサルタントになりたいと言った時も、彼は、すごく喜んでくれた。


本当は、この歳で、キャリアチェンジをするのは、無理だと言われるかもしれないと心配だった。

しかし、先輩の目標を、僕が、絶対実現してあげますからね。そう言って、各関係部署に奔走してくれた。


彼は、身内には、優しい上司だ。

他の課員たちにも、同じようにしていたようには見えず、私だけを特別扱いしてくれていたように見えた。


出向がなくなってしまった時、プライベートでお酒が入ると、泣きながら「先輩、本当にごめんなさい。僕の力が足りず、先輩のキャリアを、台無しにしてしまいました。」とずっと言っていた。


そうやって、自分を責める彼のことが、やるせないのと愛おしくて、ずっと頭を撫でていた。


「せんぱ~い!本当に大丈夫ですかぁ?お水でも頼みますかぁ?」


あんたの方が、酔っぱらってるんじゃないか。口調から推測する。

まぁ、PF二課長として、あれだけの激務をこなしているんだ。相当、ストレスも疲労も溜まっているのだろう。


私は、一体、この人とどうなりたいんだろうか。改めて考えていた。


「そのレモンサワーも、 僕が飲むから、無理して飲まなくていいですよぉ。」


彼が、私のレモンサワーに手を伸ばした時、私は、彼の手を握って聞いた。


『ねえ?あなたは、私のことを、どう思ってるの?』


「うん?先輩、前にもそんな質問しましたねぇ。」


私が、前にも聞いたことは、覚えているみたいだ。


『はぐらかさないで。ちゃんと説明して。あなた頭いいんだから。』


頭がいいと言われて、彼は、大きく嬉しそうな笑顔を作る。

新卒から20年間、本当に変わらない笑顔だ。


「僕はいつでも先輩の味方ですぅ。」


思っていた回答と違う。

といっても、今回もだが、事前に思っていた回答は、私にあったわけではないのだが。


彼が、恥ずかしくて、はぐらかしたのか。酔っぱらって、言える状態にないのか。

これらの可能性もあるが、でも、頭のいい彼ですら、表現できないのであれば、私と彼の関係には、名前がないのかもしれない。


仕事では、直接の上司と部下でもなく、私を遠慮なく罵倒してくる関係。


プライベートでは、私は同僚以上と思っているが、彼は私の味方という、よく分からない思いしか持っていない関係。


飲みたい時には一緒に飲むし、何でも話し合えるし、一度だけど体を重ねた関係。


私のことを、いつも立ててくれて、素直で純粋で、何でも話しかけてくれて、自信を持たせてくれた、そんな彼との関係。


『この関係に、名前があればいいのに。』


「え?何か言いましたぁ?」


『ううん。何でもない。もう、あんたの方が、酔っぱらってんじゃないの?』


私は、おバカなこの子のために、店員に向かって、チェイサーを注文した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ