the 5th Section: Her Point of View in a Japanese Izakaya again. ~この関係に名前をください~
「先輩、大丈夫ですかぁ?」
急に、声をかけられて、我に戻る。
『あ、うん、大丈夫。ちょっと酔っ払っちゃったみたい。』
「えー!まだ3杯しか飲んでないじゃないですか。」
「審査部なんかに行くから、酒が弱くなったんじゃないですかぁ?」
審査部で働くのと、酒が弱くなるのと、何の関係があるんだ。
全く、論理的でなく、この子らしくないが、こういう仕事では見れない、おバカな一面を見るのも、実は好きだった。
私は、その後、異動となり、業務上の関わりはなくなったが、彼とは、プライベートで、何度か飲みに行った。
アルコールの勢いもあったのだろう。ある日の夜、私にとっては、人生で初めての経験を彼とした。
でも、幸せな気持ちになれたかというと、よく分からなかった。
プライべートで会う時は、私のことを立ててくれて、大切にしてくれる。そして何より、素直で純粋な子だと思う。
でも、彼は、普段のプライベートの時でも、とてもストイックだ。
PF二課に配属された後、海外と仕事をする機会が急増したこともあり、米国公認会計士の資格も取り、TOEICも900点を超えたと聞いた。
こんな人と一緒になって、私も彼も幸せになれるんだろうか。
かつて、一度だけ聞いたことがある。
『あなたは、私のことを、どう思ってるの?』
回答は簡潔だった。
「職場の先輩です。」
私は、上手く表現ができないが、この言葉に、きっと傷ついたのだろう。でも、何か他の言葉を期待していたわけでもない。
その後、どうしてか分からないが、彼と会うことで、少しずつ胸が苦しくなっていき、少しずつ距離を置くようになった。
彼は、たまに連絡をくれたが、私が塩対応をしていたら、その後、彼からも連絡がこなくなり、長い期間が経った。
しかし、年を重ね、再来月で45歳になる。四捨五入すると、アラフィフか。
想像していたよりも、独り身でいるのは、寂しいし、現実は辛い。
仕事が上手くいかず、夜、誰もいない家に帰り、一人でいると、勝手に涙がこぼれる日もある。
妊娠をした、課長や調査役たちが、ムカついて、そして羨ましくて、しょうがない。
勿論、彼女たちは何も悪くない。だけど、私は、どうしても、自分がこの道を選んだという現実に向き合うことができなかった。
でも、私には、どうしても、男性とお付き合いをして、結婚をして、子供を授かり、生活をするということに、自信が持てなかったし、想像もつかなかった。
そんな中、4年前に、PF二課に配属となり、久しぶりに彼と再会してしまった。
彼は既に課長になっており、私はまだ主任だった。
長いこと会わない間に、立場が逆転してしまっていた。
彼は、新卒の時から変わらず、仕事は厳しかったが、それでも、私には、丁寧に優しく教えてくれた。
そして、久しぶりに、プライベートで、また一緒に飲みに行き始めて、ギャップのある素直で純粋な彼が、新卒の時から変わっていなことが嬉しかった。
コンサルタントになりたいと言った時も、彼は、すごく喜んでくれた。
本当は、この歳で、キャリアチェンジをするのは、無理だと言われるかもしれないと心配だった。
しかし、先輩の目標を、僕が、絶対実現してあげますからね。そう言って、各関係部署に奔走してくれた。
彼は、身内には、優しい上司だ。
他の課員たちにも、同じようにしていたようには見えず、私だけを特別扱いしてくれていたように見えた。
出向がなくなってしまった時、プライベートでお酒が入ると、泣きながら「先輩、本当にごめんなさい。僕の力が足りず、先輩のキャリアを、台無しにしてしまいました。」とずっと言っていた。
そうやって、自分を責める彼のことが、やるせないのと愛おしくて、ずっと頭を撫でていた。
「せんぱ~い!本当に大丈夫ですかぁ?お水でも頼みますかぁ?」
あんたの方が、酔っぱらってるんじゃないか。口調から推測する。
まぁ、PF二課長として、あれだけの激務をこなしているんだ。相当、ストレスも疲労も溜まっているのだろう。
私は、一体、この人とどうなりたいんだろうか。改めて考えていた。
「そのレモンサワーも、 僕が飲むから、無理して飲まなくていいですよぉ。」
彼が、私のレモンサワーに手を伸ばした時、私は、彼の手を握って聞いた。
『ねえ?あなたは、私のことを、どう思ってるの?』
「うん?先輩、前にもそんな質問しましたねぇ。」
私が、前にも聞いたことは、覚えているみたいだ。
『はぐらかさないで。ちゃんと説明して。あなた頭いいんだから。』
頭がいいと言われて、彼は、大きく嬉しそうな笑顔を作る。
新卒から20年間、本当に変わらない笑顔だ。
「僕はいつでも先輩の味方ですぅ。」
思っていた回答と違う。
といっても、今回もだが、事前に思っていた回答は、私にあったわけではないのだが。
彼が、恥ずかしくて、はぐらかしたのか。酔っぱらって、言える状態にないのか。
これらの可能性もあるが、でも、頭のいい彼ですら、表現できないのであれば、私と彼の関係には、名前がないのかもしれない。
仕事では、直接の上司と部下でもなく、私を遠慮なく罵倒してくる関係。
プライベートでは、私は同僚以上と思っているが、彼は私の味方という、よく分からない思いしか持っていない関係。
飲みたい時には一緒に飲むし、何でも話し合えるし、一度だけど体を重ねた関係。
私のことを、いつも立ててくれて、素直で純粋で、何でも話しかけてくれて、自信を持たせてくれた、そんな彼との関係。
『この関係に、名前があればいいのに。』
「え?何か言いましたぁ?」
『ううん。何でもない。もう、あんたの方が、酔っぱらってんじゃないの?』
私は、おバカなこの子のために、店員に向かって、チェイサーを注文した。




