the 3rd Section: Her Point of View in a Japanese Izakaya ~彼の本当の姿~
「え~!まだ、部長に確認取ってないんですか~?」
「せっかく、沢山ヒントを出してあげたのに。さては、先輩、聞いてませんでしたね。」
「って言うか、もしかして、ミュートにして、無視してましたか?そうだとしたら、ひど~い!全く心外です!」
私の目の前で、ぶりっ子ヨロシクな口調で喋っているのは、猫を被って、計算高く、上辺目線で、男を落とそうとする、地雷系女子ではない。
日中に、私を罵倒してきたPF二課長だ。
「あ!先輩、グラスが空ですね。次、何飲みます?」
「僕は、う~ん、ハイボールにでも、しようかな。」
3杯目のビールを飲み干して、彼はハイボールを頼むと言ったが、私は同じものを頼むのは、なんだか癪なので、生絞りレモンサワーを頼むことにした。
『全部、聞いてたわよ。正直、あなたの話を聞いた後、本当に気分が悪くなって、倒れるかと思ったんだから。』
私は、嫌味を込めて言ってみたが、当の本人には、全く響いていない。
「え?そうなんですか?どこらへんがですか?」
思いっきり、そのバカ面、引っ叩いてやろうか!という衝動に駆られるが、グッと抑える。
手を出せば、パワハラどころか暴行罪で、人事課に通報を通り越して、警察のお世話になってしまう。
「むしろ、僕が先輩に、稟議書を通すヒントを、沢山あげたと思ったのになぁ。」
この男は、うちの主任が、パワハラで訴えてやると思われるような、発言をしたとは、露ほどにも思っていないようだ。
「はい、ハイボールと生絞りようのレモンとサワー、お待たせしました。」
元気の良い大学生の可愛い女の子が、注文の酒を持ってきてくれた。
「ありがとうございます。これも、お願いします。」
彼は、自分と私の空になったグラスと、食べ終わったピータンと焼き鳥の盛り合わせの空いた皿を一緒に、店員に手渡す。
何も言わず、彼は、力強く、レモンスクイーザーで、レモンを絞って、そのしぼり汁をサワーに入れて、適度にかき混ぜてくれる。
「はい、先輩。レモンサワーどうぞ。」
『あ、ありがとう。』
悔しいけど、この子の優しさに触れると、どうしても、毎回、胸がドキッとしてしまう。
この子は、プライベートだと、敬語も使うし、きちんと立場をわきまえて、私のことを立ててくれる。
課長と課長代理を比較したら、役職は、当然、課長の方が上だが、年齢は、課長の方が上だとは限らない。
このPF二課長は、年次でいうと私の3つ下であり、彼が新卒で入行した時、私が指導担当をしていた。
もう20年の付き合いになるのか。まぁ20年間ずっと一緒にいたわけではないが。
『ピータンもう一つ、頼んでもいいわよ。』
「やったー!ありがとうございます。先輩は、やっぱり、僕のこと、良く分かってますね。」
正直、私は、未だにピータンの、あの独特なアンモニア臭が好きではないのだが、この子の大好物で、一緒に飲んでいるうちに、味には慣れていき、今では食べれるようにはなった。
「それで、先輩。これから、どうするんですか?冗談抜きで、僕、2週間とか待ってられないですよ。」
「先輩の力になれるんだったら、僕、本当に審査部長に直接説明して、稟議を通させるように説得しますよ。」
仕事中のPF二課長と、プライベートの目の前にいるこの子が、同一人物とは思えない。
仕事中では、頭ごなしに、隠すこともなく、論理的に、私を罵倒し馬鹿にしてくるが、プライベートでは、素直で純粋で、私のことを、きちんと上に見てくれて、大切にしてくれる。
このギャップが、いや、彼のこの本当の姿を知っているから、私は、この人をずっと思ってしまい、離れても、また引き戻させられてしまうのだろう。




