異世界税関、発足 4
旅具通関のコーナーは思ったよりも空いていたが、今回の要注意人物であるラッコ獣人の男性はどこかゆったりした足取りで現れた。
ぱっと見は水族館のラッコを人間サイズにして腰回りだけ布を巻いている感じでなかなか可愛らしい。
『手荷物確認します』『はい』
三角さんが声をかけるとリュックサックが開けられる。
日本で物売りをしてるのだろう、販売許可証・床に敷く薄布とマット、売れ残りらしい木彫り製品や小銭入りの革袋詰まっている。
私も見た限りだと特に変なものは見当たらない。
三角さんが一つ一つ手に取って中身や重さを見分していると三角さんが「不審物なし」と耳打ちすると、菱刈さんが「身体検査行きますわ」と伝えてくる。
『お体触ってもよろしいですか?』
『どうぞ』
ぺたぺたと体に触りながら異物を確認しているが、菱刈さんの耳打ちは「特にありませんわんね」と一言だった。
「ポケット見てないんじゃないですか?」
私がそう声をかけると不思議そうな顔をした。
実地で見せるのが一番手早そうだ。
『ちょっとわきの下失礼しますね』
『えっ』
ラッコのわきの下のたるみの中に手を突っ込むと、出てきたのは袋入りのホールホワイトペッパーばかりが5袋。さらにクローブやスターアニスなどの小瓶も出てきた。
どこか悔しそうなラッコ獣人男性を無視して、三角さんの方を向くと事前の申請書を手に取って「これ申請されてへんな」と答えが返ってくる。
「今から書類書けば大丈夫ですか」
「せやね」
『書類を書いてください』
『税金払ったら高くつくだろ』
『ルールなので。それに白胡椒は超高級品なんでしょう?税金払っても利益は出ますよ』
ラッコ獣人男性の背中をポンポン叩いて別室に移動してもらい、あとは菱刈さんがやってくれるらしい。
「よう分かったなあ」
「獣人って動物の特質を引き継いでる人が多いって書いてあったので」
この情報と前に調べたラッコの生態を組み合わせて考えれば、隠してるものがあるとすればそこだろうと気づくのは容易だった。
フォローしておくなら、ラッコは脂肪が厚めだから触っても気付きにくいのですぐに見つけられなかったのは仕方ないと思う。
「そんなんどこに書いてあるん?」
「外務省が毎月出してる『在金羊大使館月例報告書』の2022年5月だったかな」
「あの毎月すごいボリュームで出てる奴やろ?あれ全部読んでるん?」
「はい、毎月一通り読んで興味のある所は出力・ジャンルごとにファイリングしてます」
在金羊大使館月例報告書は大使館にいる人たちが業務報告と現地情報をまとめて出してくれる資料で、半分以上は業務内容についての文章だが文化風習などについても一定のページ数が割かれている。
異世界に興味があるならこれと紅忠・トンネル工事関係者による業務記録(こちらも事業の進捗や異世界赴任者の近況報告が公開されてる)と共に必読資料と言っていいだろう。
「大陸標準語もえらい上手やったね」
「東京外大の言語モジュールで覚えました」
割と初期段階から出ていた言語モジュールは暗記するまで読んだし、大使館翻訳官の納村さんが文系研究者向けに公開してるインタビュービデオも繰り返し見ることで色々勉強することが出来た。
ほぼ独学ではあるが日常会話なら問題ないレベルまで持って行くことが出来てたらしい。
「……もしかして、異世界マニアなん?」
「興味のない日本人の方が少ないと思いますけどね」
私自身はマニアと言うほどでもないと思うが、知らない人からすればそう言う風に見えるかもしれない。
そのうち奥の方に引っ込んでいた菱刈さんが「三角さん、諸手続き終わりましたわ」と資料と一緒に差し出してくる。
確認後、ラッコ獣人男性は無事納税を済ませて帰国出来た。
「菱刈さんありがとうなあ」
「ええ。今回は丸山莉乃に負けましたが次こそは勝ってみせますわよ!」
「勝ち負けなんてないんやけどなあ」
私も別にそのつもりはないが、向こうが勝手にそう思ってるのでどうしようもない。
「丸山さんもありがとうなあ」
そう言いながら優しく微笑まれると、ちょっと心は温まる。
(労働はクソだけど、まあそう言ってくれるならもうちょい頑張るか)
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