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異世界税関の日々  作者: あかべこ


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4/9

異世界税関、発足 3

それからしばらくは税関の仕事の現場の手伝いをしながら実地でビジネスマナーを叩きこまれる日々が続いた。


「マルちゃん意外とワードエクセル使えんね?」


「まあ、趣味でちょっと使ってたので」


今週は三つ葉さんの下で保税の仕事と称して書類づくりを手伝っていた訳だが、前に触った時の記憶を掘り起こしながらどうにか作り上げたものを「これなら十分っしょ」とほめてくれる。


(扇さんとか柱谷さんとか意外に厳しかったからな……)


特によんなーよんなー(ゆっくり)とか言いそうな顔して全然ゆっくりしてなかった柱谷さんがいちばん大変だった、ちょっとはゆっくりできるかなーと思ってた私が馬鹿でした。はい。


「あとはこれをメールで送るんだけど、マルちゃんビジネスメールはお初っしょ?ここにテンプレあるから必要なとこだけ埋めて下書き保存しといて。終わったらあーしの方でチェックするから」


「あ、はい」


一休みがてらコーヒーとクッキーを食べ始めた三つ葉さんは暇つぶしがてら声をかけてくる。


「保税って馴染みない分野だから大変っしょ?」


「まあ、そうですね」


「あーしも税関就職すんまで全然知らねー!って思ってたしね。ふつー税関って言うとみすみんとひっしーみたいな旅具通関のイメージつえーし」


「通関も事後調査も全然未知の世界でしたけどね」


扇さんのところで輸出入通関として大量の書類に追われるのも、柱谷さんと事後調査で色々な大手企業の本社に連れていかれてビジネスマナーを厳しく指摘されるのも、三つ葉さんと保税として安置された荷物のチェックをするのも未知の領域であった。


私がニートであることを抜きにしても税関の仕事は本当に未知数の領域が多かった。


「来週から旅具通関だっけ」


「はい」


「みすみん面倒見いーよねー」


私のもう一人のお世話係と言う形で放り込まれた三角さんは、意外と面倒見のいい人だった。


税関長として多忙な大曲さんの代わりに細かい面倒を見てくれるその姿はま母親のようだった……まあ年齢的にはうちの母親よりちょっと下なのだが。


「色々助かってますね。メールこれで大丈夫ですか」


「ほいほい……ん、おっけおっけ。頑張ったご褒美にクッキーあげるわ、佐渡のおいしーバタークッキー」


「頂きます」


個包装されたバタークッキーとインスタントコーヒーを貰うと自分の席で一口ほうばる。


生乳の風味が濃厚なさくさくのクッキーにいい香りのコーヒーと言う組み合わせは疲れた体に染みる優しい味だ。


「あ、おーぎちゃんも食べる?」


「くれるなら」


「せっかくだし後でぜーかんちょーにもあげよっかな、いっぱいあるし」


「ただいま戻りましたわ!って、おやつですの?!」


「まはるんも佐渡バタークッキー食べる?」


「頂きますわ!」


サクサクとバタークッキーをかじっているとなんか平和だなあと思ってしまう。


トラブルなんて起きない方が良いのは当然であるし、職場が平和で雰囲気が良ければ元ニートの面倒を見る余裕も生まれるので助かるのも事実だ。


(……ジジイの手のひらの上みたいで癪には触るけど)


通信機からジジッという耳障りな音のあとに『K9反応あり、ラッコ獣人性別異年齢不明、黄色いリュックサックあり、注意願います』という短いキーワードが流れてくる。


この声は平野さんの声だ。


「なんでこんな時に来るんでしょうね?」


バタークッキーをサクサクしていた菱刈さんが不服そうにつぶやく。


「いまの何だろ」


「K9はcanine、犬のことですが特に警察犬や麻薬探知犬の事を言いますわ」


「へー」


最後のかけらを放り込んだあと、残りのポケットにバタークッキーをしまい込むと「丸山莉乃、あなたも手伝いなさい!手は多い方が良いですわ!」と言って私の手を乱暴に掴み取った。


「えっ」


「三つ葉さん、借りてきますわよ!」


「いってらー」

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