異世界税関、発足 2
「丸山さん、あなたコネで入った口ですわね?!」
「まあ、そうだね」
菱刈さんからの追求をあっさり受け入れると「なんですって!」と怒り出す。
「家で毎日ゴロゴロしてたら父親にここへ放り込まれたからここに来たようなものだし」
「……大曲税関長、このようなやる気の無い方は業務に差し障りますわ。即刻退職させられませんこと?」
「そうかもしれないけどねぇ、なんとかうまくやる気を引き出せないかな?三角さん」
「うちに振らないで貰えます?」
やる気に溢れすぎた若手に中年2人が困ったように笑いあう。
「でも私だって貰える分はちゃんと仕事しますよ」
「わたくし、身分を悪用する方が一番嫌いですの」
「菱刈の家に役に立つようなコネもないからでは?」
「ハア?」
素直な感想を口にすると大曲さんが「丸山さん、喧嘩売らないで……」と困ったようにコメントする。
至って素直な感想を口にしただけで別に喧嘩を売ってるつもりは無いのだが、とりあえず黙っておく事にした。
「丸山さん、まずは税関の仕事全体をぐるっと見て回ってそこからどこの担当部署に入るか決めようか」
「あー、分かりました」
「じゃあ全員集まったし、就業準備お願いねー」
大曲さんに事務室に連れて行くと、私を椅子に座らせてホワイトボードの前で講義が始まった。
「まずは税関の仕事についてどのくらい知ってる?」
「空港とか違法薬物や密輸の取り締まりしてるイメージしかないです」
「それも税関の仕事だけどそれだけではない、というところから始たほうが良さそうだね」
ホワイトボードに早速箇条書きでいくつかの仕事について書き始めた。
「税関の仕事は主に3つ。【関税・消費税の徴収】【輸出入貨物の管理監督】【密輸の取り締まり】でこれを僕ら含めた全員で手分けしてやる形になってます。
丸山さんには各部署を回ってもらって適性の有無を見た後、配属先を決めます。サポートに三角さんをつけるから困ったら彼女か僕に聞いてね」
「わかりました」
「まずは事務寄りの仕事からにしてみようか」
****
最初に放り込まれたのは扇さんのところだった。
積み上げられた書類の山を扇さんが小さな身体で確認し、カゴに分けていく。
なんとなく気になって手を伸ばすと「触るな」と不機嫌さを滲ませ気味にそう告げられる。
「ここにあるのは金羊国からの輸入申告書だ、まだ目を通してないやつに触られるとどれがどれだか分からなくなる」
「あー、はい」
その中には大陸標準語と名付けられた異世界の広い範囲で使われる言葉で書かれた書類も含まれている。
「これは包装明細書が不十分だからやり直し、返送だな。郵便局に持ってってくれ」
「メールとかじゃないんですね」
「金羊国はメール使えないから全部紙なんだよ」
まあそう言われればそうだな、と思いつつ資料の返送先を確認する。
「紅忠本社宛だ」「黙ってやれ」
とりあえず言われた通りに返送先の住所を封筒に書いてから、資料をパラパラとめくってみる。
(……なんの資料か全然分からん)
そんなことを考えつつ資料を封筒に仕舞い切手を貼れば返送書類の完成だ。
「そっちに対訳単語集無いか?」
扇さんが大陸標準語のテキスト片手に私にそう聞いてくる。
「知りませんよ」
そう答えるとテキストを脇に置いて資料の山を掘り出し始めたので、私はテキストを試しに開いてみる。
パラパラと拾い読みしてみるとこれが契約書であることがすぐに分かった。
(購入者は双海公国のヤマンラール商会、販売は紅忠、購入品は裁縫セット1ケースに自動糸通しが10個……あんまり買わないんだな)
ついつい熟読していると扇さんが「熟読するな」と取り上げてきた。
「あーっと、表題はー……?」
(大陸標準語読めなくても異世界税関に入れるものなんだな?)
思わず変な関心をしていた私を扇さんはガン無視しながら手元のテキストを必死で読んでいた。




